http://www.asyura2.com/19/genpatu52/msg/204.html
Tweet |
東電社員は見た…「賠償金詐欺」恐ろしき「恫喝の現場」 指のない「被災者」が現れて…
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67938
2019.10.23 高木 瑞穂 ノンフィクションライター 現代ビジネス
東電賠償金の闇
東京電力福島第一原発事故で損害を受けたと偽り、NPO法人の元幹部らが賠償金をだまし取ったとされる詐欺事件に絡み、東電社員が「賠償金の請求方法を教えた見返りに現金数百万円を受け取った」と供述していることが、捜査関係者への取材で分かった。警視庁は、詐欺に関わっていなかったかどうかを慎重に調べている。(2016年3月18日「朝日新聞」)
これは当時、東京電力の社員として「賠償係」をしていた岩崎拓真(仮名)が、匿名ではあるが、賠償金の請求方法を教えた見返りに「現金数百万円を受け取ったと供述している」と報じられてしまった新聞記事だ。
そして、この報道から9日後、岩崎は詐欺の共犯の疑いで書類送検される。忘れもしない2016年2月27日土曜日。岩崎は42歳、東電に入社して20年目のことだった。
彼は、東電の賠償係として働く中で詐欺事件に巻き込まれ、結果的に書類送検された。近刊『黒い賠償』では、なぜ東電のいち社員であった彼が書類送検されなければならなかったのか、その経緯を追っている。
東電の賠償係とは、2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故で移住を強いられた個人や風評被害を受けた法人に東電が補償をするための部署だ。岩崎は主に法人を担当していた。
震災直後の南相馬市〔PHOTO〕Gettyimages
筆者は、書類送検後に東電からクビを切られた岩崎と出会ってから、彼の話をもとに、湯水のようにジャブジャブと支払われ続けている東電賠償金の「闇」を追ってきた。
東電によれば、2019年7月12日までで、賠償の請求は延べ290万件を超え、約9兆622億円という膨大なカネが被害者に支払われている。注目すべきは、そこに、詐欺師によって搾取されたカネも含まれていることだ。震災後には、法人や個人事業主が混乱につけ込み、原発事故と関係ないのに「自分は被災をした」と風評被害を受けたと偽って補償金をだまし取る「賠償詐欺」が横行していた。
賠償は原賠法(原子力賠償法)に基づき、原子力損害賠償支援機構(以下、原賠機構)からの支援金をあてている。その財源は、もとは公金や電気料金。そこから多額のカネが詐取されてきたと考えられている。
岩崎の内部告発から浮かび上がってきた、巨額のカネが詐欺師たちよって搾取されている原発賠償の黒い姿の一端を、ここでは紹介しよう。
杜撰になっていく「審査」
2011年、震災の直後に賠償係が設立されるにあたり、その職に自ら志願した岩崎は、「補償運営センター・産業補償受付第九グループ」に配属された。賠償係は被災状況の「審査」を行い、賠償金額を請求者に提示するまでが仕事になる。
原子力損害賠償についてのスキルを持ち合わせていない東電上層部に代わり、業務を指南する役目を仰せつかっていたのが、デロイトトーマツコンサルティング(以下、デロイト)の面々だ。賠償業務は、この民間のコンサルタント会社にほとんど丸投げする形で進められた。
賠償係としての岩崎の主な業務は、請求書のチェックと“架電”だった。架電とは、被災状況のエビデンスを確かなものにするために、資料の不備などによってハッキリしない被災状況を、被災者に電話で尋ねることだ。「津波の影響ではなく原発事故による影響かどうか」「事業継続や再開の意思」などを、電話で確認する。
架電は最も困難な業務とされていた。なかでも、請求者に賠償金が支払われないことを伝える“支払い対象外”の宣告は、相手を強く刺激した。警戒区域内の被災者は、自宅や会社に戻れないことで、現実問題として資料を揃えづらい状況にある。さらに、当然ながら被害者としての意識は強い。よく“お叱り”を受けた。
被災者の批判の根底にあるのは、東電が加害者であるという現実だ。当時、東電はすでにメルトダウンを認めていた。
こうした状況から、一部ではあるが申請者のなかに、ある「認識」が生まれる。東電は加害者なので、いくらゴネてもデメリットはない、水増し請求をしても聞き入れざるを得ないだろう、という認識だ。震災は、発生当初は日本全体が被害者として捉えられていた。しかし被災者からすれば、東電を被害者として見ることなどできなかった。
いきおい、東電の審査は徐々に緩く、杜撰になっていった。
「(資料が不備であっても)これ以上は聞けないよね」
東電としては、そうした思いを抱かざるを得ず、たとえ証拠が不十分であっても審査を終わらせるしか術がない。デロイトもまた、それを許した。
最終的には被害状況を聞いたことにして、賠償係が「被害状況を聞いた」「(被害は原発のせいであり)津波じゃないことが確認できた」と記入することで審査を円滑に進めることになった。何か書いてあればいい、津波での被害じゃないことが分かればいい、という杜撰さだったのだ。
「なんとか通してくれ」
賠償審査はそうして、半ばなし崩し的に緩くなっていった。歯車が狂い始めたこの状況を岩崎は、こう指摘する。
「風評被害があったか否かを判断するため、決算書など資料の足りない部分をどこまで他の資料で補うかが問題になっていましたが、請求書が滞留するなか、デロイトの判断もあってその審査条件がどんどん緩くなった。作業を流すべく、被災状況についてのエビデンスを『拡大解釈』で処理していくようになったのです。
原賠機構に『賠償しなければカネを貸さない』と言われている東電にとって、デロイトは大切な指南役です。原賠機構が東電の命綱であるとともに、賠償業務が素人同然の東電にとってはデロイトが生命線。それは私たち末端の賠償係でも手に取るように分かりました。東電もデロイトも、口には出さないまでも審査は『ザルでいい』との意向だったのです。
要は、いかにして支払いの滞留を解消するか。なのでデロイトも、審査を簡易化できるフローを作ったりだとか、会計士を増やしたりだとか、様々な策を講じていました。『17時までに5通、審査を通してくれ』とノルマを課すことなどもありました。なので、エビデンスは足りないけど、請求者に『電話で足りない書類の確認したからOK』という具合に、なあなあで審査を進めるしかありませんでした」
とにかくノルマをクリアするため、審査を通すことありきでものごとが進んでいったのだ。
震災の傷跡が色濃くのこる被災地から、続々と新たな請求書が届き始めたのは、震災から1年になろうとする2012年1月後半のことだった。
これまで様子見をしていた被災者が、先行して請求した被災者に多額の賠償金が支払われた噂を聞きつけ、駆け込んだのだ。東電としては、避難区域内で商売をしていたというだけで支払わざるを得ない状況だった。もちろん請求者の多くは、本当に被災し、原発によって深刻な被害を受けた人だっただろう。しかし同時に、明確に営業実態がある法人だけではなく、有象無象が現れて、東電に「賠償せよ」と迫ったのである。
電話での怒鳴り込み
やがて被災者たちの請求は危険エリアから飛び出し、避難区域外の事業者たちが“風評被害”をタテに請求書を送り始めたのである。福島県内ばかりでなく茨城、栃木、群馬、千葉県の16市町村からも訴えが湧き上がる事態になった。
2月、そして3月――。
倍々ゲームのように増え続ける請求書。東電が掲げる「迅速なお支払い」という目標を達成するための手続きの簡略化。しかし、すべての請求を完全にスルーするわけにもいかず、どこまで賠償ルールを厳格に適用するか逡巡を繰り返す――。賠償係は翻弄された。
過熱した「賠償合戦」は、新たな問題を生んだ。杜撰な賠償金支払いの実態に目を付けた詐欺師たちが賠償金詐欺に乗り出した。そう、それは “マネーゲーム”の始まりだった。
満を持したかのように茨城のテキ屋の副組合長から30通の請求書がまとめて届いたのは、2012年3月のある日のことだ。一件あたり平均1000万円。なかには2000万円を越えるものもあった。
彼らは、自分たちの「営業実態」を証明するため、各催しのチラシコピーやインターネット告知のコピーを添付し、テキ屋の組合発行の証明書類も同封してきた。賠償請求の被害概況を述べる欄は、まるで東電の社内資料を抜粋したような書きぶりだった。
むろん、岩崎は却下を匂わす手紙を送った。テキ屋一つで2000万円の売り上げがあるはずがない。どうせヤクザまがいの連中の仕業だろうと考えてのことだ。
やはり、相手は根っからのヤクザだった。すぐさま茨城の東電相談員から助けを乞う電話が掛かってきたのだ。
「呼び出しを食らって、いま副組合長の家にいるんです」
後ろで激昂する副組合長の怒鳴り声が聞こえた。
「話が違うだろ! 疑ってるのか!」
岩崎が事情を尋ねると、相談員は声を押し殺しながら答えた。
「相手は手の片手の指が二本しか無いんですよ!」
身の危険を感じているようだ。
「何とか払えませんか?」
「いや、そう言われても……」
「なら、どうすれいいんですか? あなたが直接話してください!」
事情は理解したが、電話では感情論になる可能性が高い。岩崎は過去の売り上げ台帳などを見て報告書をあげてほしいと伝えた。
それでも怒りは収まらない。相談員からケータイを奪った副組合長が言う。
「それを用意したら払うんだな!」
「いや、払う、払わないではなくて。まずは書類を確認させてほしいんです」
相談員から、最後に「私の命が危ないんです」と懇願されて、その日は終わった。
翌週、茨城の相談員がわざわざ東京の岩崎のもとへやってきた。電話では状況が伝わらないと判断したのである。その相談員は、茨城のテキ屋群を一手に請け負っていた。指のない男たちに突き上げられ、今回ばかりは殺されるかもしれないというのだ。
「こちらから請求書の雛形を送ったのは3月ですが、それ以前から逐一呼び出しされ『どうなんだ、払えるんだろ!』と凄まれていたんです。相手は小指がないんですよ。『払えません』なんて言えるわけないですよね。だから『請求できます』と答えて、なんとかやり過ごしていたんです。
それでいざ請求したら、『払えないかも』という手紙が届いた。そんなことしたら爆発するのは当然ですよね。売り上げの水増しはともかく、真面目に営業していた人もいた。営業実態があったことは事実なので、どうにか払えませんか」
ヤクザの対応にほとほと疲れた。この状況から抜け出すために是が非でも払ってほしい、というわけだ。
それでも岩崎が屈することはなかった。ヤクザの名前を出されても払わなかったのである。ある請求書などは、どう見積もっても一つのテキ屋から夫と妻とのダブルで請求してきていた。裏で繋がっていて山分けする算段なのではと、岩崎は疑ったのである――。
弁護士の判断はこうだった。
「いや、反社であっても、それを理由に払えないことはない」
やはり相談員を抱き込んだヤクザが一枚も二枚も上手だったのだろう。最終的には「払わざるを得ないのでは」と、風向きが変わった。
「もういいよ。払おう」
上層部がサジを投げるまであまり時間はかからなかった。
もちろんこれは一例に過ぎない。岩崎が担当しただけでも、詐欺が疑われる請求書は100件は優に超えているそうだ。繰り返すが2019年7月12日までで約9兆622億円という膨大なカネが被害者に支払われている。このなかにはどれほどの黒いカネが混じっているのだろうか。
詐欺の検挙をサポートする
その後、岩崎は、賠償係から捜査官に昇進し、こうした賠償詐欺を暴く側に回った。捜査官への異動は、会津若松の詐欺案件での活躍が認められてのことだった。前部署のころから独自で調べていた不正疑惑が、警察の目に止まり捜査が始まり、ついには事件化。2013年9月には会津若松市内の飲食店やエステ店が、原発事故の風評被害を装い4300万円を詐取したとして、一挙に計7人が検挙される大捕物になったのだ。
岩崎が先導したこの会津若松の一件は、初の賠償詐欺事件としてマスコミに大きく取り上げられた。何千、何万と社員がいる東電のなかで岩崎が、これまで闇に葬られていた不正を暴いて見せたのである。
ところが東電は、内部の、唯一の捜査官として賠償詐欺を暴き摘発にまで漕ぎ着けた功労者、岩崎のクビを切った。
『黒い賠償』では、元賠償係・岩崎の半生を通じて、東電に厳しい眼差しが向けられるなかで起こった詐欺師たちが賠償金詐欺に乗り出していく流れや、杜撰な賠償業務の実態を描いた。もちろん岩崎が書類送検された顛末についても記している。
正当な賠償があった一方で、黒い賠償もあった。
果たして岩崎を失った東電に、自浄作用は残っているのだろうか。最後に、書類送検から約9ヶ月後、岩崎に不起訴処分通知書が届いたことも付記しておこう。
▲上へ ★阿修羅♪ > 原発・フッ素52掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 原発・フッ素52掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。