2019年4月11日 木曜 午前7:00
韓国・日本産水産物輸入禁止措置 WTOが11日に最終判断
「放射能に汚染された水産物が再び私たちの食卓に上がることになる」
今月初め韓国の環境団体が会見を開いた。
原発事故を理由に、韓国は2013年から日本産の水産物(青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、千葉)の輸入を禁止しているが、今月11日、WTO(世界貿易機関)がその措置が妥当かどうか最終判断を公表するためだ。
環境団体が「放射能に汚染された」という不安を煽る言葉まで使い、必死にアピールするのには訳がある。日本政府は韓国政府の輸入禁止措置には科学的根拠が無いとしてWTOに提訴していて、WTOはすでに18年2月の一審で「不当な差別」として韓国側に是正を求めている。さらに11日に示される最終報告書でも日本の主張が認められるのが確実になっているからだ。
基準値越えの水産物はほぼゼロなのに…
WTOの判断は当然だ。水産庁などの調査(19年2月時点)によると原発事故後、国が定めた放射性物質の基準値「1キログラム当たり100ベクレル」を上回る水産物の割合は減少し続け、15年4月以降、基準値を上回った海産種は福島県沖でエイの一種である「コモンカスベ」(161ベクレル/s)が見つかった1件だけで、ほとんどゼロに近い。(福島以外では2014年9月以降ゼロ)放射性物質の放射能は時間とともに減少するためだ。
また基準値を超えても「出荷自粛」や「出荷制限」の措置が取られ、市場に出回る事は無い。これだけの厳格な調査が行われ、結果も出ている中で、環境団体はどういう理論で「危険だ」と訴えるのか直接、質問をぶつけてみた。
環境団体は予想通り反発も 根拠なし
環境団体の主張は以下の通りだ。
・水産物ではヤマメが140ベクレル/s、農産物ではタラの芽が780ベクレル/s、イノシシで5200ベクレル/sまで検出された事例があった。いまだに日本の海、山、川、湖、全ての所で放射能汚染によりセシウムが検出されている。
・18年度の日本の調査を分析すると、輸入禁止措置地域の水産物9274検体のうち、680検体でセシウムが検出された。割合で「7.8%」だ。それ以外の地域では527検体のうち4件のみで割合は「0.8%」だった。9倍近く高く出ている。
・輸入規制をしているのは韓国だけではなく、全世界で「51カ国」に達する。いまだに多くの国で規制をかけているのだ。
記者質問)国の基準値を超えていれば、日本でも流通しない。韓国に輸入されることはあり得ないのでは?
・国の基準値未満でも多くの部分でセシウムが検出されている。
・日本は原発事故が発生した当事国で、ある程度の被害を甘んじて受けなければいけない。私たちとは違う。日本の人々と同じように国の基準値未満だから食べろということは不当だ。日本は原発事故に対して周辺国に謝罪したことはない。(輸入禁止の解除は)韓国国民の健康、安全、食べ物を原発事故が起きた日本と同じ状態で維持しろということと同じだ。
科学的議論ではなく「感情論」に…
質問の答えは結局「感情論」になってしまった。こうなると議論は成り立たない。
タラの芽やイノシシの話を持ち出したのは、水産物から基準値を超える放射性物質がほとんど検出されていないための苦肉の策だろう。また基準値超えではなく、放射性物質が検出された割合だけを示しているのは印象操作に近い。
環境省によると、日本の基準値100ベクレル/kgは、国際機関であるコーデックス委員会の1000ベクレル/kg、アメリカの1200ベクレル/kgに比べて非常に厳格なのだが、この環境団体は、1ベクレルでも検出されれば受け入れないという論理のようだ。科学的根拠は全くない。
また、日本は「食べろ」とは言っておらず、「不当な輸入規制を無くせ」と主張している。基準値未満の水産物が気に入らなければ、食べなければいい。謝罪要求については、水産物の輸入規制とは完全に無関係で、意味不明だ。
さらに輸入規制を行っている国を「51カ国」と説明していたが、農林水産省のまとめでは原発事故以降54の国と地域で輸入規制措置がとられていたが、19年3月時点で半数以下の「23」の国と地域まで減少している。原発事故から時間が経ったことで、輸入規制の解除が世界的な流れとなっていることが分かる。これは明らかに事実と異なる説明だ。
韓国メディアも数社取材にきていたが、記事も見ても環境団体の主張を鵜呑みにして伝えているだけだった。これを見た韓国国民は相当な不安に駆りたてられるのではないかと感じ、直接話を聞いてみることにした。
ソウルの水産市場で聞いた韓国人の“ホンネ”
向かったのはソウル市の「ノリャンジン市場」。約800の店が軒を連ねるソウル最大の水産市場だ。震災前の2010年度は日本産水産物の取扱量は約5300トン、額にして24億円だったが、輸入禁止後の2014年度は910トン、8.5億円まで減少している。こうした状況の中で、市場の関係者や客に「放射能への不安」「輸入規制が解除されたら購入するのか?」と質問をぶつけてみた。
・市場の販売人
「日本産に対して、まだ少し敏感なところはあるが、昔に比べてかなりやわらぎました。今は日本産だと話して売ってもたくさん買っていきます」
・お客さん
「原発事故が不安だったら日本に旅行に行かない。もし(輸入再開)されれば食べると思います」
・市場の販売人
「(原発事故)当初は影響があった。でも今は時間が経って日本産が多く入ってくる。放射性物質の検査をしてから入ってきていることも知っています」
・お客さん
「(原発事故)当時は何か問題があったかも知れないが、今は問題がない。時間が経ったので、何の問題もないと思います」
・お客さん
「(日本産水産物は)避けていますね。個人的に信用できませんね」
・市場の販売人
「福島産の水産物に対して否定的な反応があるが、私は今後、数年間は(輸入禁止措置は)妥当だと思います」
意外にも、多くの人が「原発事故からの時間の経過」「厳格な放射性物質検査の実施」などの理由から、輸入再開には肯定的だった。韓国人の意識が変わりつつあると肌で感じた。特に「原発事故が不安だったら日本に旅行に行かない」という意見があったが、妙に納得してしまった。昨年の訪日韓国人は「754万人」で過去最多となり、過剰に不安視するなら、わざわざ日本に来て寿司や刺身など日本食は食べないだろう。
韓国政府は「世論の変化」を考慮した判断を
11日発表のWTO最終報告書で日本の主張が認められた場合、韓国側は輸入禁止措置の解除を迫られる。ただ最長15カ月間の猶予期間を与えられ、その期間で日韓は協議を続けることになる。
韓国メディアによると担当閣僚は「15カ月間の期間を最大限に活用して国民の安全と健康を最優先して対策方案を用意する」と述べていて、実際に輸入禁止が解除されるかは不透明だ。
原発事故から8年以上が経つ中、今も科学的見地に基づかない主張で、不安を煽りたてる人たちもいる。その一方で、韓国世論が確実に変わりつつあるのも確かだ。韓国政府はその「世論の変化」を無視してはいけない。
【執筆:FNNソウル支局 川村尚徳】