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パキスタンに空母売却? 中国の最終目標は何か
一歩ずつアメリカ海軍に近づいている空母関連技術
2019.2.14(木) 北村 淳
中国海軍が運用している空母「遼寧」
中国政府が中国海軍の001型航空母艦「遼寧」をパキスタンに売却する方向で折衝が進んでいる、という噂が浮上した。
現在、中国海軍が運用している空母は遼寧だけである。新たな001A型空母が完成しているが、まだ海上公試(最終実地テスト)中であり、艦名も未定だ。また、002型空母2隻と003型空母1隻を就役させる計画もあるが、まだ建造中である。このような状況のため、遼寧を近いうちにパキスタンに売却するとは考えられない。
しかし、パキスタンへの売却というアイデアは荒唐無稽というわけではない。かねてより空母を運用し、さらに2隻の空母を手にする予定のインド海軍を牽制するために、友好国パキスタンに空母「遼寧」を配備させる意義は大いにあるからだ。
もし、中国の息がかかったパキスタン海軍が、中国製艦載機が積載された中国製空母を運用するとなれば、中国が自ら空母をインド洋に繰り出してインド海軍を牽制する労力が大幅に軽減できることになる。したがって、ある時期(中国海軍にとって遼寧を手放しても良い段階)に到達した場合には、遼寧をパキスタンに移転することは中国にとっても願ったり叶ったりということになるのだ。
インド海軍空母「ヴィクラマーディティヤ」(写真:インド海軍)
遼寧も001A型空母も訓練・開発研究用
中国海軍が運用している001型航空母艦「遼寧」は、中国海軍にとっては明らかに訓練空母的な位置づけであるといえる。2012年9月に就役して以来、それまで航空母艦の運用経験がなかった中国海軍は、遼寧を用いて操艦を含めた空母そのものの運用方法、空母艦載機の運用方法、そして空母艦隊の運用方法を学んでいると解釈できる。
そして遼寧による運用経験から得た教訓を盛り込みながら、2018年4月には初の国産空母である001A型航空母艦を誕生させ、海上公試を開始した。001A型空母の海上公試と入れ替わりに、それまで5年半に渡って使用してきた遼寧はドック入りして大幅な改良が加えられたようである。
001A型空母も、遼寧同様に訓練空母と位置付けられる。中国海軍が空母や空母艦載機、そして空母艦隊の運用を実地研究しつつ経験を積み、そこからのフィードバックを生かしつつ真の実戦用航空母艦と空母艦載機を開発するための訓練用・開発研究用航空母艦と考えるべきであろう。
中国海軍の001A型空母
002型空母、そして原子力空母へ
長年にわたって実際に空母艦隊を運用しているアメリカ海軍関係者たちは、航空母艦と空母以外の水上艦は全く別物であることを強調する。いくら空母以外の巡洋艦や駆逐艦など水上戦闘艦艇や大規模艦隊の運用経験が豊富な海軍(たとえば海上自衛隊)であっても、航空母艦や空母艦載機、そしてなによりも空母艦隊の運用を習得するには長い年月と様々な試行錯誤が必要なのだ。
どの海軍といえども、他国海軍(同盟国といえども)に空母運用方法などを親切に伝授することなど100%あり得ない。そうである以上、中国海軍が自ら訓練用・開発研究用航空母艦を手にして、空母、艦載機そして空母艦隊の運用方法を身につける努力を続けているのは当然のステップである。
現在、中国海軍が遼寧を用い始めてから6年が経過し、001A型空母もまもなく海上公試を終えて正式に就役する(今年の4月頃、遅くとも中国海軍創建70周年を迎える今年の10月1日までには)ものと考えられている。その後は遼寧と001A型空母の2隻によって、さらなる訓練と研究が進められることになる。
現在、中国海軍は、2隻の002型航空母艦と、003型原子力空母の建造を進めている。002型空母2隻が就役して、遼寧と001A型空母の訓練空母としての役割が終了した頃には、中国空母がパキスタン海軍へ移籍されることになるかもしれない。
目標は原子力空母の運用
中国海軍にとっては002型空母も最終目標ではなく、開発研究目的が色濃い空母とみなせる。
002型空母には、遼寧と001A型では用いることができなかった「カタパルト装置」(航空母艦から艦載機が発進する際に、航空機を飛行甲板から射出する装置)が採用されている。カタパルトの採用と並行して、空母艦載機もさらに進化させる努力がなされているものと考えられている。002型空母の開発建造は、中国海軍の空母関連技術が一歩ずつアメリカ海軍に近づいていることを示しているのである。
米空母の甲板に設置されたカタパルト
そして、カタパルト(米海軍でも最新の電磁式カタパルトと言われている)を備えた002型空母を2隻生み出すことによって、中国海軍はさらなる訓練を重ねることになる。
中国海軍は、こうして遼寧、001A型空母、それに002型空母から得た経験を、現在建造中の原子力空母に生かそうというわけである。
要するに、中国海軍の空母開発計画にとって当面の最終目標は、アメリカ海軍が運用している原子力空母に肉薄する原子力空母(11万トンクラスと言われている)を手にすることである。実際に中国海軍関係者によると、中国は2035年までには4隻の原子力空母を稼働させるために少なくとも6隻以上の原子力空母を手にするということである。
空母の役割は国ごとに違う
このように中国海軍は自助努力により試行錯誤を重ねながら本格的な航空母艦の建造に力を注いでいるが、そうした状況に対して、とりわけ日本では「アメリカ海軍空母打撃群には追いつけるわけがない」といった声が少なくないようだ。
しかしながら、アメリカ海軍による空母打撃群の運用目的と、中国海軍やイギリス海軍それにインド海軍などによる航空母艦の運用目的は同じではない。いずれの国の海軍においても、それぞれの国独自の国防戦略に基づいた海軍戦略によって、空母や空母艦隊の運用に差異があるのは当然であり、中国海軍が米海軍の空母打撃群をモデルにしなければならない道理は全くないのだ。
この点を誤解すると、中国海軍の空母の真価や脅威を見誤ることになりかねない。その詳細に関しては稿を改めて解説したい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55469
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