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米軍が今になって地対艦ミサイルを重視する理由
一変した中国近海のパワーバランス
2019.1.10(木) 北村 淳
米陸軍の高機動ロケット砲システム「HIMARS」(出所:米陸軍、Photo Credit: Sgt. Benjamin Parsons)
日本のメディアの報道(産経新聞、2019年1月3日)によると、アメリカ陸軍が地対艦ミサイルを沖縄に展開させる訓練を今年(2019年)中に実施する方針を自衛隊に伝達した、という。この情報はアメリカ陸軍やペンタゴンにより公式に発表されてはおらず、現在のところ日本での報道が唯一の発信源となっている。
リムパックで米陸軍が発射した地対艦ミサイル
この報道によると、アメリカ陸軍第1軍団が地対艦ミサイル部隊を沖縄に展開させる、ということである。
ワシントン州タコマ市郊外に広大な基地(ルイス・マッコード統合基地)を構えるアメリカ陸軍第1軍団の第17砲兵旅団は、地対艦ミサイルを発射することができる高機動ロケット砲システム(HIMARS、ハイマース)を運用している。
第17砲兵旅団は、昨年ハワイで実施された多国籍海軍演習「リムパック(RIMPAC)-2018」に参加し、陸上自衛隊地対艦ミサイル部隊とともに、地対艦ミサイルにより軍艦を撃沈する訓練を実施した。
この際、第17砲兵旅団はHIMARSから、ノルウェー海軍とノルウェーのコングスベルグ社が開発したネイヴァル・ストライク・ミサイル(NSM)を発射して、米陸軍としては初めて地対艦攻撃能力を公開デモンストレーションした。
第17砲兵旅団とともに地対艦ミサイル実射訓練を実施した陸上自衛隊が使用したのは、純国産地対艦ミサイルシステムである12式地対艦誘導弾であった(対艦ミサイル本体のみならず発射装置や誘導装置などのシステム全体含めて「12式地対艦誘導弾」と呼称されており、全て日本製)。それに対してアメリカ陸軍は、発射システムは米国製のHIMARSを使用したが、発射した対艦ミサイル本体は米国製ではなくノルウェー製のNSMを使用せざるを得なかった。
なぜならアメリカでは長年にわたって地対艦ミサイルが等閑視されてきたからである。
米国防戦略には不要だった地対艦ミサイル
そもそもアメリカの国防戦略の基本は、「外敵はアメリカ本土沿海部には寄せつけず、できる限り遠くの海洋で、あるいは敵領域において撃破してしまう」というものである。そのため、アメリカの国益に対して軍事的危害を加える恐れがある勢力に対しては、敵地への侵攻も含めて先制攻撃によって事前に憂いを絶ってしまうのだ。
その際の最大のツールが、多数の艦載機を積載した巨大空母を中心とした艦隊である空母打撃群だ。空母打撃群を根幹に据え、太平洋やインド洋や大西洋を越えて強大な戦力を敵地に送り込むという方針により、実際にアメリカは過去半世紀以上にわたり世界中を威圧し睨みをきかせてきた。したがって、アメリカ国防当局にとって、敵艦隊がアメリカ沿岸域に接近して来る事態など想定する必要はなかったのであった。
そのため、アメリカ軍にとっては、迫り来る敵艦隊を沿岸地域で待ち受けて撃退するための地対艦ミサイルシステムの必要性はないというわけだ。
実際にアメリカ軍は地対艦ミサイルシステムを保有していない。また、アメリカの兵器メーカーでは、地対艦ミサイルや地対艦ミサイルシステムを開発・製造していない。
中国が地対艦ミサイルを重視してきた理由
一方、中国軍はアメリカ軍と異なり、地対艦ミサイルを重視してきた。
ケ小平の近代化政策以降、人民解放軍は海軍提督劉華清が打ち出した積極防衛戦略を中心に据えて、海から押し寄せて来るアメリカ軍をできるだけ中国沿岸から遠くの海洋で撃破できる軍事力を構築する努力が続られてきた。そのため海軍と空軍、そしてミサイル戦力の徹底した強化が図られるとともに、陸軍の機械化・少数精鋭化も万難を排して推進されている。
ただし、海軍や空軍を強大化すると言っても、軍艦や航空機の開発やそれらの要員育成には時間がかかる。中国に脅威を加えるアメリカ海軍にある程度は対抗できうる程度の近代化海軍へと中国海軍が成長するまでの期間は、中国沿海域に押し寄せて来る米海軍艦艇を沿岸地域から攻撃して撃退する方針で持ちこたえなければならない。
そのため重視されたのが地対艦ミサイル戦力の構築と強化であった。
もともと中国軍は毛沢東以来、一点豪華主義的抑止力として弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルの開発に努力を傾注していたため、地対艦ミサイルの開発は比較的順調に進んだ。また、地対艦ミサイル戦力構築は、海軍艦艇や航空機の整備に比べると格段と安価で済むという利点もあった。
米海軍が警戒する中国の地対艦ミサイルバリア
中国軍は現在、様々な地対艦ミサイルを極めて多数配備しており、通常の地対艦ミサイルである地上発射式対艦攻撃用巡航ミサイルとは一線を画した対艦攻撃用弾道ミサイルシステム(東風21D型弾道ミサイル、東風26型弾道ミサイル)まで手にするに至った。
米海軍が極めて警戒を強めている中国のDF-21D(東風21D)対艦弾道ミサイル
また、地対艦ミサイルだけでなく、艦艇や航空機から発射する対艦ミサイル、そして防空用地対空ミサイルなど、アメリカ軍が接近阻止領域拒否戦力と呼ぶ兵器を中国沿岸地域(南シナ海に生み出した人工島も含む)や沿岸海域その上空にずらりと揃えている。その状況下で、中国海軍や中国空軍の戦力は目に見えて強化されてきた。
そのため、アメリカ海軍としては、伝統的な空母打撃群を中国沿海域に展開させて中国を威圧する戦法には躊躇せざるを得なくなってしまった。なぜならば、対艦弾道ミサイルによって、アメリカ海軍の象徴である巨大空母が海の藻屑にされる恐れが高まっているからである。
地対艦ミサイルに価値を見出した米軍
このような状況を打開するためにアメリカ軍が目をつけたのは、アメリカ軍も中国軍の戦略を逆手にとって、中国艦隊が太平洋に進出する際に通過しなければならない中国軍が「第一列島線」と呼ぶ九州〜南西諸島〜台湾〜フィリピン〜ボルネオ島の島嶼線上に地対艦ミサイルを配置して、接近して来る中国艦艇を撃破しようというアイデアである。
九州〜南西諸島に地対艦ミサイルバリアを築く(『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』より)
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このような構想は、これまで存在しないわけではなかった(本コラムでもすでに5年近く以前から度々論じてきた)。しかし、空母打撃群中心主義に凝り固まってきたアメリカ海軍ではなかなか採用されることはなかった(本コラム2014年5月8日「効果は絶大、与那国島に配備される海洋防衛部隊」、2014年11月13日「国産地対艦ミサイルの輸出を解禁して中国海軍を封じ込めよ」、2015年7月16日「島嶼防衛の戦略は人民解放軍に学べ」、拙著『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』講談社α新書、などを参照いただきたい)。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40621
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42188
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44290
それが、ようやく中国近海での空母打撃群の運用が脅かされるに至って、地対艦ミサイルによって中国艦隊の接近を阻止しようというアイデアが、米陸軍のマルチ・ドメイン・バトル概念の一環として表舞台に登りつつある。
アメリカのシンクタンクCSBAの提案
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日本の地対艦ミサイルの実力
ただし、地対艦ミサイルの分野では日本がアメリカを数歩リードしている。日本はかねてより地対艦ミサイルシステムを独自に開発・生産しているだけでなく、地対艦ミサイルの運用に特化した陸上自衛隊地対艦ミサイル連隊を保有してきた。
したがって、南西諸島での地対艦ミサイルバリア設置は日本が独自に実施するのが当然として、南シナ海沿岸諸国への地対艦ミサイルバリア網設置に関する装備の輸出や教育訓練などを日本が主導することができる。つまり、自由諸国における地対艦ミサイルのスタンダードを日本が手にするチャンスが大いにあるのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55151
- 子供を戦場に送ると国の未来は衰退する韓国/台湾の徴兵制とイエメン少年兵「デバイド再生産」 台湾 徴兵制終了 若者に嫌気 うまき 2019/1/11 08:07:08
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