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すイエんサーガールから学ぶアクティブラーニング「観察」がなければ知識もアイデアも生かせない
2019.4.8(月) 篠原 信
「観察」を怠ると良い結果は生まれない。
(篠原 信:農業研究者)
「アクティブラーニング」最高の教材と思われるのは、NHK Eテレの「すイエんサー」大学対決編だ。アイドルを目指す女の子たちが、東大、京大などの名だたる大学の学生たちを打ち負かした。もう数年前に放映された特番だが、ぜひ再放送してほしい。できれば繰り返し放映してほしい(負けた学生はかわいそうだが)。
なぜ女の子たちは、知識の豊富な大学生たちに勝ったのだろうか? それは、「観察」だ。
勝敗を分けた「観察」
2階から紙を落として、滞空時間を競うという競技。京大生は豊富な知識を駆使し、すばらしい構想を披露し、その実現に向けて工作を始めた。
すイエんサーガールは、何の構想もない。とりあえず紙を繰り返し落としてみた。
すると、地面に水平の時は滞空するが、翻って縦になると、急速落下することに気が付いた。「翻らずに水平姿勢を維持できれば、滞空するのでは」という仮説に気がついた。翻りさえなければよい。そんな単純な開発目標でできたものは、なんと角を折っただけというもの。
京大生は、羽のある種子を模したものやUFO形など、技巧を凝らした紙細工を開発した。落下するときの様子は大変興味深かったが、比較的速やかに落下。他方、すイエんサーガールの作った、いや、作ったなどともいえない、角を折っただけの紙は、驚異の滞空時間を誇った。
東大生との対決の回は残念ながら直接見ていないが、回想シーンを見たところ、これも大変興味深い。A4の紙で橋を作り、どれだけの重量物を支えられるかという競技。
東大生は建築学の知識を駆使し、力を分散させる、技巧の粋を尽くした構造物を作り上げた。
かたや、すイエんサーガール。何の構想もない。とりあえずめいめいに、紙を折ってみた。すると、きつく巻いた紙は非常に丈夫な棒になることに気が付いた。その棒を使って試行錯誤を重ねるうち、東大生を圧倒する結果を出し、勝利(東大5kg、すイエんサーガール18kg)。
「観察」とは目の前のモノから教わること
知識の豊富な東大生、京大生はなぜ敗れたのだろう? すイエんサーガールは、何の知識もなかったのに、なぜ勝てたのだろう?
私が思うに、前者は「観察」を軽んじ、後者は「観察」を軸に据えたことが、大きな違いとなったのだろう。
京大生は、航空力学や生物学の知識が豊富であったが、彼らは「落下」という現象をろくに観察しようとしなかった。知識を形にすることにこだわり、目の前の現象を観察し、学ぶことを怠った。
他方、すイエんサーガールは、知識も構想もないがゆえに、まずはA4の紙のまま落として、「落ちる」という現象を観察することにした。その結果、「翻りさえしなければ、紙は広い方が滞空時間は長い」という法則に気づき、翻りを抑えることにフォーカスした開発目標を立てられた。
東大生も、変に建築学の知識があることが災いし、「観察」がおろそかになった。彼らは材料である紙を観察することを怠った。頭の中にある構想を実現することに熱中し、紙の性質を知り尽くそうとする「観察」を怠った。このため、豊富な知識も「木に竹を接ぐ」ような格好になってしまった。
しかしすイエんサーガールは、何の知識も構想もないが故に、まずは紙から学ぼうとした。紙をいろいろいじっているうちに、きつく巻いたら非常に丈夫な棒になることを、紙から「教えてもらった」。次には、紙の棒の組み上げ方を、紙から教わった。対象物を徹底的に観察することで、対象物から教えてもらったのだ。
アクティブラーニングで最も重要なコツ、それは「観察」だ。観察は、目の前の対象物や現象から、どうすればよいかを教えてもらう行為。教えてもらうためには、いろいろいじってみる。いろんな角度から対象物(あるいは現象)を観察してみて、「お前は一体どういうものなの?」ということを教えてもらう。
どういうモノ、現象なのか、観察から見えてくれば、自然と解決策は浮かんでくる。京大対決では「翻りさえしなければよい」、東大対決では「きつく巻けば丈夫な棒になる」だった。
東大生、京大生は自身の知識に溺れ、目の前の対象物や現象から「教えてもらう」こと、すなわち「観察」を怠った。
アイデアへの傾倒は「観察」を遠ざける
実は「すイエんサー」には後日談がある。大学対決で連戦連勝だったのだが、次第に勝てなくなったのだ。原因は「アイデア」に頼ろうとするようになったこと。
連勝するうちに、彼女らは「斬新なアイデア」を賞賛されるようになった。そのために、自分たちの強みはアイデアにあると勘違いするようになった。
連戦連勝だった頃は、アイデアを考える前に、紙を落としてみた。紙を折ってみた。いろいろ試行錯誤しながら「観察」を続けるうちに、欠点を克服する方法を、現象やモノ自体から「教えてもらって」いた。
ところが彼女らが、アイデア勝負で戦おうとするようになったとたん、「アイデア倒れ」となり、弱体化した。現象や対象物を観察し、そこから学ぶ姿勢が失われた。
知識があることは悪いことではない。アイデアが豊富なことも悪いことではない。しかし、現象や対象を「観察」することを怠る原因になるのなら、「悪い」ことに転ずる。目の前の現象や対象をより深く「観察」するために知識が用いられるなら、それはむしろ望ましい。
大学対決を繰り返すうち、大学生たちは、アイデア倒れになってはいけないことを学んだようだ。だんだんと、与えられた課題の材料、現象を詳しく観察し、そこからヒントを得て、開発目標を立てるという手続きをとるようになった。すイエんサーガール達が観察をやめ、アイデアに頼るようになってしまったのとは逆に。
私が研究者として大切にしているのも、「観察」だ。そしてより深く観察するため、さまざまな角度から観察しようと、いろいろいじってみる。その試行錯誤と観察から、突破口が次第に見えてくる。そうしたら仮説を立て、実験してみる。それの繰り返し。
すイエんサーガールは、自らの強みに自覚がなかったので、「斬新なアイデア」を出そうと焦り、観察を怠るようになった。もし、自分たちの強みを自覚し直すことができたら、再び活躍できるようになるだろう。
逆に言えば、「観察」さえ怠らなければ、創意工夫は誰にでもできるということだ。
「観察」の重要性を知るためにも、「すイエんサー」の大学対決編を、再放送してほしい。繰り返し放映してほしい。アクティブラーニングの、格好の教材となるだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56011
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