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2018年12月27日 高橋洋一 :嘉悦大学教授
株急落は来年の様々なリスクの前兆、消費増税の余裕はない
25日の株価は大荒れだった。東京株式市場では日経平均株価が1000円超下落し、2017年9月15日以来1年3ヵ月ぶりに2万円の大台を割り込んだ。
24日の米国ダウの653ドル(2.9%)の下落を受けたものだが、日経平均は1010円(5.0%)の下落であり、米国を上回る下げだった。
米株価急落は世界的な景気減速や米中貿易戦争への懸念が市場を覆う中で、米連邦政府の一部閉鎖やマティス国務長官の辞任など、トランプ大統領の政権運営への不安が広がったのが背景だが、日本では株価だけでなく、来年はさまざまなリスクが予想される。
日経平均株価が2万円台割れ
12月では69年ぶりの下落率
12月に入って、米国ダウは3日の25,538.46ドルから24日の21,792.20ドルまで、3746.26ドル下がった。下落率は14.67%だ。
月内の下落率は、大恐慌の1931年(17%)に迫る歴史的な下げ幅だ。
日経平均株価の12月の下落幅も、3日の22,574.76円から25日の19,155.74まで3419.02円、下落率は15.14%とほぼパラレルに下落している。
過去の日経平均でも、1949年5月から今年12月までの836ヵ月で、、今月1ヵ月の下落率15.14%は、21番目に悪い数字だ。12月に限ってみれば、1949年12月に19.55%下落して以来、69年ぶりに悪い数字だ。(図表1)
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836ヵ月の1月間の値動きのデータをみると、平均は0.69%、標準偏差は8.02だ。
来年はもう一回、大幅下落あれば、
「リーマン級の事態」
株価急落を受けて、菅義偉官房長官は25日午前の記者会見で、「経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は堅調だ」と述べ、来年10月の消費税率引き上げに向けて「経済運営に万全を期していきたい」としている。
また、消費税増税については「リーマンショック級の事態が起きない限り、法律で定められた通り来年10月から引き上げる予定だ。引き上げる環境整備が政府の大きな課題だ」と述べた。
たしかに、今の時点では「リーマンショック級の事態」とは言えないだろう。12月の株価の変動は、リーマンショック直後の2008年10月の36.99%、11月19.09%、2009年1月16.85%ほどではない。
だが、来年にもう一回、大幅急落が来れば、リーマンショック級になるだろう。
もう一回来るかどうかは、わからないが、その確率が以前に比べて高まったのは事実だ。
南海トラフと首都圏直下地震
5年以内の発生確率は2割
また来年のリスクは、経済変動に限らない。筆者が心配しているのは、自然災害である。
これは、確率計算が可能だ。南海トラフ地震について、今後30年間での発生確率は70〜80%というのが、政府の見解である。また、首都直下型地震についても、今後30年間が横浜市で78%となっている。
今後30年間で8割程度の発生確率となると、今後5年に引き直せば、2割強の発生確率になる。
そうなると、関西の南海トラフ地震か関東の首都直下型地震のいずれかが、今後5年以内に起こる確率は2割強になる。
いずれかが起こるというのは、1から両地震が起こらない確率を引いて得られるが、両地震の起こらない確率は9割弱×9割弱で8割弱になるからだ。
2割強というとどの程度の確率かと言えば、プロ野球で規定打席に達した選手のうち最下位レベルの打者の打率である。規定打席に達しているので、一応レギュラークラスの野手であるので、投手よりはもちろん高い。
巨大地震が起こるリスクはかなりの“打率”と考えたほうがいい。
北朝鮮問題などで
有事のリスクも
このほかにも、日本には有事のリスクもある。これはなかなか定量的に表せないが、極東アジアは、これまでの歴史の中で紛争が比較的多い地域である。
筆者は、米国プリンストン大留学で国際関係論を学んだ。指導教官は、民主平和論の大家であるマイケル・ドイル教授だった。
ドイル教授は、民主的な国同士は戦争をしないというカント流の考え方を現代に復活させたが、筆者はドイル教授の意見を統計的に示した。
つまり、(1)民主国同士、(2)民主国と非民主国、(3)非民主国同士はそれぞれ戦争確率が増加する傾向があるのだ。
これを極東アジアに当てはめると、(2)のケースになるので、戦争確率は決して低くはない。もちろん、この戦争確率は、外交努力などによって下げられるので、その努力は必要だ。
今年は、シンガポールで行われた米朝首脳会談での「非核化合意」で、極東アジアでの紛争確率は一応は低くなった。
しかし、北朝鮮は核を依然として手放していない。アメリカも慎重派のマティス米国防長官の辞任が決まっている。今回の株価急落にトランプ大統領はいらついているようだ。
戦争の確率を考えたくはないが、不満や閉塞状況を打開する手段として、軍事オプションの可能性が、少なくとも今後は高まるようにみえる。
このように、来年は、経済、自然現象、安全保障のすべての分野でリスクが高まる状況ではないか。
財政破綻のリスクはない
増税はやめるのが合理的
そうした状況で消費増税をやっている余裕があるのか。
本コラムでは、政府の財政について、負債だけではなく、資産も含めたバランスシートで考えなければいけないと、何度も書いてきた。筆者は20年以上もこのことを繰り返してきた。「統合政府論」というファイナンス論の基礎でもある。
この考え方をもとに、大蔵省(現財務省)勤務時代に、単体のみならず連結ベース政府のバランスシートを作成した。それをみると、それほど国の財政状況は悪くないことが分かった。
国の徴税権と日銀保有国債を政府の資産と考えれば、資産が負債を上回っていることも分かった。この財政の本質は、現在まで変わっていない。
また資産といっても、一般に考えられている土地や建物などの有形固定資産は全資産の2割にも満たない程度だ。大半は売却容易な金融資産で、政府関係機関への出資・貸付金などだ。
その当時、筆者は上司に対して、ファイナンス論によれば、政府のバランスシート(日本の財政)はそれほど悪くないことを伝え、もし借金を返済する必要があるのであれば、まずは資産を売却すればいいと言った。
それに対し上司から、「それでは天下りができなくなってしまう。資産は温存し、増税で借金を返す理論武装をしろ」と言われた体験もいろいろなところで話してきた。
ちなみに、日銀を含めた連結ベース、つまりいわゆる統合政府のバランスシートに着目するのは、その純資産額が政府の破綻確率に密接に関係するからだ
これもファイナンス論のイロハである。IMF(国際通貨基金)も、統合政府の純資産に着目して、日本では実質的に負債はないといっている。
純資産額の対GDP比率は、その国のクレジット・デフォルト・スワップ・レートと大いに関連する。それは破綻確率に直結するからだが、日本の破綻確率は今後5年以内で1%にも満たない。
この確率は、多くの人には認識できないほどの低さであり、日本の財政の破綻確率は、無視しても差しつかえないほどである。
一方で、来年は上述したような経済や自然災害、安全保障のリスクが考えられるのだ。
消費増税は、社会保障の安定財源確保や財政再建のためだと言うが、財政破綻の可能性を考えれば、経済、自然災害、安全保障のリスクのほうがはるかに大きいので、やめるのが合理的な判断だろう。
(嘉悦大学教授 高橋洋一)
https://diamond.jp/articles/-/189726
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