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江戸っ子に「靖国」は"長州藩の守り神"にしか見えない?
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2018/12/09/post-2160.html
サンデー毎日 2018年12月 9日号
牧太郎の青い空白い雲/696 恐れ多いことだが、今回も「天皇のご苦労」を書きたい。例の靖国神社のトップ、「小堀(こほり)邦夫前宮司」について書きたいのだ。 〈陛下が一生懸命、慰霊の旅をすればするほど靖国神社は遠ざかっていくんだよ。そう思わん? どこを慰霊の旅で訪れようが、そこには御霊はないだろう? 遺骨はあっても。違う? そういうことを真剣に議論し、結論をもち、発表をすることが重要やと言ってるの。はっきり言えば、今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ。わかるか?〉(ニュースサイト「NEWS ポストセブン:www.news−postseven.com」からの引用) 小堀さんは「英霊の御霊(みたま)は靖国にこそあり、戦地にはない。無駄なことはやめて、靖国に参拝していただきたい」という気持ちなのだろう。 しかし、天皇が「象徴的行為として、大切なものと感じてきました」(生前退位の意向を示した2016年8月8日のビデオメッセージ)と語られた「慰霊の旅」にケチをつけるのは、傲岸不遜ではあるまいか? "代替わり"で次の天皇となられる皇太子夫妻についても、 〈あと半年すればわかるよ。もし、御在位中に一度も親拝(天皇が参拝すること)なさらなかったら、今の皇太子さんが新帝に就かれて参拝されるか? 新しく皇后になる彼女は神社神道大嫌いだよ。来るか?〉 と乱暴な言い回し。いくら身内の会合(教学研究委員会)でも許されない。この発言で、小堀さん、就任半年余りで辞任に追い込まれたのは当然かもしれない。 × × × しかし、小堀発言には「意味」があった。 なぜ、天皇は靖国神社を参拝しないのか?という素朴な疑問に応えるヒントになったからである。 天皇と小堀前宮司は「靖国問題」で正反対に位置している。 天皇がかつて戦場になった各地に赴くのは「戦争の犠牲者全員」を慰霊するためである。「全員」が対象だ。靖国神社に祀(まつ)られた英霊、つまり「国のために命を捧(ささ)げた英雄」だけを慰霊するのとは意味が違う。 歴史的に靖国神社は「英霊」を選別する国家機関だった。戊辰(ぼしん)戦争・明治維新の戦死者では「新政府軍」側のみが祀られ、賊軍とされた旧幕府軍(彰義隊や新選組)や奥羽越列藩同盟軍の戦死者は除かれた(新選組は徳川将軍も天皇も守った実績があるのに)。 西南戦争でも政府軍側だけが「英霊」とされ、西郷隆盛ら薩摩軍は賊軍だった。 江戸幕府に弾圧を受け、刑死、戦死した吉田松陰、橋本左内、久坂玄瑞(げんずい)らも「新政府側」ということで合祀されているし、病死だった高杉晋作まで合祀(ごうし)されている。 どう見ても「長州藩」の都合がいい「英霊選び」としか思えない。東京・下町の江戸っ子の家に生まれた僕は「靖国神社は長州藩のお偉方のお墓みたいなところ」と言われて育った。 事実(会津藩士の末裔(まつえい)であることが理由かも知らないが)戦後右翼の大物・田中清玄氏は「靖国参拝は長州藩の守り神を全国民に強制するものだ」と批判している。 × × × 天皇が靖国神社に参拝しないことを半ば犯罪かのように指摘する人物が、神社界の中枢に何人もいる!と聞いた。 確かに、立場立場で「靖国」に対する考え方が違うのが当然だが、これほど「反天皇」の発言が目立つのは「安倍1強」と無縁ではないだろう。 長州藩の末裔である安倍首相は、天皇と"距離"を置いている。ロクに話をしていない。ギクシャクしている。 「生前退位」をめぐる有識者会議の運営や宮内庁の更迭人事などを見れば、安倍政権は「反天皇」としか思えない。例えば、天皇は「生前退位を法改正で恒久的制度としたい」という考えをにじませたが、安倍首相は「一代限りの特別法」にこだわった。 安倍首相が「天皇家」をないがしろにしている。そう思えてならない。 小堀前宮司の発言もその延長ではないか。そうでなければ「慰霊の旅」を無駄だ!とは言わないだろう。 × × × 靖国問題はこれまで、外交上のトラブルの発火点と恐れられていた。が、今や「天皇家」と「安倍1強政治」の角逐になりそうな気がしてならない。 江戸っ子の僕には「"長州藩の守り神"で、天皇がご苦労していらっしゃる」と思えてならない。 もちろん、天皇は「こんな軽い見方」をされるはずもないけれど。 |
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