http://www.asyura2.com/18/senkyo252/msg/710.html
Tweet |
2018年10月22日 橘玲 :作家
「TPPは米国の陰謀」と大反対していた「知識人」たちは米国がTPPから離脱したのになぜ大喜びしないのか
[橘玲の日々刻々]
橘玲のメルマガ 世の中の仕組みと人生のデザイン 配信中
トランプ政権が「貿易赤字は不公正だ」として世界各国との関税交渉に突き進んでいます。安倍首相とのトップ会談でもトランプ大統領は剛腕をふるい、日本は自動車への関税引き上げを避けるために農業分野での大幅な譲歩を余儀なくされました。
一連の経緯を振り返って不思議なのは、ついこのあいだまで「TPP(環太平洋パートナーシップ)協定はアメリカの陰謀だ」と大騒ぎしていたひとたちが右にも左にもものすごくたくさんいたことです。ところがトランプ大統領は、「TPPはアメリカにとってなにひとついいことない」として、さっさと交渉からの離脱を決めてしまいました。
TPPに大反対していたひとたちは、グローバリズムが諸悪の根源で、一部の超富裕層や多国籍企業だけが儲かる自由貿易を制限すれば、日本も世界もずっとよくなると主張していました。そしていま、トランプ大統領の登場によって、彼らが夢見た保護貿易の理想世界が実現したのですから、提灯行列でもやって祝うのかと思ったら、なぜかみんな沈黙しています。
中学生でも気づく単純な疑問ですが、なぜアメリカの陰謀だったものが、アメリカにとってなにひとついいことがないのでしょうか。TPPを推進すべきだと唱えるひとたちに「グローバリスト」のレッテルを貼ってあれだけ罵倒したのですから、批判派の「知識人」はこの問いに答える大きな説明責任を負っています。
国際経済学の授業では、「“貿易黒字は儲けで貿易赤字は損”というのはブードゥー(呪術)経済学だ」と真っ先に教えられます。
グローバル市場はひとつの経済圏ですが、便宜上、国ごとに収支を集計します。これは、日本市場を詳しく分析するのに県ごとの収支を計算するのと同じことです。県内のパン屋が県外の顧客に商品を売ると「貿易黒字」に加算されます。このパン屋が県外から小麦粉を仕入れると「貿易赤字」になります。しかしこれはたんなる会計上の約束ごとで、パン屋の儲けにも、ましてや県のゆたかさにもなんの関係もありません。
江戸時代には藩ごとに関税が課せられていましたが、明治政府が撤廃したことで日本経済大きく飛躍しました。保護貿易が常に利益をもたらすなら、いまから江戸時代に戻せばいいということになります。自由貿易を否定するのは、これとまったく同じ主張です。
近代国家は神聖不可侵な「主権」をもっており、世界政府が存在しない以上、明治維新の日本のように一気にすべての関税を撤廃することはできません。しかしアダム・スミス以来、モノやサービスを自由に流通させれば、ひとびとのゆたかさが全体として大きくなるという経済学の主張は事実によって繰り返し証明されてきました。中国やインドは1980年代までは世界の最貧国だったのです。
TPPのような包括協定がなければ、ちからの強い国が自分に有利なルールを押しつけるに決まっています。いま起きているのがまさにそれで、TPPからの離脱は「日本にとってなにひとついいことがなかった」のです。
ではなぜ、TPPに反対する「知識人」があんなにたくさんいたのか? それは、ヒトの脳がもともと呪術思考しかできないようにできているからでしょう。だからこそ、ブードゥー経済学は永遠に不滅なのです。
『週刊プレイボーイ』2018年10月15日発売号に掲載
http://diamond.jp/articles/-/183057
2018年9月3日 橘玲 :作家
翁長知事死去に対してヘイトコメントするネトウヨという存在
沖縄の翁長雄志知事が闘病の末に亡くなりました。がんを明らかにしてから、ネットには容姿や病状についての読むに堪えないコメントが溢れ、訃報のニュースは一時、罵詈雑言で埋め尽くされました(その後、削除されたようです)。
こうしたヘイトコメントを書くのは「ネトウヨ」と呼ばれている一群のひとたちです。彼らは常日頃、「日本がいちばん素晴らしい」とか「日本人の美徳・道徳を守れ」とか主張していますが、死者を罵倒するのが美徳なら、そんな国を「美しい」と胸を張っていえるはずがありません。真っ当な保守・伝統主義者は、「こんなのといっしょにされたくない」と困惑するでしょう。
ネトウヨサイトについては、最近は「ビジネスだから」と説明されるようです。しかしこれでも話はまったく変わりません。ヘイトコメントを載せるのはアクセスが稼げるからで、それを読みたい膨大な層がいることを示しています。
自分が白人であるということ以外に「誇るもの」のないひとたちが「白人アイデンティティ主義者」です。彼らがトランプ支持の中核で、どんなスキャンダルでも支持率が40%を下回ることはありません。同様に、安倍政権の熱心な支持者のなかに、日本人であるということ以外に「誇るもの」のない「日本人アイデンティ主義者」すなわちネトウヨがいます。
彼らの特徴は、「愛国」と「反日」の善悪二元論です。「愛国者」は光と徳、「反日・売国」は闇と悪を象徴し、善が悪を討伐することで世界(日本)は救済されます。古代ギリシアの叙事詩からハリウッド映画まで、人類は延々と「善と悪の対決」という陳腐な物語を紡いできました。なぜなら、それが世界を理解するもっともかんたんな方法だから。
ネトウヨに特徴的な「在日認定」という奇妙な行為も、ここから説明できます。自分たち=日本人と意見が異なるなら「日本人でない者」にちがいありません。事実かどうかに関係なく、彼らを「在日」に分類して悪のレッテルを貼れば善悪二元論の世界観は揺らぎません。
今上天皇が朝鮮半島にゆかりのある神社を訪問したとき、ネットでは天皇を「反日左翼」とする批判が現われました。従来の右翼の常識ではとうてい考えられませんが、この奇妙奇天烈な現象も「朝鮮とかかわる者はすべて反日」なら理解できます。
ところが「沖縄」に対しては、こうした都合のいいレッテル張りが使えません。「在日」に向かっては「朝鮮半島に叩き出せ」と気勢を上げることができますが、基地に反対する沖縄のひとたちを「日本から出ていけ」と批判すると、琉球独立を認めることになってしまうからです。
こうして沖縄を批判するネトウヨは、「反日なのに日本人でなければならない」という矛盾に直面することになります。これはきわめて不愉快な状況なので、なんとかして認知的不協和を解消しなければなりません。「翁長知事は中国の傀儡」とか「反対派はみんな本土の活動家」などの陰謀論が跋扈するのはこれが理由でしょう。――都合のいいことに、探せば本土から来た市民活動家は見つかります。
ネトウヨは、「日本人」というたったひとつしかないアイデンティティが揺らぐ不安に耐えることができません。「絶対的な正義」という幻想(ウソ)にしがみついているからこそ、平然と死者を冒?してまったく意に介さないのです。
http://diamond.jp/articles/-/178932
2018年10月15日 橘玲 :作家
「ヘイト」の烙印を捺された雑誌が休刊した理由
「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)は「生産性」がない」と主張する保守派の女性国会議員が寄稿した月刊誌が休刊しました。批判に対して「そんなにおかしいか」という特集を組んだところ、同性愛(自由恋愛)と痴漢(犯罪)を同一視するかのような記事が掲載され、火に油を注ぐ大騒ぎになったのです。
なぜこんなことが起きるのか。それはリバタニアとドメスティックスの関係を見誤っているからです。
オバマ大統領の二期目の大統領就任式では人気歌手のビヨンセがアメリカ国歌を歌いましたが、トランプ大統領の就任式では、得意のネゴシエーション力にもかかわらずすべての歌手が出演を断ったようです。それ以前に、ザ・ローリング・ストーンズ、エアロスミス、アデルなどのミュージシャンがトランプの集会で自分たちの曲を使わないよう求めています。
これは政治的イデオロギーの問題というよりも、彼ら/彼女たちがアメリカだけでなく世界じゅうにファンを持つグローバルなスターだからです。
アメリカ国民3億人のうち、2億人が保守派(ドメスティックス)だとしましょう。リベラルは1億人ですから、選挙では常に保守派が優位に立ちます。だったら、政治家と同様に人気商売の芸能人もみんな保守派に鞍替えすべきではないでしょうか。
そんなことにならないのは、ちょっと考えればわかります。スーパースターは70億人を超えるグローバルマーケットを相手にしており、わずか2億人のアメリカの保守派の機嫌をとるために、世界じゅうのファンを失うリスクを冒すはずがないのです。
人種や性別、性的指向などで差別してはならないというリベラルの理念は、グローバル世界のもっとも大切な約束事です。多様なひとたちが集まる場で、お互いの善悪や優劣で争えば殺し合いになるほかありません。
これを「リバタニア」と呼ぶならば、世界的な有名人やグローバル企業はすべて(仮想の)リベラル共和国の住人です。ハリウッドがどんどんリベラルになり、グーグルやフェイスブックがあらゆる差別に反対するのは、リバタニアから排除されれば事業が成り立たないからです。
それに対して日本のメディアは、「日本語」という非関税障壁に守られてきたため、これまでリバタニアの巨大な圧力を軽視してきました。しかしいまでは小説・アニメ・音楽・映画などのクリエイターのなかには、日本以上にアジア(中国・韓国・台湾)で人気があるひとがたくさんいて、彼ら/彼女たちは「反中」「嫌韓」のレッテルを貼れることをものすごく嫌うでしょう。海外の高名な作家たち(ほとんどがリベラル)も、高名な文学賞の候補になり世界じゅうにファンのいる日本の人気作家も、「同性愛者を差別している」と批判される出版社から作品を出そうとは思わないでしょう。
このように考えれば、「ヘイト」の烙印を捺された雑誌を休刊するほかない事情がわかります。下手に言い訳や反論をすれば、ますます炎上して信用が失墜していくだけです。
グローバル化の進展にともなってリバタニアの圧力はさらに強まっており、今回の事件をきっかけに、日本でも大手メディアのリベラル化がさらに進むでしょう。こうして、取り残されたドメスティックスとのあいだで社会の分断が進んでいくのです。
『週刊プレイボーイ』2018年10月9日発売号に掲載
橘 玲(たちばな あきら)
橘玲のメルマガ 世の中の仕組みと人生のデザイン 配信中
作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない?残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書) 。
●橘玲『世の中の仕組みと人生のデザイン』を毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中)
http://diamond.jp/articles/-/182355
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK252掲示板 次へ 前へ
- NHK「原爆番組」は放送法違反だ 朝日の実売はついに400万部割れ?決算書で分かる新聞「財務格差」 うまき 2018/10/25 22:58:40
(0)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK252掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。