使えない上司・使えない部下外国人労働者の「我が子の学歴」問題 2018/07/26 吉田典史 (ジャーナリスト・記者・ライター) 今回は、外国人労働者の実態に精通しているAPFS労組(東京都新宿区)の委員長・山口智之氏に取材を試みた。外国人労働者は貴重な戦力として雇われることもあるが、日本人の社員よりは安易に使い捨てられることが多い。それでも最近は好景気や人手不足の影響もあり、外国人労働者が増えつつある。 組合員とスマホで連絡をとる山口氏 厚生労働省は2018年1月に、外国人雇用についての届出状況を公表した。2017年10月末時点での外国人労働者は前年同期比18%増加し、約128万人となり、5年連続で過去最高を更新した。国籍別では、中国が最も多く、37万2263人、次いでベトナムの24万0259人、フィリピンの14万6798人と続く。
この労働者の中には、母国に住む家族を日本に呼び寄せるケースもある。 今回は、この労働者たちの子どもの教育をクローズアップしたい。山口智之氏に「多くの組合員が、わが子の教育に悩んでいる」と語る。近年、相談内容として増えているのが、わが子の教育問題なのだという。 日本企業は、外国人労働者を「使い捨て」にする傾向が依然としてあるが、その向こうにある「家族の問題」にまで視野を広げて考える時期になっている。 「彼らは祖国でエリートであっただけに、 子どもの学歴にかける思いは強烈」 APFS労組の母体は、外国人支援団体の特定非営利活動法人「ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY(略称:APFS)」。1987年に設立された団体で、外国人からの相談や人権擁護の提言、それに関する啓蒙活動を続ける。労働相談をしていたスタッフである山口氏らが2007年に独立し、APFS労組を結成した。 組合員は現在、約60人。約9割は外国人で、平均年齢は30代前半。国籍はミャンマーが最も多く、7割ほど。それに、パキスタンやインド、エチオピアなどが続く。同労組は、個人でも加盟することができる。2007年の結成以来、日本労働組合総連合会(連合)、全国労働組合総連合(全労連)、全国労働組合連絡協議会(全労協)といったいわゆる3大労組には参加していない。外国人労働者の支援に特化し、労組としては独自路線を歩んでいる。 ここ数年で組合員になった外国人労働者の場合、観光目的の「短期滞在」や「技能実習」の資格で入国し、在留中に難民申請するケースが多い。大半は、都内や神奈川や千葉、埼玉の飲食店、焼き肉店、居酒屋などで働く。男性は厨房での料理補助や食器洗い。女性は、ホールで接客をすることが多い。1日10時間ほど働き、休日は週に1日で、給与は額面で月20万円前後。50人以下の中小企業で働く人がほとんどだ。 山口氏はこう語る。 「組合員が最も多いミャンマー人は、学歴に強い思いをもつ人が多い。祖国のミャンマーではヤンゴン大学などの名門大学に在籍していて、1980年代から90年代前半に民主化を求める学生運動を行い、軍事政権からの迫害を避けるため日本に亡命してきたからです」 組合員のリーダー的な存在は、40〜50代のミャンマー人だ。多くは、来日後にミャンマー人の女性と結婚している。現在、夫婦共働きで生活を維持する。生まれてきた子どもの国籍はミャンマーのままにしてあるが、日本の公立の学校に通っている。 中には、日本の大学を受験する者もいる。親である彼らは、わが子が学習塾や予備校に通う学費を稼ぐために、必死で働いている。山口氏は「彼らは祖国でエリートであっただけに、子どもの学歴にかける思いは強烈」とみる。 「日本では、彼らのことを高学歴とは認めません。多くはこの20数年間、飲食店の厨房で働いたり、建設現場で肉体労働をしたりして収入を得るしかなかった。私と2人だけになったときに、こう打ち明ける人がいます。『自分はどうしてこんな肉体労働をしているのだろう。子どもには、私が味わっている無念な思いをさせたくない。日本で学歴を身につけさせ、日本か、母国で医師にさせたい』と」 山口氏にはその姿は30〜40年前、「受験戦争」と言われたころの日本人の親たちと重なって映るという。しかし、現実は厳しい。日本人の生徒の成績と比べると、彼らの子どもの成績は低い場合がある。山口氏は組合員たちとの懇親会などでミャンマー人の子どもと接するが、ほとんどが日本語の壁に苦しんでいるように見えるようだ。 「日本語を話すことができたとしても、書いたり、読んだりすることが十分にはできない。日本語の初級から学び直すことをせざるを得えない子どももいる」 「パスポートを社長に取り上げられているから、 辞めることができない」 組合員のみなさん 外国人労働者の子どもの教育をめぐる問題は今後、広がる可能性がある。山口氏はその大きな理由の1つに、1993年に創設された「外国人技能実習制度」を挙げる。厚生労働省によると、2017年10月末時点で、技能実習生は全国に25万7788人だった。前年度に比べて22.1%増である。 この制度は、日本の企業などが発展途上国の人を最長3年まで技能実習生として受け入れ、OJT(On-the-Job Training)を通じ、職業上の技能や技術などを修得させるものだ。3年を終えると、通常は帰国し、その国の経済発展を担うことになる。2017年11月から施行される「外国人技能実習制度」の適正化法により、今後は最長5年になる。 この制度には日本が「職業などの技術の移転」を通じて国際協力するという側面があり、理念としては尊い。しかし、ある面では形骸化し、すでに問題になっている。 4年ほど前から、APFS労組には外国人技能実習制度で来日し、機械や繊維の工場などで働くミャンマー人が労働相談に来ている。これまでのべ30人ほどになる。多くが10〜30代の女性だ。最近は、岐阜、大阪、宮崎の繊維工場で洋服をつくる仕事をしていた女性たちが「工場でひどい扱いを受けている」と助けを求めてきた。ミャンマー人同士の口コミで、APFS労組のことを知ったのだという。相談は、次のようなものだった。 「毎日午前7時30分から午後10時まで働かされる」「月額10万円以上もらえると聞いて来日した。実際は、手取り7〜8万円だった」「月に6〜7万円しか支給されないから、生きていけない」「パスポートを社長に取り上げられているから、辞めることができない」……。 本来、入国直後の講習期間(原則2カ月間)以外は、企業などで雇用関係の下、労働基準法をはじめとした労働関係法令などが適用される。山口氏は「労働法規が守られていないのではないか」とみる。 APFS労組の組合員である外国人のほぼ全員が、日本での在留を希望しているという。外国人労働者の子どもの教育問題はさらに広がっていくのではないだろうか。
世界の記述 老後の暮らしを仲間とプロデュースするスペイン人 2018/07/26 工藤律子 (ジャーナリスト) スペインは、平均寿命が82歳を超える長寿国。老いても子どもには頼りたくないが、料金が高いうえにお決まりのサービスしか提供しない施設にも入りたくない。そう悩む人も多い。そんななか、日本円にして15万円ほどの年金で楽しく尊厳ある老後をすごす方法を、自ら創り出した人たちがいる。 「ここにいると、人とのつながりの大切さを改めて感じますし、人間として成長できます」 そう話すハイメさん(81)は、首都マドリードの北へ車で1時間ほどのトレモチャ・デル・ハラマ(人口約1000人)に2013年に完成した高齢者集合住宅、Trabensolで生活する。54室ある住居には、64〜87歳の男女80人が、単身あるいは夫婦やきょうだい、友人同士で住んでいる。 庭には木々が植えられ、住宅は南側にテラスを持ち、住人が好きにアレンジしている。(写真・YUJI SHINODA) マドリード近郊で子育てをしていたハイメさんら同世代の友人たちは、60歳を迎える頃、老後について話すようになった。そして、皆で住宅協同組合をつくり、一世帯あたり約1900万円を出資して、独自の高齢者住宅を建てることを計画する。その成果がTrabensolだ。
建物は中庭を中心に造られ、裏に菜園もある。住居は50uの1LKで、南側にテラスを持ち、室内に自然光が差し込むよう工夫されている。建物内はバリアフリーで、要介護者用のデイサービス室や看護医療室も用意されている。 ランチタイムには、住人の大半が大食堂に集う。午後には中庭で、ワインやビールを片手におしゃべりが続く。一日中、住人の誰かが趣味や知識を生かして、太極拳、絵画、朗読劇、ガーデニング、映画上映など、様々な活動を企画し、隣人と楽しんでいる。すべての運営は組合員である住人自身の手で行われ、その中心となる運営委員会メンバー9名は、4年ごとに選挙で選ぶ。 全世帯の掃除や洗濯、ランチの調理は、有給スタッフが担う。毎月の生活費は、昼食、掃除、洗濯、電気、ガス、水道、インターネット代込みで、二人世帯なら約16万円。単身者なら約13万円だ。 退所や死亡時には、出資金の返金か、家族への居住権移譲かを選ぶ。家族が入居しない場合は、ウェイティングリストにいる人(18年5月現在26名)が組合に加入し、入居する。「家は組合のものなので、投機の対象にはしないのです」とハイメさん。 そこでは、現役時代に教員や看護師、役人、職人など、様々な分野で活躍した人々が、新たな学びを求め、仲間と助け合いながら人生を謳歌している。
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