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7月 07, 2018
<総務省が6月29日に公表した5月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は2.2%だった。この数字は少し驚きの低さである。4月のデータは2.5%であり、いきなり0.3%も下がった。
筆者は以前、3%台前半の失業率でも完全雇用だとみていた。だから、現在は「超完全雇用」の状態と言える。
完全失業率が5月に0.3%も下がった理由ははっきりしないが、この間に労働市場から退出する人が20万人もいて、失業率を計算する分子と分母の人数がともに減少したことが原因とされる。
つまり、多くのエコノミストたちは、数字上で目立っているほど、この急低下が「実体」を表わしていないと疑ってみているのだ。
とはいえ、4月のデータでも相当低かったし、すでに完全雇用とみられている中で一段と失業率が低下していること自体が不思議だと思われる。そして、何より重要なことは、なぜ失業率が2%台になっても、賃金や物価が上がってこないのかという点だろう。
<背景に労働市場の二重構造化>
日銀は、これだけ金融緩和を続けても物価が上がりにくいことを問題視する。この傾向は米欧にも共通するが、日本は特にひどい。何が原因になって物価が上がりにくくなっているのかを解明しなくては、このまま時間ばかりが過ぎていくことになりかねない。
1つの解釈は、非正規雇用がバッファー(緩衝)になって正規雇用者の賃金を上がりにくくしているという考え方である。数年来、非正規化が進んできたことは説明を要しないだろう。
非正規のほうが賃金は低いので、失業者がいなくなった後は、この非正規の賃金が上がっていく。正規雇用者の賃金はその後、ようやく上がり始める。昔の表現を使うと、労働市場が二重構造化しており、失業率と賃金の間で単純な関係が描けなくなっている。
もしも、この仮説が正しいならば、失業率が1―2%まで低くなっても、まだマクロ賃金は上がりにくいかもしれない。非正規化によって賃金上昇圧力は相対的に弱まっている。だから、景気拡大がもっと続くことを待つしかないという結論になる。
<賃金上昇は確かに起こっている>
もう1つの解釈は、完全雇用下で賃金上昇が「全く起こっていない」のではなく、起こっているのだが、そのペースが鈍いという見方である。筆者は、こちらの要素のほうが大きいだろうとみている。
失業率が3%を割るのは、2017年6月以来のことだ。これに対して、厚生労働省「毎月勤労統計」では、2017年後半に徐々に賃金が上昇している。一般労働者(パート労働者を含まない)の区分では、2017年8月以降は現金給与が前年比0.4―0.9%の伸びとなっている。2018年は、1月1.1%、2月1.1%、3月2.2%、4月0.6%とそれなりに上昇している。
パート労働者の現金給与と比べると、2017年後半から一般労働者のプラス幅が大きくなっている。大ざっぱに言うと、2017年後半の失業率が2.8%から、2018年1―4月に2.5%へ低下したのに連動して、現金給与は同期間に0.5ポイントほど上昇している。そうした実感は世の中であまり共有されていない。
<実力はもともと1%程度>
問題の所在を明確にすると、失業率が低下すれば賃金・物価が上昇するのではないかとの強い先入観がある。それがゆえに私たちは、失業率が2.2%まで下がったのに、なぜ賃金・物価が上がらないのかと疑問を抱く。事前に期待したほど上がらなかっただけなのだろう。
しかし、細かくみると、賃金はそれなりに上がっている。上がりにくいのは物価のほうなのだろうか。実は、生鮮食品を除いた消費者物価指数(コアCPI)もそれなりに上がっている。2017年8月から0.7―1.0%で推移している。
筆者の理解では、日銀が2%のターゲットを掲げているため、その程度の伸びでは不十分にみえる。だから、「なぜ物価が2%に向けて上がりにくいのか」と問題視する。物価は完全雇用下で0.7―1.0%になっているのに、もう十分に上がっているという理解にはならない。
もっとも、これはよく考えると、期待インフレ率を高めに置いてアナウンスするとその物価上昇率が実現するというリフレ理論が現実に合わないだけだ。日本の物価・賃金上昇率の実力はもともと1%程度だったということだろう。
こうした見方は、政府が財政再建に向けて想定している2―3%の高成長のシナリオもまた過大評価である可能性を示唆している。物価上昇率や名目成長率を自由自在に操作することは、当初から無理だったということだろう>(以上「ロイター」より引用)
長々と引用したのはロイターに掲載された「熊野英生」氏の論説だ。論評末尾のクレジットによると熊野英生氏は、1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より第一生命経済研究所の首席エコノミストたそうだ。
熊野氏は元々に帆難経済では1%インフレが限界で、それ以上の2%を達成目標としたのは往々にして政策目標を掲げればそのようなインフレマインドが働いて達成できていたからそうしたまでだろう、と「分析」している。
これほど無責任な分析はない。これなら政治家は言いたい放題で、結果責任は何ら問われないことになる。政治家のみではない、安倍氏周辺にいた経済専門家と称する連中の進言によって安倍氏は経済政策を実施してきたわけだから、安倍官邸に出入りしていた経済専門家たちも間違っていたと批判すべきだ。
2%インフレ達成が出来なかったのには明確な理由がある。安倍氏が就任した2012年当時、彼が掲げた政策は何だったか記憶にあるだろうか。彼は彼の政策を三本の矢だと表現した。つまり一本目の矢は日銀による異次元金融緩和。二本目の矢は財政拡大によるGDP拡大刺激策。そして三本目の矢は経済成長を促す「地方創生」策だった。
三本の矢のうち実際に稼働したのは一本目の矢だけだった。日銀は世界各国の中でも突出したマネーサプライを実施した。何と年間80兆円もの紙幣増刷を行ったのだ。狂気というしかない異次元金融緩和は、しかし企業や個人で消化できるものではなく、債券市場へと流れ込んだ。
確かに異次元金融緩和で対ドル円価格は下落し、一時70円台をつけていた円は1ドル120円までも下落した。それにより日本株の割安感が国際的に広がり日本の株式市場は外国投機家たちの稼ぎ場になった。現在では一日の取引の約70%は外国投機家たちによるものだ。
なぜそうなったのか。それはアベノミクスがアホノミクスだったからだ。金融市場に流出した大量の円を使って第二の矢を実施して財政拡大を行い第三の矢の地方創生事業に補助金としてドンドン流していたら、日本経済は成長路線に乗っていたかも知れない。
しかし惜しむらくは財務官僚の抵抗にあって安倍自公政権は財政拡大から財政緊縮に転じ、それに伴って地方創生事業は安倍氏の個人的な仲間内の利権創生事業になり果てただけだった。まさしく「モリ カケ」が安倍氏の五年半の政権在位中に実った果実だ。アベノミクスはそれ以上ではなかったから、私はあえてアホノミクスと呼んでいる。
そしてあろうことか安倍氏は2014年4月に消費増税8%を実行した。これこそがアホノミクスの極致だ。
個人消費の低迷から需要不足に陥りデフレ化していたにも拘らず、安倍氏は消費増税を決行した。今更指摘するまでもなく消費税は個人諸費を直撃する悪法だ。可所分所得の多寡にかかわりなく消費の8%を税として徴収する、というのだから、消費者にとってはそれだけ物価が上昇したことになる。経済成長を伴わない、つまり所得の増加なき物価上昇は需要減退を招くだけだ。実際に2015年にはGDPがマイナスになった。
そうした失政を指摘することなく、「日本経済は1%成長が限界だ」と結論付けるのでは政治家は楽だ。いや熊野氏だけではないだろう。アベノミクスを批判した経済評論家がテレビ画面から何人消えたことだろうか。
テレビに出演すればバラツキはあるものの一回40万円程度のギャラが頂戴できる。ロイターには失礼だが、紙面に論評を掲載して頂いたところで原稿料は数万円だ。せいぜい10万円。しかも喋るのよりも書く方が労力を要するし資料にも当たらなければならない。評論家としてテレビに出演すれば各地から講演依頼が入ってくる。これもまた実入りが大変良いようだ。だから評論家稼業としてはテレビ出演至上主義になる。安倍批判がテレビから一切消える、という現状はそうして作られた。
硬骨の経済評論家がテレビから消え、寿司友がニヤケた顔をして安倍擁護論を展開する。第一生命経済研究所が安倍ヨイショ研究所とは思わないが、結果としてそうなっている。そうではない、マトモな経済研究所だというのなら私の上記論評をぜひとも論破して頂きたい。
企業が国内投資するよりも短期最大利益を求めてグローバル化の波に乗って中国へ企業展開した結果として、国内企業の生産性は停滞したままだ。そこに団塊の世代が一斉に労働生産人口から退出すれば労働市場が逼迫するのは何年も前から目に見えていた。それに警鐘を鳴らさなかった経済研究所とは一体何だろうか。2000年当初、第一生命経済研究所も国際分業を推進していたのではなかったか。
国内雇用を確保し、労働生産性を向上させる投資を国内各企業に求めるのが日本の未来を考える日本の経済研究所のあり方だ。米国の1%の顧問経済研究所なら話は別だが。
批判なき論評は政権擁護に他ならない。政権擁護するのなら経済研究所の看板を掲げる必要はない。幇間スタイルで寿司友になれば良いだけだ。
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