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「差別表現、ユーチューブが相次ぎ削除 利用者が通報
篠健一郎、丸山ひかり、仲村和代2018年7月6日05時10分(後半書き起こし)
ネット空間の差別的な表現にどう対処するか。利用者の「通報」をもとに、運営者側が投稿動画を削除したり、広告主が問題を指摘されたサイトへの広告を停止したりする動きが広がっている。差別表現がなくなると歓迎する声がある一方、対象の拡大には言論の自由の観点から慎重さを求める声もある。
「ネトウヨ(ネット右翼)動画を報告しまくろう」。匿名掲示板サイトで呼びかけが始まったのは5月中旬。きっかけは動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿された、ある殺人事件の容疑者が「在日」だ、と根拠なく言及した動画だ。ユーチューブ運営者に規約違反が報告され、この動画が削除された、という書き込みがあった。これを受け、他の動画も通報する動きが広がった。
ユーチューブは、差別を扇動するような「悪意のある表現」は認めないとしており、視聴者が報告できる仕組みもある。違反した動画は削除し、当事者に通知。3回続くとアカウントが停止される。
ユーチューブを運営するグーグル日本法人は、取材に「個別の対応はお話ししていない」と回答。ただ、一昨年から、規約違反への対応を強化した、という。
複数の動画を報告した50代の会社経営の男性は、ヘイトスピーチのデモに対抗する活動をしたこともある。「特定の民族への憎悪をあおり、人を傷つける表現はいけない、という認識が広まる契機になれば」と話す。
一方、削除された側からは反発も。作家の竹田恒泰氏は5月下旬、動画が次々に削除されアカウントが停止された。運営者からは、動画がガイドラインに違反したと判断したという通知と共に、「差別的な発言は許可されません」という内容のメールが届いたという。取材に対し、「私はテレビの生放送番組にも出演しており、ヘイトとされるような言論はしない。ユーチューブ側はきちんとチェックしているのだろうか」とし、「通報している人は、気に入らない言論を封殺するつもりならばお門違い。堂々と議論をすべきだ」と主張した。
・まとめサイト「保守速報」への広告停止
差別的な内容を含んだまとめサイト「保守速報」への広告掲載も問題化した。大阪高裁は6月28日、在日朝鮮人の女性に対し名誉毀損(きそん)があったとして、保守速報に損害賠償を命じた。記事の差別性を認めた2017年11月の一審・大阪地裁の判決を支持した。
在日コリアンの男性は6月初め、保守速報に、セイコーエプソンの広告が載っているのを見つけた。「有名企業の広告がこんなところに載るのかと驚いた」
紙媒体では、広告主は広告会社などを通じ、どの媒体に広告をだすか決める。ネット広告は、どのサイトに載るかではなく閲覧回数などを元に契約をすることが多く、いくつかのサイトを束ねて配信を仲介する会社など何社かを経由して掲載されるのが一般的。掲載先が何百万に及ぶこともある上、サイト名を出さずに契約する場合もあり、広告主がすべての掲載先をチェックすることは難しい。
男性は、エプソン側が保守速報への広告掲載に気づいていない可能性もあると考え、メールで伝えた。数日後、広告停止を知らせる返信があったという。指摘した男性は一連の経緯をツイッターに投稿した。
広告を出したエプソン販売の担当者は朝日新聞の取材に、「今回は広告が掲載されるサイト名を指定していなかった。『中立性の維持』を掲げる規定に反すると判断し、すぐに広告を止めた。ネット広告の出稿先をすべて把握できているわけではないが、今回の件を受け、出稿方法を見直したい」と話した。
通報の動きが広がり、通販サイト「通販生活」を運営するカタログハウスや映像配信のU―NEXTも保守速報への広告を停止。ネット広告大手のファンコミュニケーションズ(東京都)も、「規約に違反している」として、契約を解除した。保守速報のサイトには、管理人からのお知らせとして、「現在広告がない状態で運営しております。このままだと存続が危うい状態です」と書かれている。
通報の動きに関わった、海外の大学に通う木野寿紀さん(35)は、かつて東京の街頭でのヘイトスピーチに抵抗して看板を掲げる活動をしたこともある。「『言論の自由を制限している』という批判もあるが、サイト自体は削除されていないし、どのサイトに広告を出すかは企業が判断すること。本来は企業がチェックし、対策を取るべきだ」と話した。
ネット広告の仕組みに詳しい慶応義塾大学SFC研究所の寺田真治・上席所員は、「これまで日本の企業は、広告の量ばかり気にしてきたが、ここ数年、ブランドイメージにも関心を持つようになっている。今後、透明化の動きは進むのでは」と話す。
・「他の表現にも規制広がる可能性」
一連の動きについて、ヘイトスピーチ問題に詳しい明戸隆浩・東京大大学院特任助教は「利用者の間で、ネット上の差別表現を放置したままにしておけない、という危機感が高まってきた結果だ」と評価する。
その背景に、16年の米大統領選で、フェイスブックがフェイク(偽)ニュースの温床になったとして批判され、世界的にもネット上の言説や企業への責任を求める声が高まっていることがあるとみる。「差別的な主張を載せるとそれなりの訪問数はあるため、一定の広告収入などにつながっていたが、企業側が敏感に対応するようになれば、ビジネスとして成立しなくなるのでは」
一方、表現規制に詳しい山口貴士弁護士は、今回の動画通報の盛り上がりについて、「特定の少数の人の権利が侵害される場合は対応が必要だが、『傷つく人がいるから』という理由だけで表現そのものの規制を求めていくと、他の表現にも規制が広がってしまう可能性がある。その副作用についても、考えるべきではないか」と指摘する。(篠健一郎、丸山ひかり、仲村和代)」
https://www.asahi.com/articles/ASL6W3WMYL6WUTIL011.html?iref=pc_ss_date
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