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毎木曜掲載・第62回(2018/6/21)
記録する精神を支えるのは何か?
●『声なき人々の戦後史 上・下』(鎌田 慧、藤原書店、上巻下巻とも2800円)/評者:志真秀弘
朝鮮戦争は凄惨な地上戦の連続で400万人を超える民間人の犠牲者が出た。その朝鮮戦争の特需を契機に、だが日本は高度成長の階段を登っていく。敗戦まもなく日本の経済が復興から発展へと展開できたのは、朝鮮半島の民衆の犠牲の上にあったと言っても過言ではない。
映画『青春の門 筑豊編』(浦山桐郎監督、1975年)に印象的なシーンがあった。映画は米騒動の時代から高度成長の直前までの筑豊の炭鉱が舞台だが、その中に朝鮮戦争の特需景気に沸いて、深夜も石炭を満載したトロッコが連なって走っていくシーンがあった。ところが、その石炭が一瞬にして人骨に変わり、髑髏を積み上げたトロッコ列車へと変貌する。切り捨てられた日本の坑夫たちと戦争の犠牲となっている朝鮮半島の人々を同時に思わせる今でも忘れられないショットだった。そこに浦山監督の民衆への連帯心が脈打っていた。
本書は、石炭合理化に対する、三池をはじめとした大闘争を経て炭鉱が閉山の波におそわれたあと、60年代後半からはじまる。
著者鎌田が知られるのはトヨタ自動車の季節工になり、ベルトコンベアーで働いた経験を書いた『自動車絶望工場』(1973年)によってである。この時すでに対馬などを取材した『隠された公害』(1970年)、筑豊、新日鉄の当時をとらえた『死に絶えた風景』(71年)の2冊のルポがあった。彼は『自動車絶望工場』は潜入ルポと言われたが、コンベアー労働を体験し「働く者の生理的、精神的疲労感」から合理化に迫りたいと考えた。しかしルポライターを目指して会社をやめてしまい、生活は苦しい。家族を養うために働きに入ったのも事実だったという。こうして彼は、資本と胸付き合わせる場所に身を置き、ヘトヘトになりながら事実を記録する。この初一念、企業権力とたたかい国家権力に歯向かう反骨精神は、その後の彼の仕事をつらぬいていく。
*鎌田慧さん(右・2013年経産省前)
本書二冊で鎌田のルポルタージュの全貌を知ることができる。造船所、炭鉱、製鉄所、学校、国鉄などの労働現場、そして六ヶ所村、柏崎、三里塚、沖縄などの地域へと著者は文字通り東奔西走。60年代後半からの50年間にわたる無告の民の闘いの記録がここにある。
著者は三里塚に共感し、百姓たちの抵抗に関わった以上「その人たちの最後の一人まで支援する」と書く。彼の記録にも浦山監督と同じ連帯する精神が流れている。
鎌田は自分を「声なき人々」の一人であると見定めて、その憤りを含めて記録することに徹している。闘う人も、闘いつづけられずに去る人もその生き方を等しく刻んでいく。そこに彼のルポルタージュの真骨頂がある。彼は記録する人だが傍観者ではいられない。狭山事件や袴田事件のルポを書き、同時に支援活動を担う。さらに自分自身を問うように大杉栄、坂本清馬、鈴木東民の評伝を書いている。そこには抑圧と闘う人間の全体像を捉えようとする志向がある。
*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。
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