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安倍内閣支持率膠着の背景を分析する、究極の内政失敗を外交政策でカバーすることはできない
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2018.05.17 広原盛明(都市計画・まちづくり研究者) リベラル21
共同通信社が5月12、13の両日に実施した全国世論調査では、安倍内閣の不支持率は50・3%(前回から−2・3ポイント)と高いものの、支持率は38・9%(同+1・9ポイント)に踏みとどまり、依然として40%前後の支持率を維持していることが判明した。底なしのモリカケ疑惑や麻生セクハラ擁護発言など、安倍政権下でこれだけの不祥事が続出しているというのになぜ支持率が下がらないのか、誰もが不思議に思うだろう。
私の地元の京都新聞は5月14日、共同通信調査との関連で「全国世論調査、支持率膠着 耐える首相、外交が下支え 新党低迷」という長文の解説記事を掲載した。見出しからもわかるように、安倍内閣支持率が40%を挟んで膠着状態にあるのは、(1)外交成果へのアピールが功を奏して下支えしていること、(2)新党「国民民主党」の旗揚げにもかかわらず期待が集まらず、野党の支持率がいっこうに上らないこと、がその背景にあるからだと分析している。事実、自民党支持率は37・1%で立民13・3%や共産4・5%を大きく離しており、新党の国民民主党に至っては1・1%と泡沫政党並みの支持率でしかない。
公明党山口代表も安倍外交への好評価が支持率下落を防いだと分析しており、約2年半ぶりになる5月9日の日中韓首脳会議が安倍首相の議長の下に開催されたことが評価され、これからも今月下旬のロシア訪問、6月上旬のG7サミットへの参加など、重要な外交日程がめじろ押しに並んでいることを支持率維持の理由に挙げている。外交成果がどれほど上がったかと言うよりも、各国首脳と肩を並べて連日テレビで放映されることが、どれほど支持率の下支えになっているかを熟知しているからだ。
だが、ひとたび内政に関する調査項目に目を移すと、「加計学園獣医学部新設への首相の関与を否定する柳瀬氏の説明に納得できない」75・5%、「政府の獣医学部認可手続きは適切だったと思わない」69・9%、「働き方改革法案を今の国会で成立させる必要はない」68・4%、「財務省前次官のセクハラ問題に関して麻生氏は辞任すべきだ」49・1%、「安倍首相の下での憲法改正に反対」57・6%など、安倍政権が推進する全ての重要政策は国民から総スカンを喰い、「ノー」を突き付けられていることが明らかだ。
にもかかわらず、安倍首相がかくも強気姿勢で国会運営に臨んでいるのは、依然として内政の失敗を外交政策でカバーできると考えているからに違いない。なかでもその焦点になっているのが米朝首脳会談であり、関連して日本の懸案である拉致問題解決の糸口が見つかれば、支持率は一挙に回復できると踏んでいるからだろう。今回の世論調査でも、「トランプ米大統領と金北朝鮮委員長の米朝首脳会談に期待する」が58・0%に達しているのは、国民世論がそこに一縷の望みを託しているからにほかならない。
だが結論から言えば、交渉相手のある外交政策で実のある成果を挙げることが極めて困難である以上、内政の失敗を外交政策でカバーすることは難しいと思う。安倍首相が米朝首脳会談に期待をかけ、「一発逆転」を狙う政治背景や意図は分からないでもないが、「蚊帳の外」に置かれてきた日本がいったいどのような手立てで米朝首脳会談に便乗するのか、その戦略がいっこうに見えてこないからだ。
先日もフジテレビのトーク番組に生出演した安倍首相は、日朝首脳会談は拉致問題の解決に結びつかない限り開いても意味がないし、その場合の拉致問題の解決とは「拉致被害者の全員帰国」だと断言した。言い換えれば、この条件に見合うことがなければ「首脳会談はやらない」との強硬姿勢の表明であり、この姿勢は「森友疑惑に自分や妻が関与していれば、総理も国会議員も辞める」と断言したときの状況とよく似ている。トップが退路を断って戦場に臨めば、作戦が硬直化して変更が難しくなるし、部下の多くは討死する以外に逃げ道が無くなるにもかかわらずだ(森友問題ではすでに佐川氏が討死している)。
安倍首相のこのような圧力一辺倒の強硬姿勢は、おそらく日本会議など国内極右勢力の主張を反映してのものであろうが、すでに北朝鮮からは「日本は1億年経っても北朝鮮の土を踏むことができない」とか、核実験場の廃棄に際しては日本のメディアを外すとか、さまざまな拒否反応が出てきている。これまで事あるごとに北朝鮮の脅威を吹聴し、それを100パーセント利用して自らの政治基盤の強化につなげてきた安倍首相が、今度ばかりは「振り上げた拳を降ろせなくなる」事態に追い込まれたのである。
アメリカのトランプ大統領側からは、「米朝首脳会談の成功間違いなし」との威勢のいいメッセージが連日聞こえてくる。拘留されていた韓国系アメリカ人3人の帰国交渉に成功したこともそのあらわれであろうし、ひょっとするとその先にはもっと大きな「サプライズ」が用意されているかもしれない。
だが、16日朝のAFP=時事通信が伝えるところによると、北朝鮮は米韓合同軍事演習を理由に、同日予定されていた南北高官級会談を中止したという。北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は、米韓空軍の合同演習は北朝鮮の侵攻を想定したもので、南北関係が改善しようとする中での挑発行為だと非難した。そして、米国は「この挑発的な軍事騒動を踏まえ、予定されている朝米首脳会談の運命について熟慮しなければならないだろう」と警告し、予定されている北朝鮮の金正恩委員長とトランプ米大統領との首脳会談を中止する可能性があると警告した。ただ米政府は引き続き、来月12日にシンガポールで予定されている首脳会談に向けた準備を継続する方針であり、ヘザー国務省報道官は記者団に対し、北朝鮮から政策転換の「通知はない」と述べている。
情勢はまさに予断を許さない状況で変化している。「薄氷を踏む」と言っても過言ではないほどの緊張関係にある世界情勢の下で、アメリカ頼みの米朝交渉ひいては日朝交渉に期待をかけることの危険さは安倍首相ならずともわかるはずだ。それでも内政の失敗には顧みることなく、ただひたすら外交政策に窮地脱出の望みを託すのは、安倍政権がもはや国内政治の統治能力を完全に失っていることの裏返しでもある。
米朝首脳会談がたとえ成功したとしても日朝首脳会談が早々に実現するとは思えない。また、実現したとしても日朝の交渉過程は長期にわたる困難な道程になるだろう。内政の失敗を外交政策でカバーすることはできない。日々解決を迫られる内政問題は喫緊の課題であり、長期にわたる外交政策は戦略的課題なのである。
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