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大いなる護憲運動よ、起これ
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2018.01.10 ―八ヶ岳山麓から(247)―― 阿部治平(もと高校教師) リベラル21
安倍晋三首相の年頭のことばを読むと、今年は何がなんでも憲法改定発議をやる構えです。去年の暮れ、自民党の憲法改正推進本部が改憲4項目の「論点取りまとめ」を公表しました。そのうちもっとも重要なのは、いわずと知れた憲法9条の改定=「自衛隊の明記」です。
安倍政権以前の自民党政権は、専守防衛、個別的自衛権を9条に反しないものとして、国際的にも冠たる戦力をもつ自衛隊を育成してきました。しかし安倍政権は、安保法制を強引に成立させ、同政権の目的が海外での無制限な武力行使を可能にする集団的自衛権の確立にあることを示しました。
改憲勢力は国会の3分の2を握っているのですから、護憲派はすでに城の外堀を埋められたようなものです。護憲のためには保守派の牙城の一角を切崩し、自民党の一部をも加えて、広範な国民の力を結集しなければなりません。
国会中心に考えれば、抵抗勢力の中心は総選挙で躍進した立憲民主党です。地方での草の根運動の中核になるのは、おそらく共産党です。党員活動家の老化を憂える人もおられますが、敵も同じく老化していますから、それはひとまず置いて考えましょう。
去年の暮、立憲民主党は独自の綱領を新たに決定しました。我々にとって最も重要なのは、日米軍事同盟を容認し、専守防衛のための自衛力をもつ途をとるとしながらも、安保法制を前提とした憲法改定には反対するとしたことです。
そこで、懸念されるのは、立憲民主党と共産党の基本路線の違いです。
立憲民主党は日米安保条約を基軸とし、自衛隊を情勢に即応した戦力をもつものにするという安全保障論に立っています。共産党はゆくゆくは日米安保条約は廃棄し、自衛隊は解散して国民的合意に基づいて自衛軍を再編成するとしています。共産党の志位委員長は、日米安保条約が日本を守っているというのは幻想だ、在日米軍には日本防衛の義務はない、アメリカの海兵隊は海外の敵への「殴り込み」部隊だ、と語っています。
共産党のいうように、かりに日米安保条約の廃棄が国家の独立と軍事的中立をもたらすとしても、その場合、東アジアの軍事力バランスは当然中国に傾きます。尖閣諸島での日中両国の確執からしても、自衛隊の解散、安保破棄を立憲民主党が(いや国民の多くも)認めるはずはありません。日米安保条約をめぐって両党が対立すると、護憲運動の上では非生産的な結果が生れます。
しかし、さる2015年9月安保法制が国会を通過したとき、共産党の志位委員長が提案した臨時政府は、新安保法制の廃止を目標とし、日米安保条約は「凍結」、日本に対する急迫不正の主権侵害に対しては、自衛隊を新安保法制以前の自衛隊法にしたがって作動させるとしました。
つまり政党としては自衛隊違憲論は変えないが、反安保法制の連合政府としては合憲という立場で臨むということです。この態度はかつて村山内閣成立時の社会党の自衛隊に関する判断と似ています。共産党は自衛隊を頭ごなしに否定した時代もあったことを思うと、(世論に押されたのか)ずいぶん現実的になりました。これは幸いというべきでしょう。
しかし安倍首相の自衛隊を憲法に明記せず、いつまでも日陰者にしておくことはできないという主張は、安保法制下の自衛隊の現状を肯定する人々には説得力をもっています。
これに対して「護憲的改憲論」を称える人々がいます。9条を書換えて専守防衛の軍事組織を憲法に明確に位置づけるべしとする意見です。9条を一言一句たりとも変えない、とする人々には受入れられないかもしれませんが、集団的自衛権、自衛隊の海外派遣を否定するという趣旨ですから護憲論には違いがありません。
問題なのは、立憲民主党がいう専守防衛とはいったい何か、はっきりしないことです。いままでの政府答弁などによると、相手側から武力攻撃があったとき、他に手段がないと認められる限り、自衛のために必要な反撃をすること、その防衛力は必要最小のものに限られる、というものです。
歴代政府は、ミサイル攻撃などで、他に対処する手段のないときは敵基地攻撃も許されるとしてきました。また武力攻撃があきらかに予測される事態における先制攻撃が許されるか否かについても議論があります。いったん間違うと専守防衛をたてまえとした軍事力の際限のない拡大が企図される危険があります。
立憲民主党の枝野幸男代表は、12月18日講演会で長距離巡航ミサイルの導入の是非に関して「敵基地攻撃能力を持つために導入するのか。そうでなければ歯止めはどこにあるのか。国会審議で問いただしていく」と発言しました。
小野寺五典防衛相は、大臣就任前には敵基地攻撃能力の保有を政府に求めた人物ですが、長距離巡航ミサイル導入に関しては「(敵基地攻撃の)能力保有を想定していない」と発言しています。
「歯止めはどこにあるのか」立憲民主党も共産党も現政権との違いを明らかにする必要があります。
もうひとつ。日本の平和と安全にとって重要なことは「敵をつくらない」外交努力です。北朝鮮の核武装や中国の海洋進出を問題視するとしても、仇敵視することなく、軍事的衝突に至らず、日本が甚大な損害を被らない政策をえらぶ必要があります。右翼ジャーナリズムは慰安婦問題や南京大虐殺をめぐって、韓国・中国を敵視する報道をします。これは国際的には「歴史修正主義」の日本を印象付け、両国だけでなくアメリカを含めた国際世論を敵に回すことになり、日本の安全にとってはきわめて危険な行為です。
安倍政権は「Jアラート」を鳴らして国民の多くが北朝鮮に憎しみをもつように煽り、選挙に勝利しました。今年尖閣などで中国の軍事進出が著しくなったら、これを極力宣伝して改憲に利用するでしょう。護憲派は「敵をつくらない」政策についてもっと掘り下げた議論をする必要があります。
自民党には、現行憲法下でも日米安保を堅持し、海外派兵も可能として改憲の必要なしとする改憲慎重派がいます。どうやったらこの人々と共闘できるか。できなければ護憲派は敗北します。以下の話は対象が自民党ではありませんが、共闘のむずかしさをものがたっています。
さきの衆院総選挙のおり、長野四区(木曽・塩尻・諏訪)では共産党は毛利栄子氏を出馬させ、わが地域の市民連合も他に候補がいないところから毛利氏を推薦し、自共対決となりました。ところが民進党の寺島義幸氏が希望の党公認の落下傘候補として四区に舞い降りました。これで毛利敗北はきまり、結果は自民8万、共産4万、希望4万となりました
ところが寺島氏は運動期間中、意外にも「安保法制反対、9条守れ」と演説して歩いたのです。もちろん安保法制肯定・改憲という希望の党の党是に反します。これを怪しむうちに民進党の杉尾秀哉参議院議員が寺島氏の応援にやってきました。杉尾氏はさきの参院選で共産党を含む野党3党や信州市民連合と結び、自民党と対決して勝利した人です。
このご両人は護憲派か改憲派か?寺島氏が出馬しなければ、わずかではあれ毛利氏勝利の可能性があったので、共産党はもちろん無党派の人でも寺島・杉尾両氏に対してあきれたり怒ったりしました。
しかし、いま改憲発議を阻止するためには、右から左まで豊富な人材が必要です。できれば杉尾氏には動いてもらわなくてはなりません。寺島氏にも改憲阻止の陣営に加わってもらいたいと思います。
いま立憲民主党の枝野氏は共産党とは距離を置いています。共産党に近づきすぎたら国民の支持を失うという懸念があるからだと思います。共産党の人にはわからないようですが、同党に対するアレルギーはかなり根強いものがあります。私が村の「憲法9条を守る会」に入り、護憲のステッカーを家の壁に張ったとき、親戚の若者は「共産党に入ったのか、とんでもない」という顔をしたことがあります。「9条の会」のおもな活動家が共産党員だからです。
党の顔が出すぎると、護憲勢力を小さくする危険があります。ここのところは共産党に大人のふるまいを期待するしかありません。
ともあれ、今年は私も老いさらばえた体と心に鞭打って、改憲阻止のために働くつもりです。そして皆様のご健闘を祈ります。
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