B&W 800シリーズは再生面での一切の誤魔化しが効きません。 旧マトリックスシリーズは現行のノーチラスシリーズと比べると全域に軽快なナチュラルさと穏やかさがあり、トゥイーターが歪んで五月蝿いと感じさせるようなことはあまり無かったのですが、Nautilusへモデルチェンジされ一気に現代的な高い解像度とスピード感を獲得した結果、厳格なモニタースピーカーとして接続される機器や録音の誤魔化しが一切許されない厳しさも同時に兼ね備えてしまった印象があります。そんなB&W 800シリーズのアキュレートなシビアさを目の前にすると、私などは身の丈に合わないと感じてどうしても尻込みしてしまいます。
迂闊にノーチラスに手を出したりすると・・・そのセッティングの神経質さを持て余してコントロール不能に陥り、望んでいたような音質が得られず、結果さじを投げ出したくなるかも知れません。B&Wの上位機種を中途半端なシステムと組み合わせてしまった場合、高域が金属的に耳につく、リラックスできない神経質な音に終始してしまうのです。 B&Wのサウンドは、正にモニタースピーカーの名に相応しい歪みのないアキュレートな広い音場とそこに浮かぶ正確でシャープな音像、強烈な解像感を伴うセンシティブでクールな高域とフラットな周波数特性など、他メーカーのスピーカーとは次元の異なる圧倒的な情報量が特徴です。反面これだけの情報量と引き換えに使いこなしの難しさも第一級。 ノーチラス・ツイーターの応答性の良さが災いし、生半可なクオリティのアンプやケーブルを繋げて音出しをした場合には、高域方向の神経質さが耳につきとても長時間聴いていられない類のキツく耳に痛い音になってしまう状況にしばしば出会います。 かといって分解能の低く高域方向が丸まった甘い音色のオーディオ機器との組み合わせではノーチラスが持つ本来の高解像度を基調とした高性能な持ち味を十分発揮することは出来ません。ノーチラスをそれらしく鳴らすためには、全帯域に於いてハイスピードで情報量が多く色付けを廃しながらも一切の歪み感を感じさせない質の高いアンプ・SACDプレーヤー・スピーカーケーブル・クリーンな電源システムなど、ブランドに惑わされないトータルでの優れたリスニング環境を揃えることが必須になります。 B&W800シリーズは、 艶っぽい個性的な音色を備えた危うい魅力のスピーカーに真空管アンプを繋げて、出てくる音は非現実的だけれども夢のような魅惑の音空間〜♪ 的な方向性とは思考回路が全く正反対にあるスピーカーだと云えると思います。 http://www.audiostyle.net/archives/19598366.html 「新生B&W 800dの音に問題あり!?」 2005年3月25日、全国初という店頭展示品のB&W 800dが搬入されました。いつもなら速攻でハルズサークルの皆様に私のインプレッションを配信しているところなのですが、なぜあれから10日間経ってもそうしなかったのか? それは私が800dの音に納得できず、逆に失望してしまったからなのです。 「なんだか低域の輪郭が見えないな〜? それに以前に802dを聴いた時のように透明感も薄いし、オーケストラの各パートもばらばらみたいにつながりが悪いし…」 私はここでのスピーカーのセッティングでは、これまでの経験から左右のトゥイーター間で3メートル、私の耳から約4メートルという距離でNEOやStradivari Homageなどのリプレースメントをしてきました。そのトライアングルの関係を何も疑うことなく、上手くNEOとStradivari Homageの中間に800dを配置して三者のスピーカーが等環境で聴けるようにしました。 次に気がかりなのはスピーカーケーブルです。YEMANJA BI-WIREはスピーカー側の4本のうち2本だけを長らく使用してきました。NEOやStradivari Homageはシングルワイヤーでの接続なので、残る2本のケーブルはまったく未使用でありバーンインは全然出来ていないものです。私はバーンインが完了している2本を800dの中・高域に、まったく使用していなかった方をウーファー用としてつなぎました。これが第二の要因でした。 セッティング、ケーブル、アンプの相性という三つの要素がまっさら新品の800dに関して私の期待にそぐわない第一声を出してしまったのではないかと推測してしまいました。各々の要素を調和させるためにも先ずはバーンインを進めなくてはと、自分を納得させてPADのシステムエンハンサーをリピートさせることにしました。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 翌日も試聴しましたが昨日の印象は変わりなく、それからの数日間の配信の中でも「これから800dを試聴してみます」と述べていたものですが、大勢に影響なく数日が経過していきました。 そして、次の展開がありました。それは気になっていたアンプの相性ということでNEOの低域コントロールで抜群のドライブ力を発揮していたChord SPM 14000が戻り、この組み合わせでもシステムエンハンサーを三日間徹夜でリピートさせてきた3/31のことでした。 そろそろケーブルのバーンインも進み、これほど強力な制動力を持つパワーアンプを駆使しての800dの音は果たしてどうであったか? -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 今度こそは、と期待して試聴に望みましたが、ダメでした。私が色々な曲を試聴しての印象は800dに関する低域再生が以前のS800と比較しても解像度、分解能、ダンピングのされ方、などで極めて不満であり疑問に思うという結論に致りました。 低域の音像が膨らみます。打楽器のテンションはゆるく不要な響きを残すようです。ドラムやベースに引き締まった質感がなく膨張しています。 ドラムのアタックもゆるくなっていてスピード感もありません。 また微妙に音階が異なるドラムの連打などももったりとして音階が変わる部分が再現されません。 エレキベースの音も正体不明にブーミーな感じがします。 オーケストラではわかりにくいのですが、ティンパニーなどの音像が大きくなりコントラバスの音は洪水のように溢れてしまいます。 今日は耳の良いお得意様がNEOと比較されて、800dよりもNEOの方が良いという印象を口にしました。もちろん私は何も言っていませんが、お客様に与える印象がこのようなことでは今後の試聴と接客に自信はもてません。 返品したいくらいです・・・(-_-;) 私は深刻に800dの音がこのままであったらどうしようかと色々と悩んでいましたが…!? 「コンポーネントとしては願うべくもないレベルのものが揃っており、ケーブルも次第にバーンインが進んでいる。これらの要素が問題ないとすると消去法で考えると残る可能性はなんだろうか!? そうだ!! これをやってみなくては!! 」 トゥイーター間3メートルと他のスピーカーと同様に整然と並べたものの、待てよ? Signature 800の時もNautilusの時もトゥイーターの間隔は2.4から2.8メートル程度でベストではなかったか? では私のリプレースメントに間違いがあったのでは!? 早速トゥイーターの間隔を2.4メートルとして私の耳からの距離も約3.6メートルと一回りトライアングルを小さくした。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-
先ず最初に低域の打楽器の輪郭がどう表現されるか、重量感とスピード感は両立するのか、というチェックに昨日まで何度もかけていたAudio labの「THE DIALOGUE」から(1) WITH BASSをかけてみることにした。すると…? 「あー!! キックドラムに個体感が出てきた。テンションがふたまわりも引き締められているぞ!! ウッドベースの輪郭が鮮明になってる!! そうだよ、これだよ!!」 と、あまりの変化の大きさに唖然としながらも、以前の記憶を上回るクォリティーが私のデータファイルを瞬時に更新していく。では次だ。 多用な楽器が背景を埋めてヴォーカルも同時にチェックできるものをと「Muse」からフィリッパ・ジョルダーノ 1.ハバネラをかけることにした。ヴォーカルはもちろんだが、センターでゆったりとならされるドラムの響きがチェックポイントだ。 「うんうん、そうそう、これだよこれ!!」 今まで扁平に広がり緩慢になっていたドラムが明らかに変わっている。拡散していた低音のエネルギーをセンターにかき集め密度感を高めたように濃密で重々しいドラムに変わっているではないか!! そして、あろうことかフィリッパのヴォーカルはバックコーラスでもセンターでのメインヴォーカルでも両方で鮮度を高め、周囲との色彩感でコントラストを鮮明にしているではないか。なんと言うことか!! 一般的にオーケストラはスピーカーの間隔は広い方が音場感も出やすいと思われているものだが、おなじみのマーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団で第二楽章をかけた。 「おいおい、うそだろう〜」 左側からの弦楽器のエコー感を右チャンネルが引き継いで拡散していく、逆に右側の弦楽器の余韻感は左チャンネルが引き受けて余韻感を広げていく。私が常々感じていた左右チャンネルの連係による音場感の再現がこの時に達成された。 ヴァイオリンの質感が今までと違って潤いを帯びているのはなぜなんだ!? 金管楽器の解像度が上がりストレスもなくなり聴きやすくなったのはなぜなんだ!? 木管楽器の音色がしなやかに変化したのはなぜなんだ!? Nautilus以来私はB&Wのスピーカーに関してはクロスセッティングを標準としているのだが、その効用としては三次元的な音場展開と奥行き感の素晴らしさ、そしてセンターに位置するヴォーカルなどの質感と背後の伴奏の対比がある。当然今回の800dでもクロスセッティングを初めからしていたのだが、今日のセッティングの変更からチェックしなくてはと次にかけたのはおなじみの…。 http://www.kkv.no/ kirkelig Kulturverksted(シルケリグ・クルチュールヴェルクスタ) ・Thirty Years’Fidelity より 7.トラックでは冒頭のコーラスが始まったところで私の口はしばらくあきっぱなしとなってしまった。昨日までの空間表現よりも三倍くらいの深みがあり、余韻感の浮遊する時間軸は二倍くらい増加したのではと思うくらいに伸びがある。 そして、Ole PausのVoiceはぎゅっと圧縮したように800dのセンターで濃密な質感をたたえ、口元の輪郭がくっきりと浮かぶ。こんなにも違うものなのか!! 10.トラック目では更なる驚きが待っていた。女性ヴォーカリストRIM BANNAがソロで歌い上げる導入部で既に違いがわかる。中空に浮かぶという表現を私は良く使うのだが、昨日までは彼女の口元はピントがずれた写真のように実態感が希薄だった。しかし、今日のセッティングで変化したのはまさにタイトリーフォーカス!! という感じでトレーシングペーパーでなぞれるほどの輪郭を引き立たせているのである。 なんということだろうか!! この一週間というもの私は何を聴いてきたのか!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 新しい800d、801dと802dに関しては標準仕様のボールスライダーを取り外してB&Wが純正アクセサリーとして供給するスパイクに変更できるという。しかし、私は今までは多数のスピーカーを置き換えてベストポジションに移動するためにスパイクに換装することはしていなかった。 しかし、今日の変化は大きすぎる。セッティングによって誤った評価をしたのではいけないと考え、日本マランツの澤田氏に尋ねるとB&Wは800dだけは無条件でスパイクを取り付けて音出しをしていたと言うではないか。そこで純正のスパイクを直ちにマランツ担当者に発注し、それが来るまではとゴールドムンドのコーンを使って800dをスパイクで三点支持に変更してみた。そうしたら…!? 「あら〜、どうしてオーケストラの弦楽器がきれいになるの!?なぜキックドラムのテンションが引き締まるの!? なぜヴォーカルはウェットに滑らかになるの!?」 今までテストしてきた曲を次々に聴き直すたびにスパイクのよる変化の大きさが直前までの評価をすべて塗り替えていくではないか!! これは違いすぎるぞ!! 800dを導入して十日目にしてやっと私は本当のパフォーマンスを引き出すことが出来ました。そして、昨日までの状態が続いていたとしたら何と被害甚大なミスを犯すところであったと、セッティングの重要さを今更ながら思い知るところです。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- この段階でさえ仮のスパイク設置にして音質の変化に驚いていたのですが、事実は更に奥深いものがあったのです。それでは、まず下記のリンクをご覧下さい。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/7f/op-pho/bw-spike.html 私が上記にてゴールドムンドのコーンで三点支持で試聴したということは、この写真1においてボールスライダーに引っかからないようにフロント側に二個、リアー側に一個のスパイクを台座の側壁というか写真2で見られる板厚の縁で荷重を支えるような位置にゴールドムンド・コーンをはさんでセッティングしたものでした。 さあ、本日手配しておいたB&W純正のスパイク・キットが到着しましたので、それを早速取り付けることにしたのです。 滅多に見ることが出来ないので800dの台座の底部ですが、これが写真1です。ここに見られるビスを取り外すと写真2のようにネットワークが見られるということですね。 多数のビスを取り外すので電動ドライバーを用意したら、何とこの部分のビスは普通のプラスネジでもヘックス(六角)レンチのビスでもなく、いわゆるスターレンチという特殊な工具で締め込むタイプのものでした^_^;従って一個一個手で取り外しするということになりました。 そして、写真3がボールスライダーを取り外した部分を拡大したものです。 どうですか、この肉厚のある装着部の剛性は!! 四方四辺の板の縁に簡易的にスパイクをはさむように事とは違って、これほど重厚な構造にスパイクを取り付けるのだから更に違いが出るだろうと期待が膨らむ!! 125Kgもある800dを一人で横倒ししてスパイクを取り付けるのは危険なのでお勧めできないが、ピアノ運送で納品された際に業者の手で交換することは可能であるという。 さて、次に注目して頂きたいのは純正スパイクの構造だが、Signature 800に付属していたスパイクのシャフトの太さの三倍程度の太さがあり、それを写真4でまず注目して頂ければと思う。この極太シャフトにかぶせるようにリングがねじ込まれているが、これは高さ調整のあとに固定するためのものです。 ご覧のように床面を傷つけないように合成樹脂の先端を付けたものとスパイクのもの二種類を選択することが出来、更に取り付けたときにシャフトの高さを調整できるようにタッピングが切ってある肉厚の盛り上がりがある方とない方を上下で選択できる。私はここでのセッティングでは写真4の右下の方法で設置しました。 私も多数のハイエンドメーカーのスピーカーに装着するスパイクを色々と見てきましたが、これほど極太シャフトで剛性が高いものを見たのは初めてです。あっ、そうそう、ゴールドムンドのFULL EPILOGUEの一番下に付いているスパイクもこのくらいの太さでした。 いよいよ取り付けが終わったのが写真5です。この状態で直接床にぐさりと置きましたが、この状態で台座の底面は床から6センチまで上がりました。しかし、125Kgの800dが文字通りビクともしない状態を手に感じるとやってよかったと思いました。 腹具合に満足して試聴に入っていくと…!? なんということか、センターポジションのソファーに歩いていく途中で既に鳴り方が変わっているのに驚いてしまった!! 最初のこの一曲でこけたら、もう次はないと思っている(笑)マーラー交響曲第一番「巨人」小澤征爾/ボストン交響楽団で第二楽章をかけることにしました。 トゥイーター間隔3メートルで、次に2.4メートルにして誤解が解け、次に簡易的にスパイクで三点支持でと、この過程においても800dの中高域の素晴らしさは十分にわかっていたつもりだったのですが、完全に昨日までの音は間違いであったと瞬時に見せ付けられることになってしまいました。 「なんなんだ、このノイズフロアーの低さは!! それが楽音のすべてに予想以上の変化を与えているではないか!! 」 床への設置を確実にすること、メカニカルアースを確立するということが聴感上でのノイズフロアーを引き下げるということは何度も経験したきたはずですが、この時に私の耳が受け取った変化のありようは尋常ではなかった!! 「この弦楽器は最高だ!! 」 冒頭の弦楽器の合奏で瞬間的に感じた一言は私のレベルでこれまで聴いてきた音質の膨大な記憶との照合での感動です。光り輝きながら響くヴァイオリンでありながら刺激成分をまったく含まず、弦楽器の音をスピーカーという存在がここまで浄化してくれるのかと驚きと感動が胸を熱くするほどでした。 そのB&Wの理論を実際の音質に仕上げるために何が必要であったのか? 剛性の高いスパイクで設置することによって表れたのは、800dの周辺に存在する空気の浄化作用に他なりません。今までは微量の霧か水蒸気と例えられるものがあったことに気が付かなかっただけなのでしょう。それは肉眼では気が付かない半透明の白く極薄のベールをふんわりとスピーカーにおおいかぶせていたようなのです。 それが、今日の800dではダイヤモンドの放つ熱い輝きに瞬間的に蒸発されられてしまったように視界が晴れ渡り、鮮明さという言葉を二乗したほどに楽音を明るく浮かび上がらせています。 しかし、このような弦楽器の質感がしなやかで聴きやすいということは、歪み感が究極的に除去されたということかと思いました。すると木管楽器のたおやかな質感も解像度を向上させているので、余韻感に潤いが追加されてきました。逆に金管楽器がエネルギッシュに吹かれる場面では耳に刺さるようなストレスはまったくなく気が付かないうちにボリュームが上がってしまいます。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- これではすべてを聴き直さなければ…、という思いが浮かび迷うことなく次の選曲に進んでいきました。 http://www.kkv.no/ kirkelig Kulturverksted(シルケリグ・クルチュールヴェルクスタ) ・Thirty Years’Fidelity より 7.トラックでは出だしのコーラスが始まった瞬間に私の過去の記憶からサーチして以前の音質との相違点を次々と発見し、同時にこれがベストなのではという思いから記憶のデータを瞬間的に上書きしてしまった。
10.トラック目で女性ヴォーカリストRIM BANNAがソロで歌い上げる導入部を耳にした時には予感から実感に変わっていた。 「なんでこんなに色彩感が濃いんだろうか!?」 歌手の発する声質そのものが濃厚になり、私から見てそこにいるだろうという位置関係がことさらに鮮明になっている。今まで聴いたきたこのディスクの情報は例えればトレーシングペーパーをかぶせて透かし見た画像だったようだ。それがなんとしたことか、今日の800dでは一点の曇りもないガラスを乗せて彼らの歌声を見ているように色合いと輪郭、そして色彩が薄れていく余韻感までもがくっきりと描かれるのだから堪らない!! 視覚的にこのように例えられる変化が起こってしまったのだから、もう昨日までの800dの記憶には価値観を見出すことが出来ないほどだ!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- さあ、次だ!! チェックしたいディスクに交換していくのが加速される!! たAudio labの「THE DIALOGUE」から(1) WITH BASSをかけてみる。すると…? 「これじゃあ詐欺だ!! 昨日までの800dの低域は何だったんだー!!」 呆れる、というのはこのことか!? 今までは2.4メートルの間隔で再セットしたが、同時に4個のウーファーも2.4メートルの左右の間隔があり、片側の800dの二個のウーファーは高さで60センチくらいの開きがあるので、縦0.6メートル横2.4メートルの長方形の面積で最初の頃の800dの低域は感じられていました。 ところが、今ここで叩かれるキックドラムの音像はそのような横長の長方形に見える音像のサイズから、縦横60センチ四方の正方形に変化して800dのセンターにくっきりと打音のあるなしを表現しているではないか!! この引き締まりようはなんとしたことか!! そればかりではない。 打音の有り無しと表現したのは打撃音のエコー感と感じていたものは、実は不要な共振か何かの原因で録音に入っていないものが現れていたということがわかってしまったのです。つまり、強力なブレーキがかかっている低域なので、打撃音が消え去った後には何も残っていないということを当然のごとく見せ付けるのです。 それがシンバルや金属の鳴り物を叩いた高域の打音についても、上記のノイズフロアー低下という現象を裏付けるものになっており、スティックがヒットした相手の楽器の正面からの投影面積を極めて小型化してしまっています。これは凄い!! プロゴルファーの愛用のクラブでは打点の一部が中心に集まっているようにキズがあったり、プロテニスプレーヤーのラケットではガットの中心点だけが磨耗しているように、打楽器のスイートスポットを未体験のレベルで絞り込んでいるのです。こんなDIALOGUEを聴くのは初めてです!! そして、低域の音像が引き締まりながら同時に重みを増していること、高域の打音に関しても音像が小型化してテンションが上がっているというエネルギー感の集中が実現されたということ、こんな変化がセッティングの変更でたちどころに表れるのだから800dの能力が底なしに見えてくるのでした。 -*-*-*-*-*-*-*-*-*- 弦楽器とオーケストラ、そしてヴォーカルと打楽器と次々にチェックポイントを新記録で通過していく“今日の800d”で、次にこれをかけてみることにした。 「Muse」からフィリッパ・ジョルダーノ 1.ハバネラをかけることにした。 http://www.universal-music.co.jp/classics/healing_menu.html これはBRASS SHELLの開発の時にSignature 800で耳が擦り切れるくらい(笑)何度も繰り返し聴いたことを思い出しながら、その冒頭のバックコーラスとフィリッパのセンターに浮かぶメインヴォーカルの対比をチッェクし、そしてセンターでゆったりと鳴らされるドラムに着目し、フォルテで拡散していくエコー感の描写力に目と 耳を傾けてきたものだった。 さあ、本物の800dが何を聴かせてくれるのか!? イントロのバックコーラスでは実に多彩なハーモニーが展開されていることに驚く。抽選券や宝くじの銀色のスクラッチを思い出してしまった。スクラッチを削るのに細いペン先で削っているように銀色の面に引っかき傷をつけていたようであり、今まではどうやら細い数本の削り跡から何が書いてあるのか文字の一部から想像していたようなのです。 ところが、今聴こえてきたフィリッパのコーラスとセンターに位置するヴォーカルの鮮やかさはどうでしょう!! 幅2.4メートルの全面にバックコーラスが展開するどころか、800dの両翼に更にエコー感を拡散しているのでキャンバスの面積は1.5倍ほども大きくなっている。そのキャンバスには先ず下地として鮮やかなブルーが全面に塗られ、それが乾いてから純白で上塗りしていたようなのです。次にオイルだけを筆先につけて擦るように動かすと、下地のブルーが白といっしょに溶け出してきれいな水色が表れてきます。しかし、白のキャンバスに最初からいきなり水色の絵の具を乗せたものとは周囲のグラデーションのあり方が本質的に違うようです。 白と水色の境目はどうしても見えてしまいますが、下地のブルーと上塗りした白がオイルの量によって水色と化し、オイルがなくなってきた周辺部では溶け合った二色がえもいわれぬ中間色として楽音の余韻感を代弁してくれるようです。真ん中はくっきりと、しかし周辺部では次第に中間色から白へとなだらかな階調の変化を見せるということは、楽音の核心をいかに鮮明に描き出すのかという800dの能力の表れ、そしてセッティングによる潜在能力の開花としか言いようがありません。 冒頭の複数のヴォーカルを聴き始めた瞬間に立ち上るイマジネーションの絶対量は、実は私の想像力の産物ではなく、誰もが体験できる800dという存在の極めて優れた中立性に他ならないのです。無色透明であるからこそ、録音に封じ込めたアーチストのセンスが原色のままで引き出されるという事実はそれほど多くないものです!! さあ、センターにドラムが一定のリズムで出てくる頃合です。すると…!? 「え〜、どうしてこんなに!?」 先ほどのDIALOGUEで見せた低域の音像が、面積として六分の一になってしまったという例えは見事にここでも発揮されました。しかし、ちょっと背景との位置関係が違っています。 今までは縦0.6メートル横2.4メートルの長方形は左右ウーファーの下半分くらいから床面に裾を広げるように展開していました。ちょうど富士山の白い頂上付近に最初の打音があって、その余韻感がゆったりと裾野を広がっていったというイメージでしょうか? しかし、たった今のこれはなんとしたことでしょう!! ドラムの打音の最初のポジションは上下二個のウーファーの上側とミッドレンジのユニットがある高さ付近に持ち上がって聴こえるではありませんか!! 何でドラムのような楽器の定位感がこんなにも変化してしまうのか!! そこで考え始めました。800dのクロスオーバー周波数は350Hzと4KHzです。そして… 新トゥイーターの新しいサスペンションによる低域共振周波数は、現行のものに比べてわずか20%の200Hzです。これによってファーストオーダー(6dB/oct)のフィルターの使用(つまりコンデンサー1個だけ)が可能になりました。 ネットワークに使用する全てのフィルムコンデンサーにはドイツのムンドルフ社製スペシャルコンデンサーを採用しています。特にダイヤモンド・トゥイーターには金含有銀箔コンデンサー(M-Cap Supream Silver/Gold)を採用しています。 もちろん音圧レスポンスのスロープはファーストオーダーではありません。ドライバーユニット自身の特性と合わせて実際には、ほぼセカンドオーダー(12dB/oct)の特性になっています。通常この場合平坦特性を得るにはドライバーユニットを逆相接続することが必要ですが、B&Wはこのような接続をとったことがありません。 それは基音に対してハーモニクスが逆相になるからだと言います。単純に半波長分前に出すことによってシステムは常に正相を保てるわけです。これがノーチラスヘッドに対して今回のダイヤモンド・トゥイーターの先端が以前に比べてクロスオーバー周波数の半波長分前に出た取り付け位置になったことの要因です。 そして低音用ドライバーについて三つの重要な要素があると言います。コーンは非常に強いコーンが必要です。レゾナンス(共振)レゾナンスに対する良好なダンピングが必要です。トランス・ミッション(伝達性)キャビネット内部からの音に対する低い伝達性、つまり遮断性が必要です。 B&Wはロハセル(PMIポリメタクリルイミド独立発泡体)と呼ばれる新素材を発見しました。これがロハセル(サンドイッチ)コーンです。 ロハセルとはドイツ、ローム社のハイテク素材であり(ポリメタクリルイミド独立発泡体)航空機やスペースシャトル、新幹線のボディに使用される軽くて非常に剛性の高い素材です。厚いロハセル(8〜10mm)の表裏にカーボンファイバークロスを貼って(サンドイッチにして)使用しています。軽く、剛性が高く、内部損失が大きく、遮音性が高い。B&Wはこのコーンによって、ペーパーケブラーコーンの三倍の強度を得ました。 さて、この新しいウーファーはクロスオーバー周波数である350Hzから上は18dB/octでハイカットされ、ミッドレンジは上下ともに12dB/oct、そして上記のようにトゥイーターは6dB/octでローカットされています。私の経験上、これらのネットワークにおける遮断特性とスロープのあり方はセッティングによって真価を発揮するもの とそうでないスピーカーがありました。簡単に言えばシステムの変更やセッティングの変更による音質変化を引き出すためにはネットワークがシンプル、かつパスしていく情報量に欠落があってはいけないということです。 逆説的に言えば、今起こったような低域の反応の素晴らしさがB&Wの純正スパイクによって引き出されたということでネットワークの優秀さを裏付けるものと言えます。セッティングの変化によって低域の楽音の上下の定位感が変化するということは、セッティングを変更する前後でも電気的には同じ仕事をしていたということになり、微細な情報をスパイクなしでも伝送し再生していたということになります。 その微細な情報の伝送ということはウーファーとミッドレンジの連係によってもたらされるものであり、一番大きなエネルギーを消費し、それをキャビネットに伝えてしまう低域の信号だからこそスパイク使用時に大きな変化があったのでしょう。 ここです!! 新素材の採用によって究極の高速反応を得た800dのウーファーは同時にキャビネット内部からのバックプレッシャーを遮音する効果も倍増し、ミッドレンジとの連係作業によって司る低域の定位感にも変化を引き起こしました。それはボディー全体を支持する方法がスパイクの使用によって本性を表したものということ、いやB&Wはスパイクを標準としてこれらの音を作ってきたということなのです!! -*-*-*-*-*-*-*-*-*- Yo-Yo MaのSimply Baroqueを取り出してきました。 http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/SR/YOYOMA/ 10. Concerto in G Major for Cello and String Orchestra, G. 480 この曲は思い返すことが出来ないほど多数のハイエンドスピーカーたちで試聴してきました。その中には800dの数倍にまで及ぶ価格帯のものもあり、音楽CDで座右の銘というものがあるとすれば、私の場合にはこの一枚を手元に置くでしょう。 上記ではウーファーとミッドレンジの連係による低域楽器の再現性を述べましたが、800dが描くチェロはちょうど打ってつけの楽器かもしれません。そんな思いを胸にP-01をスタートさせました。
「あ〜、何と美しいことか。流れるような…、とはこのことだ!! 」 アムステルダム・バロックオーケストラとコープマンのコンビがポッケリーニの名曲を奏で始めました。オリジナル楽器のヴァイオリンの透き通るような音色が左右の800dの中間にほとばしります。さあ、この時に私が感じたことは、先ず以前に数え切れないほどに聴き込んできたはずなのに、ヴァイオリン演奏者の数がこれほどまでにないくらいに大人数に感じるということでした。 ひとりひとりが奏でるアルコはことさら質感に柔軟性を帯びているのに、なぜか凛とした佇まいを見せて各々の輪郭を引き立たせ、一人ずつ独立した奏者であることを自己主張する。それらが幾層のレイヤーとなって800dの周囲に一人ずつ色合いの違う余韻感を発することを800dによって許可されたように、今まで気が付かなかった奏者一人ずつの余韻感の尾ひれが観察できるのです。これはなんと言うことか!! 今まで、これほどの情報量がたたまれてしまってあったなんて!! 導入部でのヴァイオリンが800d周辺の空気に流動感を作り出し、その中に定点としてコープマンのハープシコードがきらめきを定着させる。美観と解像度という感性と物性表現の両者をいとも簡単に同居させるような再生音は始めてだ!! さあ、3ウェイのすべてのユニットが共同作業で再現しなければならないYo-Yo Maのチェロが入ってきた。それを“見た”私の口から思わず言葉が漏れる…。 「あ〜、チェロが浮かんでいるぞ!!」 軽やかな音色のバロック・チェロに改造したものをYo-Yo Maは弾いているのだが、その音階の変化に応じて定位感がふらつくようなことはない。私の正面3.6メートルの距離にある800dはそれ自体が高さ60センチ程度の小ステージを持っているかのように、床面からすべての楽音を空間に持ち上げ音場感を上へと拡散する。過激な打撃音でウーファーの特性を語るのは以前のB&Wスピーカーで散々やってきたものだが、この時間帯と今の心境からはアグレッシブな再生音は勘弁して欲しいと思われた。 私が800dで強調したいところは3ウェイのシステムでありながら、すべての楽音が音階の移行によって切り離されることなく素晴らしい連続性が得られるということです。それは上記で述べているように打楽器の強烈なアタックでも、そして今この瞬間のYo-Yo Maとコープマンを取り囲むアムステルダム・バロックオーケストラの演奏でも同じことなのです。 それは超高速反応のウーファーによってミッドレンジとの境目をなくしたことで実現できるたものであり、コンデンサー一個という一次フィルターで使えるようになったダイヤモンド・トゥイーターとミッドレンジとの整合性の素晴らしさでもあり、そして3ウェイのユニット三者に共通したテンションと高精度な動作環境として今日の実験で明らかになった純正スパイクという土台の確立という複数の要因が成しえたものなのです。 私は、Simply Baroqueを聴きながら、オリジナルNautilusを思い出し、Signature 800で試聴した記憶を呼び起こし、そしてこれまでに手がけてきた本当に多数のスピーカーたちの個性を再評価してきました。 それは何を意味するのか!! 800dこそ私が過去に体験しえなかった能力を持っているスピーカーだということを今夜認めてしまったということです。 http://www.dynamicaudio.jp/audio/5555/bw800/7f.html
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