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ファーウェイCFO拘束は、米国法の「域外執行」という無法
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/12/post-11447.php
2018年12月21日(金)15時30分 北島純(経営倫理実践研究センター主任研究員) ニューズウィーク
バンクーバーの裁判所前でファーウェイCFOの保釈を求める支持者 Lindsey Wasson-REUTERS
<ファーウェイの孟CFO拘束は起きるべくして起きた――しかし国際政治への司法の乱用は将来に禍根を残しかねない>
上海を流れる黄浦江が長江と合流し海に流れ込む呉淞口では、2つの川と海から成る三色の水が混じり合う。三色は自ずと一つになるが、その有様は捉えどころがない。12月1日、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟(モン・ワンチョウ)副会長兼CFO(最高財務責任者)がカナダで逮捕された事件は、この結節点を想起させる。彼女は3つの国際潮流の渦中に身を置いていた。
第1の潮流は、米国のイラン制裁だ。彼女が逮捕された直接の容疑は、米国のイラン制裁措置に違反したというものだ。ファーウェイは、09年から14年にかけて香港のスカイコム社を通じて通信機器をイランに納入していたが、取引に当たり銀行に対して「スカイコムとファーウェイは無関係」という虚偽の説明を行っていた。しかし、実質的にはダミー会社だった。
第2の潮流が、サイバー安全保障だ。中国政府の国家戦略「中国製造2025」の中でも次世代通信システム「5G」の研究開発で先頭を走るファーウェイに対する警戒と排除の必要性は、米国の軍部・政府・議会の共通認識になっていた。
最後の、そして最大の潮流が、米中貿易戦争いわゆる「新冷戦」だ。中国に対する追加関税措置は累計2500億ドルに達しているが、2000億ドル分の関税引き上げを90日間猶予するという米中首脳会談が開かれた12月1日当日、孟は逮捕された。
こうした3つの潮流がぶつかる結節点に孟晩舟はいた。その意味で今回の逮捕は起こるべくして起きた事件ということになろう。しかし、この事件のもう一つの本質は、米国の連邦法が「域外執行」された点にある。
■ライバル国家の悪用も?
孟が米国内で逮捕されていたのなら分かりやすい。しかし、彼女はキャセイ・パシフィック航空で香港からメキシコに移動する間、立ち寄ったバンクーバー空港で逮捕された。17年4月以降、米国当局による捜査が迫っていることを察知していたファーウェイ幹部らはアメリカ入国を避けており、孟も同じだった。その孟がカナダにトランジットすることを察知した米当局が逮捕の2日前にカナダ政府に通告、犯罪人引渡し条約に基づく逮捕を要請したのだ。
カナダにはイランへの経済制裁を科す独自の「特別経済措置法」がある。しかし今回の逮捕で適用されたのは、このカナダ国内法ではなく、米国の経済制裁法令だ。つまり米国法がアメリカ国外で域外執行されたに等しい事態が生じたのである。
これまでにも、チリのアウグスト・ピノチェト元大統領が英国滞在中の98年にスペインの判事による逮捕状に基づいて逮捕された例や、15年のFIFA(国際サッカー連盟)汚職事件で、米司法省が米国法を適用して請求した逮捕状に基づきFIFA幹部らがスイス等で逮捕された例はある。しかし、これらは独裁者の虐殺や国際的組織の腐敗が見過ごせないという国際的公益、または普遍的な価値に立脚した法の域外執行だった。
これに対して今回は、覇権を競う大国間のパワーゲームの手段として刑事司法権が乱用されたとも言える。これが前例となり、英国、オーストラリア、ニュージランドなどでも恣意的に執行が拡大される場合、刑事司法権が政治利用されるだけでなく、地政学上の覇権争いの手段に堕することにもなりかねない。つまり米国法に違反する行為があった場合、トランプ政権が気に入らない人物は米国外の協力国においていきなり逮捕される可能性があることになる。
しかし真に恐れるべきは、この方程式をライバル国家も使い始める事態だ。米中のみならず、米ロそして米EUという、いわば三重の新冷戦下で法執行の域外適用が多重化すると、容易に回復し難いレベルに世界は分断されることになる。その混乱は、三色の水のように捉えどころがないものになるだろう。
<本誌2018年12月25日号掲載>
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