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経済学の権威2人から「不合格」をもらったトランプ大統領 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/242304/1 2018/11/24 日刊ゲンダイ 独自の原則(C)UPI=共同 米国の中間選挙はおおむね予想された通りの結果でした。下院で民主党が勝利したことは、それなりのインパクトがあるものの、「すばらしい成功」とか言っているトランプオヤジは今までの強硬路線を続けるのでしょう。上下院ねじれ状態で余裕がないため、中国に対しても激しさを増し、「絶対に人より損をしない」という独自の原則で突っ張る方向感がより過激になるのではないか。 強く思うのは、トランプオヤジが「国益にかなう大原則」として追求するのは次の2つだということ。 @米国が貿易赤字になるのは人のせいであり、貿易赤字は許されない。 Aすべての物事は2国間のディールで決着することがすばらしい。 しかし、@は経済学の生みの親、アダム・スミスの主張に真っ向から反しているし、Aは経済学の歴史で最も大きな存在であるジョン・メイナード・ケインズの主張に反している。経済学の権威であるこの2人から鉄槌が下されるような酷いことをズバリやっているのがトランプオヤジなのです。 アダム・スミス(左)とケインズがトランプに鉄槌(C)ゲッティ/共同通信イメージズ アダム・スミスが「国富論」を書いたのは、「重商主義」と戦うためという側面がありました。重商主義では、貿易とは、自国に金・銀・財宝をガッポリ貯め込むために行うものという考え方。輸出を伸ばして、その代金としてのカネを貯め込む。国家権力を強めるために経済基盤を強化するという考え方にもつながります。 アダム・スミスはこうした考えに異を唱えました。貿易とは、自分より安く何かを作れる人から安くモノを買って、豊かな生活を送るためにあるんだ、と。仕立屋が農業や鍛冶屋まがいのことをするのはバカらしい。餅は餅屋に任せ、いいものを安く買うのが貿易の醍醐味だという考え方です。 一方ケインズは、2国間の貿易収支にこだわらず、みんなで多角的に解決すべきであると主張しました。すべての国が2国間で物事を決着しようとし、2国間の貿易収支で「赤字だ」「黒字だ」と争った結果、世界経済発展の足を引っ張り、ひいては第2次世界大戦に至ったという反省です。戦後のブレトン・ウッズ体制(IMF体制)がつくられる過程で、そうした主張がなされました。 「対中国で赤字だから悔しい」「対日本の赤字はたまらない」という考え方から脱却しないとダメだというのがケインズの主張です。つまり、トランプオヤジは、2人の経済学の大先生から2つの「F(fail)=不合格」をもらってしまっているのです。 トランプオヤジはこの絶対的な「F」の2つの道を今後もとことん追求し、邁進していくでしょう。そんなことでいいのか。世界はその問題性を声高に指摘していかなければなりません。 最近、アンドロイドで昔の人を現世に蘇らせる企画がはやっています。この際、アダム・スミスとケインズの2人に蘇ってもらい、トランプオヤジを叱ってもらいたい――。そんなことを考えています。 浜矩子 同志社大学教授 1952年、東京生まれ。一橋大経済学部卒業後、三菱総研に入社し英国駐在員事務所長、主席研究員を経て、2002年から現職。「2015年日本経済景気大失速の年になる!」(東洋経済新報社、共著)、「国民なき経済成長」(角川新書)など著書多数。
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