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超タカ派のボルトン補佐官 トランプ政権のイラン強硬策旗振り役に
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/10/post-11102.php
2018年10月15日(月)08時26分 ニューズウィーク
ホワイトハウスで3日、対イラン政策について記者の質問に答えるボルトン氏(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)
ホワイトハウスの西棟にあるジョン・ボルトン氏の執務室の壁には、国家安全保障問題担当の大統領補佐官として自身が最も誇りとしている成果を記念する品が飾られている。
それは、イラン核合意からの撤退を指示するトランプ大統領の署名入り書類の複製を額装したものだ。そのすぐ隣には、同核合意を揶揄(やゆ)する風刺漫画が飾られている。
ボルトン補佐官の選ぶこうした装飾品には、2015年にオバマ前大統領ら主要国の首脳がまとめ上げたイラン核合意に対して同氏が抱く根深い嫌悪感や、制裁の再発動によってイランを孤立させ、同国経済を締めつけようという執念が反映されている。
ボルトン補佐官が4月に就任してから1カ月後、トランプ大統領は自らの公約通り、イラン核合意からの離脱を宣言した。ボルトン氏の前任者らはこうした離脱を思いとどまるよう大統領を押しとどめていた。
ボルトン氏は着任早々、その構図を変えた。
トランプ大統領が本能的に感じていることは正しく、合意にとどまるよう懇願する穏健派や欧州同盟国の訴えは無視しても構わない──。そう大統領に請合った、とボルトン補佐官はロイターのインタビューで明かした。
「それは世界の終わりではない。西側の同盟関係が崩壊することはない」と、トランプ大統領に告げて核合意からの離脱を促した、とボルトン補佐官は説明した。
政策転換に一役買ったことを誇りとする同補佐官は、制裁再開がすでにイラン指導者にとって重石となっている、と話す。「制裁再開で、経済が壊滅的な打撃を受けたと思う。それはさらに悪化するだろう」
米制裁を回避するために欧州主要企業が撤退したことでイランの経済や通貨はすでに大きな打撃を受けている。イラン経済の生命線である石油産業に対する制裁が11月発動すると、さらに圧力は高まることになる。
ジョージ・W・ブッシュ政権時代に強硬発言で知られた国連大使として、またはフォックスニュースの著名アナリストとして、ボルトン氏は長年、ワシントンの外交関係者から「超タカ派」とみなされてきた。
ボルトン氏に対しては、観念的かつ挑発的で、反対意見に対して報復を仕掛けるという批判がある一方で、米国優位を維持するために努力する抜け目のないインテリ策士だとの評価もある。
これまで同氏は長年にわたって、イランや北朝鮮の政権転覆を主張し、両国との直接対話に反対してきた。また、米国は両国の核関連施設に対して先制攻撃を行うべきだと主張。さらに、イラク戦争を強固に支持し、強硬な対ロシア政策の必要性を主張してきた。
だがいまや、長いキャリアの中でも最大の影響力を持つ地位に就いた69歳のボルトン氏は、こうした好戦的な主張の一部を少なくとも公の場では和らげており、大統領のリードに喜んで従っている、と話す。
それによって、北朝鮮やロシアとの関係改善を自らの外交政策の柱にすえ、側近によって影が薄くなることを嫌うトランプ大統領に気に入られた。そして、そのお陰で、ボルトン氏はイランに対する強硬戦略を立案し、実行する余裕を手にすることができた。
「ボルトン氏はイランに執着している。その他のことはすべて二の次だ」とフランスの政府高官は語る。4月に訪米したマクロン仏大統領は、イラン合意を維持するようトランプ氏に要請したが、失敗に終わった。
■トランプ大統領との関係
トランプ大統領とボルトン補佐官は、異なる対ロシア観を持っている。
トランプ氏はロシアのプーチン大統領について尊敬を込めた発言をしたことがあるのに対し、ボルトン補佐官がそのような発言をした例は皆無だ。それどころか、2016年の米大統領選に介入しておきながらうそをついたとして、プーチン大統領を批判している。
またボルトン補佐官は、広範な対ロ制裁の緩和に反対している。3月には、「米国は、ロシアに小突き回される事態を許さないと欧州同盟国に示すため」、ロシアの新型核兵器に対して戦略的対応をすべきだ、とツイートした。
同補佐官は、ロシアとの核新戦略兵器削減条約(新START)を延長したいと考えているマティス国防長官などの政府高官に立ち向かうこともいとわない。
とはいえボルトン氏は、トランプ大統領が公言するプーチン大統領との関係改善という目標に真正面から反対することを慎重に避けている。国務省や国防総省、情報機関など国家安全保障に関連する政府機関の関係者は、そう口をそろえた。
ボルトン補佐官は、7月ヘルシンキで行われた米ロ首脳会談に向けた地ならしのため、自らモスクワを訪れている。
「ことロシアに関しては、衝突を避けようとしているのは明らかだ」と米政府関係者は話す。「もし自分の好きなようにやれるなら、制裁や選挙介入の問題に対して、もっと厳しい立場を取っているだろう」
トランプ大統領自身も、最近行われたロイターとのインタビューで、ホワイトハウス入りしたボルトン氏が、これまでの強硬姿勢を一部改めた、と認めている。
「彼は素晴らしい人物で、きわめて勤勉だ」とトランプ大統領。「この20年間、彼がテレビで語ってきたように、あらゆる国と戦争をしよう、1度に5カ国相手にしよう、と今も考えているかと言うと、そうではない」
ボルトン補佐官は、大統領向けのブリーフィングをシンプルにまとめることで、トランプ氏との関係を強固なものにした。前任のヒューバート・レイモンド・マクマスター陸軍中将は、ブリーフィングがドライでプロフェッショナルなものだったため、トランプ大統領を苛立たせ、忍耐を失わせることが多かった、と複数の政府関係者は話す。
ボルトン氏は、スムーズな流れを重視する法科大学院仕込みのスタイルを採用している。「まず、大まかなアウトラインを説明。次に少し詳細な話をして、最後に1枚のカードに書き込めるような要点にまとめる」と、ボルトン氏はその秘訣を明かした。
ある政府高官によると、トランプ大統領はボルトン補佐官を、側近の中でも欠かせない存在だと考えているが、常にその意見を聞き入れる訳ではない。ボルトン氏は「人を説得することに長けており、大統領は必ず耳を傾けるが、必ずしも彼の言う通りにするわけではない」
■イランへの執着
トランプ大統領に対する働きかけで、ボルトン補佐官が最も成功を収めたものがイラン政策だ。
イランの勢力拡大に対抗するため、ペルシャ湾岸のアラブ6カ国に加え、エジプトやヨルダンと政治や安全保障を巡る同盟関係を築こうとするトランプ政権の取り組みにおいて、中心的な役割を果たしたのがボルトン補佐官だった。
ボルトン氏は、9月末にニューヨークで行った演説でイランに対して「うそやずるで欺き続けるなら、地獄のような報いを受けるだろう」と警告。このような過激な発言は、ブッシュ政権時代の同氏の特徴だったとみられている。
ボルトン氏が軍備管理担当の国務次官を勤めていたころ、パウエル国務長官(当時)の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン氏は、人事や政策を巡り、国務省内でボルトン氏と頻繁に対立した、と明かす。
ボルトン氏が北朝鮮を「張子の虎」と呼んだ2002年の会議を振り返り、ウィルカーソン氏は、戦争になれば、北朝鮮側の大規模な火器攻撃で韓国人や米国人に数万人規模の死者が出る可能性がある、と同会議で警告したという。
「ジョン(ボルトン氏)は私を冷たく見て、自分は戦争はしない、それはあなたの縄張りだ、と言った。私は、(戦争を)始めるだけ始めるんだろう、と返答した。それが、世界のあらゆる問題に対する彼の第一の対処法だ」と、ウィルカーソン氏。同氏は後に、ボルトン氏が支持したイラク戦争に表立って反対している。
一方、ボルトン氏には「米国の国益を守るため、外交や経済、軍事政策を調整する卓越した能力がある」とある政府高官は語り、ウィルカーソン氏の懸念を一蹴した。
国防総省関係者は、ボルトン補佐官について、他省庁との協議において、自分と対立する意見を締め出してしまうと話す。
「反対意見に耳を貸すような仕組みがないし、特にイランに関しては、いずれにしても反対意見は歓迎されない」と、同関係者は言う。「結果として、その分野で何年、何十年と経験を積んできた人々の意見が無視されたり、脅かされている」
ペンス副大統領の首席補佐官ニック・エアーズ氏は、こうしたボルトン氏を巡る指摘に反論する。「彼は、うまくチームで仕事をしている」
ボルトン補佐官は、こうした指摘に反論はしなかったが、同僚との論争を好んで楽しんでいる、とロイターに語った。
「私は法廷論争で鍛えられた。私の人生は議論そのものだ。もし意見が異なる人がいれば、(議論を)待ちきれない」と、同補佐官は笑みを浮かべて言った。
(Steve Holland記者, Jeff Mason記者、Jonathan Landay記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
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