トランプ氏の関税ゼロ案、その真意は トランプ米大統領(写真)は今年40回以上、ツイッターへの投稿で関税を称賛してきたBy Bob Davis 2018 年 8 月 28 日 12:04 JST ドナルド・トランプ米大統領は今年40回以上、ツイッターへの投稿で関税を称賛してきた。貿易赤字と財政赤字を減らし、米国の威信を復活させる関税は米国民を豊かにするという。8月のツイートでは「異を唱えるのは愚か者だけだ」と主張した。 トランプ氏は自身のことを、全世界で全ての関税ばかりか、産業補助金、非関税障壁が撤廃されることを望んでいる自由貿易主義者だとも呼んでいる。 同氏は6月に開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)後の記者会見で「関税なし、障壁なし。貿易はそうあるべきだ」と述べた。 あれほど関税を支持しておきながら、無関税が目標というトランプ氏の言葉は本気なのだろうか。 恐らくそうではない。最近の欧州との協議でも示されたように、米国を含むほとんどの国には守ると決めている産業があるため、最も熱心な自由貿易主義者でさえ、国際貿易で条件を完全に平等にするのは難しいと考えている。既存の国際貿易協定に複雑で不平等な部分が多く、それが今後も続くとみられる理由もそこにある。 米国は最近の欧州との協議でも当初は無関税の方針を推していたが、双方がすぐにそれを骨抜きにした。 欧州に対して自動車関税の撤廃を要求し、従わなければ欧州からの輸入車に最大25%の関税をかけると脅したにもかかわらず、米国は協議から自動車貿易を除外するよう強く求めた。 自動車が協議されないのはなぜか。米国の自動車産業自体が、国産トラックを輸入車との競争から守るために25%の関税に依存しており、トランプ政権はそれを維持したいと考えているからだ。その一方で欧州連合(EU)は、補助金に依存している共通農業政策(CAP)を維持したいと考えており、農業補助金について検討するという米国の取り組みを阻止した。政府契約から外国企業を除外する「バイ・アメリカン」条項も議論から外されている。 双方の交渉団は現在、大部分の貿易協定の出発点である工業製品の関税削減を主に協議している。とはいえ、そうした関税はすでに低いため、撤廃による経済効果は小さいだろう。工業製品に対する米国の関税率は平均2.4%、欧州では2.6%だ。 こうした関税ゼロ案はラリー・クドロー氏の過去の論文に端を発する。クドロー氏は今年3月、米国家経済会議(NEC)委員長に就任した。同氏と自由貿易を提唱する2人のエコノミスト、ヘリテージ財団のスティーブン・ムーア氏とレーガン政権で顧問を務めたアーサー・ラッファー氏は自分たちの考え方と、貿易では一部の国が他国を犠牲にして勝者になるというトランプ氏の考えをうまく一致させる方法を模索したという。ムーア氏が明かした。 彼らは主要貿易国の中で米国は関税が最も低い部類に入るとしている2018年版の大統領経済報告を利用することにした。関税をゼロにすれば、他国が削減する関税は米国よりも大きくなるため、米国に有利になると彼らは主張した。クドロー氏はNEC委員長としてその方針を推した。 ホワイトハウスでこの春に行われた通商顧問らとの協議で、貿易タカ派のピーター・ナバロ氏はその方針に反対した。協議に詳しい関係者によると、ナバロ氏は条件を平等にする上で関税ゼロだけでは不十分だと主張した。米国は他国がうまく利用しているツール、つまり補助金、非関税障壁、為替操作、付加価値税についてもゼロを迫る必要があるとナバロ氏は力説した。顧問らは関税、補助金、非関税障壁の3つでゼロを目指すことで合意した。 トランプ氏は6月のG7サミットでそうした考えを売り込んだが、議長国カナダのジャスティン・トルドー首相との非難の応酬や、直後に行われた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談のせいであまり取り上げられることはなかった。だがその翌月、そうした提案は欧州との協議で再浮上した。 関税ゼロ構想は実行に移すのが難しいが、米国の交渉戦略において今も一定の役割を果たしている。米欧間の協議では、米国がEU製の鉄鋼・アルミニウムに関税を課して以来緊張してきた双方の関係緩和に寄与した。米国は交渉が続いている限り、欧州車への関税を断行しないと約束している。双方は8月20日にワシントンでフォローアップ協議を行った。あるEU当局者によると、関税ゼロ構想はまだ議題に残っていた。 関税ゼロ計画は同様に、救いようがないほど保護貿易主義的だとしてトランプ政権を切り捨てていた貿易相手国と交渉を再開するきっかけとなる可能性がある。ムーア氏は「米国はモラル的に優位な立場になる」と語る。 米国がEU、カナダ、メキシコ、日本などの同盟国と合意を結ぶことができれば、トランプ政権は中国に焦点を合わせられる。政権内では貿易強硬派も自由貿易派も一様に、中国に対する西側諸国の協調攻勢を難しくしてきた鉄鋼やアルミ、その他の問題を巡る争いにいら立ちを募らせてきた。 中国にははるかに高い貿易障壁があることを踏まえると、関税や補助金ゼロに向けた動きは、米国にいくつか明確な勝利をもたらす可能性がある。米大統領経済諮問委員会(CEA)の報告書によると、例えば中国の工業製品に対する関税は平均12.1%だ。これをゼロへ、あるいは少なくとも大幅に引き下げることは、米国にとって大きな勝利となり得る。 とはいえ、中国に全ての補助金や外国企業に対するその他の差別を撤廃させることは、成功の見込みが薄いと思われる。 関連記事 【社説】米欧の貿易戦争「停戦」、油断は禁物 【社説】トランプ関税が海外に押し戻す雇用 米景気後退、目先は可能性低い 長短利回り差縮小でも=SF連銀 米サンフランシスコ連銀の論文によると、米国債のイールドカーブでは景気後退リスクの高まりが示唆されるものの、近くそうした状況に陥る可能性は低い By Michael S. Derby 2018 年 8 月 28 日 14:26 JST 米サンフランシスコ地区連銀は27日発表した新たな研究論文で、米国債のイールドカーブ(利回り曲線)を見ると、景気後退(リセッション)リスクの高まりが示唆されるものの、近くそうした状況に陥る可能性は低いという見解を示した。 今年は総じて米国債の長短利回り差が縮小している。短期債利回りが長期債利回りを上回る「逆イールド」は、以前から景気後退の前兆となってきたため、将来の景気動向を示すシグナルとして注視されている。 2年債と10年債の利回り差は、年初は約50ベーシスポイント(bp)だったが、足元では約20bpまで縮小。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを推し進めれば、それだけで逆イールド化を引き起こしかねないと懸念する声が広がっている。 FRB当局者らは2年債と10年債の関係に注目しがちだが、サンフランシスコ連銀のエコノミスト、マイケル・バウアー氏とトーマス・マーテンス氏は冒頭の論文で「10年債と3カ月物財務省短期証券(Tビル)の利回り差は、景気後退を予想する上で最も有益なタームスプレッドだ」との見方を示した。 逆イールドが景気後退を引き起こしているのか、相関関係があるだけなのかは分からないとしながらも、逆イールドは景気後退の「信頼できる前兆」となっていると指摘した。 現在の2年債と10年債の利回り差を見ると、FRBが1〜2回利上げすれば逆イールドになるかもしれない。FRBの政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は現在1.75〜2.00%。2年債利回りは2.63%近辺で推移している。 一方、10年債と3カ月物Tビルについて、論文は「他の大半の指標と同様にこの利回り差も最近縮小しているが、逆イールド化するまでまだ十分な開きがある」と指摘。 その上で「最近のイールドカーブの動きは景気後退リスクが高まっている可能性を示唆している」が、「イールドカーブの平たん化は、景気後退が差し迫っている兆候ではない」としている。 関連記事 FRB悩ますイールドカーブ、過去に判断の過ち 米利回り曲線平たん化、誤ったシグナルか イールドカーブ平たん化、FRBの盲点とは
中国でインフラ建設が停滞している背景 中国のインフラ投資は減速を続けている By Nathaniel Taplin 2018 年 8 月 28 日 14:11 JST ――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」 *** 中国政府は自国経済に低利の融資を氾濫させることなく、成長を支えたいと考えている。それがいかに難しいことなのかは中国の道路や鉄道を見れば分かるだろう。 中国は世界のインフラ業界で圧倒的な存在感を示している。その建設能力は大衆文化にも浸透してきており、2009年公開のディザスター映画「2012」で急激な海面上昇から人類を救う巨大な箱舟を建造したのも中国だった。ところが最近の中国のインフラ建設は停止してしまったも同然だ。 そうしたインフラ投資の大半を占める中国の地方自治体には、これまで主に2つの資金調達手段があった。最も一般的な方法は融資平台(LGFV)と呼ばれる事業体の設立である。まだ地方債の発行が許可されていなかった地方自治体に、景気刺激策として数億ドル規模の投資が要請されていた金融危機の直後、そうした簿外の事業体が急増した。 その莫大(ばくだい)な規模と腐敗の可能性に不安を抱いた中央政府は昨年、そうした不透明な借り入れを取り締まり始めた。過去4カ月間のLGFV債からの純流出額は190億ドルに上っている。 AAAより低い格付けのLGFV債への純流入額 Source: WindNote: August 2018 month-to-date. .(単位:10億人民元)2013’14’15’16’17’18-100-50050100150200250300April 2015x61.987 (単位:10億人民元) このところ中国政府は、地方自治体が今や合法化された地方債市場を通じてバランスシートに計上される借り入れを行うことを好んでいる。問題は、実際のインフラ投資のほとんどを実施しているにもかかわらず、下級の小規模都市がその市場からおおむね締め出されていることだ。その結果、7月の中国地方債の純発行額は3月の3倍だったにもかかわらず、インフラ投資は減速し続けてきた。2018年の1-7月期の発電・熱供給を除くインフラ投資額は前年同期比5.7%増で、2017年の19%増から大幅に減速している。中国最西部、新疆ウイグル自治区のある国営投資会社は最近、その社債の利払いと償還に遅延が生じたことを明かした。これを受けてLGFVのデフォルトが増加したり、社債市場がさらに急落したりする公算が強まっており、インフラ投資へのさらなる打撃となっている。 最終的には主要省市が地方債を通じて調達した巨額の資金が小規模都市にも少しずつ浸透し始めるだろう。その一方でもともと足りていない投資はさらに縮小する可能性が高く、中国政府が金融状態のさらなる緩和を迫られるようになると、初期段階にある人民元の価値上昇の継続は難しくなるだろう。つまり、2017年にわずかに低下した中国の債務の対GDP(国内総生産)比は来年にまた上昇し始める可能性があるのだ。 非常に重要な不動産市場がまだ好調を維持しているので、今回の景気刺激策が小規模になる可能性は依然として高い。しかし、中国の最高指導部は、好況時に成長に大打撃を与えることなく地方自治体の怪しげなインフラ投資を厳しく取り締まる方法、不況時に不良債務を急増させることなく手綱を緩める方法をまだ見つけ出せていない。その難題を解決できない限り、中国の長期的な見通しは暗いものになるだろう。 関連記事 • 中国債務不安再び、新疆政府系組織が返済期限守れず • 中国の社債デフォルト増加、処方薬届くか
中国産業界の未来、三一集団の工場が映し出す2016年に中国が導入したロボット台数は米国とドイツの合計を上回った 北京にある三一集団の工場(写真)では産業ロボットが溶接作業を行っている GIULIA MARCHI FOR THE WALL STREET JOURNAL By Natasha Khan 2018 年 8 月 28 日 10:05 JST 【長沙市(中国)】中国産業界の未来の青写真はちりひとつない工場「ワークショップ18」にある。ここでは紺色の制服に身を包んだ労働者とロボットが、世界で最も高いビル群にセメントを吹き付けることのできるポンプ車を製造している。 三一集団が操業するこの工場のエンジニアは、世界中で稼働している機械から、現場近くのデータセンターに集まる情報をリアルタイムで分析し、製品の改善に役立てている。インターネットに接続されているコンクリートミキサー車や掘削機、クレーン車など38万台を追跡し、1000億件を超える工学データを収集してきた。 この工場は、中国政府が進める産業強化政策「中国製造2025」に沿って産業当局が設計した。中国指導部は電力設備や電気自動車、海洋工学製品、半導体といった分野を2025年までにほぼ自給自足とする目標を掲げており、この分野の大手国内企業を育成する鍵はロボット導入やビッグデータ、その他の技術的進歩だと考えている。 中国3大重機メーカーの一角を占める三一によると、技術の統合で能力が高まり、受注から納品までの時間や操業コストが少なくとも20%減少した。三一はその技術により、自らを国内大手に押し上げた安いコピー製品ではなく革新と品質で名をとどろかせることに賭けている。 三一の最高情報責任者は「重機業界の未来はハードウエアと同じくらいにソフトウエアとデータに左右されるだろう」と述べた。 「中国製造2025」戦略はワシントンで批判を集め、トランプ政権は中国政府が自国企業を不当に強化するために補助金と保護主義を利用していると非難している。中国は自らの目標が透明であり、他国にも国内産業強化を狙った政策があると反論する。 中国政府は、他国のライバルに追いつこうとする企業を支援する国や省のプログラムを通じて多額の資金を供給してきた。当局の書類によると、ワークショップ18に似た工場の建設やそうした工場への投資を希望する企業は最大4500万ドル(約50億円)の政府補助金を申請できる。 長沙市にある三一集団の工場(3月29日) PHOTO: GIULIA MARCHI FOR THE WALL STREET JOURNAL 融資もたっぷりと用意されている。中国の開発銀行は産業当局とともに、大型プロジェクトに対する約3000億人民元(約4兆8900億円)の供給に乗り出している。 中国メーカーのロボット購入を後押しする奨励策を背景に、中国のオートメーション市場は世界最速の成長を遂げてきた。国際ロボット連盟(IFR)によると、2016年に中国が導入したロボットは過去最大の8万7000台と、米国とドイツの合計を上回った。中国政府は従業員1万人当たりのロボットの台数を20年までに150台とする方針だ。これは15年の2倍を上回る台数だが、米国の189台に比べるとなお少ない。 近代中国の生みの親とされる毛沢東が生まれた湖南省を拠点とする三一は、30年にわたって中国政府の経済目標を忠実に守っており、その事業はおおむね中国のインフラ主導経済に沿って花開いた。外国製の機械類をリバースエンジニアリング(分解調査)し、安いコピー品を作ることから始めた三一は、2000年代に中国国内で上場した同国企業の中で有数の規模だった。 北京にある三一集団の工場(3月26日) PHOTO: GIULIA MARCHI FOR THE WALL STREET JOURNAL 12年には3億2400万ユーロ(現在のレートで約420億円)を投じ、独ポンプメーカーのプツマイスター・ホールディング株の90%を取得した。 三一は中国政府による能力増大の呼びかけを受け、12年以来4つのスマート工場を建てた。リアルタイムのデータ収集プログラムは6月に李克強首相の称賛を受けた。ワークショップ18では組み立てラインへの原材料・部品運搬に無人車を使っている。 三一は数年にわたり各種の政府補助金を受け取ってきたが、主に利益の再投資によって成長し、世界8位の規模を誇る機械類メーカーになった。国内では、三一や他の中国企業が米キャタピラーなどの海外勢のシェアを奪った。キャタピラーはコメントを控えた。 建設業界出版社KHLが発表した今年の「イエローテーブル」によると、世界の建機市場における三一のシェア(売上高ベース)は3.7%だ。三一はジョージア州の工場に6000万ドルを投じるなど、米国にも少額の投資をしている。 また、東南アジアや中央アジアの途上国市場や「一帯一路」計画をターゲットにするなど、中国政府の別の目標にも力を入れている。 「共産党やその支援がなければ、三一の成功は想像しにくい」。三一が施設訪問者に見せている動画の音声はそう伝える。 三一集団の杭打ち機(3月26日) PHOTO: GIULIA MARCHI FOR THE WALL STREET JOURNAL 関連記事 • シリコンバレーで人材引き抜き、中国の飽くなき野望 • 中国の国内ハイテク産業育成策、欧州企業も懸念 • 中国が狙う米ハイテク新興企業、抜け穴はVC • 貿易戦争、技術力めぐる中国のプライドに傷
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