2018.8.19 20:11 【米中貿易戦争】中国の経済学者「勝ち目なく壊滅的」 金融市場は「無謀な戦い」中国の人民元紙幣 米中両国の事務レベル貿易協議が22日から米国で開かれる予定だが、双方の主張は依然として隔たりが大きく、摩擦解消につながるかは不透明だ。今春に始まった米中貿易戦争は、すでに中国経済にダメージを与え始めた。「中国に勝ち目はなく、はやく失敗を認めて、事態を収束すべきだ」との厳しい見方も中国国内でくすぶっている。 2期目の習近平政権が発足した直後の3月23日、中国商務省は米国による鉄鋼・アルミ製品への追加関税措置への報復として、128品目の米国製品に対し追加関税を課すと発表。問題がエスカレートした。 中国の官製メディアは「われわれはいかなる戦争も恐れていない」と強気な姿勢を崩していない。ただ、対米輸出に依存している中国経済が米国と全面対決することは「無謀な戦い」とみる投資家も少なくなく、中国の金融マーケットは敏感に反応した。 株式市場では3300ポイント前後だった上海総合指数が3月末から下落し、8月中旬には2600ポイントと約20%も下げた。人民元の為替相場も対ドルで10%近く急落した。中国は近年、経済成長率が前年比6〜7%で推移している。為替相場が下落すれば輸入コストが大幅アップするなど、成長率を押し下げる要因になる。 「中華民族の偉大なる復興」とのスローガンを掲げ、経済規模で米国を追い越すことを夢みる習政権にとって、打撃は大きい。 広東省や上海周辺で、米国からの発注激減にともない、生産停止に追い込まれる工場も出ている。中国は報復措置として、米国産大豆に高い関税を課したが、中国国内の家畜飼料は米国産大豆に依存しているため、飼料のコストが増大。7月以降、北京など都市部の豚肉の価格が高騰し、市民生活にも大きな影響が出始めている。 一方で、中国が追加関税を課す米国製品は農業分野に集中していることもあって、貿易戦争が米国経済に与える影響は今のところは限定的。ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均はこの間、むしろ5%前後上昇している。 中国の著名な経済評論家、賀江兵氏は香港メディアに対し米中貿易戦争について「勝ち目がない」と強調した上で、「いまの状態が今後2カ月以上も続くと、中国の経済は壊滅状態に突入する」と指摘し、中国当局に対し早期解決を訴えている。(矢板明夫) 2018.8.19 22:18 【米中貿易戦争】中国・清華大拠点のハッカー、米アラスカ州などにスパイ行為 米情報会社明らかに
中国・北京で清華大の門の近くを歩く人々。同大は習近平国家主席の母校で、ハッカーによるスパイ行為が指摘されている=2016年7月(ロイター) 【ワシントン=黒瀬悦成】米国と中国の「貿易戦争」が先鋭化する中、中国の有名大学、清華大(北京)を拠点とするハッカーがスパイ行為を目的に、米アラスカ州政府や同州のエネルギー・通信関連企業のコンピューター・システムに侵入を図っていたことが19日までに、米情報分析会社「レコーデッド・フューチャー」の調査で明らかになった。 同社によると、スパイ行為は今年5月下旬、アラスカ州のウォーカー知事を団長とする経済使節団が中国を訪問する前後数週間にわたって行われていた。 ハッカーらは、中国とアラスカ州との貿易協議に関する最大の焦点である石油・ガス産業の動向を探ろうとしていたとみられ、州政府に加え、州天然資源局のシステムも標的となった。具体的被害の有無は明らかにされていない。中国は同州にとり最大の貿易相手国で、昨年の対中輸出総額は13億ドル(約1430億円)以上だった。 ハッカーらはこれとは別に、中国が進める広域経済圏構想「一帯一路」で協力強化に向けた協議を進めているケニアやブラジル、モンゴルの経済権益に対するスパイ行為も行っていた。 清華大は、習近平国家主席の母校で、中国で最も権威のある大学「国家重点大学」の一つ。中国最高水準の工科系部門を擁することから「米マサチューセッツ工科大(MIT)の中国版」との異名をとり、中国の科学技術政策と密接に連携している。 中国嫌いのマハティール首相、EVでは踵返して急接近 プロトンを買収した吉李汽車と組み、マレーシアのEV大国化目指す 2018.8.20(月) 末永 恵 新たな国産車の復活を模索するマレーシアのマハティール首相。車好きで知られ、ナジブ政権によって廃止になったF1グランプリ誘致も、マハティール首相が主導した。5月の政権交代後、93歳でフェラーリを運転し、「F1レース復活もあり得る」と語る(クアラルンプール郊外) 「マハティール首相は中国の古き良き友人。ASEAN(東南アジア諸国連合)以外で初の外遊国に中国が選ばれたのは、中国に対する重要性と友情の証。今回の訪問が両国にとって利をもたらすことを期待する」 中国政府は、中国の李克強首相招待の下、17日から5日間の日程で、中国を公式訪問中のマレーシアのマハティール首相(以下、マハティール氏)の来中を前に、そう熱烈歓迎の意を表した。 外国公式訪問としては、6月末のインドネシア訪問以来、2回目。6月に5月の政権交代後、日本に初外遊し、つい先週、再度、日本(九州)を訪問した知日派のマハティール氏を“やんわり”牽制し、面子を保とうとする中国ならではの歓迎のメッセージとも捉えられる。 しかし、内心は熱烈歓迎とは無縁だ。 「中国は、61年与党政権が続いてきたマレーシアで、まさか歴史的な政権交代が起きるとは予想していなかった」(マレーシア政府関係者)という。 「PH(マハティール氏率いる野党連合「希望同盟」)だけでなく、これまでの野党の歴史や活動についてもほとんど知識がなく、ナジブ政権を支援しておけば安泰と踏んでいた中国は、新政府の情報収集に右往左往」 「当然、選挙戦中に中国側が“古き良き友人”と慕うマハティール氏を表敬訪問することは1回もなかった。選挙後、その無礼に中国政府の代表者がマハティール首相に陳謝した」と明かすほどだ。 そんな中国の“期待”を裏切って、15年ぶりに野党の代表として首相に返り咲いたマハティール氏。 今回の訪中直前の米メディアとのインタビューでも「中国主導の大型プロジェクトはマレーシアに必要ない。廃止、あるいは、延期を視野に入れている」とマレーシアの国益重視の一貫した姿勢を貫き、中国での再交渉前の戦術として、大国を揺さぶっている。 93歳の“老兵”だが、3300万人を率いる百戦錬磨の小国の“兵”だ。 さらに、14億人の大国・中国に対して、世界のメディアを前に、新政権発足直後、習近平国家主席が提唱する現代版シルクロード経済構想「一帯一路」の大型プロジェクトを財政難を理由に、中止を発表。 大国の面子をバッサリ、切りつけた。 小国とはいっても、南シナ海やマラッカ海峡など、中国の国家安全保障や一帯一路の戦略上、極めて重要な位置づけにあるのがマレーシアだ。 今回の訪問は、中止になっている一帯一路の中国主導大型プロジェクトに関する再交渉とともに、2国間での貿易、投資、インフラ開発などの経済ミッションに重点が置かれる内容だ。 6人の関係閣僚を伴って訪中するマハティール氏は、18日に浙江省杭州市のアリババ本社を訪問し、創業者のジャック・マー氏と会談。 「アリババの国家事業は、中国の人々に役立っている。マレーシアでもそのノウハウを生かしてもらいたい」とマハティール氏。 輸出拡大を目論んだ同社との共同開発などのプロジェクトなどに関する案件や、新規ビジネスについての具体化について協議した。 さらに、20日には習国家主席や李首相との首脳会談、共産党指導部との会談も予定されている。 しかし、それ以上にマハティール氏が今回の訪中で重要視している一つが、18日の中国最大の(非国営)民間自動車会社「吉利汽車」(ジーリー、浙江省台州市)の訪問だった。 マハティール氏は、 創業者で会長の李書福(リー・シューフ)氏と会談し、同社・工場などの見学。さらには最新モデルの視察とテストドライブを行った。 また、プロトンホールディングと吉林汽車が、2019年半ばまでに中国で両者の同額出資のもと、ジョイントベンチャーによる工場を新たに設置することでも合意した。 ちなみに、車マニアのマハティール氏は、93歳の今でも、後部席に護衛SP、助手席にはハスマ夫人を乗せ、クアラルンプール市内をドライブする現役ドライバーだ。 最近では、F1レース用のフェラーリを運転し、我々メディアの度肝を抜いた。この車の運転には特殊技能が要求されるからだ。 そんなマハティール首相が「わが子を失った、とてつもなく悲しい」と昨年フェイスブックに書き込んだ――。 マレーシアの国民車「プロトン」の生みの親の同氏は、昨年5月にプロトンの吉利汽車への身売り(同社が株式の49.9%を取得)が決まった直後、プロトンを失った落胆の心境を隠し切れなかったからだ。 マハティール氏が、日本の三菱自動車の支援で東南アジアで初の国産車開発に挑んだ元国策企業が、会社創業から34年にして、自動車後発組と思われてきた中国企業に買収された屈辱の瞬間でもあった。 同氏は、2003年に首相を辞任して以来、プロトンのアドバイザーに就任。 低迷するプロトンの復活を任され2014年に会長に任命され、ナジブ前首相と同社の経営戦略で対立し辞任するまでの2年間、プロトン再生に挑み、最後まで外国自動車メーカーへの身売りに否定的だった。 マハティール氏が、ナジブ政権打倒で92歳(7月10日に93歳を迎えた)の高齢であるにもかかわらず、かつての政敵、野党連合の会長を引き受け、選挙に打ってでた決定打が、ナジブ前首相が推し進めた国民車「プロトン」の中国企業への身売りだった。 総選挙の前倒し実施がささやかれていた昨年8月末での中国投資に関するシンポジウムで「野党が勝利すれば、プロトンを中国企業から奪え返す。そうでなければ新しく国産車を製造する新会社を設立する」と明らかにしていた。 今年の6月の日本経済新聞社の国際会議では、「新しい国産車を作りたい」と、日系のメーカーへの協力を求め、先週にはプロトンに次いで、第2の国産車「プルドゥア」が資本提携するダイハツの大分工場を視察。 電気自動車(EV)などの次世代カーへの可能性や協力について協議した。その上で、トヨタ自動車と日産自動車にも、同様に協力要請の書簡を送ったとされている。 新しい国産車への取り組みで、マハティール氏が6月の来日で日本に秋波を送る中、戦々恐々としたのは、プロトンを傘下に収めた吉利汽車の創業者で会長の李氏だった。 「プロトンが日系など外国企業に買収されるかもしれない」(プロトン関係者)と危惧したという。 そんな李氏と幹部の姿がマレーシアの首相府で見られたのは、マハティール氏が訪日から帰国して2週間もたたない6月末のことだった。 李会長は、プロトン株買収後に初めて来年9月にマレーシアで販売予定の「新生プロトン第1号」となるSUV車のお披露目を行い、マハティール氏にテストドライブしてもらった。 「技術的、デザインにおいても素晴らしい」とマハティール氏からお墨付きをもらい、「李会長が安堵した」(プロトン関係者)ともいわれている。 日本ではあまり染みのない吉利だが、欧米メディアでは「中国初の世界的自動車メーカーを狙う野心的企業」として注目されている。 もともとは洗濯機などを販売していたが、2輪車製造に転業。20年ほど前、李会長の高級車ベンツを一つひとつ分解し、自動車製造のノウハウを探求したという。 会長の愛車を元に戻すことはなかったが、「吉利一号」はベンツそっくりの模倣品として生まれ変わった。 当時は、日欧米の自動車メーカーだけでなく、中国政府からも援助をえず、製造した車は道路での使用許可が下りず、農道でしかテストランができなかった田舎のちっぽけな自動車製造有限会社だった。 それから20年。業界で無名だった吉李汽車は香港株式市場にも上場し、ボルボ、ロータス、ロンドンタクシー・インターナショナルを傘下に持つ中国初の世界的自動車メーカーを目指す中国の民間最大手の自動車会社に急成長した。 2017年の国内販売では、約140万台と、第一汽車、上海汽車(共に国営)などを追撃する上位5位のメーカーにまで成長した。 国営ではないが、吉利には地元浙江省の銀行が経営支援していて、李会長は習主席や李首相との政治的パイプも強いという。 中国政府は、日米欧の自動車先進国にエンジン車では勝てないと熟知していることから、エンジンのないEVによる自動運転化の先行を推進し、次世代自動車産業の「強国」になろうと国家戦略を目論んでいる。 そんな国策の下、現在、吉利は、アフリカや中央アジアに完成車輸出をしているが、ASEAN市場は未開拓だ。 マレーシアに拠点を構えれば、6月のインドネシアへの公式訪問でマハティール首相がジョコ大統領に提案したアセアンカーとして、インドネシアを皮切りに、域内全域からインドまで、からインド、さらにはボルボブランドの技術が受け入れられる英国などへの進出も、将来的な販路として開拓できる。 それは、習政権が目指す一帯一路政策に合致する西方進出と連動することにもなる。 また、ASEAN市場の攻略は、40年近く日本の自動車メーカーが完全独占支配してきた「日本の裏庭」の東南アジア市場への挑戦でもある。 これまで、欧米のフォルクスーワーゲン(VW)やゼネラル・モーターズ(GM)が進出拡大を狙ったが、失敗を繰り返した。 マハティール氏は、エンジン車では国産車の世界進出は失敗したが、EV市場を席巻する中国メーカーとEVベンチャーを開発できるかも、という夢をもう一度、抱いているのだろう。 マレーシア政府は、2030年までにマレーシアを、EV産業の「マーケティングハブ」に成長させる計画で、国内で走行する電気乗用車を20万台に引き上げ、13万か所の充電基地を設置する構想だ。 今回の吉利本社訪問では、マレーシアの部品企業などのローカルコンテントのシェア拡大や技術者など従業員の現地化など、マレーシアの国益を重視したプロトンの企業方針や戦略の見直しの提案と協議を図る狙いがある。 「一帯一路からマレーシアの国益を最大限に生かす」と話すマハティール首相。「マレーシアの誇り」を再び、取り戻せるか、93歳の執念と挑戦は続く。 (取材・文 末永 恵)
|