#内憂外患 OECD諸国の未来は 社説】米国務長官が語ったイランの重要な真実 トランプ氏のツイートの裏で行われたより注目に値する演説 米カリフォルニア州にあるロナルド・レーガン記念図書館で演説するポンペオ氏(22日) 2018 年 7 月 24 日 15:46 JST ドナルド・トランプ米大統領は21日夜にツイッターでイランのハサン・ロウハニ大統領に対し、米国を「脅す」ことをやめなければ重大な結末を迎えることになると警告した。すべて大文字で投稿されたこのツイートは、翌22日にメディアで一斉に取り上げられた。だがこれは残念だ。マイク・ポンペオ米国務長官が21日に行ったイランの実態についての演説は、トランプ氏のツイートよりも注目に値する内容だった。 ロナルド・レーガン記念図書館で登壇したポンペオ氏は、イスラム革命を拡大させようとするイラン政権の熱意が指導者たちに資金を一般国民の福祉ではなく、「テロリストや独裁者、代理勢力」に流させることになったと指摘。実名や具体例を挙げてイラン政府の汚職を非難した。 イランのサデク・マハスーリ内相はイラン革命防衛隊(IRGC)と関係のある企業から「建設や石油取引をめぐる多額の契約」を獲得していると指摘。イスラム教シーア派最高権威(大アヤトラ)のマカレム・シラジ師を「砂糖のスルタン(君主)」と呼び、同氏がこれまで事業で1億ドル(約111億円)以上の収益を上げてきたことに言及。また最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の「セタードと呼ばれる帳簿外の個人的なヘッジファンドは950億ドル規模」だとし、この非課税の資金は「IRGCの裏金」として使われていると断じた。 「イランは政府よりもマフィアに近い組織に運営されている」とポンペオ氏は続けた。 同氏はイランの反政府デモを支持する姿勢も示した。「あなたたちの声は米国に届いている。米国はあなたたちを支持し、あなたたちと共にある」。何百万人もの人が検閲を迂回(うかい)する技術を利用し、海外のニュースに耳を傾けているため、この言葉は一般のイラン国民に伝わるだろう。ポンペオ氏はまた、米放送管理委員会(BBG)が「24時間・年中無休のファルシ語放送」をイランの視聴者向けに間もなく開始すると発表した。いいアイデアだ。 ポンペオ氏は他国にもイラン政府に「圧力をかける運動」に参加するよう呼びかけた。これは中でも、むしろイランとの取引で利益を上げることを望む中東や欧州の同盟国に向けられたものだ。フランス政府はポンペオ氏の呼びかけを検討するかもしれない。同国では先日、パリ付近で開かれるイランの反体制派の抗議集会を狙い、イラン政府の支援を受けたテロが計画されていたことが明らかになったばかりだ。 イランの悪政に対するトランプ政権の方針については、ポンペオ氏とニッキー・ヘイリー米国連大使が包括的かつ緻密な主張を準備している。過激なツイートよりもその方がイラン政府の注意をよっぽど引くだろう。 関連記事 トランプ氏、イランに「2度と脅迫するな」と警告 イランと米国の応酬激化、トランプ氏の警告に対抗 【オピニオン】ポンペオ国務長官、トランプ政権を語る トランプ氏支持率、最高の45% 共和党系の支持拡大=WSJ調査 【社説】オバマ氏のイラン核合意、その始末
トランプ氏の支持と不支持、両極端に広がるばかり 好きでも嫌いでもない「中間」の人はごくわずか トランプ大統領(写真)を支持する有権者と支持しない有権者の気持ちの度合いは両極端に広がる一方だ PHOTO: MICHAEL REYNOLDS/EPA-EFE/REX/SHU/EPA/SHUTTERSTOCK By Gerald F. Seib 2018 年 7 月 24 日 11:08 JST ――筆者のジェラルド・F・サイブはWSJチーフコメンテーター *** ドナルド・トランプ米大統領は3年前に、自らの名を冠したニューヨーク・マンハッタン5番街の超高層ビルのエスカレーターで降りてきて大統領選への出馬を表明した瞬間から、米国民を分断してきた。 その「トランプの分断」は今、より広く、より深くなりつつある。 トランプ大統領が次々と論争を引き起こす中で、同氏の支持派、反対派双方とも意見は強硬になり、支持派は大統領をより熱狂的に擁護し、批判勢力はより激しく反発するようになっている。その中間派の人々はもともと多くなかったが、今では2月の花壇のように、ごくわずかになった。 現時点では、この傾向を反転させる材料を見つけることは難しい。トランプ大統領は確かに、批判勢力を取り込むために譲歩する気はなさそうだ。それどころか、しばしば逆の行動をとっているようにみえる。つまり、批判勢力からさらに反感を買おうとしているようだ。 その一例は、今月のヘルシンキでの米ロ首脳会談で、トランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領を公然と非難したがらなかったとの批判が噴出した後の対応だ。トランプ氏は、一部発言を撤回したものの、その後すぐに、プーチン氏を米国に今秋招請し再度首脳会談を行う意向を表明することで、再び前進方向へギアを入れ直した。これに対して批判勢力が文句を並べ立てたとしても、それはトランプ氏にとっては望むところだったようだ。 一方、トランプ氏の支持者らは移民やロシア、貿易をめぐる同氏の政策措置について疑念を抱いていても、同氏に対する支持をますます強めているようにみえる。「トランプ氏がメディアに批判されればされるほど、同氏の支持基盤は彼の下に結集するようだ」と、民主党系の世論調査専門家フレッド・ヤング氏は分析する。 こうした傾向はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCニュースによる最新の共同世論調査結果からもうかがえる。同調査は、ヤング氏と共和党系の世論調査専門家ビル・マッキンターフ氏、さらに両氏の会社が行った。先週実施された同調査では、トランプ氏の支持率は45%で、前月の調査を1ポイント上回り、大統領就任以来の最高となった。今回の調査は、トランプ氏のこれまでの尺度からみても異例といえる混乱を来した過去2週間の最終段階に行われたにもかかわらず、である。 トランプ氏の支持率は、歴代大統領の就任後の同じ時期で比較すると歴史的な低水準にとどまっている。それでも、目を引くのはトランプ氏の支持基盤の堅さである。共和党を支持する有権者の間での支持率は88%と群を抜いている。与党支持者の間でのこの時期での支持率としては、9・11同時多発テロ直後のジョージ・W・ブッシュ大統領以来の高水準となった。 さらに、トランプ氏の仕事ぶりを強く支持するとの回答は29%に達した。これまでの最高水準だ。 トランプ氏が共和党支持者を基盤としているのは明白だ。だがその共和党支持者は、最も大きな物議を醸す同氏の政策のいくつかについて、実のところ疑問視している。トランプ氏がロシアのプーチン大統領と友好な関係を築くために懸命に努力していた間でさえ、共和党有権者のなかでプーチン氏に好意的な人はわずか8%にすぎなかった。 ただ、それと同時に、こうした親トランプ感情の強さは、反トランプ感情の強さには及ばない。全有権者のうち、トランプ氏の仕事ぶりを支持しないと回答した有権者は52%で、このうち強く支持しないと回答した人は44%と驚くほどの高さになった。 また共和党支持者と民主党支持者の見方のギャップがこれほど大きく開いたことは過去になかった。実際、WSJ/NBCニュースの共同世論調査において、党派別で最も大きな差だった。トランプ氏の仕事ぶりを支持すると回答した民主党支持者はわずか9%にとどまり、強く支持しないと回答したのは80%に達した。 この中間の人たち、つまりトランプ大統領に対して意見が定まっていない人はどの程度いるのか? それは極めて少ない。トランプ氏に対する個人的な思いを問われ、中立的だと回答した人の割合はわずか9%だった。 自身の支持者のなかにさえもトランプ氏について支離滅裂で困惑させられると思う向きが少なくない状況において、同氏はいかにして支持基盤を維持できているのか。これは最も興味をそそられる疑問だ。 まず、強い経済のおかげでトランプ氏が支持と寛容を得られている面があることは無視できない。政治的には、着実な雇用の伸びが、他の多くの疑問を覆い隠すことができている。だがそれはまた、経済が悪化すれば、トランプ大統領にとってとりわけ危険であることを意味する。 トランプ氏の支持層の中核を成すグループは経済的な理由で同氏を支持する人々と、文化的な理由で同氏を支持する人々だ。前者は、グローバル経済とそのルールが自分たちに不利に働いているという信念でトランプ氏に引き寄せられている人々。そして後者は社会のエリート層や移民、そしてリベラル派が自分たちの伝統的な生活スタイルを乗っ取ろうとしているとの考え方にトランプ氏も共鳴しているとの思いで同氏に引き寄せられている人々だ。 彼らが同氏を支持するのは、経済的な要素が大きいのか、あるいは文化的な要素のほうが大きいのか、それを判断するのは時に難しい。大統領選でトランプ氏の選対本部長を務めた、ポピュリスト(大衆迎合主義者)のスティーブン・バノン氏は、この区別は重要でないと話す。同氏は「ポピュリストおよびナショナリスト運動にとって、経済的なものが文化的なのだ」と語った。 いずれにせよ、トランプ大好き人間とトランプ大嫌い人間を峻別(しゅんべつ)しているラインは、これまでも見つけるのが難しいことはなかったが、最近ますますはっきりしているように見える。 関連記事 • 貿易紛争、逆風の米農家にトランプ氏支持の声 • トランプ関税で明暗分かれる州、中間選挙どうなる トランプ政権、首脳電話協議の公表中止 米報道 トランプ政権 北米 2018/7/25 10:42 【ワシントン=中村亮】米CNNテレビは24日、米ホワイトハウスがトランプ大統領と外国首脳の電話協議の内容を発表しなくなったと報じた。発表は米政権の方針を反映するケースが多く、トランプ氏の主張を世界に発信できなくなる公算が大きい。恒久的措置となるかは現時点で不明という。 CNNによると、トランプ氏は最近2週間で少なくとも、トルコのエルドアン大統領とイスラエルのネタニヤフ首相と電話協議した。ホワイトハウスは相手国が電話協議の内容を発表した後に協議の事実を認めたが詳細な内容は明らかにしなかったという。公表中止が続けば国民に対する政権の透明性が下がる。 情報発信はトランプ政権の大きな課題になっている。トランプ氏は16日の米ロ首脳会談でロシアのプーチン大統領との1対1会合に臨んだが詳細を明らかにしていない。ロシア側は安全保障政策などで合意があったと主張。一方、米国側は合意を否定している。米政府高官も詳細を知らされていないという。 WSJ トランプ政権、首脳電話協議の公表中止 By Vivian Salama 2018 年 7 月 25 日 12:33 JST
米ホワイトハウスは、ドナルド・トランプ大統領が外国首脳と行った電話協議の概要公表を取りやめる。事情に詳しい関係者が明らかにした。これまで電話協議の内容はその都度公表されてきたが、長年の慣例が破られることになる。 関係者によると、ホワイトハウスは政府機関の顧問には引き続き協議内容を伝えるが、報道機関向けには要請があった場合のみ概要を開示するという。サラ・サンダース大統領報道官は次回の記者会見でこの問題について見解を示すとみられる。ホワイトハウスがなぜ慣例を変える決定をしたのかは現時点で明らかになっていない。 この変更については最初にCNNが報じた。 ホワイトハウスは、米大統領と外国首脳が電話協議を行った場合、具体的な詳細や見解の相違には触れず、協議の概要を公表してきた。多くの外国首脳も同様の文書を公表している。
同盟不況がやってきた 本社コメンテーター 秋田浩之 2018/7/25 2:00 日本経済新聞 電子版 同盟を軽視するトランプ米大統領の言動が、欧州やアジアに不安を広げている。だが、彼の振る舞いを批判するだけでは、問題の本質はみえてこない。 米国主導の同盟が揺らいでいるのは、同盟不況ともいえる構造変化の波に、世界が洗われているからだ。トランプ騒動はそれがもたらした「症状」であって、原因ではない。 経済がそうであるように、需要が減れば、同盟も不況に陥る。いま、世界はそんな状態にある。いちばん大きな原因は、約30年前の米ソ冷戦の終結だ。 ソ連のような巨大な共通の敵対国はもういない。中国は安全保障上の懸念だが、経済では切っても切れない協力相手だ。このため、長い年月を経て同盟の需要がしぼみ、米国と友好国にもあつれきが生まれているのだ。 核やテロ、サイバー攻撃など、世界にはなお脅威が拡散している。いま同盟が壊れたら、世界は不安定になってしまう。 トランプ氏は同盟不況の根本原因ではないにしても、明らかに追い打ちをかけてはいる。ツイッターだけでなく、首脳の公式会議でも、リーダー国としてあり得ない発言を重ねているからだ。 内幕を知る外交筋によると、6月の主要7カ国首脳会議(サミット)では次のように開き直り、皆をあぜんとさせたという。 メルケル独首相 保護主義策はよくない。世界貿易機関(WTO)の原則にも反する。 トランプ氏 WTOルールに縛られるのはごめんだ。 メルケル氏 でも、あなたはWTOのメンバーでしょ。 トランプ氏 いまはそうだ。だが、あすには脱退するかもしれない。 そのうえで彼は、米欧軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)がお荷物であるかのように、こう言い放ったらしい。 あなたたちは米国に巨額の貿易赤字を強いておきながら、防衛を米国に頼っている。国防支出は、国内総生産(GDP)の2%にも満たないではないか――。 似たような応酬は、7月11〜12日のNATO首脳会議でも繰り返された。 確かに、米国はNATO全体の国防費の約7割を、独りで負担している。NATOは国防支出をGDP比2%にふやす共通目標をかかげるが、29カ国のメンバーのうち、達成しているのは8カ国にすぎない(今年度見通し)。 アジアに目を向ければ、日本の防衛費はさらに少ない0.9%だ。米政権の国防ブレーンによると、トランプ氏もこの点に気づいており、「いずれ深刻な日米対立に発展しかねない」。 彼は表立った批判を控えているが、伏せられた会話では、安倍晋三首相に一層の防衛努力をやんわりと促すことがあるという。 むろん、米国が一方的に損をしているというトランプ氏の同盟観は正しくない。在外米軍は受け入れ国から多額の駐留経費を払ってもらっており、「米本土にいるより経費は安い」(日欧外交筋)。 試算によると、米国は2030年代末までにGDPと軍事費で中国に抜かれる可能性がある。米国を再び「偉大」にする公約をトランプ氏が果たすには、さらに強い同盟が必要になるはずだ。 しかし、こうした反論を浴びせても、彼が考えを改めるとは思えない。むしろ反発を強め、もっと意固地になるだけだろう。 では、米国の同盟国である欧州や日韓、オーストラリアはどうすればよいのか。まず、この混乱はトランプ政権が終われば去るような「通り雨」ではなく、根深い同盟不況に基づくものだ、と受け止めるべきだ。 同盟不況には、主に2つの原因がある。すでにふれたように、ひとつは1991年のソ連崩壊だ。冷戦中、米国は国家の存亡をかけてソ連と対峙した。西欧や日韓の防衛を大きく支えたのは、そのための防波堤だったからだ。 ソ連が消えれば、そうした理由は薄れる。7月の米世論調査によると、NATO各国が国防費をふやさないなら、米国は防衛義務を果たさなくてもよいとの回答が、約半数にのぼった。 第2の原因は、01年の米同時テロ以降、アフガニスタンや中東で続く米国の戦争だ。近代史上、これほど長く米国が戦争した例はほとんどない。第2次世界大戦や朝鮮戦争は4年足らず。ベトナム戦争も本格介入は約10年だ。 戦争に疲れた米国は、オバマ前政権の時から内向きになっていた。米国は「世界の警察官」ではないと宣言し、NATO各国にGDP比2%の国防支出を迫ったのはオバマ氏だった。 この流れは一過性ではなく、「トランプ後」も続くだろう。欧州と日韓は少なくともそうした前提に立ち、防衛戦略を立てる必要がある。すでに欧州連合(EU)は、米国抜きの安保協力を強めようとしている。英仏の核戦力を生かし、欧州独自の「核の傘」を築くべきだという声も聞かれる。 多国間の安保体制がないアジアは、欧州のようにはいかない。日韓豪は防衛の自助努力をふやす一方で、インドや東南アジアにも協力を広げ、緩やかな安保協力網をつくる。そこに米国を組み込み、米国の関与が息切れしないようにすることが大切だ。 トランプ氏に右往左往しても始まらない。彼の出現を逆手にとり、同盟の治療を急ぎ、致命傷を防ぐのが上策である。
ロシアのハッカー、米電力会社の隔離ネットワークに侵入していた Steven Musil (CNET News) 翻訳校正: 緒方亮 高森郁哉 (ガリレオ)2018年07月25日 10時57分 ロシアのために働くハッカーたちが2017年、米国の電力会社の制御室にアクセスすることに成功し、停電を引き起こせる状態にあったと、連邦関係者がWall Street Journal(WSJ)に語った。
このハッカーたちは、かつて「Dragonfly」や「Energetic Bear」として認識されていた、ロシアが支援するグループで働いていた。彼らは、電力会社と関係のあるサードパーティーのベンダーに属するネットワークをハッキングすることで、電力会社の隔離ネットワークに侵入したと、米国土安全保障省(DHS)が米国時間7月23日の記者会見で明らかにした。 WSJによると、この活動では「数百件もの被害」があり、活動は今も続いている可能性が高いと、関係者らは述べた。 DHSで産業用制御システムの分析の最高責任者を務めるJonathan Homer氏は、WSJに対し、電力を不通にする「スイッチを操作できるところまで到達されていた」と語った。 DHSは24日の声明で次のように述べた。「エネルギー企業と非エネルギー企業が何百社も標的になっていたが、産業用制御システムのアクセス権を入手された今回の事件の対象は、規模がとても小さい発電資産だった。電気が通らなくなったとしても、その他の電力網への影響はなかっただろう。過去1年間、この活動を継続的に調査して、こうした脅威に備える業界に有益であろう追加情報を学んだ」 国のエネルギーや核といった極めて重要なインフラを運営している組織は、大停電や交通信号の停止など、混乱を直接引き起こすことができることから、近年はサイバー攻撃の標的になることが増えてきた。こうした組織は、ソフトウェアが古くインフラのアップグレード費用が高いことから、システムが脆弱なことが多い。 https://japan.cnet.com/article/35122992/ ロシアのハッカー、米電力制御システムに侵入 大規模な停電が起きていた可能性も 米国土安全保障省の当局者は、米電力会社の制御システムにロシアのハッカーが侵入していたと発表 By Rebecca Smith 2018 年 7 月 24 日 15:26 JST ロシアとつながりのあるハッカー集団が昨年、大規模かつ長期にわたる活動で電力会社の制御ネットワークに不正侵入し、「数百人に被害を与えた」ことが分かった。米連邦当局者が明らかにした。停電を引き起こす可能性があったほか、ハッキングは現在も続いている見込みが高いという。 米国土安全保障省の当局者によると、「ドラゴンフライ」や「エナジェティック・ベア」などの名で知られるロシアのハッカー集団は電力会社が運営する、本来は安全とされる「エアギャップ(隔離ネットワーク)」に比較的たやすく侵入したという。 「彼らはスイッチを入れたり切ったりできるポイントまで達していた」ため、電力の流れを遮断することも可能だった。同省の産業制御システム分析責任者、ジョナサン・ホーマー氏はこう話す。 同省は2014年から公益企業幹部に対し、基幹インフラを狙うロシアの脅威に対して安全チェックを怠らぬよう警告してきた。23日の発表は、同省が公表できる範囲で最大限の情報を提供する初の機会となった。引き続き被害者の名称は伏せたが、以前言われていたように数十単位ではなく、数百単位の被害者がいると述べた。 さらに同省は、一部の企業はいまも自分たちが不正アクセスを受けたことに気づいていない可能性があると指摘。実在の社員のIDやパスワードを使ってネットワークの内部に入り込むため、侵入を察知するのがより難しくなる可能性があるという。 ロシアは基幹インフラを標的にしたという見方を否定した。 ホーマー氏によると、このサイバー攻撃が米国で発覚したのは2016年春で、2017年まで被害は続いた。公益企業と信頼関係にあるベンダーがソフトウエアの更新や設備状況の診断、その他のサービスを実施するために特別なアクセス権を持っていることを利用したという。 ハッカーが使ったのは以前からあるフィッシングメールやウォータリングホール(社交場)攻撃などの手法で、偽サイトにパスワードを入力させたうえ、サイバーセキュリティー予算が十分でない下請け業者のネットワークを通じて不正侵入するものだった。 同省はロシアが攻撃の自動化を試みているのかどうかを示す証拠を探っている。また、捜査当局によると、ハッカー集団による侵入が大規模な攻撃の準備を目的としたものであったのかは不明。 [訂正]第1段落の表現を訂正します 関連記事 仮想通貨業者はハッカーの「カモ」、被害が増加 米で身代金ウイルス拡大、新たな標的は「地方政府」
米国でも進む高齢化、減りゆく家族介護世帯人数が減って家族が遠く離れて暮らすようになった今、高齢者の介護は誰が担うのか By Clare Ansberry 2018 年 7 月 25 日 12:10 JST 更新 クレスタ・ディクソンさん(86)は結婚せずに生きてきた。教員を退職し、今はウエストバージニア州ビエナにあるアパート「プレザントビュー・タワーズ」の2階の部屋で一人暮らしをしている。高齢者と障害者用の同アパートには政府が補助金を支給している。 かつては年老いた両親と3人で暮らすため、一戸建ての家を購入したこともある。その両親はずいぶん前に亡くなった。弟は82歳だ。子どもはおらず、自分はどうなるか「いつも考えている」とディクソンさんは言う。 クレスタ・ディクソンさん PHOTO: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL 米国ではこれまで、家族の介護のおかげで高齢者が自宅で暮らすことができた。しかし今は家族が近くにいない高齢者が増えている。 退職年齢を迎えた人達の経済状況は厳しい。社会保障給付や退職基金の受け取りを含めた平均収入は何年も増えていない。一方で負債額は多い。高齢の親の面倒を見ることで生じた負債もある。自分が家族の世話になる番だと思っても、世帯人数が少なかったり家族が遠くに住んでいたりして、その引き受け手がいないという状況もある。 現在、50歳以上を無償で介護している人は推計3420万人で、その約95%が家族だ。2017年のメリルリンチの調査によると、無償介護の担い手は1年間に推計5000億ドル(約56兆円)相当のサービスを提供しており、その額は低所得者向けの公的医療保険制度(メディケイド)が専門家による長期介護に支払う金額の3倍だ。彼らのおかげで高齢者は費用がかかる施設に入所せずに生活することができる。 1日当たり1万人が65歳を迎えている今、無償介護の担い手はかつてないほど必要とされている。2010年には4000万人だった65歳以上の人口は、2020年には5600万人に達する見込みだ。 しかし、介護の手は減りつつある。これは主に家族関係の変化によるものだ。 米国科学アカデミーの2016年の研究によると、「家族内で子どもの数が減り、未婚や離婚経験のある高齢者が増える傾向にある。成人した子どもは親から遠く離れた所に住んでいるか、1人以上の大人か自分自身の子どもの世話をしている可能性が高い」 多くの高齢者にとって民間は選択肢にはならない。民間在宅介護の需要は今後10年間で供給を300万人以上も上回る見通しだ。供給に余裕があったとしても、多くの人金銭的な余裕がない。長期介護保険会社ジェンワースが2017年に実施した調査によると、フルタイムの在宅介護者を雇うには、平均で年間4万9000ドルの費用がかかる。 公的支援も追いついていない。高齢者向け公的医療保険(メディケア)などの政府の制度は高齢者が自宅で暮らすために必要な長期支援サービスのほんの一部を担っているにすぎない。介護施設は個室で年間10万ドル近い費用がかかるが、メディケアは原則として長期介護入所の費用は負担しない。 個人が預金や株式などの資産を使い切ると、メディケイド――必要に応じて給付を行う連邦政府と州政府の共同プログラム――がほとんどの介護施設費用を支払う。ただ適用範囲や受給資格は州によって異なる。 家族は支援をつなぎ合わせてやりくりしているが、高齢者が股関節でも痛めればほころびが生じる。元夫が元妻の世話をしたり、遠くに引っ越した友達の親を幼なじみが見守ったりしている。自分でなんとかする高齢者もいる。 ベビーブーム世代の人達は介護をしている人も多いが、間もなく介護される側に回る。誰に介護してもらえるのか分からないという人は多い。 コンサルティング会社エイジ・ウェーブのケン・ダイチトワルド最高経営責任者(CEO)は「今後は非従来型の介護に目を向けざるを得ないだろう」と話す。買い物や修理を手伝う下宿人を置いたり、見守り装置や配達サービスにこれまで以上に頼ったりしなければならないかもしれないという。 遠距離介護 成人した子どもが引っ越し先から長距離介護をするケースが増えている。 シェリー・クーリーさん(56)はフロリダ州で暮らしている。たった1人のきょうだいもフロリダ在住だ。80代の両親はそこから1200キロ以上離れたオハイオ州で暮らす。長年、消防署長を務めた父親のチャド・クーリーさんは2013年にアルツハイマー病と診断され、シェリーさんが会いに行っても娘と分からない。 「本当に私の娘か」。最近、チャドさんはこう言った。シェリーさんがそうだと言うと、チャドさんは「なぜ覚えていられないのか」と言って泣き始めた。 父親が攻撃的になり、外を歩き回るようになったため、シェリーさんは振り回されている母親のスーさんが心配になった。シェリーさんときょうだいは1カ月半ごとに交代で両親に会いに行き、2人がいない間は友達や親せき、知り合いの手を借りている。 介護士の身元確認や請求書の管理、食料品の手配など、子どもは遠くからできることをしているが、病院に連れていけなくて心苦しく思ったり、親の具合が分からなくて不安になったりすることも多い。 テクノロジーのおかげで遠くにいても緊急事態の連絡を受けたり、家族が連絡を取り合ったりすることはできるが、食料が冷蔵庫に入っているか確認することはできない。現場で介護を仕切るのは看護師やソーシャルワーカーなどのケアマネージャーだが、1時間で50ドルから200ドルの費用がかかる。 シェリーさんにとって頼りになるのは両親の近くに住む親類や、幼稚園のころからつきあいのあるカイ・テイラーさんだ。母親が買い物に出られるようテイラーさんが父親に付き添うこともあった。 シェリーさんの両親 PHOTO: SHELLY COOLEY HOCE シェリーさんはフロリダに引っ越してくるよう両親の説得を試みたが、母親は自分と夫が生まれ育ったオハイオ州アセンズを離れたくない。シェリーさんもその気持ちは分かるが、母親の負担が心配だった。「(オハイオに)行かなくてはといつも思う」とシェリーさんは言う。 2週間前に両親の家から帰宅したシェリーさんはその2日後、オハイオに戻った。父親が軽い心臓発作を起こしたからだ。シェリーさんは母親と一緒に1日中付き添わなければならなかった。父親がアルツハイマーの患者だからという理由もあるが、病院のスタッフが父親に薬を飲ませることができなかったことも理由の一つだった。 父親は今月17日に退院し、アセンズの介護施設に移った。そこには同じくアルツハイマー病を患う父親のきょうだいも暮らしている。2人は今、ルームメートだ。シェリーさんによると、2人が互いを思い出し、同じ部屋にいることを喜んだこともあったそうだ。 ボランティアが支え 高齢者はボランティアに頼ることも多く、そうした支援を提供する仲介機関に対する需要が高まっている。 ビバ・ジェーン・ノエルさんはペンシルベニア州ラトローブに暮らしている。ノエルさんは93歳で、夫は既に他界した。視力のほとんどを失ったノエルさんが頼りにしているのはメアリー・アン・クルストンさん(60)だ。 2人が出会ったのは17年前。「それ以来、友達付き合いしている」(ノエルさん)。2人は少なくとも1日に1度は電話で話し、一緒に食事に出かけたり、ノエルさんの誕生日を祝ったりしている。 クルストンさんは「ローレル・フェイス・イン・アクション」という団体に所属するボランティア。ノエルさんを食料品の買い出しや病院に連れて行ったり、ノエルさんのために郵便を読み上げたり、処方された薬を取りに行ったりしている。ガレージのペンキ塗りをしたこともあった。この団体の他のボランティアと同じく、クルストンさんには報酬が支払われず、交通費の払い戻しも受けていない。 ノエルさんには60代の娘が2人いるが、1人はカリフォルニア州、もう1人はウィスコンシン州で暮らしている。娘らは定期的にノエルさんと話し、遠くからできることはしている。ノエルさんが肋骨を折ったときは、下の娘が家事支援を手配した。自宅で暮らしたいノエルさんに引っ越す気はないため、娘2人はクルストンさんが母親の身の回りを世話してくれることに感謝している。多くの高齢者と同じように、ノエルさんにとっては死ぬことよりも老人ホームのほうが怖いのだという。 ビバ・ジェーン・ノエルさん (93)の身の回りの世話は、ボランティアのメアリー・アン・クルストンさん(60)が無償で手伝っている PHOTOS: STEPHANIE STRASBURG FOR THE WALL STREET JOURNAL(3) ノエルさんが膝の手術を受けると、クルストンさんはノエルさんの家に泊まりに行った。「私が一緒にいなければ、彼女は介護施設に行かなければならないだろう。本人がそれを望んでいないことは分かっていた」(クルストンさん) ローレル・フェイス・イン・アクションのジェーン・カー事務局長によると、同団体が昨年にサービスを提供した60歳以上の高齢者は454人に上る。同じ地域に成人した子どもが住んでいても、仕事を掛け持ちしていたり、子育て中だったりすることが多いという。 この団体を含め700近いプロジェクトが全国規模のボランティア介護ネットワークの下で活動している。ネットワークは高齢者が自宅で生活できるよう、1年に推計39万2000人に奉仕している。 元妻を見舞う元夫 1990年から2010年の間に、50歳以上の離婚率は2倍に上昇した。これは介護の担い手になる配偶者が減ったことを意味する。 ノーム・ウィーンさん(80)が元妻のカレンさんと離婚したのは1976年。その後は連絡を取っていなかったが、今は少なくとも週に一度は見舞いに出かける。カレンさんは認知症を患っており、ユダヤ系の団体が運営するペンシルベニア州ピッツバーグの施設で暮らしている。 ウィーンさんが元妻の様子を見に行く理由は主に2つある。遠くカリフォルニア州で暮らす娘のエミリー・ウィーン・ファガンスさん(47)の役に立ちたいというのが第一の理由だ。ウィーンさんはカレンさんの写真を撮って娘に送り、何か変わったことがあれば知らせている。 第2の理由は、1980年代初めに自身が受けた好意への恩返しの意味合いがあるという。 当時、ウィーンさんの父親はアルツハイマー病を患っていて、母親の具合もよくなかった。両親はニュージャージー州、ウィーンさん自身はピッツバーグと離れて暮らしていた。560キロの距離を行き来するのは難しく、母親が困ったときは近所の人が助けてくれた。「今度は私の番だ」とウィーンさんは語る。 カレンさんはウィーンさんのことをいとこや父親と間違えたりする。ウィーンさんの今の配偶者は在宅の医療従事者として働いていたことがあり、一緒にカレンさんの元を訪れている。2人が部屋に入ると、カレンさんはうれしそうな顔をする。 娘のエミリーさんは、母親をカリフォルニアに連れてくるのは良い選択肢とは思えないと話す。支援付き住宅や認知症介護の費用はサンフランシスコ地区のほうがはるかに高い。ピッツバーグには父も、見舞いに来てくれる母の友人もいる。 エミリーさんは両親の結婚が6年しか続かなかったのに、父が自分の代わりに母に会いに行ってくれることに感謝すると同時に、父のやさしさに感動していると話した。 年老いた孤児 中年に達した人の3分の1は独身のまま引退生活を迎える。特に女性は年を取るにつれて、独身のままでいるか独身に戻る傾向が強い。 AARP公共政策研究所によると、体が弱った高齢者の約14%(約200万人)には子どもがおらず、その数は2040年までに倍増すると見込まれている。 高齢化問題の専門家は、こうした人達は自分で動けるうちにネットワークを構築する必要があると指摘する。クレスタ・ディクソンさん(86)はそれを実行した。 「人付き合いの場が必要」と語るクレスタ・ディクソンさん(86) PHOTO: MADDIE MCGARVEY FOR THE WALL STREET JOURNAL 両親が亡くなると、ディクソンさんは自宅を売り、アパートに引っ越した。同世代の人達と付き合いたかったからだ。今は近くの部屋の男性が週に2回、捨てるゴミはないか聞きに来てくれる。ディクソンさんは自分が読み終えた地元紙を3階に住む女性のところに持っていく。 毎週木曜の夜はTOPSという減量クラブの会合に出席する。「人付き合いの場が必要」とディクソンさんは言う。 車の運転は6年前にやめて、フェイスリンクというボランティア団体に送迎サービスを申し込んだ。コーディネーターのメリッサ・オグデン氏は「クレスタさんの自立を支えるのが私たちの役目」と話す。 日曜の礼拝には教会のバンが連れて行ってくれる。週に2ドル払えば高齢者用のバンで ウォルマート に行ける。温かい食事はキリスト教慈善団体の救世軍が1食1ドルで届けてくれる。「これ以上望むものはない」とディクソンさんは語る。 昨年の秋、ディクソンさんは82歳の弟ジャックさんを代理人に指名した。ディクソンさんの家の冷蔵庫には弟夫婦やその家族の写真がたくさん貼られている。「これからどのくらい生きなければならないか、私と弟のどちらが先に行くのか考える」とディクソンさんは言う。 ディクソンさんが通う教会には支援付きの施設がある。必要になったらそこに移りたいが、個室と共同の風呂で1カ月約3000ドルという費用が心配だ。 「個室の費用はまかなえない」と言うディクソンさん。どうしたら一部屋の半分に持ち物が収まるか考えている。昨年のクリスマスには親戚に絵画を2つ譲ったという。 関連記事 • 米シニア世代の苦境、備えなく人生終盤に • 高齢化する米ベビーブーマー、その厳しい末路 • 米国の高齢化加速、2035年には老若逆転へ
米シニア世代の苦境、備えなく人生終盤に 老後の財務状況、前の世代より悪化するのは戦後初 債務や医療費、高齢の親の支援などがのしかかるシニア世代 THE WALL STREET JOURNAL By Heather Gillers, Anne Tergesen and Leslie Scism 2018 年 7 月 6 日 09:20 JST いま引退年齢に差しかかっている米国人は、前の世代よりも悪化した財務状況に直面する。ハリー・トルーマン元大統領の時代以降、こうした事態に陥るのは初めてのことだ。 人生の円熟期を迎えようとするシニア世代。だが社会保障や年金基金の給付金を含めた彼らの収入の中央値はここ何年も横ばいのままだ。1950年代以降は増え続けるのが当然だった。 一方で平均債務水準は高い。子供たちの教育ローンを返済している場合も多い。年老いた親の面倒を見るため、貯蓄を少しずつ取り崩してもいる。確定拠出年金(401k)がもたらす収入は微々たるものだ。2人世帯の場合、支給額の中央値は年間8000ドル(約88万円)にも満たない。 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の分析によると、世帯主が55〜70歳の家庭では、引退後も生活水準を維持できる資金のない世帯が40%以上あることが判明した。約1500万世帯がこれに相当する。 影響は幅広い層に及ぶ。先月発表された新しい国勢調査データによると、ベビーブーマー世代の引退が急増し、その結果、より少ない若年労働者が高齢者層を支えることになる。 70歳を過ぎても仕事をやめない人や、単純労働を引き受ける高齢者が今後は増えるだろう。子供の資金援助に頼らざるを得ないため、若い世代をも苦しめることになる。 企業は彼らの豊富な経験に頼る一方で、引退時期を延ばすことによる問題に取り組まなければならない。つまり、健康面の衰えに伴うコストを負担し、高齢労働者に再教育を施すことが必要になる。 米国全体で見れば、引退後の収入不足は公的資金が大量につぎ込まれる前兆となる。特にシニアが課税対象の支出を減らし、当局が高齢者への公的扶助費を増やすと決めればなおさらだ。 「この世代は自力で乗り切るしかない」。ボストン大学退職研究センターのアリシア・マンネル所長はこう話す。引退後の生活水準に関しては同センターの推定値および国勢調査データに基づいてWSJが判断した。 アイオワ州在住のクレッグ・ウィットマイヤーさん(56)は以前、安定した老後のために自分が正しいことをしていると考えていた。ベビーブーマー世代の多くも同様だ。彼は20代で401kに加入した。だが34歳で離婚。このとき全額を引き出した。再び積み立て始めたが、5年後に失業。また全額を引き出したという。 ウィットマイヤーさんの老後資金は現在10万ドルを若干超える程度。娘の学費ローンが9万2000ドル残っている。自分はいつ引退できるのか、あるいは引退してよいのかどうか分からないと語る。自分の親世代が置かれた立場とは正反対だ。元消防士と元教師の父母は、年金受給が保証されている。「老後の蓄えなど一度も心配したことがない」 こうした見通しは、高齢者の経済的安定が改善され続けた数十年来の状況を一変させる。戦後しばらくは、社会保障に加えて、政府や企業から確定給付年金が支給されることで、数百万人の収入が保証されていた。経済成長に伴って賃金も上昇した。多くの人は親世代よりも良い財務状況で老後を迎えることができた。 そんな時代は終わった。ベビーブーマーは401kなどで老後資金を自己責任で運用するよう促された初の世代だ。その結果、投資判断でミスした人、十分資金がたまらなかった人、様子見でスタートが遅れた人などが続出した。 以下に考えるべきポイントを挙げよう。 ・非営利(NPO)調査機関アーバン・インスティテュートがWSJの依頼で国勢調査データを分析した。それによると、55〜69歳の米国人の個人所得中央値は2000年から横ばい状態。1950年にデータを取り始めてから一度もなかったことだ。一方、25〜54歳の個人所得中央値は、ピーク時の2000年を下回るが、ここ数年は徐々に持ち直している。若い世代はまだ老後の貯蓄プランを見直す時間がある。 ・ボストン大学退職研究センターが算出した最新の数字によると、401kに加入する世帯で55〜64歳の働き手が1人以上いる場合、2016年時点の年金積立残高(税制優遇あり)の中央値は13万5000ドル。例えば62歳と65歳の夫婦が今日引退したら、年金受給額は月額600ドル前後となる。 ・無党派のNPO公共政策調査機関、従業員福利厚生研究所(EBRI)によると、世帯主が55歳以上の家庭で何らかの負債を抱える比率はこの20年余りで徐々に高まり、1992年の54%から2016年は68%になった。 ・ニューヨーク連銀のインフレ調整後データによると、2017年の60〜69歳の負債総額は約2兆ドル。1人当たり負債額は2004年より11%増加した。2017年の自動車ローン残高は1680億ドルで、1人当たりのローン残高は2004年より25%増。2017年の学生ローン残高は2004年の6倍を超えている。 「不足」世代 経済状況と人口動態のダブルパンチにより、米国のシニア層は借金をため込む一方、それを返すための資金は先細りするばかりだ。 長く続いた低金利時代を背景に、ベビーブーマー世代は高騰する住居費や医療費、学費を借金でまかない続けた。低金利は彼らの生活の「安全装置」にも影を落とした。債券利回り低下を受け、多くの保険会社が、将来の生活費の助けとなる貯蓄型生命保険や介護保険の保険料を引き上げたからだ。財政状況の厳しい自治体が年金カットを検討する中、公務員の一部は不安にかられたまま生活している。 平均寿命が延びたのに加え、教育費が高騰したことで、50代〜60代は成人した子供と年老いた親族の両方を支えることになった。一部はプロの介護者の手を借りねばならないだろう。だがその担い手は不足し、知人などに依頼していた昔に比べて費用が高くつく。 それに輪をかけるのが医療費の負担だ。カイザー家族財団によると、平均的な労働者が払う個人健康保険の保険料は1999年から281%増の1213ドルとなった。この間のインフレ率は47%だ。EBRIが1518人の労働者を対象に昨年6月に実施した調査では、前年より医療費が増えたという答えが半数近くに上った。その結果、4分の1以上が老後の蓄えを取り崩し、半数近くがそれ以外の貯蓄を減らしたという。 カイザー家族財団によると、大手企業のうち退職者医療保険を提供している比率は4分の1にとどまる。メディケアの資格要件を満たすまでの期間をカバーするものだ。1999年には40%が提供していた。メディケアの保険料や公的制度でカバーされない費用を払うために、社会保障受給金から支出することが増えているという。2013年には平均月額1115ドルの受給金のうち41%が医療支出に充てられた。この比率は年々上昇傾向にあるとカイザー家族財団は指摘する。 関連記事 • 米国の高齢化加速、2035年には老若逆転へ • 高齢化する米ベビーブーマー、その厳しい末路 • 年金生活者が変える米国の居住マップ 米国の高齢化加速、2035年には老若逆転へ 国勢調査局によると、65歳以上が初めて未成年者を上回る見通し ベビーブーマーがシニア世代に達し、米国の高齢化は加速している PHOTO: MATT ROURKE/ASSOCIATED PRESS By Paul Overberg and Janet Adamy 2018 年 3 月 14 日 15:34 JST 米国で65歳以上の年齢層が初めて未成年者(18歳未満)を上回る見通しとなった。国勢調査局が13日発表した最新予想によると、2035年までに逆転が起きるとみられる。 節目となるこの現象は、米国の高齢化が加速している新たな証しとなる。ベビーブーマーがシニア世代を迎えたほか、リセッション(景気後退)の余波で過去10年間に出生数や移住者が抑えられたことが影響した。 これに伴い、多様性の拡大ペースもやや鈍化した。ヒスパニック系以外の白人の比率は2024年までに縮小し始め、2045年には人口の半分を割り込む見通しだが、これは数年前の同局の予想より2年遅くなった。 ただ18歳未満については、2020年までにはヒスパニック系以外の白人が全体の半分を割り込む見通し。 国勢調査局の予想では、米国の人口は2030年に3億5500万人に達する。この数字は3年前の予想より500万人少なく、年平均伸び率は0.7%にとどまる。 その後も増加は続き、2060年には4億0400万人となる見通し。同局および国連の予想によると、米国はインド、中国に続き、人口が急増するナイジェリアと並んで世界3位の人口となる。 人口の伸び鈍化は、経済成長の足を引っ張る可能性がある。今年のプライムエイジ(25〜54歳)の労働人口は同局が3年前に予想した水準より約63万人少ない。同局の予想ではプライムエイジの労働人口は2030年にかけて年率0.5%ずつ増える見通し。これは2014年の予想である年率0.58%よりも低下した。 ケンタッキー大学経済学部のスティーブ・ルガウアー助教は「以前考えられていたより労働者がさらに少ないとすれば、経済成長に一段と深刻な足かせとなる」と述べた。 高齢化が進み、出生率が歴史的低水準で推移する中、米国の将来を形作るうえで移民の役割は大きくなりつつある。米国の人口のうち外国生まれが占める比率は現在約13%だが、移民政策に変更がないとすると、2028年には14.9%で過去最高水準となり、2060年には17.2%に達する見込みだ。 関連記事 • 高齢化する米ベビーブーマー、その厳しい末路 • 2050年の日本:高齢化を逆手に世界リード • 85歳で現役販売員:日本で薄れる定年の考え
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