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米中貿易戦争はトランプに勝算、エコノミストが予想
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/post-10551.php
2018年7月6日(金)20時30分 プロニタ・ナイドゥ ニューズウィーク
米中貿易戦争はアメリカが有利とエコノミストは予想する Aly Song-REUTERS
<二大経済大国が高関税をかけあう異例の事態。成長率が高くドルも強い今のアメリカなら、中国の報復関税によるマイナス効果も吸収できる>
ドナルド・トランプ米大統領は貿易戦争で中国を追い詰めるのに、最高のタイミングを選んだようだ。アメリカは年500億ドル相当の中国製品に追加関税を7月6日に発動し、対抗して中国もすぐ同じ規模の米国産品に報復関税を実施した。制裁と報復を繰り返す「貿易戦争」の始まりだ。
だが米エコノミストはトランプ政権の中国製品に対する追加関税について、2018年のアメリカの経済成長に大した害はないと予想していることが、Newsweek/IBTが行った調査で明らかになった。
むしろ形勢が不利なのは中国経済の方だ。もし全面的な米中貿易戦争に発展すれば、失うものが多いのは中国側だとエコノミストたちは指摘する。
同時に、トランプの好戦的な態度は、中国を交渉のテーブルに引きずり出すための戦略ではないか、とアナリストたちは疑う。「トランプ政権の目的は、中国と貿易問題でディール(取引)を結ぶこと。アメリカの企業は貿易戦争を支持しておらず、もし交渉に失敗しても、高関税を支払う能力も意志もない。トランプはその状況を、逆にアメリカが強硬姿勢に出て中国とのディールを果たす稀なチャンスと見ている」、と米調査会社アクション・エコノミクスのチーフエコノミスト、マイク・エングルンドは言う。
■強気のアメリカVS弱気の中国
世界第2位の中国経済は失速中だ。2ケタ成長を続けた2000年代と比べて、最近は実質成長率が6.6%前後まで減速している。中国の株式市場は弱気相場に転じ、今年に入って20%下落した。その要因について、シンガポール大手銀行のDBSグループ・ホールディングスは、資金の流れが一時的に滞る流動性不足やデフォルト(債務不履行)、米中貿易摩擦の激化などを挙げている。
逆にアメリカの2018年の経済成長率は約3%に上向くと予想され、アメリカの経済や株式市場の指標となるダウ工業株30種平均も過去12カ月は好調を維持している。トランプが大統領に就任してから株式相場は堅調で、ダウ平均は2017年1月20日の大統領就任式でつけた1万9827ドル25セントから、現在は約25%も上昇した。
最新の統計によれば、アメリカの小売業や製造業は最高益を記録し、失業率は低下して完全雇用に近づくなど、経済は勢いを増している。製造業に関する調査を見ても、事業拡大に関する数値や消費者信頼感指数は異例の高水準だ。
2人のアナリストはアメリカの経済状況の方が力強いとしたうえで、もし貿易戦争が激化すれば、中国の方がより深刻な経済的苦痛に直面する、と予想する。
「(貿易戦争が)経済成長に悪影響を及ぼす恐れはもちろんある。その影響も、アメリカより中国の方が深刻だ」、と経済研究所であるコンティナム・エコノミクスのシニアエコノミスト、デービッド・スローンは言う。
■アメリカは戦う準備万全
中国が報復措置に出て貿易戦争が本格化するリスクが危惧される一方、短期的にはアメリカの力強い経済成長や強いドルで、異例の高関税がかけられても損失を回避できる、と予想するエコノミストもいる。
「今のところ貿易全体に占める制裁関税の割合は小さいことから、われわれはアメリカや中国の国内総生産(GDP)の予想値はまだ変更していない。たとえ米中間で言葉の応酬が激化しても、現実の金額の上でもっとずっとエスカレートしなければ影響は小さい、と見ている」、とエングルンドは言う。
貿易戦争の長期化に対する企業の不安を吹き飛ばすほど米経済は堅調だ、と独金融大手ドイツ銀行のエコノミストはNewsweek/IBTの調査に回答した。ドイツ銀行は、貿易戦争が株式投資で得られる利益に与える影響は最小限で、2018年の株式相場はさらに上昇する、と予想している。
■アジア市場に暗雲
米ネット証券最大手のチャールズ・シュワブのチーフ投資ストラテジスト、リズ・ソンダースもこう書いた。「(株式市場は)少なくとも一時的には、前向きの情報で心配を克服し、『心配の壁』をよじ上っているようだ」
外国為替市場のボラティリティ(価格変動率)の高まりは今後も続きそうだが、強いドルは維持され、逆にアジアの為替市場が急落する可能性がある、とアナリストは予想する。中国の人民元が下落するにつれ、アジアの新興市場の為替は低迷する見込みで、特にトランプの貿易戦争に相場を左右されやすい韓国のウォンや台湾のドルなどは、下落する可能性が高いという。
実際、中国が保有する1兆2000億ドル相当の米国債を大量売却すると脅しても、少なくとも短期的には無駄だ。
DBS銀行のマクロ経済ストラテジスト、ネイサン・ハン・ライ・チョウは、中国が米国債の購入ペースを落とすことはあっても、大量売却はしないはずだ、と言う。「アメリカが米国債の売却に対抗するのは難しくない。連邦制度準備理事会(FRB)はいつでも米国債を買い増す準備ができている。次の質問は、米国債を売却後、他にどんな選択肢が中国にあるかだ。米国債以外に大した運用先はない。ユーロ圏の国々が発行する国債の利回りはゼロに近い」
それでも、トランプが始めた貿易戦争が最後はアメリカ経済にも大打撃を与える可能性は否定できない。
「さらなる関税障壁や非関税障壁を一方的に相手国に課すことになるような、貿易紛争の相当程度激化しているのは事実だ」と、カナダのスコシアバンクのチーフエコノミスト、ジャンフランソワ・ペローは言う。「2019年には、貿易面の不確実性はアメリカの成長率の足を引っ張る要因になるだろう」
コンティナム・エコノミクスの予想はもっと深刻だ。報復関税の応酬はアメリカの経済成長を脱線させるかもしれないと。希望は、貿易戦争の当事者がいずれはテーブルについて交渉し、市場の心配を取り払ってくれることだ。そうすれば経済への悪影響は最小限に抑えられる。
関税率は当該国の貿易赤字にほとんど影響しないと、ピーターソン国際経済研究所のゲーリー・ハフバウアー上級研究員は言う。
トランプは、アメリカの雇用を奪う中国の不公正貿易慣行を正させるためには、関税が強力な武器になると雄弁に語ってきた。
だがハフバウアーによれば、もしトランプが公約のすべてを実現したとしても、巨額の貿易赤字に大した変化はないという。2018年の貿易赤字は3000〜3500億ドルだろうと言う。それに対して、アメリカの中国に対する貿易赤字は2017年で3750億ドルだった。
「対中貿易赤字は、減っても500億ドルぐらいだろう。お互いに輸出も輸入も減るだろうが、それでも赤字が大きく減ることはない」
(翻訳:河原里香)
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