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すっかり落ちぶれてしまったロシアの宇宙開発、ようやく再生の兆し
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/4-55.php
2018年6月1日(金)16時14分 鳥嶋真也 ニューズウィーク
ロシアの宇宙開発の復活に向けた動きが始まった (C) NASA
<近年、すっかり落ちぶれてしまったロシアの宇宙開発。ようやく再生に向けた動きがはじまっている>
今年3月に行われたロシア大統領選挙は、現職のプーチン氏が圧勝。5月8日には4期目となるプーチン政権が発足し、18日までにメドヴェ―ジェフ首相以下、新内閣の顔ぶれが明らかになった。
その中で、第2期プーチン政権の途中から約6年にわたって副首相を務め、軍事・宇宙分野を担当してきたドミートリィ・ロゴージン氏は退任。代わってユーリィ・ボリーソフ前国防次官が同ポストに就任するという動きがあった。
この交代の理由として、ロゴージン氏の副首相時代に、ロシアの宇宙開発で失敗が相次ぎ、さらに改善もできなかったためという見方がある。事実、かつては米国と並ぶ"宇宙大国"と呼ばれたロシアは、いまではすっかり落ちぶれてしまっている。
ドミートリィ・ロゴージン氏。これまで約6年にわたって副首相として軍事・宇宙分野を担当してきたが、退任。国営宇宙企業の社長となった (C) Roskosmos
■ロシア宇宙開発の崩壊
ロシアの宇宙開発の崩壊は、ロシア連邦が誕生した1991年から、すでに始まっていた。
ロシアはソ連時代に築かれた、ロケットや衛星、宇宙船の技術の大部分を受け継いだ。その技術の高さは折り紙付きで、米国企業の人工衛星を打ち上げたり、共同で宇宙ステーションを建造したりなど、冷戦中には考えられなかった事業がいくつも実現した。
しかしその一方で、ロシアとしての新たな宇宙計画はなかなか立ち上がらず、立ち上がったとしても中止や遅延、そして失敗を繰り返した。
たとえば次世代ロケットとして期待された「アンガラー」は、1990年代に開発が始まるも、打ち上げられたのは2014年になってからだった。火星探査機はすべて失敗し、さらに気象衛星や測位衛星も打ち上げられなかったり故障したりと、満足に運用できなかった。
ソ連時代の遺産を切り売りすることで、なんとか体面を保つことはできたものの、それも近年では陰りが見えはじめ、その"枯れた技術"によって長らく安定した運用を続けていたロケットも、打ち上げ失敗を起こすような有様となっている。
近年、ロシアの宇宙開発は新しいものを造ることはもちろん、古いものを造る技術も失われつつある。2013年には1960年代から運用しているロケットが、センサーの取り付けミスで、打ち上げ直後に墜落するという大事故も起きた (C) TsENKI
■資金不足から始まった崩壊
なぜ、ロシアの宇宙開発は崩壊したのだろうか。
その発端は、ロシアの資金不足にある。ロシア誕生後、エリツィン大統領は経済の立て直しに奔走したもののうまくいかなかったことは広く知られているが、宇宙予算もそのあおりを食って大幅に削減された。これにより、新たな宇宙計画は軒並み、中止や凍結、遅延の憂き目にあった。
なんとか継続された計画も、やはり予算不足から十分な開発や試験を行うことができず、それが火星探査機や衛星の失敗を引き起こした。
さらに、新しいロケットや衛星が造れないことで、熟練の技術者による新人の育成や技術の伝承が行えず、技術者の世代交代に失敗した。現在、技術者の約半数が50歳以上、30歳以下の若手は5分の1ほどで、平均年齢は50歳前後。さらにはソ連の宇宙開発の黎明期から携わる、70歳近い技術者もいまだ現役だという。
その結果、新しくものを造る技術はもちろん、これまで造り続けてきた古いロケットや衛星を、正しく造り続ける技術も失われ、これまで安定して運用できていたロケットも、打ち上げに失敗するようになったのである。
ロシアの宇宙開発が没落した理由のひとつは、技術者の世代交代に失敗したということがある。平均年齢は50歳前後、70歳近い技術者も現役だという (C) Roskosmos
■再生に向けた試み
もちろん、ロゴージン副首相はこうした状況を黙って見ていたわけではなく、ロシアの宇宙機関「ロスコスモス」や国営企業のトップの交代に始まり、ロケットや衛星を開発する国営企業の統廃合、さらにはロスコスモスの国営企業化など、いくつもの改革を実行した。
さらに、ロシア極東の新しいロケット発射場の建設が遅れ、賄賂や手抜き工事も横行していると聞くや否や、自ら現地に乗り込み、責任者を叱責したり、労働者を励ましたりなどのパフォーマンスも実施。また"ツイッター廃人"として知られる同氏らしく、米国の宇宙開発を非難する言動も繰り返した。
しかし、その成果は出ず、ロケットや衛星の失敗を減らすことにはつながらなかった。
そのロゴージン氏に代わって、新たに宇宙分野を担当することになったボリーソフ副首相は、ソヴィエト陸軍出身の元軍人で、前国防次官でもある。はたして宇宙産業を再生することができるのか、その手腕に注目が集まる。
いっぽう、事実上の更迭となったロゴージン氏は、5月24日にロスコスモスの社長に就任した。悪く言えば天下りだが、これまで宇宙開発の酸いも甘いも噛み分けてきたロゴージン氏に、より現場に近い立場から改革を進める役割が期待されているのかもしれない。
さらに開発の現場でも、開発中の新型ロケットで品質管理に重きを置くことが定められるなど、さまざまなところで再生に向けた動きが始まっている。
しかし、この20年以上の停滞の間に、米国の宇宙ベンチャーなどは性能も価格も優れたロケットを開発。さらにロシアのお家芸だった宇宙ステーションや惑星探査の分野でも、中国が台頭しつつあるなど、たとえ立ち直れたとしても、以前と同じ地位に戻れる見込みは薄い。
ロシアの宇宙開発が復活するには、崩壊からの再生と同時に、米国の宇宙ベンチャーに追いつけるほどの革新を実現することが必要になる。だが、そのハードルは高く、厳しい道のりとなろう。
Roscosmos
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