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米中貿易戦争は出来レース? トランプと習は手打ちする
https://www.newsweekjapan.jp/kawato/2018/04/post-15.php
2018年04月21日(土)12時00分 河東哲夫 外交官の万華鏡 ニューズウィーク
中国の対外開放姿勢をアピールする習近平(海南省ボアオ) Qilai Shen-Bloomberg/GETTY IMAGES
<有権者のご機嫌を取りたいアメリカと成長失速を懸念する中国――北朝鮮や台湾、シリア問題に紛れて棚上げの運命か>
米中貿易戦争もたけなわ。両国とも大幅の関税引き上げで脅し合い、一歩も引かないと見えを切る。
かつて日米貿易摩擦で守勢一方だった日本を思い出すと、中国が羨ましい。日本は中国のように、鉄鋼輸出を守るために金融面での規制を緩和するというような、担当省庁をまたぐ調整力が弱いから、どうしても受け身一方になる。それに、日本はアメリカに安全保障を依存している。
しかし今の米中紛争はどこか芝居じみていて、双方が空に向けて銃を撃ち合っている気配だ。適当なところで両者は手を握ってしまうかもしれない。世界の株式市場もそれを察してか、下げてもすぐ上がっている。
アメリカはどれだけ本気だろうか。トランプ米大統領は明らかに秋の中間選挙や2年後の大統領選をにらんで、話題や手柄を作るのが目的。大統領選で決定的な役割を果たした「中西部の労働者」に再び仕事を作ってやったと言えることが重要だ。
だが中国製鉄鋼やアルミニウムなどの関税を高くしたところで、中西部で工場再開はないだろう。中国の対米鉄鋼輸出は昨年70万トン台と少なく、対米鉄鋼輸出国としては10位と低い。中国からの対米輸出の上位はスマホなど、中国で組み立てられたアメリカなど外国企業の製品だ。
■西進の究極目標は中国
この輸入を制限すればアップルやゼネラル・モーターズなど米企業が困るし、米国民が買う商品は値上がりしてしまう。企業は製品の組み立てを中国からアメリカに戻すことはせず、ベトナムやインドなど、別の低賃金地域に移すだけだ。
だからトランプは、中国つぶしを本気では狙うまい。中国がアメリカからの輸入(特に航空機、自動車、医療機器、薬品)を大幅に増やし、中国国内で米企業に不当な罰金を科さないなど投資環境を改善するといったあたりで手を打つだろう。
中国も一歩も引かないと言いながら、実は対応に悩んでいる。脅し文句のとおりに大豆や航空機の輸入に高関税をかけると、これだけ大量の供給をしてくれる国はほかにないので、自分で自分の首を絞めることになる。
米国債を大量に売却しても、損を被るのは中国のほうだ。売り出された米国債は日本などが買いあさるから、アメリカは困らない。他方、中国は米国債を売却して得た大量のドルの持って行き場に悩んでしまう。
中国は経済大国と言われて自分でもその気になっている。だが実際には、第二次大戦後にアメリカが築いた国際経済の枠組みの中で都合よく動いているだけだ。人民元は交換性を欠いており、中国も貿易の多くをドル建てでやっている。ドル支配を崩すため、上海に原油の元建て先物市場を設立したが、元に交換性がないままでは外国人は寄り付かないだろう。
アメリカの課税措置が実施されて、中国の貿易黒字が減少すると、中国は急速な経済成長を支えてきた原資を大きく失う。00年代は年4000億ドルにも上る経常黒字と外国からの直接投資を元に替え、不動産・インフラ投資で何倍にも転がし膨らませていった。これこそが中国の高度成長の実態だが、その「パン種」が大きく失われてしまうのだ。
中国の対米貿易黒字は、中国の全貿易黒字(16年で約5107億ドル)の49%。香港の対米貿易黒字を加えれば50%を上回るほどだ。
19世紀以来、アメリカは西進してその経済を大きくしてきた。西進の究極目標である中国の富をつぶすようなことはするまい。貿易赤字の問題は、北朝鮮の核開発阻止や台湾の独立性維持を含めた、米中間の広い取引の一要素として扱われていく。いずれも最終決着がつくはずもない。当面のつじつまを合わせるだけで、中間的合意が果てしなく繰り返される展開になる。
進行中のトランプのロシアゲート捜査やシリアをめぐるロシアとの対立などは、そうしたアジアの諸問題を一時棚上げにしてしまうかもしれない。
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