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【ロシア大統領選】プーチン独裁の暴力性を見過ごすな
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/03/post-9731.php
2018年3月16日(金)12時30分 ダニエル・ベアー ニューズウィーク
2014年にプーチンがロシアに併合した都市セバストポリの選挙広告(3月14日) Eduard Korniyenko-REUTERS
<選挙は見せかけだけで結果はわかりきっていても、国際社会はプーチン批判の手を緩めてはならない>
「よい独裁」というものがあるとしても、その賞味期限はせいぜい15年、長くても20年だろう。それを過ぎると独裁はいつしか怪物になる――アメリカに亡命したロシアのエッセイスト兼詩人(ノーベル文学賞受賞者でもある)のヨセフ・ブロツキーは1980年にこう書いた。
ブロツキーの祖国ロシアでは、3月18日に大統領選が実施される。2000年に大統領に就任して以来、既に18年間実質的な最高指導者の地位にあるウラジーミル・プーチン大統領の再選は、ほぼ確定したようなもの。そうなればプーチンの任期はさらに6年延び、まさに「怪物」の域に突入する。
こうした怪物政権は、自らの存在感と正当性を誇示するために「戦争や国内でのテロ、あるいはその両方を引き起こす」と、ブロツキーは指摘する。それはロシアの歴史が証明済みだ。
プーチン自身、戦争(チェチェン紛争)やテロ(1999年に起きたアパート連続爆破事件。プーチンがチェチェンに侵攻する口実を作るための偽装だった可能性がある)を足がかりに、権力の座に上り詰めた。
その後も国内外で暴力を政治の道具に使い、その支配を長続きさせてきたのがプーチンだ。私たちはジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤや人権活動家のナタリヤ・エステミロワ、野党指導者ボリス・ネムツォフなど、国家を批判した多くの者が暗殺されるのを目にしてきた。近隣諸国への侵攻や占領、ウクライナやシリアなどの独裁者支援も然りだ。
【参考記事】元スパイ暗殺未遂に使われた神経剤「ノビチョク」はロシア製化学兵器
アメリカの国益と価値観にそぐわないこの男が間もなく再選されるというのに、アメリカ国内ではほとんど報道されないのはなぜか。
■選挙はプーチン自らが演出
それはロシアの「選挙」が退屈な茶番と化しており、国内外の誰もが既にその結果を知っているからだ。
とはいえ、プーチンが楽をしている訳ではない。ある意味、ニセ物の選挙の方が成功させるのは難しい。国内外向けに、見かけは「本物」を演出しなければならないからだ。
もちろん、プーチンにとって「ニセ物の選挙」は今回が初めてではなく、これまでに何度も「練習」は重ねてきた。
2011年の下院選挙では、あからさまな不正や票の水増しが横行して内外から厳しく批判された。いくら不公正選挙だとわかっていても、それがそのまま見えてはならない、ということをプーチンは学んだ。全ては本物らしく、公正に行われているように見えなければならない。不正は、見えないところで行わなければならない。
こうした経験から、プーチンは壮大な「選挙」という作品の演出を覚えた。それらしい対立候補を立て、選挙をより本物らしく見せる。一方で、反体制派の候補者は些細なことで失格にされたり、嫌がらせを受けたりした。収監された者、殺害された者もいる。草の根の強い支持を受けていた反汚職活動家のアレクセイ・ナワリヌイは立候補資格を認められなかった上、何度も収監された。
【参考記事】プーチンの差し金?亡命ロシア人の不審死が止まらない
そして大きいのがメディアの役割だ。プーチンが権力の座に就いた当初にまず攻撃したオリガルヒ(新興財閥)の一部が、テレビ局をはじめとするメディア機関のトップたちだった。
以降、プーチンは放送波をほぼ完全に掌握している。国営テレビ局「ロシア1」は先ごろ、大統領選の候補者(最初から落選が決まっている「小道具」たち)による討論会を開催した。そこではウラジーミル・ジリノフスキー(長年プーチンが小道具として使っているナショナリストの扇動家)が美女候補のクセニア・サプチャクを侮辱し、サプチャクが怒って水の入ったグラスを投げつけるとジリノフスキーが「売女」と罵り返した。
こうした醜い演出のおかげで、討論会を欠席したプーチンのイメージがぐんとアップした。
ニセ物の選挙の問題の一つは、投票率がなかなか上げらないことだ。投票率が上がらなければ、正当な選挙と認められない。従ってロシア政府は今、著名人を起用したネット動画に大金を投じ、投票を呼びかけている。
その動画の中の1本は、プーチンの愛国主義的で伝統主義的なメッセージを大々的に取り上げている。投票をしなければ、「黒人」ロシア人の軍隊や同性愛者の家族をもたなければならいような国になると、あからさまに排外的な宣伝もある。
■先がないのになぜ辞めないのか
プーチンが演出する見せかけの選挙の裏では、違法な動員が行われる。ロシア各地の工場労働者や地方自治体の職員が報酬を受け取って政治集会に出席したり、バスで投票所に連れていかれたり。投票率や得票数を伸ばすには、入念に計画されたロジスティクス(それに多くの腐敗)が必要なのだ。
いったい何のために、これだけの労力を費やすのか。プーチンは、1000回生まれ変わっても贅沢に暮らせるほどの財産を国から盗んできた。だが彼の人生は一度きりだ。もしも彼が本当に賢い天才ならば、適当なところで行方をくらまし、残りの人生を人知れず快適に過ごすことを選ぶはずだ。
人口は減少し、経済は低迷。戦略的な難題もあり、ロシアの将来は暗い。必然の結果が訪れる前に逃げたほうがいい。自分が有利な立場にあるうちに辞めた方がいい。だが独裁者にはそれができない。たとえ本人が望んでも、自らが君臨するマフィアのような構造を見捨てることはできないし、おそらくプーチンは望まないだろう。
ブロツキーは、権力にしがみつくことで人生にしがみつく哀れな独裁者の末路について、「最終的には鎌やハンマーで刈られて死を遂げることになる」と書いている。「そして国民が彼の死を悲しむとすれば、その涙は賭けに負けた者の涙でしかない。そして国家は、自分たちが失った時間を嘆き悲しむ」
旧ソ連の共産党独裁体制が終わって30年近くになる。プーチンは「ポストソ連期」の大部分において、権力の座を独占してきた。彼とその取り巻きは、ロシアの今からカネを搾り取り、未来を抵当に入れることで大きな富を手に入れてきた。その大きな「借り」を返済することは、彼にも世界のほかの国にもできない。
だが欧米は、自由で民主的なロシアが実現する希望を捨てるべきではない。プーチンによる独裁を受け入れたりしてはならない。欧米諸国はこれから行われる選挙を精査し、ロシアの市民社会を信じて、選挙が茶番だと声高に非難するべきだ。
そしてプーチンが退陣した時、国際社会は時間を無駄にしてはならない。ロシアの国民がより良い、より自由な未来を築くのを、再び手助けする備えをしておかなければならない。
(翻訳:森美歩)
From Foreign Policy Magazine
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