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鴻海の対中国戦略に利用されるシャープ…国内生産の中国移転が加速か
https://biz-journal.jp/2019/02/post_26540.html
2019.02.05 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
シャープ本社(「Wikipedia」より)
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とシャープは、中国広東省の珠海市に最新鋭の半導体工場を新たに建設すると報じられた。ホンハイは、世界的なIT先端企業として着々と戦略を実行している。そのなかで今後、シャープはどのような役割を果たすのか、同社の歩む道は必ずしも平たんではないだろう。
空気清浄機の「プラズマクラスター」をはじめ、シャープは多くの人になじみのある企業だ。ただ、現在、同社はホンハイの子会社である。社名は従来のままだが、同社の経営は従来の発想とは大きく異なる。シャープの経営陣には、ホンハイの創業者であり猛烈な経営手腕で知られる郭台銘(テリー・ゴウ)氏の薫陶を受けた人物が就任している。
事実上、シャープの経営に関する意思決定権はホンハイにある。この経営のもと、かつてわが国を代表する電機メーカーであったシャープが生み出した液晶関連等の技術は、ホンハイの対中投資戦略のために用いられている。ホンハイの経営計画が、シャープの行く末を決めるといっても過言ではない。
■成功体験を捨てられなかったシャープ
2000年代に入ってからのシャープの経営を振り返ると、“過去の成功体験”に執着してしまった代償はあまりに大きかった。かつて、シャープはわが国を代表する花形企業だった。2000年代前半、「亀山モデル」で知られる同社の液晶テレビ「アクオス」は、世界のテレビ市場で10%超のシェアを誇った。
テレビ画面が大型化するなかで、アクオスの画質の美しさはほかのメーカーの製品にはない優位性と考えられた。実際に、米国など世界の消費者からの支持も高かった。シャープはこの成功に浸り、テレビ(完成品)を国内で生産し輸出するビジネスモデルの強化にこだわった。
その結果、2006年には3500億円の資金を投じた亀山第2工場が稼働した。2009年には4200億円をかけて堺工場が稼働した。シャープが生産能力の引き上げに取り組んできた間、世界の家電市場では大きな変化が進んだ。特に、韓国や台湾では政府が特定の企業や産業の競争力向上を積極的に支えた。その結果、韓国のサムスン電子やLGなどが規模の経済効果を発揮して、テレビをはじめとするエレクトロニクス市場でシェアを伸ばした。
シャープはこうした環境の変化に適応することができなかった。その理由は、さまざま指摘されている。そのなかで焦点を絞ると、経営陣がアクオスの成功体験に浸り、「自社の技術力さえあれば競争は優位に進めることができる」と過信したことが大きかったはずだ。
2007年に堺工場の建設が着工された。この時期、米国の住宅バブルがはじけ世界経済が変調をきたし始めていた。それを踏まえると、同社の成功体験への執着はかなり強かったと考えられる。そのあまり、自社を取り巻く経済環境の変化を冷静に見極め、変化に適応しようとする考えを重視すること自体が難しくなっていたのだろう。
■IT先端企業への飛躍目指すホンハイ
リーマンショック後、売り上げの減少や、過去の過剰な設備投資が原因となり、シャープの経営は急速に悪化した。2011年度通期決算は最終損益が赤字に陥り、自己資本比率も低下した。2016年3月、同社は自力での経営再建をあきらめ、ホンハイによる買収が発表された。
ホンハイがシャープを買収した理由は、EMS(Electronics Manufacturing Service、電子機器受託生産)世界最大手の地位に満足することなく、IT先端企業としての基盤を整備することにあった。具体的には、省エネ性能と高画質を兼ね備えた半導体技術である「IGZO」をはじめ、シャープの技術力を吸収し、IT先端技術の実用化に欠かせない要素の取り込みが目指された。世界を代表するテクノロジー企業としての優位性を確保し、さらに強化するという野望がホンハイによるシャープ買収の背後にあった。
ホンハイは中国政府が進めるIT先端技術振興策(中国製造2025)のなかで、競争力を高めようとしている。そのため、シャープの再建においてもホンハイはIoT(モノのインターネット化)関連の技術・テクノロジーを重点的に強化してきた。
その結果、シャープの業績と財務内容は急速に回復した。特に、中国での売り上げ増加は顕著だ。2009年度、売上高の15%が中国で獲得されていた。2017年度、中国での売上高の割合は41%にまで拡大している。これは、シャープが海外の要因(ホンハイによる経営改革と中国の需要)に支えられて業績を伸ばしてきたことにほかならない。他方、同期間の国内売上高比率は50%超から24%にまで落ち込んだ。
ホンハイは、中国事業のさらなる強化に注力している。すでにホンハイは亀山工場で行っていたアップルのiPhoneに搭載されている顔認証のためのセンサー部品の生産を中国の工場へ移管した。これは、ホンハイが中国政府との関係を強化しようとしていることの表れと解釈できる。
■ホンハイに買収されたシャープの教訓
シャープは自力で経営再建を実現することができなかった。その結果、海外企業の傘下に入り、経営の意思決定権を失った。シャープの53%の株式をホンハイおよびその関連会社が保有するなか、シャープはホンハイの考えに従わざるを得ない。それは、わが国の財産(技術力など)が海外に流出することにほかならない。それに加え、シャープの経営に中国政府の意向がより大きな影響を及ぼす展開もあり得る。
ホンハイにとって中国政府が進める「中国製造2025」は、テクノロジー企業としての経営体制を整備するチャンスだ。2025年に中国政府は半導体の自給率を70%まで高めたい。そのために、ホンハイがシャープのほかの国内事業の一部を中国に移管する可能性も否定はできない。
こうした展開を防ぐためには、わが国企業が能動的に新しい取り組みを進めて、環境の変化に適応していかなければならない。ホンハイは、受託製造業という最終需要の影響を受けやすい立場からの脱却を目指し、シャープを傘下に収めることでIT先端企業への成長を目指している。
わが国の企業経営者は過去の成功体験を捨て、常に新しい取り組みを進めなければならない。自ら変化を起こし、成長を手にする発想が必要とされているといってもよい。それができないと、シャープのように経営再建を自力で進め、雇用・技術などを守り、増やしていくこと自体が難しくなると心得るべきだ。
足許、世界経済の先行き不透明感は高まっている。米中貿易戦争の激化懸念から、中国経済の減速懸念も強くなっている。米国と中国のITハイテク機器需要に支えられて業績を回復させてきたわが国企業にとって、経営の実力が問われる環境が迫っているといってよいだろう。新しい取り組みを進め、自力で経営管理体制の強化に取り組み、さらなる成長を目指す企業が増えることを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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