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日本製テレビが韓国サムスンらに駆逐された理由…高い技術力とプライドがアダに
https://biz-journal.jp/2019/02/post_26425.html
2019.02.04 文=大ア孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer Business Journal
「Getty Images」より
10年ほど前になるが、筆者は薄型テレビの国際市場で日本メーカーの影響力が急速に低下している理由を解明すべく、中国でテレビの市場調査を実施していた。
今でも鮮明に記憶しているが、中国で家電量販店を訪れテレビ売り場に行くと、そこは異様な光景であった。悪い意味で日本メーカーのテレビが目立っていたのだ。
日本ではあまり見かけないが、薄型テレビの国際市場ではサムスンが強い影響力を保持しており、デザインにおいても先導する立場である。サムスンはいち早く、液晶の周りを黒い樹脂ではなくシルバーメタルで囲むデザインを採用し、現地の消費者から高い評価を得ていた。筆者が訪問した時期には、ちょうど中国メーカーをはじめ、ほかの海外メーカーもサムスンのシルバーメタルのデザインを模倣していたなか、日本メーカーだけが従来の黒い樹脂で囲むデザインを固持していたのである。
もちろん、デザインは個人の嗜好に大きく左右されるわけだが、その場にいた販売員も「日本メーカーの液晶画面自体は素晴らしく、自分は使用しているが、あのデザインでは消費者には受け入れられない。なぜ変えないのだろう」と語っており、“旧型”という印象を強く受けた。
当時、この理由に関して、日本メーカーのつまらないプライドが邪魔して、デザインを変えないのではと推測していた。
■技術サイドの主張
先日、偶然、日本の大手家電メーカーで国際マーケティングを担当していた人と話す機会があり、この話題を振ってみたところ、大変興味深い話が聞けた。もちろん、日本メーカーのプライドという要因もゼロとは言わないが、テレビのフレームは黒、しかも光沢のない黒がもっとも画面自体を美しく見せるらしい。こうしたことを根拠に、技術サイドが断固としてシルバーメタルのデザインに反発し、採用しなかったということだった。
■高い技術力とマーケティングのジレンマ
こうした事例は、マーケティングの視点からは大変興味深い。確かに、プロである技術者の意見は“テレビの画面を美しく見る”という視点からは正しいのであろう。しかし、「最先端のデザインのテレビが欲しい」という消費者のニーズとかけ離れていることは明確である。画面にかかわる技術に自信のある日本メーカーにとっては譲りがたい問題となるが、特別の技術を有しない多くの海外メーカーは、なんら抵抗なく、簡単に消費者ニーズに追随できる。
つまり、技術力という強みが、顧客視点が重要視されるマーケティングにおいては不利に働いてしまうというジレンマが生じているということである。
■日本メーカーにこそ強く求められるCMO
近年、アメリカでは製品開発などにかかわる予算を制限しがちなCFO(最高財務責任者)の権限があまりにも強くなっていることに危機感を抱き、CMO(最高マーケティング責任者)を設置する企業が増加しているが、製造や開発サイドの力が強い日本の伝統的なメーカーにこそ、CMOが強く求められるはずだ。
筆者はマーケティングにかかわる話を実務家とした際、「いやあ、トップに聞かせたい」と言われることがよくある。つまり、顧客視点より正しいと思うことを実行しようとしても、他部署との兼ね合いにより揉め、結局、上層部間での話し合いにより、潰されることが、たびたび起こっているというのである。たとえばテレビの場合、マーケティングにかかわるスタッフが懸命に消費者のニーズを探り、おしゃれな部屋に似合うデザインのテレビを求める人が多くなってきているという傾向をつかんだとしても、開発サイドから「美しい画面には黒いフレームが必要」との主張が通され終わってしまうという。
もちろん、開発者がなんの情熱も持たず、単に消費者ニーズに従うだけで、素晴らしい商品が誕生するとは思わない。近年、すっかり定着してきた「お掃除ロボット」において、日本メーカーはアメリカの「アイロボット」に完全に出遅れたが、実は多くの日本企業は昔から、お掃除ロボットに関連するアイデアや技術を保有し、ある程度のニーズがあることも把握していたらしい。しかし、商品化しなかったのは火災などを引き起こす可能性がゼロとはいえないといった点を危惧したためだと聞いたことがある。
こうした点を踏まえると、「技術的な細かいことはさておき、顧客視点を重要視し、思い切って商品化してみよう!」といった大胆な決断ができるCMOが、とりわけ長い歴史を持ち、調整型リーダーが増加し、保守的な傾向が増加している日本の大手メーカーにおいて強く求められるといえるだろう。
(文=大ア孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)
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