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欧州知の巨人に聞く「世界のシステム不全に対抗するもの」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190203-00025253-forbes-bus_all
Forbes JAPAN 2/3(日) 8:00配信
ポール・デ・グラウウェ
ヨーロッパの経済学を長年リードしてきたポール・デ・グラウウェが今、資本主義の未来に警鐘を鳴らしている。その2つの理由を解説するとともに、ビジネスの長期的繁栄に不可欠な「内在的モチベーション」ついて尋ねた。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)はロンドンの中心地にキャンパスを構える。と言っても、いわゆるキャンパスがあるわけではなく、オフィス街の合間に教室が入るビル群があるだけだ。そのうちの一つ、小さなビルの2階。ポール・デ・グラウウェはこぢんまりとした、しかし学生の行き交う広場が見える明るい部屋で私とカメラマンを迎え入れてくれた。
デ・グラウウェは米国と欧州の大学で教鞭を執り、1991年から12年間、ベルギー連邦議会の議員も務めた。国際通貨基金(IMF)や欧州中央銀行にも在籍し、通貨同盟や金融政策に関する論文を多数発表している。近年は、著書『行動マクロ経済学講義』で行動経済学をマクロ経済学に応用した独自の経済モデルも提唱。ベルギーのルーヴェン大学の国際経済学教授を退職後、LSEの欧州政治経済学教授に就任した。
デ・グラウウェは我々が到着するとすぐに、自慢のコーヒーを振る舞うべく奮闘しはじめた。エスプレッソマシンは生憎壊れていて、コーヒーは飲めなかったが、その気遣いに優しい人柄が感じられた。
インタビューは穏やかな口調で始まったが、ものの数分で表情は険しくなり、デ・グラウウェは語気を強めて言った。
「残念ながら、我々は私が恐れていた方向、間違った方向へと進んでいます。それは想像より早く来ていると感じています」
インタビューの前、2018年10月には「ブラジルのトランプ」と呼ばれる極右のジャイール・ボルソナーロが大統領選を制したばかり。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領や米ドナルド・トランプ大統領など、独裁的で過激な発言で知られるポピュリストの政治家が民主主義国家で力を強めている。
「資本主義を守るために、民主主義の力は不可欠です」
こう語るデ・グラウウェは、17年に「The Limits of The Market」の英語版を出版。フィナンシャル・タイムズのBest Books of 2017の経済分野の一冊に選ばれた。オランダ語で原著が版されたのは4年前。しかし、この本で描かれた「危機」は、今こそ現実感を持って読むことができる。
市場経済が生き残るために
デ・グラウウェの主張のポイントはこうだ。経済システムは市場と政府、両方のコントロールを受けており、完全に市場だけ、政府だけがコントロールする経済システムは成り立たない。経済システムは振り子のようなもので、市場に寄り過ぎると人々の反動が起き、過去には共産主義が誕生した。逆に、市場の弊害が大きくなると政府の介入が強まる。それを繰り返しながら、常にその間を揺れてきたという。
つまり、市場も政府もどちらかだけでは不十分で、そのバランスを保つことが重要だ。しかし、今、その振り子は市場に寄り過ぎており、経済システムが危機的状態にあると指摘している。
■2つの問題点
問題は2つに大別できる。
一つ目は外部コスト。外部コストとは、市場取引の外部に置かれている、経済活動の(悪・好)影響だ。代表的な例として環境があげられる。市場経済では製品やサービスの価格は需要と供給のバランスで決まる。よって、例えば、その製品を生産する際、どれほど環境に負荷をかけたのかは、その価格には考慮されていないケースがほとんどだ。
例えば航空券。東京-ロンドン間なら、季節によっては往復10万円以下もある。LCC(格安航空会社)の登場で割安な航空券が増え、世界の旅客数も右肩上がりだ。国際航空運送協会(IATA)によると、17年は40億人を突破。今後20年で2倍近くになる見込みだ。増え続ける旅客の航空券代金には、ジェット航空機が排出したCO2が与える地球温暖化への影響はほとんど反映されていない。
「『飛行機のコスト』というのは、我々が払っている航空券の値段よりももっと高いのです。しかし、我々はそれを払っていないし、払っていないことを当然だと思っています」
二つ目は、市場経済が生み出す格差の問題だ。デ・グラウウェは市場経済を否定しているわけではない。「市場経済は素晴らしい仕組みです。物質的な繁栄がもたらされ、人々は豊かになりました。競争によってより良い質のものが、より低価格でより多くの人の手に入るようになったのです。しかし、近年では競争の結果、ほんの一部の人々にあまりに莫大な富が集まっています」。
18年11月19日、カルロス・ゴーン日産自動車前会長の突然の逮捕劇に世界が騒然となった。容疑は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で、自らの役員報酬を過少に記載していた疑いが持たれている。その額は毎年10億円、計約50億円に上る。
報道では過少記載だけでなく投資損失の日産への転嫁や、海外の高級住宅購入費など私的目的での経費使用に対する批判も相次いだ。しかし、10億〜20億円とされるゴーン氏の報酬については、他のグローバル企業と比較して決して高い金額ではない。
優れたリーダーは正当な対価を得てしかるべきだ。では、正当な対価とはいくらだろうか。米Economic Policy Instituteの2017年のレポートによれば、米トップ企業350社のCEOの役員報酬は平均で1560万ドル(約17億円)。労働者の平均所得を5万8000ドルとすると約271倍にもなる。
さらに、特筆すべきはその増え方にある。1978年から2016年の間にCEOたちの役員報酬はインフレ率を勘案しても937%も増加した。対して労働者の報酬は11.2%しか増えていない。
レポートは、CEOの報酬が増えたのは彼らの生産性や才能が(1000倍近くも!)向上したからではなく、自ら報酬額を決められる権力によるものだと結論づけている。
CEOだけではない。貧富の格差は加速度的に広がっている。デ・グラウウェは、このような圧倒的な格差が経済システムを危機に追いやっていると話す。「格差が広がれば、人々はシステムを批判するようになります。政治的な反動が起き、経済システムを支える民主主義が脅かされるでしょう」。
内在的・外在的モチベーション
現代の格差拡大には、企業のマネジメントにも悪影響を与えているという。労働者の内在的モチベーションが鍵だ。
「一般的に、いいビジネスパーソンは内在的なモチベーションの重要性を知っています。外在的モチベーションだけでは、優秀な人材を集められても長続きできません」
人々の動機には内在的モチベーションと外在的モチベーションの2つがある。内在的モチベーションは仕事そのものに達成感ややりがいを感じていること。外在的モチベーションは金銭を得ることが動機になっていることだ。
「金銭はもちろん重要ですが、人々のパフォーマンスを真に高めるのは人生に喜びと満足感を与える内在的モチベーションです。従業員の内在的モチベーションを高めることは、企業の繁栄の秘訣です。その内在的モチベーションを金融市場の強大な力が脅かしています」
■内在的モチベーションを高めるためには─
理由はこうだ。金融市場の圧力が増大すると、企業は短期間の利益を追求する短期志向になりがちだ。次の四半期で利益が生み出せないからと、コスト削減のために人員削減が起きる。目先の利益を追い求め、内在的モチベーションを高めるような仕事はできなくなり、従業員と経営者の信頼関係も失われる。
「従業員と経営者、そして企業がお互いを信頼してはじめて、内在的モチベーションは高まります。内在的モチベーションによって、企業の利益に向かって、喜んで働くことができます」
組織内の格差が大きくなりすぎると、社内に確執が生まれ、内在的モチベーションが削がれることもある。「組織で1人だけ100倍以上ももらっている人がいたら、従業員はどうやってその人に共感を持つことができるでしょうか? 信頼関係はできず、組織に破壊的な影響を与えるでしょう」。
システムへの信頼と戦う力
経済システムを守るために、何が必要なのか。デ・グラウウェの出した答えは「強い政府」だ。
前述した航空機の例だが、21年から日本を含む世界各国で国際線の航空機のCO2排出量規制が始まる。国際民間航空機関(ICAO)の総会で各国が枠組みに同意して実現した。20年の実績を超える場合に航空会社は排出枠購入が課せられるようになり、低炭素化に取り組む会社が増えた。
また、貧富の格差解消には、税率引き上げに対するさまざまな政治的な圧力に負けず、富裕層にも課税を断行し、必要な社会保障政策を実現できる強い政府が必要だ。国民に信頼され、支持される民主的で強い政府だ。格差が拡大すると、既存のシステムは信頼を失い、人々は権威主義的なポピュリズムの政治を求めるようになる。
「多くの人々はシステムがフェアではないと感じています。どんなシステムも社会的なコンセンサスが必要です。資本主義が生き残るには、多くの人々がこのシステムはフェアで、全ての人にチャンスを与えてくれるいいシステムだ、と認識しないといけない。格差拡大を止めることは、倫理的に正しいだけではなく、資本主義の未来のために必要なのです」
政府の介入に反対する意見もあるが、デ・グラウウェの視点はその先にある。
「真のゴールは人類の繁栄で、市場も政府もそれを達成するための手段にすぎません。市場はいいものでも悪いものでもなく、純粋な市場だけで動く経済システムはありえません」
13年、発言の自由を推進した者に贈られる「Ark Prize of Free Speech」を受賞したデ・グラウウェ。今も新著を執筆中で、70歳を超えて活発に発言を続けている。その活力の源は何か。
「私はもともと楽観的な性格ですが、周りを見ると絶望的な気持ちになります。しかし、発言を止めてはいけない。私は絶望と戦います」
ポール・デ・グラウェ◎1946年、ベルギー生まれ。74年に米ジョンズ・ホプキンズ大学で博士号を取得。ベルギーのルーヴェン大学の名誉教授で、91年から2003年までベルギー連邦議会の議員を務めた。米国と欧州の複数の大学で客員教授として教鞭を執り、ザンクトガレン大学、トゥルク大学、ジェノヴァ大学の名誉博士。客員研究員として国際通貨基金(IMF)や連邦準備制度理事会や日銀にも在籍。ルーヴェン大学を定年退職後、12年から現職。
Forbes JAPAN 編集部
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