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中国の成長率「28年ぶりの低さ」が日本の戦後と似ている理由
https://diamond.jp/articles/-/192632
2019.2.1 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
Photo:PIXTA
昨年の中国の成長率が6.6%で、28年ぶりの低さだった。日本の感覚でいえば十分高い成長だが、中国の専門家は憂えているようだ。今回は、日本経済の歴史を考えながら、中国の成長率低下がこれと似ていると考える理由を示す。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
高度成長は
永遠には続かない
日本の高度成長が終わり、安定成長期に入ったのは、筆者が高校生のときだった。そのとき、「高度成長が永遠に続くはずはない。10%成長が100年続いたら、国内を走り回るトラックの台数が日本の人口より多くなってしまうから、ドライバーが不足するのだ」と言われて、大いに納得したものだ。
後で考えれば、これは要するに「石油ショックがきたことは高度成長が終わったキッカケであって、仮に石油ショックがこなくても高度成長から安定成長への移行は防げなかっただろう」ということを意味しており、そうであれば「日本で起きたことは後発の途上国でも起きるはずだ」ということを意味していたのだ。
じつは、この説明は誤りだ。製品の小型化が進んだこと、サービス化が進んだこと、高付加価値化が進んだことなどによって、「量的な成長」ではなく「質的な成長」へと経済がシフトしていったからだ。
例えば、われわれの手のひらのスマートフォンは、当時の大型コンピューターよりはるかに優れた性能を持っているので、むしろ経済成長によってコンピューターを運ぶトラックのドライバーは不要になったのだ。
しかし、高度成長が続かないという結論は正しかった。まず、高度成長期に農村から大量に都市に働きに出てきた若者が増え続けることはなかったし、むしろ長期では減少した。
都会での仕事が増えるにつれ、給料を求めて農村の若者がほとんど都会へ行ってしまったので、農村には新しく都会へ出て行く若者が残っていなかったのだ。これと似たようなことは、中国でも起きているに違いない。「ルイスの転換点」と呼ばれる現象だ。
労働生産性の向上速度が緩和
産業構造も変化
次に、労働生産性の向上速度が緩やかになってきた。手作業の洋服工場がミシンを買うと、労働生産性は一気に向上するが、すでにミシンを持っている工場が最新式のミシンに買い替えても労働生産性はそれほど上がらないからだ。
もちろん、新しい産業や技術は絶え間なく進歩しているが、手作業から機械へと移った時ほどの生産性向上は、なかなか続くものではない。これも、日本と同様のことが中国で起きているのだろう。
産業構造の変化も重要だ。「ペティ・クラークの法則」と呼ばれるものがあり、経済が発展するにつれて、どこの国でも第1次産業(農業など)から第2次産業(工業など)、第2次産業から第3次産業(サービス業など)へと主要産業が移り変わっていくのである。
まずは腹一杯食べることが重要なので、農業などが発達するが、次第に綺麗になりたいということで、洋服や化粧品が売れるようになる。洋服や化粧品を一通りそろえると、今度は美容院に行きたくなる、といったイメージだろうか。
問題は、洋服や化粧品の生産は機械化することで労働生産性が高まる余地が大きいが、美容院は労働集約型産業なので、人手がかかるという点だ。つまり、化粧品を1万円分買っていた客が、美容院で1万円使うようになると、そのために必要な労働者の数は増えてしまうのだ。
一国の労働者の数が増えないとすると、需要が化粧品から美容院へシフトすることで、生産できる財・サービスの総量が減ってしまう(GDPが減ってしまう)ことになりかねないのだ。もちろん、実際にGDPがマイナスになることはないとしても、成長率を押し下げる要因としては非常に重要だろう。
少子高齢化も始まり
中国でも影響が本格化
日本では、すでに少子高齢化の影響で労働力不足が顕著になっており、労働力不足が経済成長率を抑えてしまうことが懸念され始めている。少子高齢化で労働力不足になる理由は2つある。「若者の比率の低下」と「高齢者の消費の特徴」だ。
少子高齢化によって、働き盛りの若者が大いに減り、生産せずに消費だけをする高齢者があまり減らないので、少数の若者が作った物を大勢の高齢者が奪い合う形となる。需要は十分あるのに供給が追いつかないという、従来の日本経済と全く異なる成長の制約要因が重要となるわけだ。
これに加えて、若者が自動車を買う代わりに高齢者が医療・介護サービスを受ける、という変化もある。ここでも自動車生産より医療・介護の方が労働集約的であるという点が重要となる。
上記のように「国民が豊かになると、化粧品から美容院に需要がシフトして経済成長率が下がる」のと似たようなメカニズムで、「国民が高齢化すると、自動車購入から医療・介護に需要がシフトして経済成長率が下がる」ということが起きるのだ。
中国の場合、日本より少子高齢化のタイミングが遅いから、この影響はまだ出ていないのだろうが、今後は中国でも影響が本格化してくる。
米中冷戦は
石油ショックに相当か
以上のように、高度成長から安定成長へと移行するのは当然で、中国はその過程にあると考えていいだろう。
「日本は石油ショックがあったが、中国にはないので日本より滑らかに移行するはずだ」というのが筆者の以前の認識だったが、ここへきて雲行きが怪しくなってきた。
米中の貿易戦争は、米国が中国との覇権争いに真剣に取り組むようになってきて、「米中冷戦」の様相を呈してきたからだ。米国が「肉を切らせて骨を断つ」覚悟だとすると、中国経済の受ける打撃は甚大なものとなる。
けんかには2通りある。1つはガキ大将が「オモチャをよこさないと殴るぞ」と脅して欲しいものを手に入れるようなものだ。本当に殴ると手が痛いので、相手が要求に従うことを前提にしたものだ。トランプ大統領が日欧などに対し、「自動車の輸入制限をされたくなかったら米国の武器を買え」との要求を突きつけているのはこれに当たる。
もう1つは、「実力を増しつつある副社長派閥を叩き潰すために社長派閥が挑む」といったようなけんか。これは、互いに相手を叩き潰すのが目的であり、痛みは当然覚悟しているはずだ。米中関係はまさにこれだ。
しかも、米議会の超党派が中国との覇権争いを繰り広げようとしているもので、日欧などとの貿易摩擦とは決定的に異なるのだ。
したがって、日本にとっての石油ショックと同じくらい大きな影響を、米中冷戦が中国経済に及ぼす可能性は十分にある。今後の推移に注目したい。
本稿は以上だが、けんかに2通りあるという点については、拙稿「米中関係は『貿易摩擦』ではなく『新たな冷戦』に突入した」を併せてご覧いただければ幸いである。
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