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フランス政府、日産・ルノーの経営統合へ本格始動…比較的容易に実現か
https://biz-journal.jp/2019/01/post_26424.html
2019.01.27 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal
フランスのエマニュエル・マクロン大統領(左)とカルロス・ゴーン容疑者(右)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
仏ルノーは24日、金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載)と会社法違反(特別背任)の容疑で逮捕・起訴されていたカルロス・ゴーン会長兼CEO(最高経営責任者)の辞任を発表した。
すでに述べたように、ルノーが株主としての権利主張を前面に押し出すと、そこにルノーの大株主であるフランス政府も当然加わってくるはずである。しかし、フランス政府のインタレスト(利益)は必ずしもルノーのそれとは一致せず、資本の論理では整理がつかないので、話が少し複雑になる可能性があり、日産にとっても上位の裁定者ないしは調停者の存在が必要になるだろう。24日に西川廣人社長がガバナンス体制の構築にめどをつけた上で、6月の株主総会を待たずして経営トップから退く意向を明らかにしたことは、日本側の裁定者・調停者の登場を予見させるものともいえよう。
■フランス政府はゴーン氏逮捕をどう捉えるか
ここから国の視点で、今回のゴーン氏逮捕劇に始まるルノーと日産の問題を考えてみよう。これまでの論考で、ゴーン氏逮捕をフランス政府は前もって知っていた可能性を検証したが、仮にそうだとして、フランス政府は逮捕阻止に動いただろうか。
24日、ルノーはゴーン会長兼CEOの辞任を受けて、後任の会長に仏ミシュランCEOのジャンドミニク・スナール氏、CEOには現CEO代行のティエリー・ボロレ氏が就任すると発表した。この決定をうけて日産の西川廣人社長は同日、ゴーン氏と元代表取締役のグレッグ・ケリー氏の取締役解任と、ルノーが指名する取締役1人の選任だけを目的とする臨時株主総会を4月中旬に開催する方向だと発表した。次の課題は、スナール氏がゴーン氏同様に日産の会長および日産、三菱自動車との3社連合トップに就任するかである。
ゴーン氏のルノー会長辞任前から、すでにフランス政府にとってゴーン氏は、日産との経営統合交渉における切り札的存在ではもはやなかったと考えられる。ルノーがゴーン氏を推定無罪の原則に基づき会長職をすぐには解任しなかったことと、フランス政府が両社の経営統合においてゴーン氏を絶対に必要としているかどうかは、別の話である。このあたりを日本のマスコミは理解していないと思われる。実際、ルノーではゴーン氏は辞任というかたちとなり、推定無罪を原則とする意味で、解職となった日産とは一線を隔したことになる。
フランス政府が両社の統合をしたければ、話は比較的簡単だからである。実際、アライアンス解消の可能性は現実的には非常に低い。アライアンスをフランス政府優位のかたちにしたくない日産にとって、ルノー株の買い増しが悲願であっても、それはアライアンスに対する市場の不信を買い株価は下がるだろうし、ビジネスの観点では愚策であり、株主も支持しないことが想定できる。
一方、ルノーが日産との間に交わした修正アライアンス基本契約(RAMA)を無効化して、議決権の行使や日産株の買い増しなど強硬策に出てきた場合、市場はむしろ一時的にはアライアンスの強化と評価するだろうから、強硬策を取ることはできるであろう。
つまり、フランス政府にとってゴーン氏が絶対に必要というわけではなかったのではないか。要は、フランス政府が表に出たくないので、ゴーン氏が要となって統合を進めてくれるのであれば、いてくれてよいというスタンスだったのではないか。統合を進める過程で、今回の日産の日本人経営陣(オールジャパン)による奇襲攻撃というゴーン氏の逮捕は想定外であったろうが、統合が進めば、日本人経営者の拒否反応が起こることは想定の範囲内であっただろう。
■ゴーン氏は国家の介入を嫌う
基本的に、ゴーン氏は最終的に国家の介入を取り払いたい、ネオグローバル(脱国家)経営者だと考えられる。実際、ゴーン氏の逮捕後にフランスの経済紙レゼコーは、フランス政府の「ゴーン氏は自らに権力を集中しすぎ、後継者を準備していない」という批判に対して、ゴーン氏は「国は単なる株主なのに経営に口出ししようとしている」と反論していたと伝えたが、ゴーン氏はフランス政府寄りではなかった。
この観点からみると、ゴーン氏はCEO職の任期を2022年まで延ばすことで、ルノー・日産連合を国家の介入を排除したグローバル企業にしようとして、マクロン仏大統領との妥協に至ったのではないか。アライアンスを不可逆なものにすることまでは、ゴーン氏とマクロン大統領の利害は一致しているが、その目的が違う。かつて優秀なインベストメントバンカーだったマクロン大統領が、その目的の違いを感じないはずはない。
そもそもゴーン氏は、簡単に寝返るような人物ではないだろう。ゴーン氏は2018年にCEOを辞めたのでは目的は達成できないので、再任という選択肢をとって2022年までの4年間で、国家の介入から抜け出す統合を目論んでいた可能性がある。日産をフランス政府に売ろうとしていたわけではないのではないか。
実は、フランスで高等教育を受けたゴーン氏はフランス国籍を有する(ルノーの上席副社長就任時に取得)が、ブラジルで生まれ幼少期をレバノンで過ごし、両国籍も持ち、「根はブラジル、頭はフランス、心はレバノン」ともいわれており、心情的な順序としてはフランスは高くないようで、日本で思われているほどには「フランスのために」という思いは強くはないようだ。
フランス政府と同床異夢のなかでルノーと日産の統合を進めるうちに、ゴーン氏は自主独立という名の愛社精神の強い日産の日本人幹部、具体的には西川廣人社長と外部の勢力に刺されたわけである。想定外だったかもしれないが、ゴーン氏の逮捕はフランス政府にとっては、いずれは来るであろうゴーン氏の切り捨てとルノー・日産連合への介入の正当化をもたらしたようなものだった。この意味で、フランス政府はゴーン氏逮捕の事前通報に対して強い難色は示さず、「これ幸い」と思ったかもしれない。
実際にフランス政府は、日産の株主総会を待たずに政府関係者を来日させ、日本政府関係者とも会い、ゴーン氏の長期拘留が避けられないことを理由に、フランス政府に近いとされるスナールミシュラ氏を会長に送り込み、ルノーの株主として日産への交渉圧力を強める動きに舵を切った。同氏はゴーン氏とは異なるソフトなタイプといわれるが、辣腕エリート経営者である。
次回は、今回のゴーン氏の逮捕劇の落としどころを考察してみたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
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