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ライザップ赤字転落と「高輪ゲートウェイ」という珍妙な名称に共通する「奪い合いのビジネス」
https://wezz-y.com/archives/62492
2019.01.06 wezzy
「高輪ゲートウェイ」概観イメージ プレスリリースより
山手線の新駅名が「高輪ゲートウェイ」という奇妙な名称に決まった。メディアではこれを疑問視する記事がたくさん出てきたし、おそらく多くの人がこの駅名に違和感を感じているだろう。
だが今の日本が置かれた状況を考えると、こうした珍妙なネーミングは今後、さらに増えてくる可能性が高い。
■公募1位は「高輪」と極めて常識的な結果だった
JR東日本は2020年の暫定開業を目指して、品川−田町間に新駅の建設を進めている。品川−田町間にはかつてJRの車両基地があり、駅間距離が長かった。ダイヤの見直しなどによってこの車両基地が不要になったことで、都心としてはかつてない規模の再開発用地が出現することになった。
広大な土地を活用し4棟の高層ビルが建ち並ぶ大型開発を実施するというのが今回の計画の趣旨であり、その中核に位置付けられているのが山手線の新駅である。
2018年6月に駅名について公募したところ6万4000件を超える応募があり、トップは「高輪」、2位が「芝浦」、3位が「芝浜」と極めて常識的な結果となった。ところがJR東日本は、新駅の名称を「高輪ゲートウェイ」にすると発表。多くの人があっけにとられた(ちなみに高輪ゲートウェイは130位)。
同社の選考委員会は「日本と世界をつなぐ結節点の願いを込めた」と説明しているが、案の定、メディアやネットの反応は駅名を疑問視するものがほとんどだった。なぜこの名称が駅名としてふさわしくないのかは、すでに多くの人が指摘しているので、ここでは割愛するが、重要なのはなぜこうした奇妙な駅名に決まってしまうのかという部分である。
大きな理由は2つあると筆者は考えている。ひとつは今の日本では再開発プロジェクトくらいしかマネーが動く案件がなく、すべてが再開発ありきになっていること。もうひとつは構造的な経済の弱さによって、市場が拡大せず、常に顧客の奪い合いというゼロサムゲームになっており、過激な演出で人を集めないとビジネスが成立しなくなっていることである。
■銀行は再開発プロジェクトくらいしか貸し先がない
ここ数年、首都圏では再開発ラッシュともいうべき状況が続いてきた。都心部ではあちこちに巨大なビルが建設されており、右も左もクレーンだらけである。一部の識者はこうした状況について「日本経済が力強く成長している証拠だ」と説明しているが、必ずしもそうとは言い切れない。
日本のGDP(国内総生産)はここ1〜2年、比較的堅調に推移したが、それは米国の好景気を背景に輸出産業の業績が拡大したことが原因である。労働者の実質賃金はあまり上昇しておらず、肝心の個人消費は弱いままとなっている。多くの人が生活実感として理解できているはずだが、お世辞にも今の日本は好景気とはいえない。
一方、日銀は量的緩和策を実施し、市場にはおびただしい量のマネーが供給された。だが消費が伸びないなか、企業は設備投資を控えているので、銀行はいくらお金があっても貸し先がない。唯一、安心してお金を貸し出せる案件が再開発プロジェクトである。
一部の人は、需要もないのにこれだけの再開発を行って大丈夫かと首をかしげているが、銀行やプロジェクトを担当する企業に限っては大きな問題は発生しない。仮に、再開発プロジェクトによって需要を超えるオフィスや住宅が供給されたとしても、周辺の築年が古いオフィスビルや住宅からテナントを奪う形になるので、そのプロジェクト自体は破綻しない。
かつて六本木ヒルズが開業した時、こんなに大量のオフィス・スペースが埋まるのだろうかと危惧する声があったが、同ビルがテナント確保に困ったことは一度もない。
しかし、こうした巨大なビルが完成するたびに、周辺にある古いビルからは確実にテナントが退去しており、そうしたビルの財政状況は悪化の一途を辿っている。経済全体で見た場合には、最終的にはどこかで必ず歪みが出てくるだろう。しかも、多くのプロジェクトは、まだ使えるビルを壊して再開発を行っているので、減価償却(マクロ経済では固定資本減耗)が増えて、やがて労働者の賃金を圧迫する結果となる。
■ライザップグループとの共通点
高輪ゲートウェイの再開発計画も、土地が放出されたことをきっかけにスタートしたものであり、需要ありきのプロジェクトではない。しかも、開発効率を上げるため、レジデンスを併設することでさらに容積率を緩和する新制度まで作っている。海外から優秀な人材を呼び込み、日本を国際金融都市にするという触れ込みだが、現実の日本はガラパゴス化が進んでおり、むしろ高度なスキルを持った外国人を排除する傾向が強い。
神谷町など、かつては外国人のエリート・ビジネスマンが集っていたエリアでも、近年はめっきり彼等の姿を見なくなった(見かけるのは外国人観光客ばかりである)。いわゆる山の手エリアでも外国人ビジネスマンが少ないという現実を考えると、外国人向け住宅のニーズが高まっているとは思えない。おそらく容積率を緩和するための手段となっている可能性が高いだろう。
とりあえず再開発ありき、容積率の緩和ありきで物事が進んでしまうと、その収容力に応じた集客ができないとその後の施設運営に支障を来すことなる。だが再開発そのもので経済が拡大するわけではないので、どうしてもパイの奪い合いとなってしまう。
その結果、奇抜な名前を付け、とにかくに話題にすることで集客しようという心理が働いてしまう。
最近はこうした事例があちこちで見受けられるようになっている。急成長ののち、赤字転落が話題となったライザップグループも同じ文脈で捉えることが可能だ。
■消費者が奇抜な名称に慣れ切ってしまうことの弊害
同社は次々と企業買収を繰り返して急成長してきたが、業種に関係なく会社を買収するというのは、経営学的には「禁じ手」とされている。他業種を買収しても、既存事業とのシナジーが得られないので、その後の経営が難しくなるからである。
だが同社があえて他業種M&Aに邁進したのは、市場の注目を集めるという目的があったと思われる。実際、初期のライザップは、次々とM&Aを仕掛ける「異形」の企業として過剰なまでの注目を集め、その結果、同社の資金調達が有利になったという側面があることは否定できない。
外食産業でも、非効率であることがわかっていながら、あえて数多くの業態を展開するところも増えている。本来であれば、ひとつの業態で多店舗展開したほうが圧倒的に効率がよいが、市場が低迷している状況では、すぐに売上げが鈍化してしまう。次々に目新しい業態を展開しないと顧客を確保できないのが現実である。
そうだとするならば、今回のように、明らかに話題になることだけを狙ったようなネーミングというのも、日本経済が本格的に回復しない限り、増えることはあっても減ることはないと考えられる。
筆者がもっとも心配しているのは、こうした奇をてらったネーミングが横行し、やがて消費者がそうした環境に慣れ切ってしまい、正常な感性を失ってしまうことである。経済において消費者のマインドが果たす役割は大きいので、場合によっては長期にわたって経済を蝕む可能性もある。
今回、話題になった高輪ゲートウェイに続こうと、奇抜なネーミング競争が起こらないことを祈るばかりだ。
加谷珪一
経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社などを経て独立。経済、金融、ビジネスなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
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