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江川紹子による考察…【日産ゴーン事件】異様だったメディアの保釈報道が意味すること
https://biz-journal.jp/2018/12/post_26058.html
2018.12.27 江川紹子の「事件ウオッチ」第118回 文=江川紹子/ジャーナリスト Business Journal
日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏
日産ゴーン事件で逮捕されたグレゴリー・ケリー前代表取締役が保釈された。特捜検察の事件で、否認している被告人が、全事件の捜査が完了しない段階で保釈となるという、極めて異例の展開。長期間の身柄拘束で自白を引き出す「人質司法」など、日本の刑事司法のありようが海外でも問題視されるなか、裁判所がチェック機能を果たした格好だ。
■前代未聞の勾留延長却下
一方で、著名ビジネスパーソンの事件で国際的に注目されたゆえに「特別扱いされたのでは」とみるむきもある。刑事司法の公平性にかかわる、そのような疑念を招かないためにも、全国の裁判所は今後、勾留や保釈の請求に対し、身柄拘束の必要性についての判断を、以前以上に厳正に行う必要が出てきた、と言える。
ケリー氏がカルロス・ゴーン氏と共に東京地検に逮捕されたのは、先月19日。2010〜14年度のゴーン氏の報酬約50億円を有価証券報告書に記載しなかった金融商品取引法違反容疑だった(A事件)。同地検は今月10日、A事件で両氏を起訴。同じ日に、15〜17年度分の過少記載(約40億円)で再逮捕した(B事件)。
捜査段階の勾留は原則として10日以内。「やむをえない事由」があると認められた場合には、10日を限度に延長できる、とされている。法律では、延長はあくまで例外という建て前だが、特捜検察の事件では、原則と例外の逆転が常態化。逮捕されれば20日の勾留は当たり前になっていると言えよう。A事件では、ケリー氏らは20日間めいっぱいの勾留をされた。
ところが、東京地裁はB事件で10日の勾留は認めたものの、その後の延長請求を却下。検察は準抗告(異議申立)をしたが、認められなかった。
特捜検察の捜査で裁判所が検察の勾留請求や延長請求を退けるというのは、聞いたことがない。記者会見に臨んだ久木元伸・次席検事も、過去に例があるかを問われ、「つまびらかでない。調べてみないとわからないが、どう調べればいいのかもわからない。あったとしても多くはない」と、困惑の体だった。
裁判所の対応に、検察側は激怒した。取材の新聞記者らにこんな反応をしている。
<検察からは「ありえない」「特別扱いか」と憤りの声が噴出。……「裁判所は一体何を考えているんだ。ゴーン容疑者は日産にとって今も権力者。外国のトップ経営者だから特別扱いというのか」……ある検察幹部は怒りをあらわにした>(20日付産経新聞電子版)
<ある検察幹部は、東京地検特捜部の勾留延長請求を却下した東京地裁決定に怒りをあらわにした。(中略)別の検察幹部は「勾留延長は当然、認められると思っていたので非常に驚いた。裁判所は海外からの批判に腰が引けているのではないか」と憤った>(21日付読売新聞)
22日付朝日新聞には、検察幹部の発言を引用した、こんな記事が載った。
<「特別背任は、20日の地裁決定まではやらなくてもいいと思っていた。だが今はやるべきだと思っている」
ゴーン前会長に会社法違反(特別背任)容疑を適用した21日、検察幹部は言った。翻意の理由は、勾留延長を退けた「裁判所の仕打ち」だと説明した>
この幹部が言う事実経過が真実かどうかはわからないが、これが事実なら大問題だろう。しかも、裁判所の判断を「仕打ち」と言ってはばからないところに、検察関係者の感覚が見てとれる。
■保釈報道を巡る“不自然さ”
大阪地検特捜部の証拠改ざん事件などを機に検察批判が高まり、特捜検察を廃止すべきという議論まで起きた時には低姿勢だったが、それは一時的なポーズだったのだろう。一連の検察改革の後も、特捜検察の事件は捜査の都合が優先されるべきであり、裁判所は検察の請求を認めるのが当たり前という意識は、あまり変わっていないようだ。
同地裁は勾留延長を退けた理由を公表。これも異例のことだった。それによると、A事件とB事件は「一連の事案」であることに加え、争点や証拠が重なっていることを指摘。日産の関係者と「司法取引」がなされている本件では、日産側の捜査協力がなされていることも考慮された。
12月10日の再逮捕は、「一連の事案」を時期によって2つに分けることで、身柄拘束の期間を長期化させるもので、東京地裁が勾留延長の請求を退けた判断も、その理由を公表したことも、私は裁判所がまっとうな役割を果たしたと評価している。
最近、裁判所が勾留請求を退けるケースは少しずつ増えている。司法統計年報によれば、2017年の全国の裁判所の勾留請求却下率は4.91%。比率としてはわずかのように見えるが、07年の0.99%から年々上昇している。今回の勾留延長請求の却下は、こうした流れの中で出されたものと見ることは可能だ。しかし、異様だったのは、勾留延長却下の直後から、メディアがこぞって「保釈間近」を報じたことだ。
翌21日朝刊各紙の一面には、以下のような見出しが躍った。
〈ゴーン前会長 きょうにも保釈〉(東京新聞)
〈ゴーン前会長近く保釈〉(毎日新聞)
〈ゴーン元会長、きょう保釈も〉(日本経済新聞)
〈ゴーン被告 近く保釈か〉(読売新聞)
勾留には2種類ある。捜査段階での勾留と起訴後の勾留だ。ゴーン、ケリー両氏は、A事件で起訴された後も、罪証隠滅のおそれがある、とされて勾留が続いた。合わせて、B事件での捜査段階の勾留がなされていた。B事件での勾留延長が退けられても、A事件の起訴後勾留は続く。この身柄拘束を解いてもらうための手続きが、保釈だ。
捜査段階の勾留についての判断と、起訴後勾留からの保釈とはまったく別の手続きだ。多くの場合、担当する裁判官も違う。しかも、保釈を決定しても、検察側が準抗告をすれば、別の裁判官が3人の合議で判断をする。いったんは保釈決定が出ても、準抗告で覆されることは珍しくない。それにもかかわらず、各メディアがこぞって、勾留延長却下の直後、弁護人から保釈申請も出されていない段階で、「保釈間近」を報じた。通常ありえない、異常な対応だった。裁判所からなんらかの意向が示されていたのだろうか。
ゴーン氏の保釈は、特別背任容疑での再逮捕によって消えたが、ケリー氏については、翌日も「今日にも保釈」という報道が続いた。結局、21日の保釈はならなかったが、3連休をはさんだ25日に実現した。
■ケリー氏はなぜ保釈されたのか
特捜事件で被告人が争っていると、検察は保釈に反対する。検察が強く反対すると、保釈は認められにくい。そのため、否認している事件では、長期間の起訴後勾留が続く場合が多くなる。
大阪地検特捜部に逮捕・起訴された厚労省局長(当時)の村木厚子さんの場合、身柄拘束は164日間に及んだ。裁判所は1回目、2回目の保釈請求を退けた。3回目には、1度は保釈決定が出たが、検察側は準抗告した。その中で検察は、保釈に反対する理由として、被告人はマスコミに追いかけられているので逃亡するおそれがあるとか、部下に圧力をかけて証拠隠滅するのではないかとか、およそ現実的でないことを並べ立てた。それにもかかわらず、裁判所は検察の主張を受け入れ、保釈決定を取り消したのだ。
公判前整理手続が進み、検察・弁護側双方の主張や証拠が明らかになって、4回目の申し立てでようやく保釈が認められた。
鈴木宗男衆院議員(当時)が逮捕された事件に連座した外務省職員(当時)だった佐藤優氏の場合、勾留は512日間と、1年以上に及んだ。
かつてに比べれば保釈率は格段に高くなっており、1審終結前に保釈される率は07年の15.3%から17年の32.5%へと倍増した。しかし、特捜事件での否認事件は、認めている場合に比べ、明らかに身柄拘束が長い。
最近でも、補助金を詐取したとして大阪地検特捜部に逮捕・起訴された森友学園の前理事長籠池夫妻は、10カ月ほど身柄拘束をされた。
リニア中央新幹線の建設工事をめぐる入札談合事件で逮捕・起訴された大成建設と鹿島建設の役員が、9カ月身柄拘束された後にようやく保釈された。同じ事件で、刑事責任を認めていた大林組と清水建設は、1人の逮捕者も出さずに終わっている。
刑事事件の弁護人を数多く担当している趙誠峰弁護士は、この間の動きについて、こう指摘する。
「特捜事件では、認めれば早期の保釈になるが、争っていると、裁判で検察側の主要な証人が終わるまで、もしくは公判前整理手続を行う場合は、それがかなり進展するまで、検察は保釈に反対する。裁判所は、検察の意向を尊重した対応をするのが普通。いったん保釈を認めても、検察の準抗告でひっくり返ることは当たり前にある。
今回の事件で、検察の対応は従来通りだが、裁判所の対応は異例。勾留延長を退けたところまでは、最近の裁判所の動向から『ありうる』と思っていたが、その直後にメディアが一斉に『保釈へ』と打ったのには、かなり違和感を覚えた。検察の準抗告を裁判所が退け、これだけ早期の保釈を認めたのも極めて異例だ」
ケリー氏は、取り調べに対して刑事責任を否定しているだけでなく、生活の拠点はアメリカにある。裁判所が「罪証隠滅のおそれ」や「逃亡のおそれ」を気にしやすいケースといえよう。
かつて元東京高裁裁判長として多くの逆転無罪判決を出してきた、元裁判官の原田國男弁護士に、裁判官が否認事件で保釈をためらう心境を聞いたことがある。原田氏はかなり率直に、以下のように答えてくれた。
「(検察の疎明資料に)なんか怪しいと思えることが書かれてあると、具体的な『罪証隠滅のおそれ』までは行ってなくても、裁判官は『罪証隠滅やりそう』って考えがち。あくまで『おそれ』でいいわけだし、もし罪証隠滅されたら事件つぶしちゃうことになるから。自分の判断で事件つぶしちゃうのは困るので、身柄はとっておいて、決着は判決でつけよう、という判断になりやすい」
「保釈になると、逃げちゃうかもしれない、という心配がある。建て前としては、『逃亡のおそれ』がないことは、保釈の要件ではない。それについては保釈金の額を高くして保証することになっているので、保釈の是非を判断する時に逃亡のことは考えちゃいけない。でも、裁判官の本音としては、保釈してずらかられたら困るって思う。自分の判断によって事件をつぶしちゃうことになるから」
それなのに、弁護人が請求をする前から、すんなり保釈が出るような前のめりで不自然な報道を各社がしていたというのは、国際社会に注目されている本件では、裁判所が被疑者・被告人の身柄について、従来より原則的な対応を行うということが、裁判所の上層部の意向として事前に共有されていたのではないか。
先の趙弁護士は、こう見る。
「すべてが個々の裁判官の判断とは考えにくい。まったくの想像だが、最高裁の意向みたいなものが、なんらかのかたちで現場に伝わっていたのではないか、とさえ思う」
それでも、本件をきっかけに、裁判所の身柄拘束についての判断が慎重になり、日本の司法は改善した、と言われるのであれば望ましい。否認しているとなかなか保釈されない、という「人質司法」は、冤罪を生む一因でもあり、改善を求める声が発せられていたからだ。
しかし、これが国際的ビジネスパーソンであり、アメリカからの要請もあり、世界に注目されている人であるから特別扱いをしたということであれば、刑事司法の公平性が疑われてしまう。米国人と日本人、お金持ちと貧乏人、有名人と無名の人、いずれも等しく扱うという公平性が失われれば、司法の信頼性は揺らぎかねない。
「裁判所にダブルスタンダードを許してはならない。そのことを、積極的に働きかけることが重要だ」(趙弁護士)
裁判所はよくよく肝に銘じていてほしい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)
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