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奨学金返済「貧困」の若者たち…月10万円返済も、滞納1カ月でサラ金同然の取り立て
https://biz-journal.jp/2018/12/post_25999.html
2018.12.23 文=島野美穂/清談社
2018年度から、独立行政法人日本学生支援機構は「給付型奨学金制度」を本格的にスタートさせた。貸与型かつ有利子の奨学金が主流のなか、“返さなくてもいい奨学金”の誕生は、金銭的な事情で大学進学をあきらめかけていた学生にとって大きな希望となるだろう。
この給付型奨学金制度の誕生を後押ししたのが、教育社会学者で中京大学国際教養学部教授の大内裕和氏だ。著書『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新聞出版)で日本の奨学金制度に警鐘を鳴らしている大内氏に、奨学金問題の現状について聞いた。
■月10万円の返済が必要な学生も
『奨学金が日本を滅ぼす』は、17年2月に出版されて以降、高校生の子どもを持つ親世代をはじめ、高校の教職員や奨学金を返済している世代、そしてこれから奨学金の利用を検討している学生たちなど、実に幅広い層の読者から反響があったという。
そもそも、大内氏が本書を出版したきっかけは、学生たちの話を聞いたことだった。
「学生たちと話していると、彼らのほとんどが奨学金制度を利用していることがわかりました。それも、利用額が月に2万〜3万円ではなく、月8万円や10万円という学生がザラにいるのです。私自身も奨学金を借りていましたが、約30年前のことです。当時と今とでは、学生の置かれている状況がすっかり変わっていることを知りました。もっと多くの人にこの事実を知ってもらわなければと、本を出すことを決めたのです」(大内氏)
日本学生支援機構の奨学金利用は現在、学生全体の2.7人に1人に達している。すべての奨学金制度利用者を合わせると、昼間部大学生の約50%に達する。では、30年前はどうか。学生全体で見ても、奨学金利用者は2割にも満たない。なぜなら、そもそも借りる必要がなかったからだ。
「奨学金制度の変遷を説明するには、3つの時代に分けて考える必要がある」と大内氏は言う。
「まず、1970年代。今から約50年前は、国立大学の授業料は年間約1万2000円でした。月当たり、たった1000円です。もちろん今のほうが物価も高いですが、その差は約3倍なので、現在の金額に換算しても年間授業料は3万6000円。国立大学の学生は、そもそも授業料の心配をする必要がなかったのです」(同)
その後、70年代から90年代にかけて、大学の授業料は徐々に上がっていく。ただし、平均世帯年収も同時に上昇していたため、授業料の負担が問題になることは少なかった。95年頃を境に平均世帯年収は徐々に低下していくが、親世代の所得が下がっても学費が下がることはなかった。その延長線上に、今の学生たちが置かれている状況がある。
「本書の第1章では、『この30年で大きく変わった大学生活』と題して、時代の変化をグラフを使って詳細に解説しています。奨学金問題を理解するには、まず、この世代間ギャップを埋めるところから始める必要があります。いまだに『奨学金を返せないのなら借りなければいい』などという意見を言う人がいますが、それがいかにズレた発想か、本書を読めばわかるはずです」(同)
■サラ金同然の取り立ても…学生支援機構の悪循環
多くの大学生は、キャンパスライフを満喫している間は奨学金のことなど頭にないだろう。その実態が身に染みてわかるのは、卒業して返済が始まるときなのだ。
「社会人になったとたんに奨学金の返済が始まり、その額は多い人で数百万円にもなります。万が一返済が滞ると、滞納1〜3カ月ほどで本人や保証人へ電話による督促や通知がなされたのち、債権回収専門会社による取り立てや個人情報の信用情報機関への登録といった措置が取られることもあります。“奨学金”とうたいながら、取り立ての際にやっていることは消費者金融業者とまったく同じなのです」(同)
「借りたお金は返すのが当たり前」「それが嫌なら、借りる時点でもっと慎重になるべき」という声もある。そうは言っても、大学に進学できるかどうかで手一杯の高校生に「卒業後に返済するお金のことまで考えろ」というのは酷ではないだろうか。将来、自分がどんな仕事に就いて、どれだけの額の給料をもらえるのかもわからない人が多いのだから。
「もちろん、教員が知識を持って生徒に伝えることも重要です。しかし本来、それは教員の仕事ではありません。日本学生支援機構の職員が各学校で説明するべきですが、機構自体が人員不足で手が回らない状況なのです。対処しようにもする人がいない。完全な悪循環ができあがっています」(同)
このように、奨学金に関する問題を挙げれば枚挙に暇がない。一方で、解決に向けた動きも、少しずつだが進んでいるという。
「私が『返済する必要のない給付金制度を導入してほしい』とメディアを通じて各機関に呼びかけたのが、2013年のことでした。そのときの反応は非常に寒々しいもので、あらゆる方面から『絶対に無理だ』と言われたものです。しかし、それから約5年で給付型奨学金制度は実現しました」(同)
政府が奨学金問題の解決に乗り出しているのは、「個人の問題ではない」という認識が広がっているからにほかならない。奨学金制度は、構造自体がすでに破綻している。つまりはシステムエラーなのだ。そして、このエラーは日本の経済にも大きく影響している。
「返済によって生活が困窮している若者は非常に多い。奨学金の返済が重荷になって、結婚や出産を躊躇する若者もたくさんいます。単純に考えれば、その重荷を外してあげるだけで、深刻化している未婚化・少子化問題の解消が進みます。また、若者の経済活動は今より活発化するはずです。奨学金問題というのは、そのまま日本社会と日本経済の未来にもつながる問題なのです」(同)
ニューヨークで日本の奨学金制度に関する講演を行った際、大内氏はアメリカの学生から「It is loan」と言われたという。実際、日本の奨学金制度は、事実上の「ローン」を「スカラシップ」と言い換えているにすぎない。若者の生活ひいては経済活動のためにも、今の日本にとって奨学金問題の解決は喫緊の課題なのだ。
(文=島野美穂/清談社)
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