http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/880.html
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(回答先: 経産省は「ゾンビ救済ファンド」を手放さない 「官民ファンド」はソブリン・ウエルス・ファンドとは似て非なるもの 投稿者 うまき 日時 2018 年 12 月 12 日 13:45:21)
異常事態。産業革新投資機構の役員退陣を新聞各紙はどう伝えたか
国内2018.12.12 18 by 内田誠『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』
uttii20181211
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官民出資の投資ファンドである産業革新投資機構(JIC)と同機構を所管する経済産業省との間に内紛が勃発、JICの民間出身の取締役9人全員が辞任するという異常事態に陥っています。この一連の騒動を新聞各紙はどう報じたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。
産業革新投資機構の役員総退陣を新聞各紙はどう伝えたか
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「経産省の変化『信頼毀損』」
《読売》…「年21億円『自分には価値』」
《毎日》…「革新機構 民間役員総退陣」
《東京》…「ゴーン容疑者ら起訴」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「再逮捕 地検、詳細語らず」
《読売》…「革新機構 休止状態に」
《毎日》…「革新機構 空中分解に」
《東京》…「官民ファンド 矛盾で自壊」
ハドル
どのくらい差が出てくるか分かりませんが、官民ファンドの問題が圧倒的に多くの紙面を占めていますので、「革新機構の役員総退陣」をテーマとします。
基本的な報道内容
官民ファンドの産業革新投資機構と経産省の対立は、民間出身の取締役9人全員の辞任に発展。会見した田中正明社長は高額報酬問題で「信頼毀損行為」があったとして経産省を批判。また「投資手法」についても対立し、関係修復が不可能と判断したという。発足3ヵ月で経営陣総退陣の異常事態に。
田中氏は、9月に経産省の糟谷敏秀官房長がいったんは高額報酬を容認する文書を田中氏提示したにもかかわらず、11月に白紙撤回したことが「信頼関係の毀損行為」に当たるとして、経産省を厳しく批判。9人は「新産業創出の理念に共感して集まったが、経産省の姿勢の変化で目的達成が実務的に困難になった」とも述べた。後任人事は難航が予想されている。
官民ファンドはそもそも無理筋?
【朝日】は1面トップに4面解説記事、7面に一問一答。見出しから。
1面
経産省の変化「信頼毀損」
革新機構 社長ら9人辞任
3面
官民ファンド 対立の果て
革新機構社長ら辞任表明
経産省の調整不足に不信
事実上の休止 あり方検証を(視点)
uttiiの眼
3面記事。《朝日》は、経産省とファンド側の齟齬の要因について、「糟谷敏秀官房長ら経産省側の政府内における調整不足」としている。
経緯はなかなかに複雑だ。
官民ファンド「産業革新機構(JIC)」の構想の元になったのは昨年10月、経産省内に設けられた「リスクマネー研究会」の報告書で、田中氏はその委員であり、糟谷官房長は当時の担当局長だったという。田中氏は「仮に報酬1円でも(JICの社長に)来た」と説明、しかし9月に、年の報酬1億円超もありうる案を糟谷氏から示され、その案に従って取締役会で報酬規定を決めていた。ところが、10月3日、高額報酬案を伝える《朝日》の報道を受けて経産省は「公表しないでほしい」と要請、その後、嶋田事務次官との会談で、報酬引き下げの要請に田中氏は同意したが、さらにその後、報酬を3,150万円に減額し成功報酬は出さないという通告があり、議論は暗礁に乗り上げ、田中社長は「席を立った」という。
《朝日》は「高額報酬」問題を重点にして経緯を説明しているのだが、その経緯には不明確なところが多く、理解しづらい。取材力に疑問を感じさせる。
栗林史子記者による「視点」は、官民ファンドのあり方自体を問題にしている。現在14あるファンドのうち6つが損失を抱え、JICの前身も「経営難の企業を救済する『国策』的な投資」で批判され、その反省から「新産業の育成」や「投資リターンの最大化」を打ち出したのがJICだった。ところが、高額報酬に対する世間の批判を恐れた経産省が経営陣を押さえ込みに掛かり、事実上の休止状態に追い込んでしまったと。
記者は「巨大な『官』の資金を慎重に管理しつつ、『民』の自由な投資活動で利益追求を図る」という、木に竹を接いだような官民ファンドの設計に無理はなかったかと、根本的な問いを発している。
【読売】投資手法を巡る対立を強調
投資手法を巡る深刻な対立
【読売】は3面の解説記事「スキャナー」のみ。見出しを以下に。
3面
革新機構 休止状態に
民間9取締役 全員辞任へ
報酬・運営手法で溝
官民ファンド 政策と利益 両立難しく
uttiiの眼
《読売》は、今回の官民ファンドと経産省の対立は、「高額報酬」を巡る両者の溝だけではなく、「投資手法を巡る対立」も影響していると強調している。
発足にあたり、JICは「世界の一流の金融や投資のプロによる投資活動を行う体制が整備された」と鼻息も荒く、経産省とも蜜月の関係だった。リスクマネーが集まらず新規産業が育たない日本の現状を打破し、官民ファンド不要論を払拭する役割も期待されていたという。
ところが、報酬を巡る対立が起こり、経産省はファンドへの監視強化に走る。具体的には、JICが、民間資金を呼び込みやすくするためなどとして、認可制の「子ファンド」の下に、認可不要の「孫ファンド」を設けようとしたことに対して、経産省は「やりたい放題になる」と警戒、JIC側は「運用の手足を縛られては海外で戦えない」として決定的な対立が生じていたという。この件、《朝日》は全く触れていないが、極めて重要。
【毎日】経産省が掛けた疑念とは
孫ファンドは禁止されることに?
【毎日】は1面トップに3面の解説記事「クローズアップ」、6面は「ミニ論点」で識者2人の意見。見出しから。
1面
革新機構 民間役員総退陣
高額報酬契機 社長、国を批判
3面
革新機構 空中分解に
民間役員総退陣
「変節」経産省に不信
ベンチャー投資 頓挫
uttiiの眼
《毎日》は、「高額報酬」と「投資手法」の両方についてバランス良く書いている。「高額報酬」に関しては、年間最大1億円超の形で示された当初の報酬規定案は、「財務省から了解を得ていないことが判明」し、田中社長は「政府内で調整が済んでいないという疑念」を持ち、そして嶋田次官が総額3,150万円を提示したことで田中氏は自らの進退にも言及し、両者の対立が決定的になったとの経緯。
「孫ファンド」については、どうも、経産省側は田中氏らが孫ファンドを使って自らの収入を増やそうとしているとの“嫌疑”を掛けたらしく、記者会見で田中氏は、「我々はお金のためにここへ来たわけではない」と語り、情報開示について、孫ファンドの報酬も開示する意向を提案していたと説明しているようだ。
もう1点。今回、辞任を表面した中には、取締役会議長の坂根正弘氏が含まれている。コマツ相談役の坂根氏は「経団連の元副会長で政財界に幅広い人脈を持つ」人。新たな人材を集める求心力となるべき人で、この人まで失った影響は非常に大きいと《毎日》は指摘している。
また記者は、政府はJICへの管理を強めることになり、「孫ファンド」の設立を禁じたりすれば、機構の趣旨が変わってしまう懸念があるという。「田中氏らの辞任で経産省とJICの対立自体は収束に向かうが、産業活性化という宿題は一段と重くなった」と締めている。
【東京】意思決定メカニズムに問題
意思決定メカニズムの問題
【東京】は1面左肩と2面の解説記事「核心」。見出しから。
1面
社長「法治国家でない」
革新機構 民間9取締役辞任
経産省を批判
2面
官民ファンド 矛盾で自壊
革新機構社長ら辞任
「民間の知見を」←→政府介入
uttiiの眼
1面。《東京》は見出しに「法治国家ではない」という、田中社長が会見時に使った最も刺激的な言葉を採用しつつ、問題は「報酬水準」だけでなく、「投資手法」を巡っての対立でもあったことを示している。
ともに辞任することになった冨山和彦取締役が「報酬の問題だけでなく、広範な事項について後から覆されるリスクが高い意思決定メカニズムになっていることが露呈した」と言っていることを紹介。この発言の意味は大きい。
2面。《東京》はこの問題を「安倍政権の掲げる成長戦略の柱の1つが揺らいでいる」問題として位置づけていることがリードに示されている。
《東京》が紹介する「投資手法」の問題は、「孫ファンド」云々ではなく、具体的な案件についての説明になっている。
田中社長は会見のなかで、不信の芽生えは就任直後に遡るとして、10月に副社長が見つけてきた米国の創薬ベンチャーへの投資問題を挙げている。日本企業との協業で「国内に米国の先端技術を還元することが狙いだった」のに、経産省や財務省との協議が遅遅として進まず、田中氏は、求められているのは「民間のベストプラクティスを活用する官民ファンド」ではなく、実態は「国の意向を反映する官ファンド」であることを実感させられたとしている。
こうした官民ファンドの根本問題について、記事は、旧大蔵省出身で慶応大学大学院の小幡積准教授に語らせている。
「官民ファンドは政治や省庁が介入するからうまくいかない」。「政治や行政にファンドを運営する能力がないから民間に協力を求めているのに、介入するならすべて解散すべきだ」と。
あとがき
以上、いかがでしたでしょうか。
《朝日》記事の劣化が目立つ今回のテーマ。高額報酬の件でスクープを飛ばして経産省を慌てさせたことで、「高額報酬」問題に逆に囚われてしまったというところでしょうか。他紙が揃って、「投資手法」の問題と絡めて報じているのと比べて、ちょっと惨めすぎます。どこかで挽回してほしいものですが。
というところできょうはここまで。
image by: Twitter(@世耕弘成)
内田誠この著者の記事一覧
新聞には見えない文脈が潜んでいる……朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を徹底比較、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜から金曜まで毎朝9時をメドに【ショートバージョン】を、その後、夕方までに【フルバージョン】をお届け。読み手は「吉田照美ソコダイジナトコ」(文化放送)や「スーパーニュース・アンカー」(関西テレビ)でコメンテーターを務め、現在はネット上のテレビ局、『デモクラTV』の内田誠。
https://www.mag2.com/p/news/379308/4
取締役辞任を奇貨とし産業革新投資機構は閉鎖せよ
産業育成の官民ファンドが絶対に成功しない理由
2018.12.11(火) 高橋 洋一
官僚には産業育成は難しい
(高橋洋一:嘉悦大学教授)
政府系ファンドである産業革新投資機構が1億円以上の役員報酬について、経済産業省と対立し、民間出身役員9人が辞任した。産業革新投資機構は国が資金を拠出し、最大2兆円を運用能力がある。
筆者は、株式投資は官でできるはずないという意見を持っている。そこで、30年以上も前、経産省の行う「産業政策」は意味がないという内容の学術論文で書いている。当時、大蔵省から公正取引委員会事務局に出向していたときで、官僚に産業の動向等見通せるはずがないので、産業育成なんて無理であるというものだ。
産業育成のための官民ファンドが成功しない理由
政府ができないことの典型例として株式投資がある。そもそも、政府が行うといっても、官僚は市場に関することに疎い。官僚自らが、株式投資できないのは明らかなので、民間から専門家を官に持ってきて、官の組織で株式投資をしようと思うのが、官民ファンドである。しかし、それでも、民主主義プロセスでは、失敗時の責任取り方について、国民が納得する方法はない。このため、国がかなりの程度関与せざるを得なくなる。となると、民間から来た人は不自由になって力が発揮できなくなり、結局失敗することになる。
こうした筆者の考え方からいえば、産業育成をするために株式投資を行う産業革新投資機構は、もっとも官でやってはいけないものである。
もともとは、2009年に産業革新投資機構の前進である産業革新機構が誕生している。リーマンショック後の企業救済としては受け入れられた。15年の設置期間で2025年までだった、昨年それが9年延長され、2034年までになった。そして、今の産業革新投資機構が9月から発足した。本来であれば、この延長はすべきでなかった。そうすれば、産業革新投資機構もなく、こうした醜態をさらすことはなかった。この際、経産省は、産業革新投資機構の後任役員人事をせずに、このまま産業革新投資機構を閉鎖すれば、今回の事件も結果オーライである。
今回のドタバタ劇は、筆者の従来の考え方が間違っていなかったことを示しているように見える。産業革新投資機構の田中社長の記者会見(https://www.j-ic.co.jp/jp/news/pdf/JIC_CEO_20181210.pdf ;
https://www.sankei.com/politics/news/181210/plt1812100008-n1.html)と、その後の世耕経産大臣の記者会見(https://www.sankei.com/economy/news/181210/ecn1812100024-n1.html)から、官民ファンド自体が成り立ちにくいことを見てみよう。
これを見ると、官と民の間で、まったくコミュニケーションが成立していないことがわかる。これは、技術的な話法というレベルではなく、官と民でよって立つべきルールが違うことからくる、埋めがたく本質的な違いである。
日産取締役会、ゴーン会長の解任を決定 全会一致で
仏パリでフランスのブリュノ・ルメール経済・財務相(右)と会談した世耕弘成経済産業相(左。2018年11月22日撮影)。(c)ERIC PIERMONT / AFP 〔AFPBB News〕
問題となっている役員報酬について、田中社長は、経産省官房長から文書で示されたものを取締役会で決議したと記者会見で述べた。しかし、その後、文書で示されたものが白紙撤回されたので、政府と間の信頼関係がなくなったという。このプロセスについて、「日本は法治国家なのか」と疑問視している。
一方、世耕経産大臣は、経産省官房長の出した文書で混乱させたことは謝罪したが、産業革新投資機構は商法に基づく株式会社であると同時に、産業競争力強化法の規制下にあるので、同機構の取締役会で決議したものを経産大臣が認可しないことはありえる、とした。
これは、世耕大臣の説明のほうがより正確だ。田中社長の説明はあくまで商法の範囲内としては正しいが、産業競争力強化法を見落としている。もっとも、民間でこれまで生きてきた田中社長にとって、産業競争力強化法は別世界の話だろう。形式的には産業競争力強化法の下で産業革新投資機構があるのは知っていただろうが、肌感覚としては頭に考えていなかっただろう。
報酬「約束」の文書は官僚の「私的メモ」
しかも、経産省官房長が田中社長に提示した文書について、田中社長に誤解があった。田中社長は、経産省官房長という幹部が提示した文書なので、政府内で調整済みの公文書であると勘違いしたようだ。その文書は、経産省のホームページにある(http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181203003/20181203003-4.pdf)。
田中社長の記者会見で、この文書について記者からの質問があった。いきなり文書に番号があるのかと聞き、それを公表できないかという質問だ。田中社長は、経産省のホームページにあると答え、記者は公表されていることを知らずに恥をかいただけだった。その記者は、「ブツ」確認という基本動作を怠ったわけで、これではマスコミが信頼されなくなるのもよくわかる光景だった。
筆者であれば、ブツを示し、日付が9月とあるが何日か(21日)、差し出し人の名前がないこと(経産省官房長)、文書番号がないこと(公文書ではなく、官僚の私的メモ)を指摘し、田中社長は、その文書を返して政府としての公文書で再要求すべきではなかったかと追及するだろう。
こうした発想は、おそらく民間出身の田中氏にはなかっただろう。それを民間人に求めるのは酷かもしれないが、産業革新投資機構という、国が出資した「官」の組織の社長である以上、必要だ。逆にいえば、これが無理なところが官民ファンドの限界になるのだ。
田中社長は、民間では優秀なビジネスマンだったのだろう。ただし、官の組織の人としては疑問符がある。
その一例は、田中社長が、昨年10月に経産省に設けられた「リスクマネー研究会」の「報告書」をバイブルと呼んでいたことだ。
経産省のサイトをみると、「第四次産業革命に向けたリスクマネー供給に関する研究会」(http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/20180629001.html)がある。田中社長は委員である(http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_risk/pdf/001_03_00.pdf)。今回辞任した取締の人も委員に入っている。
ただし、この研究会に「報告書」はなく、「取りまとめ」しかない。他の研究会を見ると、「報告書」があるのに不思議である。役人の感覚からいえば、「報告書」にできないものが「取りまとめ」である。いずれにしても、「報告書」でも「取りまとめ」でも、その内容に役所が責任を持つ文書でない。国会答弁のために、第三者が言っているという程度のものだ。実際に執筆しているのは、担当課の課長補佐レベルだ。その文書を「バイブル」と呼び、絶対視するのはあまりに危険である。
民間の人から見れば、役所が出した文書はどれも同じレベルに見えるかもしれないが、格の違いは形式的に明確であるので、それを見分ける能力も「官」の組織で働く上では必要だ。ここにも、官民ファンドの本質的な矛盾がでている。
おそらく、田中社長は、民間での能力があったので、そのまま、「官」の組織の中で、生かそうとしたのだろう。記者会見でも、志を持ってやったといっており、その言葉に偽りはないだろう。
しかし、「官」の組織の中で、民間人がまともなことをしようとすると、「官」の縛りに必ず引っかかる。民間の場合には、形式的な手続きよりもスピードと結果である。しかし、「官」の世界では、民主主義プロセスのために、形式的な手続きがより優先されるのだ。となると、民間人のよさを生かしにくいのだ。特に、株式投資では、もろに、官と民の違いがぶつかってしまう。
産業革新投資機構は政府の手下となる運命
まともな民間人が複数の民間人を引き連れて「官」の組織にきて、まともな仕事をしようとすると問題が起きることを筆者は何度も経験している。だから、民間人が「官」の組織にくるときには「官」の組織に懐柔されるように1人で来て、まともな仕事はしなくなる。これが現実である。
官民ファンドには、官と民の本質的な矛盾が満ちあふれている。今回の9人の民間出身者の取締役辞任は、その顛末をよくあわらしている。ちなみに、取締役のうち、今回辞任したのは民間出身者である(https://www.j-ic.co.jp/jp/about/leadership/)。役所からの派遣(天下り)は辞めない、というか、天下りなので、自分の意思で辞められないのだ。
本来であれば、彼ら2人が政府と産業革新投資機構を調整すべきだった。経産省官房長の提示した文書が公文書でないことは彼らには明らかだ。もっとも、いくら調整しても、官と民の本質的な違いは克服できないだろう。実際、報酬では調整できても、産業革新投資機構は政府方針から自由にならず、政策目的は変更されるので、所詮政府の手下として活動せざるをえないのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54925
JIC大混乱、取締役たちは何に失望したのか
坂根正弘氏と冨山和彦氏の辞任コメントを全文紹介
2018.12.11(火) 三田 宏
すでに広く報じられているとおり、2018年12月10日、産業革新投資機構(JIC)の社外取締役を含む9名の取締役が同社の取締役を辞任することを表明した。
同日、5人の取締役が辞任理由に関するコメントを発表した。コメントからはJICへの出資者である経済産業省に対する失望と怒りがにじむ。以下では、その中から坂根正弘氏(小松製作所相談役特別顧問)と、冨山和彦氏(経営共創基盤代表取締役CEO)が発表したコメント全文を紹介しよう。
「私が失望したのは、この点にあります」 坂根正弘氏のコメント
取締役辞任コメント
株式会社 産業革新投資機構
取締役会議長・社外取締役
坂根正弘
私は下記事由により残務の整理がつき次第、辞任することと致しました。
記
今回の混乱(出資者である官側とJICの経営陣との間)の経緯はともかく、官側の提案に基づいて取締役会で正式決議したことを根底から覆されたことと、両者間の信頼関係が修復困難な状況の中で、今後取締役議長としてガバナンスを遂行することに確信がもてなくなったことによります。
【補足】
今回の任務の打診を受けた時、私としては日本における民間のリスクマネーの供給が非常に少ない中で、なんとか国の資金でこの動きを誘発することができないかと思っておりました。特に私自身、この2年間、「全国レベルでの産官学金の連携による大学振興」の政府の仕事に携わる中で大学発のベンチャーの活性化に関心が強くなっておりました。
しかし、この国では、特に地方の金融機関がこういったリスクマネーの供給者になりえず、当面は官の資金でリードするしかない。しかし、資金以前の問題として、この国がグローバル規模の最先端の成長産業に対する知見、目利き能力、投資ノウハウに劣っていることへの取組みが第一歩と思っておりました。そこで私自身にはこういった能力がないので、JICの社外取締役としてなら何とか貢献できるのではと思い引き受けた次第です。
JICの第一歩として前述の日本のベンチャー投資に対する能力アップのためにも、米国のベンチャー投資から始めることに私自身も関心を持ち、JIC-USの立ち上げを最優先で取り上げ、短期間で有能な人材を確保し、ベンチャーのスキームの政府認可を得ることができ、いいスタートができたことに喜んでいたところです。
しかし、今回の混乱の根本原因が日本型の最終決定権者が不明確なボトムアップ意思決定プロセスにあったとすれば、人材確保と意思決定スピードが勝負を決める米国社会で成功を期待することは難しく、私が失望したのは、この点にあります。
今後、JICが新たな体制でスタートする場合、私の考える上記の課題を何とか解決できる方向に強化して頂くことを切に願うものです。
以上
日産取締役会、ゴーン会長の解任を決定 全会一致で
仏パリでフランスのブリュノ・ルメール経済・財務相(右)と会談した世耕弘成経済産業相(左。2018年11月22日撮影)。(c)ERIC PIERMONT / AFP 〔AFPBB News〕
「かえすがえす残念です」 冨山和彦氏のコメント
辞意表明について
株式会社 産業革新投資機構
報酬委員会委員長・社外取締役
冨山和彦
本日、私は以下の理由で(株)産業革新投資機構(以下JIC)の社外取締役の職責について辞意を表明いたします。
記
JICは、我が国のリスクキャピタルの機能、取り分け大きなイノベーションを促し経済成長をドライブするための様々な長期的リスク投資機能が、質・量ともに世界に比べて圧倒的な差をつけられている状況を挽回すべく、海外の巨大ファンドに対抗しうるグローバルトップレベルの政府系長期リスクキャピタル投資機関を目指すという政策趣旨に賛同して、社外取締役を引き受けました。
しかし、この数か月の経緯をみるに、官の側との丁寧な調整を積み重ね、会社法上も産業競争力強化法上も適法かつ適正な手順によって合理的に取締役会で決定した事項について、当初、論点になっていた報酬の問題だけでなく、広範な事項について後から覆されるリスクが高いガバナンス実態、意思決定メカニズムになっていることが露呈しました。世界的なリスクキャピタルの競争の舞台は、法的な適正手続きや約束事への信頼、そしてその前提で自らの能力と裁量でスピーディかつ果敢に職務遂行し、その結果に対する厳しい成果評価に規律され処遇されるプロフェッショナリズムへの信頼で成り立っています。しかし、今回の騒動の経緯、それが公知となっている状況に鑑みるに、JICと言う投資機関はそうした法的安定性や信頼度が低い、あるいはプロフェッショナルな投資スタイル、処遇スタイルの実現が難しい組織であると言う見方が、日々、世界的に強まっていく事態となっています。
まことに残念なことですが、これでは内外のトッププロフェッショナルを集め、また世界トップレベルのエリート・リミテッドパートナー(主にリミテッドパートナー(LP)と言う立場で資金運用を行う機関の中でも長期的な実績と規模において世界的に尊敬されている機関投資家)やエリート・ジェネラルパートナー(LP投資家から資金を預かり直接の投資や運用を担うプロフェッショナルまたはプロフェッショナル組織のグローバルな一流どころ)と組んで仕事をすることは今後、極めて難しいとみるべきでしょう。すなわち当初の理念であるグローバルトップレベルの政府系長期リスクキャピタル投資機関の実現は非常に難しくなったということです。私自身も、かかる意思決定メカニズムの中でこの状況を挽回し、世界のトッププロフェッショナルコミュニティにおいてJICの信用を取り戻すことに貢献できる力を持ち合わせているとは思えません。
まさにJICがやろうとしていることの先行ロールモデルファンドづくりについては、バイオインダストリーの世界的なレジェンドであり、現役のトップキャピタリストでもある金子恭規さんが、田中社長の尽力もあってJICの副社長に就任してくださる僥倖があり、「日本国の未来のためなら」という心意気で、その圧倒的な実績と信用、ネットワークをフルに活用した獅子奮迅の活躍のおかげで、普通ならあり得ないような豪華かつ若手で働き盛りのGPメンバーのリクルーティングに成功し、米国、西海岸にバイオベンチャーファンドが認可・設立されたところでした。この進展に社外取締役一同も、本当に大きな希望と期待を抱いていました。しかしこれとて、一連の騒動を経て、また、JIC側の執行部体制も大きく変わる可能性が高いなか、現在の様なグローバルスケールの超一級GPメンバーを維持することは極めて難しくなるのではないか、と思うと、かえすがえす残念です。千載一遇、いや一期一会とも言うべき、世界のベンチャー投資の頂上領域へ一流プレーヤーとして日本ベースの組織がアクセスするチャンス、そこで学び成長した多くの人材が将来、世界的なプレーヤーへと飛び立っていく可能性、そうした人材が日本全国のベンチャーを世界的レベルで活性化してくれる可能性を私たちは失おうとしているのかもしれないのですから。
以上、当初、賛同した理念、組織目的の成就が極めて困難になってしまった今、私がこの職にとどまる意味はなく、また自らの能力で貢献できる役割もなくなります。本日、辞意を表明したうえで、辞任時期については、残務処理の完了後、特に米国西海岸のファンドを含め、従来の方針で進めてきたものの、この状況を受けて継続が困難になるかもしれない事項の収拾を、執行部が速やかかつ円滑に行い、訴訟などのトラブルを回避または最小限化して、この騒動による、国際的なリスクキャピタルコミュニティーにおけるJICに対する信頼棄損の拡大を可能な限り回避することを見届け次第、本職を辞任致します。今、何よりも優先すべきは、本日を境に状況を正常化させ、これ以上の信頼棄損を回避することです。
最後に、願わくは、関係当局におかれては、この困難な状況を何とか大挽回し、本来の理念を目指せるような新体制を構築されること、そしてこの騒動を通じて、
@世界クラスの政府系リスクキャピタル投資機関を作るという高い理想を掲げた試みがなぜこうした展開になってしまったのか(同じく「国民感情」にさらされる民主主義国家であるノルウェーやカナダなどでは、なぜそれが可能なのか)
A政策的にリスクキャピタル供給を目的とした官民ファンド一般について、なぜ必ずしもうまく機能しない状況が続いているのか
Bさらには民間にも通底する問題として、リスクキャピタル投資機能について、世界有数の資本蓄積国である我が国から、なぜグローバルに一流なプレーヤーが現れず、むしろ世界との差がどんどん広がる一方なのかについて、本質的な問題点に関する真摯なレビューが行われ、後世への教訓とされることを祈るばかりであります。また、私自身も、今回の経験に加え、言わば官民ファンドの原型となっている(株)産業再生機構の中核的な創業かつ執行責任者であった立場からも、そのレビューへの協力を惜しまないつもりです。
以上
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54927
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