http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/686.html
Tweet |
(回答先: 年金抑制策、19年度に実施へ 厚労相 年金世界29位Dランク、給付改善し持続不可能へ 未払い年金があるかもしれない人は? 投稿者 うまき 日時 2018 年 12 月 01 日 02:11:48)
未来の働き方を大予測
新卒採用を欧米流に改革すると日本の若者はブラック職場行き
雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生
2018/11/1
欧米ではそもそも未経験の採用が本当に少ない
若年失業率が3割に迫る欧州諸国。本当に「脱日本型」のお手本になるか?
新卒採用ルールに関する連載、今回が5回目となる。前回までで、新卒ルールのあり方、実効ある規制、そして、そもそもなぜ新卒一括採用がなくならずどんどん拡大しているのか、について書いた。
・新卒採用ルールの連載全7回はこちらから。1回目。 2回目。 3回目。 4回目。 5回目。 6回目。 7回目。
今回は、日本以外の国では、大卒者の就職がどのようになっているか、を考えていくことにしよう。
「新卒一括採用をどう変えていくか?」。この話をするときに、決まって出てくるのが「欧米の話」だ。ただ、雇用事情に詳しい人間から見ると、そこで語られるのは「夢のような」一部の恵まれた人の話だけだ。いわく、大学中退でもグーグルに入れた天才システムエンジニアや、ファーウェイに年収80万元(1300万円)で新卒採用されたAIエンジニアの話とかだ。
それはそれはすばらしい話なのだが、一方で、OECD40数カ国の中で、日本より若年就業率が高い国はほとんどない(年によって異なるが日本常に上位5位以内に入っている)。 若年失業率で見れば、米国は日本の2倍、フランスは3倍、イタリアは4倍、スペインは5倍といった状況だ。
日本では新卒3年転職率が3割だと騒がれる(これは過去30年来変わらないことだが)、新卒で闇雲に就業することが良くないという声が起きる。ただ、欧州諸国では20台前半の年間転職率が3割程度の国が多い(日本は1年にすれば10数%)。
あれあれ? 範とするはずの欧米はそんなに良い仕組みなのだろうか……。
そう、今回は、理想とされる欧米型入職の現実を探る。
新卒改革論で語られる案は欧米でも全く一般的ではない
まず、新卒一括採用をやめて、企業はどのような方法で若年者を受け入れるべきか、について、以下のような話が語られる。
(1)新卒時点にとらわれず、卒業後にゆっくりと考えられるようにすべき
(2)大学の早い段階から、インターンシップや企業実習で社会を知るチャンスを豊富に用意して、キャリアをよく理解したうえで仕事を選ぶべき
(3)職務別の雇用形態をとり、「必要なスキル」が明示された形で募集活動が行われるべき。
この改善策は、たとえば1994年に上梓された『日本の雇用』(島田晴雄著)の中にもすでにその要諦が垣間見られるように、20年以上も言われ続けてきたことなのだ。
しかし、欧米にもここで言われるような夢のような仕組みはありはしない。まず、向こうは若年未経験採用自体が少ないために(1)などありえない。また職務別採用とは「職務ができる人用」のものなので、未経験者にはとりわけ厳しい。そしてインターンシップは、就業のためのとんでもなくハードボイルドなものだ。
こうした現実を知らない絵空事が「日本型の改革案」として語られている。
そもそも未経験採用が本当に少ない欧米
最初に、欧米では、若年未経験者の大量採用がなぜ少ないのかを説明しておこう。
欧米の場合は、前回話したとおり、やめた人が出たら、そのポストにかなう人を採るのが一般的だ。課長が辞めたら課長を、部長が辞めたら部長を、スペシャリストが辞めたらスペシャリストを採る。限定型雇用の中では、上位にできた空席を、ヨコ・ヨコ・タテ・ヨコとパスして組織末端に寄せることが難しいと説明した通りだ。
だから、組織末端のポストで求人が起きるのは、そのポジションの人が辞めて欠員ができたときだけになる。だから、エントリーレベルの求人がとても少なくなる。
対して日本は、無限定雇用のために、どこで欠員が出ても、社内異動と昇進でそれを埋める。そうすると空きポストに異動した人が新たな空きポストとなる。この玉突き連鎖により、空きポストは最終的に組織末端に寄せられていく。だから大量の「エントリーポジション」が生まれる。これが、前回書いた「日本型無限定雇用」特有の人事管理術だ。
結果、企業は課長が辞めようが部長が辞めようがスペシャリストが辞めようが、結局、新卒一人を採用すればいい、というものすごい楽な人員補充が可能になる。
そして、大卒者も、どの企業でも組織末端に大量のエントリーポストが空くために、入職が容易というメリットを有することになる。
お分かりいただけただろうか? そもそも、欧米は「新卒採用がほとんどない」という国柄なのだ。失業率や転職率が高まるのは、そのためだ。
なので、「卒業後いつでも未経験者を大量に受け入れてくれる」といった夢のような仕組みは欧米にはほぼない。
エリート職か、ブラック職か、職業訓練をするか
では、欧米では若者はどのような入職方法となるのか?
それは超優秀層のエリート採用(対象は1%程度だろう)と、それ以外で大きく異なる。
日本のマスコミやネットで語られる「うらやましい話」はすべて、上位1%のエリート採用の話なのだ。冒頭に引いたファーウェイの高給新卒採用などももちろんそうだ。こうした超レアな事例を掲げて、「こうすべき」というのが、今、よく言われている話なのだ。
99%の普通の人は、基本、以下の二つの入職となる。
■組織の末端ポスト(エントリーレベル)が大量に空く企業にひとまず就職する。
■ある程度訓練を積んで、社会人枠で中途採用者と競争しながら入職する。
この2つの方法について見ていく。
まず、エントリーレベル採用だが、空席を組織末端に寄せることができない欧米で、なぜそんなに多くの下位ポストが空くのか。その理由は、(1)人員の流出が多い、(2)不人気で応募者が少ない、(3)成長著しくポストが拡大し続けているの3ケースが考えられる。
(1)に関してはブラック職務の臭いが漂い、(2)は文字通り人気のない職務もしくは低待遇、唯一若者が進んでいきたくなるのは(3)の場合だけだろう。ただし、日本の新卒採用と違って、エントリーレベル採用は新卒向けではないため、(3)のケースでは腕に自身のある社会人が応募し、そちらの方が採用される可能性が高い。
結果、普通の学生は、(1)ブラック(2)不人気・低待遇の仕事しか残らない。
米国の求人サイトでエントリーレベル求人を見ると、店舗販売、コミッション営業、フィールドサービス、もしくは本当に小さな零細企業などが主であり、人気企業の採用でもたとえば「機種管理とオペレータ」(ATT)といった応募者が集まらず、定着も芳しくない職務となっている(唯一、コンサルティングファームのアソシエが人気職での例外的に多いが、採用レベルは高いので普通の学生には難しい)。
こうした不人気・低待遇職なら、日本でも既卒者の未経験受け入れが通年で行われている。たとえば、不動産営業や携帯電話ショップ、飲食店、コールセンター、カスタマーサポートの特定派遣などなどが上げられるだろう。その点では日米とも対して変わりわせず、見習うほどのこともないとわかる。
近著の『名著17冊の著者と往復書簡で読み解く 人事の成り立ち 「誰もが階段を上る社会」の希望と葛藤』(海老原嗣生・荻野進介著、白桃書房)
中途採用で社会人と争うために腕を磨く=インターンシップ
普通の学生たちのもう1つの入職方法である「職業訓練を積んで、入職する」についてみてみよう。、学生たちはどのように「腕を磨いて」即戦力となるのか。
そのためには、大きく2つ方法がある。大学在学中に自主的に行う企業実習(インターンシップ)。そして、公的機関による企業実習(見習い訓練)だ。
社会人相応に腕を磨くことがその目的となるから、日本のインターンシップのように「長くて1カ月、多くが1日・2日」というものとは全く異なる。
基本は、長期の実習となる。フランスの企業に聞いたインターンシップの受け入れ期間の調査によると、一番多いのが「4カ月以上」で49%と約半数。続いて3カ月が22%でここまでで70%を超える。続いて2カ月が17%。2カ月以上トータルで89%ともなる。夏休みよりも長いのが、向こうのインターンシップのごく普通な姿なのだ。
さらに驚くのは、こうした長期インターンシップをフランスの学生は何回も受ける。グランゼコール(大学より難しいエリート養成機関)では回数が特に多いが、一般大学の学生でも4回以上が25%、3回が24%、2回が26%と複数回経験者が8割近くにもなる。結果、大学生のインターンシップ期間は平均で14カ月にもなるという。ちなみに欧州の大学は3年制なので、その半分近くをインターンシップに使っていることになる。
なお、こうしたインターンでも習熟が積めなかった学生は、見習い訓練を受けることになる。
仕事を覚えるためには、それくらいのハードな実習が必要で、職務別採用の世界で職にありつくためには、こうした下積みが必要となる。日本のように、1週間程度のなんちゃってインターンシップが事足りるのは、その前提に未経験者を採用するという、新卒採用慣行あることに気づいてほしい。
こんなことを書いても、まだ欧米に夢を描く人からは、「いやいや、何カ月も学生を受け入れて親切に研修をさせてくれるなんて、向こうの企業はやさしい。それに比べて」という声が聞かれそうだ。
なので、次回は欧米(特に欧州)のインターンシップがどれほど過酷なものかを書くことにする。
海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。
https://bizgate.nikkei.co.jp/series/DF040620184168/
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZZO3648850015102018000000
欧州の若者は「薄給でブラックな訓練」に耐えてやっと就職
雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生
2018/11/8
欧州のインターンシップの多くは、企業の雇用調整弁であり、移民よりも安い低賃金労働だ
決して企業の社会奉仕ではない、欧州のインターンシップ事情
新卒採用ルールに関する連載、今回が6回目となる。新卒ルールのあり方と実効ある規制、そして、そもそもなぜ新卒一括採用がなくならずどんどん拡大しているのか、そして、日本以外の国では、大卒者の就職がどのようになっているかを書いてきた。
・新卒採用ルールの連載全7回はこちらから。1回目。 2回目。 3回目。 4回目。 5回目。 6回目。 7回目。
結局、職務限定型の欧米では、未経験者を大量に雇い入れることなどしない。結果、未経験学生は数少ないエントリーレベル求人を奪い合いするか、もしくはブラック覚悟で不人気職に応募するかになる。
それがいやなら、学生の間にインターンシップなどで腕を磨くしかない。ただ、日本のインターンシップのような生易しいものではない。フランスでは3年制の大学在学中になんと14カ月もインターンとして働くのが「平均的な」姿なのだ。前回はどれだけの期間働かなければならないかを書いたが、今回はその職務内容や待遇などを書くことにする。その前に、欧米企業はなぜこんなに長期間、インターン生を受け入れるのか。
欧米では日本より企業が社会責任を重視するから、なんてキレイごとでは語れない厳しい現実がある。欧米は2つの理由から、インターンシップを受け入れている。
エリートに対する「ここまでやるか!」というほどの厚遇型インターンシップ
その1つが「希少人材の早期獲得(青田買い)」だ。詳しく説明することにしよう。
たとえばフランスの場合、一般大学の文系学生などは人気企業からはまるで相手にもされない。彼らが欲しがるのは、大学より格上のグランゼコール出身者であり、それも、180校もある中で取り合いが起こるのは上位10校程度。さらにいえば、ここに在籍していても社会人学生や大学からの編入者は企業には好まれず、グランゼコール予備級から上がってきた生え抜き者のみが引く手あまたとなる。数にしてフランス全土で5000人程度だろうか。日本でいえば、東大と京大を合わせると約7000人なので、そのくらいのレベルと同等だろう。
彼らは、奨学金付き自社研修(アプロンティサージュ型インターンシップ)として2年次から各社に囲い込まれる。その際の学費はすべて企業の支払った訓練税で充当され、そのほかに、企業は生活費相当の実習手当まで支払う。
ちなみに、フランスのグランゼコールの学費は年間400万円程度が相場だ。これに実習期間の給与も含めると企業負担はゆうに500万円を超える。そこまでしても採る。それが希少人材の青田買いであり、そしてこれは究極の「内定拘束」にもなる。アプロンティサージュは1〜2年にも及ぶのだ。その間、他の会社で企業実習を受けることなどできないのだから、自社への入社確率が高まる。
エリート予備軍にはここまでの「青田買い」が行われている。「欧米ではインターンシップが普及している」という時に語られる一方の世界は、こんなものなのだ。誰もが平等一律を好む日本で、こんな特権階級的な待遇を上位1%が享受することに、コンセンサスが採れるとはとても思えない。
非正規代用のブラック型インターンシップ
一方、普通の大学生を企業がインターンシップで迎え入れる理由はまったく別物となる。それは、「偽装雇用」とフランス語で呼ばれている。フランスの若年雇用に詳しい五十畑浩平准教授(名城大学経営学部)はこう説明している。
「企業研修は、本来の教育活動としての意義が希薄になる、あるいは欠如することで、雇用形態のひとつとして機能することとなる。企業にとってみれば、有期雇用などの非正規雇用に次ぐ不安定雇用のひとつとしてみなされるようになり、労働市場にとってみれば、雇用の調整弁としての機能を果たすことになる」
欧州の場合、原則としては非正規雇用ができない。そこで、インターンシップが非正規雇用の代替として使われているのだ。フランスの公的資料から、その状況を探ってみよう。
「私は、ジュネーブにある国連人権高等弁務官事務所で3カ月の研修を受入れた。無報酬であることははっきりしていたが、研修にかかる費用は知る由もなかった。もちろん旅費、滞在費、食費、交通費などすべての費用が自己負担であった。〜ジュネーブの物価は高いため、すぐに銀行口座の残金がゼロになった。〜この研修は自分にとって有意義なものになるであろう、すぐにいい仕事が見つかるであろうと確信していた私は、研修を継続するため借金をし、継続更新をした。6カ月の研修の末、丁重に感謝された。〜現在私は失業状態で、一時的な仕事を掛け持ちしている。専門分野での経験が十分ないため、私の資格の水準にあった職は見つからない」
「私は、SMIC(最低賃金)の30%分が支給される修了時研修(Bac+5国際貿易専攻)を終えたばかりだ。〜研修生がいなければ、その部署は機能しない。プロジェクトリーダーは、あまりにも多くの仕事を抱え、その部下も仕事で手一杯である。研修生は、したがって、アシスタントとプロジェクトリーダーの仕事を引き受けることになる。5カ月の研修で、超過勤務は100時間ぐらい溜まった。ただ6月にカウンターがゼロに戻ったから、少なくとも150時間は超えている。就業時間ですか?それは、8時45分から、18時30分まで。時々、19時15分になる。単純に、研修生には、労働短縮の権利や、ヴァカンスの権利がないからだ。それに、私たちは、アシスタントよりもはるかに重く、プロジェクトリーダーと同等の責任をもたされている」
「私は、正規ポストを任され、サービスの新規開発に参加していた。そこでは、従業員よりも研修生のほうが多かった。しかし、職務経験を積んでおきたかった」
「うちの制作会社では、あるケーブルテレビの仕事を 請け負っているが、 15 人の 従業員 に対し私たち研修生は10人いる」
搾取と答えた人43.5%
実際に、彼らの賃金はどのくらいだったのだろうか。
2006年当時のデータを見ると、報酬ゼロが52%、続いて当時の月額最低賃金の3割以下が27.6%。ここまででほぼ8割となる。この額を超えると、企業は社会保険料負担が義務化されるので、極力この範囲で賃金を抑えようとしているのだ。つまり、インターン生はそのほとんどが無保険となる。日本ではあれほどお気楽なインターンシップにも学生保険をかけろ!といっている。欧州の現実がよくわかるだろう。
報酬レベルについての感想は、「搾取」と受け止める人が43.5%であり、とても不十分(21.6%)と合わせてほぼ7割。一方とても良いが2.8%ほどいるが、これは先ほど触れたグランゼコール在籍のエリート予備軍だろう。
くどいようだが、ほんの一部のエリートが厚遇される階層構造が見て取れるだろう。
デモ、ストライキ……その末、最低賃金の1/3
こうした状態への不満が爆発し、2005年10月4日、パリでインターン生によるデモが起きた。11月1日にはインターン生の一斉ストライキも起き、その後も継続的な活動で1万5000人の署名が集まり、翌2006年4月13日に現状改善の請願書が首相に提出される。そこから3年半をかけ、インターンシップ改革が進みはしたが、それでも、インターン生の月額報酬は、最低賃金の1/3以上にとどまっている。月額で日本円換算するとフルタイム労働して5万円ほどだ。それを14カ月もこなしながら仕事を覚えないと職にありつけない。
さて、企業実習ではどのように職業教育がなされるのか。先ほど出てきたインターン生たちの発言からも、計画性や教育性があるというよりも、無茶ぶりと思われる実態があり、教育とはいいがたい内情がよくわかるだろう。
ちなみに、実習先での訓練内容については、CFA(見習い訓練制度=公的な企業実習)を対象にしたアンケートデータがある。こちらでは、64.2%が職業教育を受けていないと答えている。
そう、欧州のインターンシップは、企業の雇用調整弁であり、移民よりも安い低賃金労働なのだ。だから企業はインターン生を重用する。こうした現実が日本では全く語らず、ただ単に、日本型は悪く、欧米が羨ましいという印象のみが語られがちだ。
海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZZO3649088015102018000000?
間違いだらけの新卒採用、「第二新卒と卒業直前」にヒント
雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生
2018/11/13
就職ナビを規制するハードルは高そうだ
4月1日選考開始と、抜け駆けをなくすための就職ナビ規制
就活ルールをめぐる連載も、7回目の今回で最後となる。どのような就活が最善なのかを本稿では考えていくことにしよう。
・新卒採用ルールの連載全7回はこちらから。1回目。 2回目。 3回目。 4回目。 5回目。 6回目。 7回目。
まず、就活ルールがなければ、企業の選考はやみくもに早期化し、結果、学業は破壊状態、企業も消耗戦となって、結局、調整ルールを皆が欲しだす。過去の歴史からそれを示した。続いて最適なルールはいつか、そのためのキーになるのは何か?ということを書いた。最適なルールとは、(1)学業阻害が少ない(2)抜け駆け企業が少ない(3)採用力の乏しい中小企業にも十分な選考期間が得られる、の三点を考えるべきだ。この条件からすると4年次4月1日前後がよいと私は考えている。
選考が4月1日からだと、その前に必要な企業説明会がほぼ春休み期間に行われる。就活で一番、物理的に学生を拘束するのは説明会であり、それが休暇期間に開催されるので、このスケジュールは学業阻害が一番小さくなる。
また、ルール違反企業が抜け駆けするのを防ぐのにも効果的だ。なぜならば、春休み前は後期試験にバッティングするため、そこでは説明会・選考を行っても集まる学生が少なく意味がないからだ。
そして、4月選考開始であれば、人気企業の採用はその多くがGW前後までで一段落し、不人気企業や中小などの採用期間が十分にとれる。
続いて、このルールの実効性をあげるキーポイントには、就職ナビの規制強化を謳った。今の就活は就職ナビなしでは企業も学生も思うように進めることができない。そこで、この就職ナビに対して、広告掲載期間の規制を強化することで、ルールが徹底できる。現在でも規制はあるのだが、これは協会内の申し合わせ事項であり、何の罰則もない。何より協会に加盟していない企業は何の規制もされない。だから、ここに強制力を持たせるよう、就職ナビは厚労省の許認可事業にしてしまうことを私は提案した。
また、申し合わせを遵守する就職ナビも、「インターンシップ」の募集広告は載せ放題だ。とりわけ、1Dayインターンシップの名を借りた偽装説明会は花盛りだ。だからここにも規制を入れる。
こうすることで、実効性のある就活ルールは作ることができるだろう。
日本にやってくれば外資企業もはまる。それほど日本型雇用は手ごわい
とここまでを連載の前半で示した。
後半は、そもそも新卒一括採用など辞めてしまうべきではないか、ということを主題にした。
まず、なぜ新卒一括採用は日本でのみこんなに浸透しているのか。そして外資系企業やベンチャー企業までなぜみなそれを使うのか。その理由は、無限定雇用という世にもまれな雇用慣行を持つことにある。それを人事管理側面から説明した。
欧米の企業は社員を勝手に異動させられない。職務ポジションを限定しているのだ。だからこれを限定雇用と呼ぶ。対して日本は自由だ。こちらは無限定雇用と呼ばれる。
さて、無限定雇用だと、限定雇用よりもはるかに欠員補充が楽だ。空席は横の異動もしくは縦の昇進で楽々埋められる。ただ、こうした異動・昇進は空席を社内パス回ししているだけだ。ただ、このパスを続けていくと、どのポストが空いても、最終的には末端に空席が寄せられ、非熟練者を一人採用すればよい。欧米に比して日本は膨大な末端空席が生まれ、新卒採用となる。
欧米型の同業×同職×同ランクの即戦力採用は、すなわち競合からの引き抜きであり、本当に針の穴を通すようなるリクルーティング術のため非常に手間がかかる。さらにいえば、採ったら採り返す、という形でし烈な戦いにもなる。対して、誰が抜けても末端社員一人採ればいいという日本型は簡単だ。だからこの方式を、日本にきた外資企業さえまねる。
こんな状態だから日本型はなくなりはしないとわかるだろう。
欧米の「いい話」は一部エリートの厚遇事例。一般的な若者はかなり苦しい入職となる
連載終盤では欧米の未経験入職の方法に触れた。日本のように組織末端に大量の空席ができない欧米では、未熟練者向けの採用ポストは少ない。職を得るのはいかのような方法に頼ることになる。
(1)エリートトラックでの超優遇採用。
(2)空席の多いブラック的職務での入職。
(3)インターンシップや職業訓練を長期間経て、熟練度をあげて入職。
日本で欧米型のうらやましい話を聞く場合、たいていそれは、(1)のエリート採用だ。かの国でも上位1%程度の人材の取り扱い方法であり、そんな手法は参考としてはいけない。
(2)に関しては日本でも同様に、「いつでも何歳でも採用している」ブラック的不人気企業は多々あるから、変わらないだろう。
(3)のみ日本と欧米(欧州)の大きな違いだが、それは現実、生易しいものではない。連載でふれたフランスの例などでは、長期間低給与で企業内にて雑務を押し付けられ、身分保障もないという「訓練とは名ばかりのブラック労働」となっている。(「ドイツおよび周辺国のデュアルシステムはどうだ?」と訳知りの人は言うだろう。この方式については、そのうちじっくり解説することにする。中身を知れば、騒ぐほどのこともないのがわかる)。
結局、欧米に参考となるような若年入職システムはない。
だから結局、日本型の新卒採用をより良き形に改良するしかないことになる。
そこで、前半の「最適な就活ルール」について、さらに補足する形でこの連載を終えることにしよう。
政治主導で就職ナビ規制をできるのは進次郎氏くらいか
まず、就活ルールの徹底には、就職ナビ規制が一番効果的だと書いた。そのためには、就職ナビを厚労省の許認可事業にする。この件に関して現実性はあるのか?
実は、昨年、職業安定法が改正され、規制対象の拡大が可能になった。それまでは主に転職エージェントに関して規制をかけていた条項が、「求人情報提供者」全体に広げられたのだ。就職ナビももちろん「求人情報提供者」だ。つまり法律的素地は整った。
あとは、衆参両院に諮って詳細条項を設けるか、政令・省令・指針・通達など行政府内での指令にて規制をかけるか、で実現が可能だ。議員間での合意形成が不要な後者が手っ取り早いだろう。
ただそれでも、実現は難しいと私は思っている。こうした規制拡大に対して現在は政治だけでなく社会全体が後ろ向きだからだ。マスコミなどを中心に、就活ルールの在り方がより騒がれて、就職ナビ規制が盛り上がれば、政治や行政も動き出さざるを得ないだろうが、それでもなかなか動かきはしないと読む。義務的業務が拡大しすぎた厚労省は新たな職務の追加には二の足を踏むだろうし、大学・産業界の調整を一手に引き受けるのも荷が重いからだ。
そして、ここで掲げたルールはあくまでベターなものであって、完璧ではないから、いくら損をする人もそれなりに出る。少数の反対者でも影響力の強いプレイヤーだと、政治や行政はそれを聞かざるを得ない。たとえば、4大臣指令の就活後ろ倒しさえ無視してきた新経連所属企業の経営者には、現政権に近い人がいる。彼らが反対の声をあげれば動きは止まるだろう。
そうこう考えると、国民的人気のある政治家で、この分野に関心を抱く人が、大英断をし、規制を整えるしか方法はないように思われる。そう、進次郎氏くらいしか、就職ナビ規制へと政治・行政を動かせないのではないだろうか。
とすると、今回の就活ルール再改定論議も、結局は、その場しのぎの粗いもので終わり、また数年すると産官学で大騒ぎが起こるだけ、とみている。30年もこの領域を見てきて何も変わらなかった諦めにも近い予想だ。
第二新卒採用のさらなる拡大と、卒業直前駆け込み採用
日本型の若年採用に対して、いくつか改革案を付しておくことにする。
まず、日本型新卒採用の大きな問題として以下ことがあげられる。
・(大手人気企業には)新卒以外だと入職のチャンスが少ない。
・景気変動により就職環境が大きく左右される。
この改善策として長らく言われてきたのが、「新卒採用に既卒者も含める」という話だ。この施策は、2011年民主党政権だったころから政府要望もあって実施大手企業がソニーなど多数あった。そんな二番煎じ策なのに、同友会は新卒採用改善策として、「学卒後5年程度の若者」を新卒採用の対象とするように、提言を行っている。
ただ、この仕組みを取り入れた大手企業も成果は上がっていない。まず、有名大手企業が欲しがるような人材は、不況でもそこそこの企業に就職している場合が多い。とすると、その企業を辞めてまで転職するのははばかられる。たとえば、新卒でソニー志望がかなわず、パナソニックに入った人は、よほどのことがないと、ソニーを受けなおすことはない。
仮に転職をするとしても、まっさらな新卒入社よりは、社会人経験を考慮してくれる第二新卒採用の求人を受ける。だから、「新卒扱い」に応募する人は少ない。
それよりは、第二新卒採用を拡充させる方が良いだろう。実は常識に反して、日本の超大手(従業員数5000人以上)は、第二新卒をけっこう普通に行っている。少し古い調査となるが、2004年に労働政策研究・研修機構により実施された「第二新卒の実態調査」によると、従業員5000人以上の超大手100社のうち、過去3年に第二新卒者を採用した企業が50.5%と半数を超えていた。ちなみに、従業員5000人を超える超大手企業は日本全国でも500社程度なので、調査対象数の100社はそれなりの捕捉率といえるだろう。
調査対象となった2001〜03年は新卒氷河期直後に当たり、採用をストップしていた企業も少なくない。そうした企業を除いて、新卒採用を行った企業を分母にした場合、割合はもっとずっと伸びるだろう。しかもそれから現在までの15年間に、たとえば大手総合商社のような新卒採用固執の象徴とも思われた企業までも第二新卒が広まってもいる。既卒を新卒に入れ込むなどという話よりもその方が企業経営としても合理的であり、脱日本型にも直結するだろう。
ということで、第二新卒採用の拡充が一つ。
もう一つが、卒業直前採用だ。超大手の採用は、3年次後半から本格化し、4年次初盤で決着する。同時期の応募資格に「新4年生」だけでなく「現4年生」も含めてはどうか?そうすると、学生は3年次・4年次と二回、採用のチャンスが訪れる。たとえば3年次に第二志望に決まって納得いかなかった人、留学していた人などが、4年次に再トライできる。そうして採用となった4年生は、次の春に3年生と一緒に入社するのでもよいし、駆け込み入社で現4年生と同時入社でもよい。そこは企業が学生に任せる。
企業側も、採用枠を2割程度残して置き、現4年生に振り分ける。この2割を増減することで、業績の上下による採用枠の調整が行える。現行の1年前採用では直前景況に合わせた採用枠にならなかったという問題も解決するだろう。
人事管理的には、「内定即入社などできるか」と二の足を踏む企業もあるだろうが、トライする企業が出てきてもよいのではないか。
海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZZO3680943023102018000000
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民129掲示板 次へ 前へ
- 最も稼ぐ30歳未満のセレブ、首位は21歳 年収190億円 急増する定年女子を襲う厳しすぎる現実 無給で働く医師、必要悪 うまき 2018/12/01 02:24:30
(0)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民129掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。