そこにある「トランプ不況」 本社コメンテーター 菅野幹雄 2018/11/30 2:00日本経済新聞 電子版 「大統領、自主的な離職がもっとも多いのは製造業です」「だれだって2000℃を超える高炉の前に立ちたくない」。米経済の変化を説く側近にトランプ米大統領は「理解できない」「30年ずっと考えは変わらない」と冷淡に答える。著名記者のボブ・ウッドワード氏がホワイトハウスの内情を描いた「恐怖の男」の一幕だ。 貿易赤字は米国からの搾取だ。廃れた地域に製造業の仕事を取り戻す。2年前の大統領選挙で、異端の不動産王を世界最強の政治リーダーに引き上げた「米国第一」の主張。その綻びを予告するのが米ゼネラル・モーターズ(GM)が発表したリストラ策だ。トランプ氏の票田であるオハイオ、ミシガン両州など北米5工場で生産を止め、雇用を削る。 メンツをつぶされたトランプ氏はGMへの補助金を全廃するとツイートで脅したうえ、返す刀で米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が進める政策金利の引き上げが元凶だと米ワシントン・ポストにぶちまけた。「彼にはこれっぽちも満足していない」と。 残り1カ月となった2018年は「トランプの1年」だった。通商、外交、安全保障と旧来秩序を1人でかき回す一方、好況下で実施した減税の恩恵もあって瞬間風速で年4%超の経済成長を記録。「歴代大統領がなし得なかった成果」と自画自賛した。ところが、ひとたび自分の強気を覆す材料が出た途端、責任を転嫁する。変わらぬトランプ氏の行動学だ。 今月中旬、取材に応じたウッドワード氏はホワイトハウスの政策を「新しいカジノ(賭博場)」と酷評し、米経済は厳しい冷え込みに直面すると断言した。米産業界を代表するGMの経営判断は、2つの意味でこの指摘に符合する。
ひとつは目先の好況にかかわらず、米経済の将来への不安が企業に根強いことだ。GMのバーラ最高経営責任者(CEO)は「経済の良好な時に将来への手を打っておく」と説明する。鉄鋼やアルミの輸入関税に伴うコスト高や国内市場の伸び悩みが念頭にあろう。 第2に大統領がいう製造業強化と現実とのギャップで、巨大企業が反目を始めたことだ。景気鈍化や市場の構造変化を前にトランプ流と共倒れするわけにはいかない。大統領は企業の「裏切り」を罰するかのように語るが、口先介入以上の手段は少ない。他の米企業の露払いになるのではないか。 米経済はうたげの盛りを越え、数々の逆風に直面することになる。中国はもちろん、日本や欧州からの輸入品に課した制裁関税の負担増が表面化する。 18年9月に米企業が納めた輸入関税は44億ドル(約5000億円)で、1年前から54%増えた。トランプ氏の関税政策を批判するチャールズ・ブースタニー元共和党下院議員は「これはほんの始まり。企業活動を助けた減税効果は関税の負担増で帳消しになりかねない」と懸念を語る。 経済協力開発機構(OECD)が21日に公表した世界経済見通しは、保護主義の高まりが景気の大幅減速を招く危うさを示す。米国と中国が相互に発動した制裁関税の影響などで世界の国内総生産(GDP)の伸びは減速基調にある。米中が互いに関税を全輸入品にかけたり、米金利引き上げが新興国の市場不安を招いたりするリスクシナリオでは、20年の世界経済は3%成長を割り込む。減税効果が一巡する米国は、20年の経済成長は標準シナリオの2.1%から1.2%まで落ち込む計算だ。 「トランプ不況」をいま正面から論じるのは早計だとの指摘はあろう。だが予測不可能なトランプ政策が暴走するリスクは頭に入れるべきだ。米戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーン氏は「19年の1、2月になるとトランプ大統領が日本に自動車関税で脅しをかける可能性がある」と読む。共和党が中間選挙で下院の過半数を失い、議会の制約を受けない通商政策で強硬姿勢を強めるのは想像がつく。 貿易戦争の激化が、世界規模でつるべ落としのような経済や市場の心理悪化につながることはないのか。10年前の金融危機のような突発ショックでなくとも、誤った政策のもとで世界経済が慢性的な不振に陥る恐れはある。 困るのは、苦境に陥った時の世界全体での対応力の低下だ。 「協調の崩壊(breakdown)」。グリアOECD事務総長は危機的な現状を言い表す。30日から2日間、アルゼンチンで開く主要20カ国・地域(G20)首脳会議はもともと08年の金融危機を受けた協調の確認が主眼だった。いま、次の苦境に備える結束は望み薄だ。それどころか、10年前は禁じ手とされた通貨安や関税で他国に負担を押しつける「近隣窮乏化」が横行しはじめた。 カナダでの7カ国(G7)首脳会議はトランプ米大統領が首脳宣言への署名を拒んだ。パプアニューギニアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は保護主義に対する米中の食い違いから首脳宣言の採択を断念した。多国間の会議が失敗ぐせをつけはじめている。G20会議にも及ぶなら構えの欠陥は決定的になる。 「トランプ不況」の懸念に向き合う役回りは、19年6月に大阪でG20会議を主催する日本に巡ってくる可能性がある。いがみあう米中を取り込む政策協調は至難の業だが、誰かがやらねばならない。「自由貿易の旗手」を任ずる安倍晋三首相にとっては試練であり、また世界への義務でもある。
FRB議長講演でNY株急伸 市場はこう見る 2018/11/29 9:44日本経済新聞 電子版 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は28日にニューヨークで講演し「金利は歴史的な基準ではなお低く、依然として経済に対して中立な水準を巡る幅広い推計値をわずかに下回る」と述べた。当面の利上げの継続をにじませながらも、政策金利が景気を過度に熱くも冷やしもしない「中立金利」に近いとも言及した。この発言を受けて利上げ打ち止めの思惑が浮上し、米株式市場ではダウ工業株30種平均が大幅に3日続伸。前日比617ドル高の2万5366ドルで終えた。日本市場への影響はどうか。市場関係者に聞いた。 【関連記事】NY株617ドル高、FRB議長講演を好感 【関連記事】FRB議長、政策金利は「中立水準に近い」 〈株式〉 ■「2万2500円まで上昇か トランプ発言で自動車は上値重く」
三浦誠一・三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資ストラテジスト 29日の東京株式市場で日経平均株価は前日比で320円程度高い2万2500円近辺を上値に堅調な展開となるだろう。パウエルFRB議長の講演を受けて米長期金利の先高観が後退し、10月以降軟調が続いていた米ハイテク株が大きく上昇した。投資家心理が改善しており、日本の株価指数先物にも買いが入り値がさ株中心に株価を押し上げるだろう。 一方、自動車関連株の上値は重くなるとみる。トランプ米大統領が米ゼネラル・モーターズ(GM)のリストラ計画発表を受け、自動車に高関税を課すことを検討していると表明したことが重荷だ。 週末に米中首脳会談を控え、通商交渉の結果に影響を受けそうな銘柄を積極的に買う動きも限られるだろう。ただ、米中会談が貿易面で何らかの合意に達する可能性は高いとみている。交渉を継続する間は関税率の引き上げを猶予するというような合意であれば、株式市場は好感するのではないか。その場合、年末の日経平均は2万3000円に接近するとみている。 ■「資本財関連株に恩恵 米中会談控え上値限定」
藤代宏一・第一生命経済研究所主任エコノミスト FRBのパウエル議長が近い将来の利上げ打ち止めをにおわせたのは、米経済の下振れリスクが高まっていると認識しているためだろう。クラリダFRB副議長の姿勢に足並みを合わせる「ハト派」発言で、市場を落ち着かせたいという意図があったとみている。米株式相場が急伸したことで投資家心理は改善しやすく、日本株にも追い風だ。米利上げペースの鈍化は米国内での設備投資の活発化につながるため、日本の産業用ロボットなど資本財株に恩恵をもたらすとみている。 米ダウ工業株30種平均は600ドルあまり上昇したが、29日の日経平均株価は2万2500円程度が上値のメドになるとみている。パウエル氏の発言を受けても米利上げペースが変わるとは考えておらず、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利を引き上げた後、来年も年2〜3回の追加利上げが示唆されると予想する。このところ割安感から日本株に買いが入りやすかったため、米株式相場との連動性は薄れているうえ、週末の米中首脳会談などを控えて日本株の上値は限られるだろう。米株式相場の急伸はボラティリティー(変動率)が高い証左でもあることには注意が必要だ。 〈為替〉 ■「円、19年半ばまでに105円台へ上昇も」
橋本光正・ワカバヤシエフエックスアソシエイツ営業管理部長 28日のパウエルFRB議長の講演は金融引き締めに消極的な「ハト派」な内容との印象だ。市場では来年に見込まれていた3回の利上げ回数が減るとの見方に傾いている。短期の米債利回りが低下する一方、10〜30年の米債利回りはほとんど変わらなかった。米株価が上昇するなかで米金利は低下しており、市場は米景気の先行きを楽観視しているわけではない。今後は円安・ドル高になりにくくなったとみている。 為替と株の連動が薄れているなかで、投機筋は日米金利差の拡大をよりどころに円売り・ドル買いを進めてきた。12月のFOMCで示される「ドット・チャート」で来年の利上げ回数を確認したい雰囲気が強く、短期的には円相場は対ドルで一進一退の展開が続きそうだ。ただ中長期的には、実際に利上げ回数見通しが減り米利上げの打ち止め感が広がると、来年半ばまでに1ドル=105円台まで上昇する可能性がある。 29日の東京時間の外国為替市場では、1ドル=113円30銭程度まで上値余地があるだろう。月末とあって実需の売買が活発になりそうだ。米企業が決算の時期に入ってくるため、ヘッジファンドを中心に持ち高を整理する動きが出ることも想定される。 〔日経QUICKニュース(NQN)北原佑樹、神能淳志、菊池亜矢〕
FRB議長、政策金利は中立水準「わずかに下回る」 利上げ打ち止めの思惑 NY株500ドル超上昇 2018/11/29 2:53 (2018/11/29 5:05更新)日本経済新聞 電子版 【ニューヨーク=大塚節雄】米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は28日にニューヨークで講演し、「金利は歴史的な基準ではなお低く、依然として経済に対して中立な水準を巡る幅広い推計値をわずかに下回る」と述べた。当面の利上げの継続をにじませつつも、政策金利が景気をふかしも冷やしもしない「中立金利」に近いとも言及。利上げの停止時期を慎重に見極める考えを示した。 Play Video 米株式市場では講演内容が伝わると、ダウ工業株30種平均が一段高となり、上昇幅は前日比で一時500ドルを超えた。政策金利が中立金利を「わずかに下回る」との表現が、利上げの打ち止めが近いとの連想につながった。10月初旬の講演では中立金利には「まだ距離がある」と語り、株安の一因となっていた。 パウエル氏は講演で「強固な成長と低失業率、2%近辺のインフレ率が続くと予測している」と表明。一方で「最も注意深くつくった予測であっても、時に現実は全く異なるものになる」とも語り、予測を巡るリスク要因を注意深く監視していく考えを強調した。 「健全な政策決定のかなりの部分はリスク管理が占める」とも述べ、「緩やかなペースでの利上げはこれまでリスクをバランスさせる方向で実践してきた」と強調。早すぎる利上げは「景気拡張を短くさせる」半面、遅すぎると「高インフレや金融面での不均衡の拡大」につながるとして、利上げは遅すぎても早すぎてもいけないという見解を改めて強調した。 その一方で「段階的な利上げの経済への影響は不確かで、完全に表れるには1年かそれ以上かかるかもしれない」とも語り、これまで続けてきた利上げの影響に注意していく姿勢をみせた。 中立金利を巡っては、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが見込む値が2.5〜3.5%の間でばらつき、中央値は3.0%。政策金利は現在2.00〜2.25%まで上昇しており、景気を冷やす領域に近づいている。パウエル氏は中立金利の水準について「かなりの不確実性がある」と指摘し、経済状況などをにらんで想定を見直していく考えを示した。 現在の米株価を巡ってはPER(株価収益率)の長期的な水準と「おおむね一致している」と評価し、株式市場の状況は「危険なほど過剰だとは思っていない」と述べた。 トランプ米大統領はFRBの利上げ方針を繰り返し批判し、米株安が進んだ際には利下げへの転換も要求した。今回のパウエル氏の発言の変化について、市場には「トランプ氏寄りの姿勢に傾いた」(エコノミスト)として、トランプ氏の圧力を意識したとの見方も出ている。 https://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXMZO38313550Z21C18A1000000 19年も世界株は買い、英専門家「米経済けん引」 世界のどこに投資する?(24)日本・欧州 2018/11/30 写真はイメージ=PIXTA 秋以降、世界の株式市場の値動きが荒くなっている。米国が世界の経済成長をけん引してきたが、景気減速の懸念が浮上してきた。個人投資家は今後、どのように対応すれば良いか。投資妙味のある資産は何か。HSBCグローバル・アセット・マネジメントで短期債券を中心に世界市場の動きを見ているグローバル・リクイディティ部門CIO(最高投資責任者)、ジョナサン・カリー氏に話を聞いた。 ――世界経済の動きをどう見ているか。 「2019年も引き続き、年3%の成長を維持できると予想する。17年のゴルディロックス(適温)相場ほど投資環境は良好とは言えないが、米国経済がけん引する形で、世界の経済は順調に成長する。財政刺激策を背景に、企業業績は良好な状況が続くだろう」 HSBCグローバル・アセット・マネジメントのジョナサン・カリー氏は「米国経済がけん引する形で世界の経済成長が持続する」と話す ――米国景気には減速懸念がくすぶる。
「米ニューヨーク連銀が発表する景気後退の確率指数は緩やかに上昇している。ただし現状では景気後退の兆候を示す先行指標は見られない。例えば米失業率は10月で3.7%と低い水準で推移しており、雇用市場は良好だ」 ――米中間選挙では上院と下院の勢力が異なる「ねじれ」が発生した。 「財政刺激策が続くのは変わらない。財政支援の大枠は既に固まっており、19年まで政策効果は続く。市場への影響についても、今回の上院・多数派が共和党、下院・多数派が民主党という結果は、予測ができていた。大きな混乱は生じさせないだろう」 ――それでは米国株への投資が望ましいのか。 「当社では米国株は『中立』の姿勢。米国経済は堅調さが続くと見るが、既に株は買われてきた。日本株、欧州株、グローバル株式(世界株)は『買い』の姿勢。日本や欧州は経済減速の懸念が相対的に低めだ。トルコやブラジル、アルゼンチンなど新興国の政治リスクがあるものの、長期で見れば世界経済には潜在的な成長力があり、ポジティブだ」 ――19年にかけての投資上のリスクは何か。 「米国の金利が予想以上に高くなれば、債券市場が混乱する。この6カ月間の賃金上昇ペースが急で、物価は世界でも特に上昇含み。新興国の物価上昇懸念は総じて弱まりつつあるが、米国の動きには注意しなければならない。可能性は低いが、中国の景気減速、米中貿易摩擦の激化も世界経済の下押し要因になり得る。基本的に19年も(株式買いに)ポジティブな状況は続くと見ているが、リスクは頭の片隅に入れておきたい」 ■記者の目 19年の株式投資、相場調整時に備えを 日経平均株価は10月2日から29日にかけて、3121円(13%)も下落。11月28日時点で昨年末比2.6%、安い水準だ。新興国株の振れも大きく、インドネシアのジャカルタ総合指数は11月28日時点で17年末比6%弱、メキシコの株式指数IPCは19%、それぞれ下落した。米国株には中間選挙のある年の11月選挙後の株式は上昇するとの経験則があるが、ダウ工業株30種平均は11月23日まで下落傾向だった。 世界経済が成長し続けるのはほぼ間違いなく、中長期の視点で見れば株式は「買い」なのかもしれない。ただし多くの外資系証券会社がリスクとして「米中貿易紛争の激化」を指摘。ハイテク企業の業績悪化や原油価格の下落、米住宅市場の調整なども挙がっている。日本では19年10月に消費税率の引き上げ(8→10%)を控え、消費意欲の減退も懸念される。個人投資家は株買いの姿勢を貫くにしても、短期的な大幅調整時にどう売買するか備えておく必要がありそうだ。 (マネー報道部 南毅) ジョナサン・カリー HSBCグローバル・アセット・マネジメントのグローバル・リクイディティ部門CIO。1989年に英シティグループ入社。99年より英バークレイズ・グローバル・インベスターズに入社。2010年にHSBC入社。25年以上、グローバル債券の運用経験を持つ。04年から16年まで英イングランド銀行のマネー・マーケット・リエゾン・グループのメンバー、欧州銀行連盟のステップ・アンド・ステップ・プラス・コミッティーのメンバーを歴任。 前へ 1 2 おすすめ記事 国際分散か米国株か インデックス投信めぐり議論白熱 世界を旅して投資眼養おう 金融先物の父、メラメド氏 景気減速 それでも日本株は長期で割安(窪田真之) 緩和縮小で分かる投資価値 誰が裸なのか(平山賢一) 定年ライフが生き生き 現役時代の挫折はむしろ財産 日経平均、単純平均となぜ違う? 「額面」で算出工夫 https://style.nikkei.com/article/DGXMZO37979970Q8A121C1000000?
緩和縮小で分かる投資価値 誰が裸なのか(平山賢一) 東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長 2018/11/20
写真はイメージ=123RF 「個人投資家は時間軸を長くすることで今後の大きな変化をとらえておくことが大切だ」 米国の中間選挙が終わり、今後は米中間の貿易戦争の行方が気になるところです。2018年の金融市場を振り返ると、おおむね3回(2月、6月、10月)ほど投資家が冷や汗をかくリスクオフの局面がありました。 2月は「VIX指数」の上昇に代表されるように、ボラティリティー(変動率)が急上昇しましたが、6月はそれに加えて新興国など信用度の低い資産から資金が逃避する信用ショックが発生しました。 そして10月には、さらに景気減速懸念を伴うショックの様相を呈していたと、整理できるでしょう。 ■今後も株式市場のショックは繰り返される 上昇基調を株式市場が取り戻したとしても、今後もショックは数カ月ごとに繰り返されそうです。米国のトランプ大統領は18年に減税を実施して景気を底上げしましたが、19年は期待できないためです。投資家にとっては時折発生するボラティリティーの上昇により、心をゆっくり休めて投資する時代ではないといえるでしょう。 このような循環的な株価変動に左右されながらも、個人投資家は時間軸を長くすることで今後の大きな変化をとらえておくことが大切だと考えます。今回はこの大きな変化の一つをご紹介したいと思います。 世紀の危機といわれた08年のグローバル金融危機から10年が経過し、金融市場混乱の火消し役を演じていた各中央銀行のサポート姿勢が大きく変化しているのです。各中銀は危機以降、積極的に国債やエージェンシー債(政府機関債)を購入し、金融市場に資金を投入することで株式や信用度の低い債券に資金が流入するようにしてきました。いわゆる量的金融緩和です。 しかし、この動きは米連邦準備理事会(FRB)に代表されるように、債券などの購入が止まり、償還に合わせて残高が縮小しており、方向転換し始めているのです。
国債残高を年80兆円程度積み増していた我が国の日銀も、その額は大幅に減少してきています。金融市場の最大のサポート役であった中銀は、ゆっくりとその役回りから退出し始めているのです。 ■米ドル建てでは主要中銀の資産残高は減少 この動きを確認するために、主要な中銀の資産残高を見てみましょう。08年にグローバル金融危機が発生してから急拡大した主要中銀の資産残高は、約7兆ドルから18年2月には20.7兆ドルまで、10年間で約3倍まで膨らみました。年率に直すと約12%のペースで増加していたことになります。 その一方で、FRBは15年末に利上げを決定し、その後も利上げを進めてきました。しかし、18年までは膨らんだ中銀の資産が減少することはなかったわけですが、2月のリスクオフ局面と符合するように、欧州中央銀行(ECB)、日銀、中国人民銀行も加えた4中銀の米ドルベースの資産残高はピークアウトしました。 米ドルが上昇に転じたことも手伝い、FRB以外の中銀の自国通貨建ての資産残高は緩やかに増加しているものの、米ドル建てでは4中銀の資産残高は減少に転じているのです。 現在、4中銀の資産残高は合計で19.8兆ドルまで減りました。しかも、ECBは国債の新規購入を停止する方針を明らかにしていることから、19年以降も中銀資産残高は減少していくと考えられます。 今後の投資環境について考えてみるなら、多くの水(資金)が投入されていっぱいになっていたプールで、どんな人でも軽快に気持ちよく泳ぐことができていたものの、この水が抜け始めることで、それぞれの姿があらわになると例えるとわかりやすいでしょう。
■真に価値が高い投資対象なのか問われる これは、かっこいい水着をつけていたのか、それとも裸で泳いでいたのかが判明するということです。本当に魅力的な投資対象なのか、それとも見掛け倒しなのかは、主要中銀によるサポートが消失したときに、衆目にさらされるわけです。 つまり、18年2月以降、金融市場で発生していることは真に価値の高い投資対象なのか、そうでないのかに選別されることにほかなりません。この流れは今後も続くことから、19年は株式市場でもしっかりと付加価値を創出できる企業とそうではない企業の選別が一層強まることになりそうです。このように考えると、企業を選別投資するアクティブ運用にとって、面白い時代が到来したといえます。 プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムで、原則火曜日掲載です。 平山賢一 東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長。1966年生まれ。横浜市立大学商学部卒業、埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。89年大和証券投資信託委託入社、97年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社、2001年に東京海上アセットマネジメント投信(現在の会社)に転籍。29年にわたり内外株式や債券を運用する。 前へ 1 2 3 おすすめ記事 急落した半導体株 そんなに悲観せずとも(窪田真之) 日本株、配当込みで見たら意外な高値(平山賢一) 定年後は仕事と時間の自由確保 年金生活にどう軟着陸 ねんきん定期便開けて見たら 年金額が「少ない」ワケ 単純平均となぜ違う? 「額面」で算出を工夫 ★「プロのポートフォリオ」 記事一覧はこちら
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