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ゴーン逮捕「司法取引」で露呈、時代に逆行した日産経営体制の問題点 中島経営法律事務所・中島茂弁護士に聞く
https://diamond.jp/articles/-/186884
2018.11.30 ダイヤモンド・オンライン編集部
写真はイメージです Photo:PIXTA
日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が「巨額報酬の虚偽記載」によって逮捕されてから早くも10日が経過。今回活用された「司法取引」が世の注目を集め、自社の社員による「司法取引」の活用を懸念する企業経営者も少なくないはずだ。そこで、中島経営法律事務所の中島茂弁護士が企業法務の専門家としての立場から一連のゴーン報酬虚偽記載問題の分析とともに、司法取引が当たり前になる時代の経営に必要な考え方を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 林恭子)
日産は「報酬虚偽記載」以外でも
司法取引が行われておかしくない状態
中島茂(なかじま・しげる)/弁護士、中島経営法律事務所代表 東京都生まれ。東京大学法学部卒、1979年弁護士登録。83年、企業経営法務を専門とする中島経営法律事務所を設立。企業経営に法務の知識を活用すべきだとして、早くから「戦略法務」を提唱。企業の危機管理や企業法務の第一人者。『社長!それは『法律』問題です』、『その『記者会見』間違ってます!』、『株主を大事にすると経営は良くなるは本当か?』(以上日本経済新聞出版社)など著書多数。 Photo:DOL
――今年6月から「司法取引」が導入され、今回のゴーン氏の逮捕で二例目の適用といわれています。今回の司法取引を活用した立件をどう評価しますか?また、司法取引の活用により、日産のどのような問題が浮き彫りになったでしょうか。
今回の事件では、「司法取引」が本来の趣旨にのっとって機能したと評価しています。カギになったのは、日産の「複数の執行役員」が司法取引に応じ、情報提供した点でしょう。
司法取引は、企業や組織の犯罪捜査において「巨悪を捕まえる」ことを目的に、今年6月から施行されたものです。一例目となった三菱日立パワーシステムズの事例では、タイの火力発電所建設に絡み現地公務員に賄賂を提供していた元経営幹部が起訴された一方で、法人は起訴を免れ、“とかげのしっぽ切り”のような印象が残りました。しかし今回は、法務やコンプライアンスの担当者を含む複数の執行役員からの情報提供を得て経営トップを立件したと報じられており、本来の目的に合致したものだったと思います。
またこの事件は、日産の「ガバナンス」にも問題を投げかけた重要な事案だと考えています。今回、司法取引に応じた複数の執行役員が上層部に命じられて虚偽記載を行ったことが明らかになりましたが、執行役員は会社の執行部門のトップであり、幹部です。その複数の幹部が行っていた事実を、取締役会、監査役会、会計監査人は知らなかったのでしょうか。
そもそも、1億円以上の役員報酬を個別開示する制度が始まった2010年までゴーン氏の年俸は20億円前後だったとされていますが、1億円以上の開示が始まってからは急に年俸が10億円前後と記載されていました。経営陣は素朴に不思議に思わなかったのでしょうか。いくらゴーン氏に権力が一極集中していたとはいえ、社内の人間が見れば、本来は疑問を持つはずです。
腹心の部下だけが覆面部隊として動いていたならまだしも、複数の執行役員が行っていることを取締役会が知らなかったとしたら、会社のガバナンスが機能していなかった証拠。つまり、“知らぬはボード(取締役会)ばかり”という状態だったわけでしょう。
日産では社外取締役がずっと1人の体制で、指名委員会や報酬委員会がないことが今回の報道でも指摘されています。監査役設置会社の4割近くが、任意で指名委員会、報酬委員会や社外取締役を置いているという流れと逆行していたのは明らかです。
日産は「無資格検査」でも大きな問題になりましたが、そのときの構図と今回の問題は非常に似ています。無資格検査の問題が明らかになった際の報道では、無資格者が有資格者の判子を有資格者の立ち合いなしで利用できる仕組みにするなど、組織的に不正が行われたと報じられています。
現場で違法行為を組織的に行っていたにもかかわらず、経営陣は本当に知らなかったのでしょうか。その後、排ガスや燃費データの改ざんなども相次いで発覚しましたが、日産はどこで司法取引が起きてもおかしくないような会社の風土になってしまっていたといえます。
――今回の問題では大きな成果を上げていますが、そもそも日本で「司法取引」の制度が導入された背景を教えてください。
先ほども述べましたが、司法取引は比較的軽微な罪を許してでも「巨悪」を捕まえて、世の中を良くしたほうがいいという考えから導入されたものです。
この制度が欧米にはありながら日本になかったのは、「因果応報」、つまり悪いことをした人はそれ相応の報いを受けなければならないという文化が日本に根強くあったからです。以前は、司法の世界では「取引」という言葉自体に拒絶反応がありましたが、いつまでも企業の不祥事がなくならない流れを受け、「世の中を良くするという目的が達成されるなら」という現実的なものの考え方へと変わってきたと考えられます。
また、報道によると、今回の事件で司法取引に応じたなかには外国人執行役員が含まれていると言われており、司法取引を文化として理解していた人ではないかと推測されます。実際、捜査当局の司法取引合意においても弁護士のアドバイスをもらって行っており、十分に体制を整えてから実行に移していたことがわかります。
司法取引は6月に施行されたわけですが、日産の問題がターニングポイントになって、今後は自身の刑事罰を減免してもらうことで、会社やトップの巨悪を告発、情報提供していく動きが出てくることになるでしょう。
司法取引によって立件されれば、
企業のダメージは計り知れない
――今後、司法取引が増加していく可能性があるなかで、企業はどのような対策を取るべきでしょうか。
そもそも司法取引に応じられたら困るような違法行為、不適切行為をすること自体が問題です。今、日本企業の多くが関心を持っているのは、内部告発です。最近起きている企業不祥事の大半が内部告発で発覚しています。つまり、内部告発をされたら困るような経営をしてはいけないのです。
これまでは、内部告発を受けた後に取締当局が事件を立件し、摘発していく際に、情報不足が悩みの種になっていましたが、今後は司法取引を活用して情報を得られるようになります。そうなれば、不正を行っている企業のダメージはこれまで以上に大きくなるでしょう。経営者は内部統制、危機管理体制に今まで以上に真剣に取り組まなければなりません。
私も企業の社外取締役などをしていて感じるのは、社内の「情報流通」の問題です。今回の問題が象徴していますが、普段からざっくばらんにお互いに意思疎通ができていないからこそ、問題が起こるのです。取締役会や監査役会や会計監査人が執行部門の人々、現場の人々と十分な意思疎通をするのは、大変な努力が必要です。
取締役会などモニタリング部門の人たちは、「執行部門と意思疎通はしていた」と回答すると思いますが、たいていは、質問状が出て、回答が準備され、かしこまって報告をするというものでしょう。それでは形式的な意思疎通にとどまり、本質的な情報は得られません。「パソコン上の業務記録はこうだけど、実際はどう?」「それが、実のところ、こうなんですよ…」といった、具体的な意思疎通がないと、本当の実態がわからないのです。取締役会や監査役などへの報告も「業務部長報告会」といったような堅苦しいネーミングではなく、「懇談会」のようにして、日頃からざっくばらんに情報交換、意見交換ができる場にしていくことが大切でしょう。
「巨額報酬の虚偽記載」は形式犯ではない
懲役10年以下の非常に重い“詐欺罪”
――今回、ゴーン氏の役員報酬を有価証券報告書に過少に記載した件に関して、立件しやすいがゆえの“形式犯”ではないかという報道も相次いでいます。法律的な観点から見て、本当に形式犯と言っていいのでしょうか?
確かに有価証券報告書の虚偽記載は“形式犯”だという意見がありますが、それはとんでもない話です。
「株主」は会社という箱を通じて経営陣に経営を委託している立場、いわば経営陣を雇っている立場にあります。雇い主である株主が、「自分たちは経営陣にいくら報酬を支払っているんだっけ?」と知りたいのは本質的なことです。ところが、経営陣は「プライバシーだ」といって、なかなか報酬額を開示しない。「経営陣の総額ならなんとか開示します」となってきたわけです。
そこで、雇い主である株主側とプライバシーを主張する経営陣側の妥協点として、2010年に「1億円以上なら個別開示しよう」となったのです。その数字を「10億円」としていたところが、実は「20億円」であり、もし偽りを書いていたなら、受託者としてあるまじき騙し行為です。
また、その会社の株を「買おうかな」と考えている一般投資家にとって、株の価値を推し量る唯一の公的情報は有価証券報告書です。なかでも経営陣がどのくらいの報酬をもらっているのかは重要な情報です。「あの活躍ぶりで10億円なら、納得できるな」と思って株を買うわけです。そこに嘘が書いてあったなら、投資家は騙されて株を買ったことになります。これは、広い意味で、詐欺だと思います。
金融商品取引法は、有価証券報告書の虚偽記載に対して「10年以下の懲役」という、とても重い刑罰を定めています。株主や一般投資家を騙す罪だと理解していただくと、この刑事罰の重さの意味を分かっていただけると思います。詐欺罪も同じく「10年以下の懲役」と定められていますが、立法者の考え方が推し量られます。
それにもかかわらず、世の中で「有価証券報告書の虚偽記載」が重大な問題と受け止められないのは、ネーミングの難しさにもあるかもしれません。今回をいい機会として、有価証券報告書のネーミングを工夫して、「株式情報虚偽罪」とか、わかりやすい言葉にしてもいいかもしれません。
これから高齢化がすすみ、自分の虎の子の財産を株式で運用しようかと考える人もますます増えるでしょう。そうしたときに、嘘だらけの「有価証券報告書」を世の中に公開するのはとんでもないこと。「上場」とは本来神聖なものであり、上場している企業の責任は重いのです。そのことを経営陣には自覚していただきたいと思います。
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