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ライザップ、赤字転落で成長神話の終焉か…「実態は零細企業の寄せ集め」と失望広まる
https://biz-journal.jp/2018/11/post_25597.html
2018.11.20 文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント Business Journal
ライザップ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
RIZAPグループ(以下、RIZAP)が業績予想を下方修正したのを受け、株価が大きく下げている。快進撃を続けてきたRIZAPが、大きな曲がり角に来たのだろうか。今年招聘されたプロ経営者の松本晃氏は、瀬戸健社長とどのように同社を経営していくのだろう。
M&Aにより構築してきたRIZAPの「グループ経営」に問題が提起された。瀬戸社長の経営者としての踏ん張りどころが来た。RIZAPは再び成長軌道に戻れるのだろうか。
■業績下方修正だけでない、成長神話の終焉への懸念
11月14日(水)の業績下方修正の発表を受けて、RIZAPの株価は大きく下げた。上場している札幌証券取引所の新興企業向け市場で13日(火)に497円(終値、以下同)を付けていた株価は、14日には早くも425円となり下げ始めていた。
下方修正の発表を受けた翌日15日(木)は売り気配一色となり、345円のストップ安で終わった。売りに出された株の多くが約定とならず、続く16日(金)も2日続きのストップ安である265円で引けている。年初来高値が1099円(1月30日)だったので、11月26日の週明けにはその高値から80%も下げる場面も予想されている。
マーケットからこれだけの失望を買った要因は、直接的にはもちろん19年3月期業績予想の下方修正だ。具体的には、連結最終損益予想を従来の159億円の黒字から70億円の赤字に下方修正した。年間売上高予想も2500億円から2300億円へと下方修正した。
しかし、業績の下方修正をするのは、別に珍しいことではない。RIZAPの今回の発表に対して投資家がこれだけ反応したのは、同社の成長神話の終焉、少なくとも大きな踊り場が来たことを感じたからだろう。ちなみに最終損益が赤字になれば08年3月期以来、11年ぶりとなる。
■「結果にコミットする」RIZAPの大当たりで、M&A拡大路線へ
RIZAPの創業者は、現社長である瀬戸氏だ。瀬戸氏は24歳で健康食品の通信販売会社の創業(健康コーポレーション)から事業を始め、2010年、32歳のときにRIZAPボディメイクのビジネスをスタートさせた(グローバルメディカル研究所、現RIZAP)。
「結果にコミットする」という印象的なキャッチフレーズで成功を収めてきたボディメイクビジネスをコアとして、瀬戸社長は積極的にM&Aに乗り出し、コングロマリット(複合企業)化の道を驀進してきた。RIZAPの子会社の数は、16年3月期には23社だったが、18年9月末には85社になっている。2年半の間に62社をほぼM&Aで入手してきた。
今期の売上予想はグループで2300億円と下方修正されたので、1社当たりの年間売上は単純平均で27億円ということだ。業績の下方修正で冷や水を浴びせられた投資家が、冷静になってしまうと「なんだ、零細企業の寄せ集めか」というふうにも、とらえられかねない業容である。
M&Aにより業績を急激に拡大するのは、有効であり危険である。問題はRIZAPの内部にPMIに長けた経営資産があったか、機能したかである。PMIとはポスト・マージャー・インテグレーションのことで、買収した後にその子会社を本体に一体化させる作業のことをいうが、別に一体化しなくともそれぞれの会社の業績を伸ばせればいい。要は安くM&Aをして、それを迅速に事業再生する経営力があったか、ということだ。
M&A巧者として知られているのは、日本電産の永守重信会長兼社長だ。永守氏のM&Aを見ていると、まずコア事業であるモーターの関連事業の会社を買い集め、それらの技術を束ね上げるという一貫した方針がある。そして、M&Aの対象候補となった企業のEBITA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)の10倍までしか金を出さないという財務指標がある。さらに、買収したら側近を送り込んで数年の間に日本電産流を徹底的に植えつけるという確立したPMI技法がある。つまり、「M&A勝利の方程式」があるのだ。
永守式M&Aに比べて今回の瀬戸社長の発表を見てみると、まるで反省発表会のように聞こえる。
たとえば、今回の下方修正の足を引っ張った子会社群として、「ワンダーコーポレーション、ジャパンゲートウェイ、サンケイリビング新聞社、 ぱど、タツミプランニングのメガソーラー事業等、経営再建途上のグループ会社・事業に加え、今期の一時的要因の影響が出ているMRKホールディングス」などがあげられた。
これらの子会社群の多くが、RIZAPが共通ビジョンとして掲げている「自己投資産業グローバルNo.1へ」と関連して集められたものとは見えないのだ。例えばワンダーコーポレーションはCDの販売会社だし、ぱどはフリーペーパーを発行している。またMRKホールディングスは女性向け下着の会社だ。
そして、結果として雑多な会社を買ってしまったのはいいが、それらの経営を指導していく本体側の経営人材はどれだけ用意があったのか。RIZAPは瀬戸社長の強いリーダーシップの下に急激に伸びてきた会社だ。そんな会社に、果たして異業種である多くの子会社を経営指南していける役員人材の手駒は足りていたのか。
もう一つ私が疑問に思うのが、85社も急激に買ってしまって、個々の会社の財務状態をしっかり検討したのか、という点である。補完性や相乗効果があるに越したことはないが、そうでなくても事業改善の見通しがなくてはならなかった。
私が親しくしている大手のM&A仲介会社がある。そこの役員が昨年、「RIZAPには当社からも10社以上、仲介実績がある」と打ち明けていた。M&A仲介会社の成功手数料は莫大で、それは社員一人当たりの平均年収が近年常にベスト3にランクされていることからもよくわかる。
瀬戸氏はRIZAPボディメイクの大きな成功に高揚して、気が大きくなりすぎた嫌いはなかったのだろうか。ここ数年、多くのM&A仲介会社が瀬戸詣でを繰り返してきた。それらのM&A仲介会社の「お勧め」――それはある場合「仲人口」のようなことがある――に安易に乗りすぎた嫌いはなかっただろうか、というのが私の懸念である。ババをつかまされたことが、どれだけあったのだろうか。
■おもちゃ箱M&A路線の修正へ、松本氏が助言
業績の下方修正は、11月14日に開かれたRIZAPの「2019年3月期 第2四半期決算説明会」で行われたのだが、壇上には瀬戸健社長と並んで、松本晃氏が代表取締役構造改革担当の肩書きで登壇した。
松本氏はカルビー会長兼CEOを退任するや、瀬戸社長の懇請で今年の6月にRIZAPのCOO(最高執行責任者)に着任し、この10月には構造改革担当という肩書きとなった。瀬戸社長はまだ40歳で若手経営者だとすれば、松本氏は71歳のベテランプロ経営者という対照的なコンビである。決算説明会でも、松本氏は創業社長である瀬戸氏を前に臆することなく、「この会社はおもちゃ箱のようだと思っていたが、壊れているおもちゃも結構ある。それは直さなければならない」と、苦言を呈していた。
私が瀬戸氏の経営者としての資質を評価できるのは、その人柄の良さと、今回示した「自分の限界を知る」という能力だ。勢いのままに85社も傘下に収めて「グループ経営」を気取ったのはいいが、気がついてみればそんなにたくさんの異業種の会社を経営、あるいは指導していく能力が自社のなかにはない、あるいは大きく足りないということに気がついたのだろう。
松本氏がカルビーを退任すると報道されたその夜に、瀬戸氏は自ら電話を入れたと伝えられる。当初、松本氏をCOOとして迎えたのは、85社を見てほしい、との希望だったのだろう。しかし、いかにプロ経営者だとしても、それを自ら執行していくのは不可能だ。プロ経営者ができるのは、85社の経営を監督、指導する「仕組みをつくる」ことだ。
着任して早々に10社以上の子会社の社員たちと交流会を持ったという松本氏は、すぐにそのことに気がついたのだろう。直接統治という職制ではない、「構造改革担当」の代表取締役という肩書きに収まった。
ついでに言えば、松本氏と経営陣との意見の相違があったと報道された。松本氏は「私と瀬戸さんが対立したことは一切ない」としているが、瀬戸社長を取り巻く既存の幹部、役員とは相克があったはずだ。今までの路線にストップをかけられる、つまり自分たちのやってきたことを否定されるわけだから、対立がないはずはない。しかし、そんな動きは外部から着任するプロ経営者にとっては当たり前の「反対勢力」なわけだ。
瀬戸社長の松本氏への信任は厚いように見える。松本氏は外部での活動もあり、フルタイムでRIZAPの経営に没入しているわけでもないらしい。そういうことなら、いっそう現場を預かるCOOより現在の肩書きのほうが寄与しやすいのだろう。
松本氏や私のような世代、経営者としての先輩から見ると、瀬戸氏は好感あふれる若手実業家だ。決算発表会で自らの責任を語るとき、真摯な表情を見せたし、その後の社内説明会では涙を流したという。人間としての率直さ、感受性をベースとして人を巻き込んできたのが瀬戸氏の経営技法、能力の一つと見た。
松本氏の助言により、RIZAPは新しいM&Aを当面凍結するという。「自己投資産業グローバルNo.1へ」という同社のグループ・ビジョンはわかりやすく、すばらしい方向付けだ。願わくば、今回の方針転換により暫時の雌伏の時を経て、近い将来、快進撃を再開してほしいものだ。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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