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安倍首相、国による非現実的な就活ルール“強制化”…日本企業の競争力を大きく毀損
https://biz-journal.jp/2018/11/post_25342.html
2018.11.01 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal
安倍晋三首相(写真:日刊現代/アフロ)
経団連の中西宏明会長が9月3日の記者会見で、就職説明会を3月、選考面接解禁を6月、内定は10月としている現在の就活ルールは2020年春入社までの適用とし、それ以降は廃止する意向を表明した。そして10月9日には経団連はその廃止を正式発表した。1953年に始まった「就職協定」以来の新卒採用活動のルールは廃止されることになる。
一方、中西会長も示唆していたが、2021年春入社以降の学生を対象とするルールは、政府が主導して検討することとなった。10月29日に開催された「就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議(議長・古谷一之官房副長官補)」(以下、連絡会議)の第2回会合を経て、政府は「混乱を避けるため」という葵の御紋の印籠をかざして、2021年春入社の学生を対象とした就活ルールを定めた。報道によると、企業による学生への説明会を大学3年生の3月、面接の解禁を大学4年生の6月からとする現行の日程を維持することを確認したという。さらに経団連加盟企業以外の大手企業や新興企業、外資系企業にも周知するとしている。
政府は経済団体(440の経済団体・業界団体)を通じて、会員企業にルールを守るよう周知するというが、当然、経団連も含まれるのであろう。これは、経団連に対する、安倍政権の得意技である“忖度をしろ”というメッセージであろう。また、インターンシップ(就業体験)に関する規定は未定としているが、現実離れした「就活とは切り離すべきだ」との考えを繰り返している。現実を直視する気はさらさらないという強い決意表明である。
政府は、就職協定廃止後の2021年春卒業生に関しては、現行ルールの延長で“とりあえず社会の不安を除き”、2022年春卒業生(現在の1年生)以降については、来年度の2019年度以降に改めて決定するとしている。しかし、学生を「混乱させないよう」にという錦の御旗を使い、日程を現行から変えない可能性が高いことを発表文書で示している。これは、何事も「混乱を避けるため」と称して、とりあえず現状維持で時間を稼ぐという、相も変わらぬ日本政治の常套手段である。
■グローバルの観点から見れば滑稽
今回の発表では、政府が就活のルールづくりを主導するが、ルールを破った企業への罰則規定はない。これまでの経団連の就職協定は紳士協定であったが、今後は政府は経済団体を通じて会員企業にルールを守るよう周知するとしており、事実上「規制を強める」ことになる。政治家と官僚の変化対応意識ゼロの表れである。政府はイノベーションのアクセルを踏むと言いながら、「混乱を避けるため」と称して、変化への適応にブレーキをかけている。
フランス在住の筆者としては、就活のルールを国が主導して決めて強要するとは、まるでお見合いのルールを国が決めて強制するようなもので、完全な社会主義に映る。現在の安倍政権の体質では、国が主導して就活ルールに強制力を持たせる気であろう。筆者は、恐らく2019年に制定される就活ルールの発表時には、ルール順守の圧力の強化、具体的にはお得意の監督官庁による行政指導やルールを遵守しない企業名の公表などを行うのではないかと考える。
今回の国の介入には、安倍首相の面子もあるだろう。安倍首相は2015年に、政府の強い要請と称して、2016年春入社の選考解禁を、4年次の4月から8月に変更させたものの、結果、現場からの大顰蹙を買って1年だけで変更を余儀なくされた。その面子の手前、元の4月に戻すわけにもいかず、4月と8月の間をとって6月の選考解禁としたという、アホのような経緯がある。
安倍首相は繰り返し「学業優先」と言うが、大学教員の立場でいえば、6月面接解禁では4年次の前期はほぼ就活一色となる。4月のほうが就活時期が大学の春休みに重なるので、6月よりもはるかにましである。プライドだけは高い安倍首相だけに、自分がかかわった選考解禁時期については、強制的にでも現行制度を維持したいのが本音であろう。
こうした国が就活ルールを強要する流れは、当然、グローバルの観点から見れば滑稽でしかない。採用や働き方など、あらゆる意味で雇用が多様化・流動化するなかで、もし選考ルールが一律強制の方向に向かえば、日本社会が環境の進化に適応していくのをあきらめて昔の閉じた社会に戻る、いわゆるシーラカンス化していくことになる。
そもそも、いくら連絡会議が、学生、大学、企業の実態調査をするといっても、就職や採用事情を把握せず、かつ答えありきの官僚と政治家が中心になって就活ルールを決めるのでは、まともなものができるとは到底思えない。
前置きが長くなったが、本稿では今回の経団連の就活ルール廃止が提示する問題の整理と考察を、企業、大学、学生の観点から行いたい。
■日本企業の置かれた状況
経団連の中西会長が就活ルールの廃止を決定したのは、現状を変えようとしない日本にあっては英断といえよう。さすが、東芝とは対照的に、経営危機に陥っていた日立製作所をV字回復させ、グローバルでの競争ステージに引き上げた辣腕経営者である。
中西会長の「経団連が採用の日程に関して采配すること自体に極めて違和感がある」という発言の背景には、実は経団連の威信の低下があるのではないか。つまり、紳士協定であっても、これまでは経団連の威信でどうにか拘束力を維持していた就活ルールが、産業構造の変化、経営環境のグローバル化のなかで、その拘束力を急速に失いつつある。
実は、2つの意味で経団連の威信は低下してきている。1つ目は、これまでは成長した企業はその成功の証として経団連に加盟することで、経団連を頂点とする日本の企業ピラミッド(階層構造)に組み込まれ、その結果、経団連の威信が維持されてきたわけだが、もはやそれは機能しなくなりつつあるということである。IT関連などの新興企業は経団連に加盟する気はなく、独自の採用ルールのもとで採用活動を行っている。新興の外資系企業も同様である。スタートアップやコンサルティング企業も独自の採用ルールで動いている。つまり、経団連の就活ルールの範囲外で採用活動を行う企業が、急速に増えているのである。
もうひとつは、これまで経団連を牽引してきた新日鉄住金、東芝、日本電気、東京電力ホールディングス、みずほ銀行、日本郵船、パナソニックなどの大企業の競争力低下が止まらないことである。高度成長を牽引したこれら企業の多くは、競争環境のグローバル化のなかで、明らかに競争力を失いつつある。その一方で、大企業はグローバルな経営環境で生き残るため、日本人であるかないかを問わず、優秀な人材の確保のために採用活動の柔軟化を急速に進めている。
通年採用や新卒・既卒を問わない採用、インターンシップの活用、積極的な外国人採用もそのひとつである。単なる生産拠点の海外移転を超えて、事業がグローバル化するなかで、エンジニアを筆頭に、優秀な外国人人材を確保するために外国人の新卒採用を積極化する企業は多い。つまり、短期間で「戦力となる」であろう優秀な人材を広範囲に求めているわけである。
この人材争奪合戦の相手は、経団連の加盟企業のみならず、外資や日本の新興企業、スタートアップなどであり、その争いは厳しく、「経団連加盟企業であるから優秀な学生が来る」と悠長に構えている余裕はないのである。実際、理系も含めてもっとも優秀な日本人の学生は、グーグルを筆頭とする外資系や国内の新興IT企業、トップクラスの外資系コンサルティングファームやインベストメントバンク、新進気鋭のスタートアップなどに取られているのが実情である。この現象は、欧米への大学院留学を考慮すると国境を越えての流失も起きている。給与の面でも、新卒一括採用と終身雇用で基本的に淘汰のない内部育成が基本の伝統的な日本企業のそれは見劣りし、急速に競争力を失ってきている。
加えて、生き残りは時間との勝負なので、大企業も悠長に新卒一括採用を前提とする終身雇用慣行のなかで、その企業でしか通用しないジェネラリスト(別名、総合職)を育てている余裕はなくなりつつあるという意識を持ちつつある。これは、中西会長の発言からもうかがえる。
私は大学教員という職業柄、最近の学生の就職活動を見るに、経団連の大手加盟企業ですらインターンなどを通して選考は事実上早期に終了し、企業訪問開始の4月1日前に“内々々定”、選考開始の6月1日に内々定を出している。それを受けて、10月1日に正式に内定を出す今のルールはほとんどジョークである。
■企業の個別採用にシフトしていく
このように、現実は経団連の就職指針が粛々と有名無実化しているわけである。中西会長の就活ルール廃止の発言は、このような現状を認め、建前となった就活ルールの存在意義はもはやないと認めて建前を廃棄し、現実を提示したといえよう。今さら政府が推進したインターンを廃止することはできないし、また、その内容が事実上の選考であるかないかをチェックすることなど不可能である。経団連加盟企業の現在置かれた厳しい状況を考えれば、就活ルールなどにかまっている暇はないので、あとは政府に任せるということであろう。
この意味を理解していない安倍首相は、中西会長の就活ルール指針廃止表明を受けて、「だんだんと雇用(環境)が良くなっているから、企業が早く良い人材を確保しようと、就職活動が早くなっている」と述べたが、認識が誤っている。企業は生き残りのために、本当に優秀な人材を獲得しようとしているのである。
政治家主導の就活ルールの強制化が現実となれば、結果として企業が新卒一括採用から通年での第二新卒や中途を含めた個別採用にシフトしていくという、政府の想定外の事態が起こることを政治家は理解していない。実際、日本企業のグローバル化が進み、主戦場が日本でなくなれば、日本人学生の新卒一括採用の意味合いは急速になくなっていく。もしくは、ガラパゴス化して日本にだけ残る制度になる可能性が高いと筆者は考えている。
次回は、大学の置かれている状況について考察したい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
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