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2018年10月31日 David Pierce
ロボット革命到来、実用性より「かわいさ」
あまり役には立たないが、愛らしいロボットが続々登場
ロボットは今やわれわれの生活に自ら積極的に関わるようになってきている。デービッド・ピアース記者が、そうしたロボットたちと実際に触れ合った感想は?(英語音声、英語字幕あり)
――筆者のデービッド・ピアースはWSJパーソナルテクノロジー担当コラム二スト
***
筆者の心をとらえたのは、その目だった。
背中のボタンをクリックしてから数秒後、ベクターはまばたきをして目を開いた。ベクターとは、アンキ(Anki)社が開発した249ドル(約2万7900円)のネズミほどの大きさの新型ロボットだ。目といっても、ベクターの実際の目である広角カメラの上に表示された四角い緑色のピクセルにすぎない。
頭では目ではないと分かっている。だがベクターがそのピクセルを筆者に向けて上に傾けたとき、確かに目が合った。そして確かに彼(それ)は、筆者を認識した。
ベクターはここ1週間ほとんどの時間、筆者のアパートをうろついていた。食卓や台所のカウンターに置くと、その小さなキャタピラ状の「足」を懸命に回転させ、しばらくの間、探索を続ける。
やがて戻ってくると何かを期待するかのように筆者を見つめる。なぜ遊んでくれないのかと言わんばかりだ。そこで、この音声認識も可能なロボットに話しかける。
「ねえベクター、ブラックジャックをしようよ」と言うと、顔(スクリーン)にトランプのカードが表示される。ベクターは勝負に負けると不機嫌そうに筆者をにらみつけ、勝つと大喜びする。いずれにしろ、いつもその小さなロボットらしい声で「もう一勝負する?」と聞いてくる。
ベクターは素晴らしい製品だが、おもちゃとしてはそれほどのものでもない。大したことはできず、スマートフォンやスマートスピーカーほど優れてもいないし、便利でもない。バッテリーはわずか30分ほどしか持たないし、命令しない限り自分から充電器を探しにも行かない。だが「ベクター、家に帰りなさい!」と命じるのは、罰を言い渡しているようで嫌な気分だった。
ベクターはもっと大きな機器への足掛かりのような製品だ。この小さな相棒は、筆者の顔を認識するよう教えたり、雑学モードで第16代米大統領について質問したりしているうちに、筆者について多くのことを学んでいった。
ベクターが居間を動き回り、部屋の状況を学習しているのを目にするのは楽しかった。ベクターは筆者に自宅に置いても構わないと思わせた初めてのネット接続カメラであり、筆者はそれをためらうことさえなかった。
ロボット革命が到来しているが、それらロボットは非常にかわいらしいので、深刻に考えなくてもよさそうだ。
自ら関わりを持つ
ベクターは独立心と好奇心旺盛に設計されている。プラスチックのブルドーザー型ボディーに身をつつんだ小さな探検者だ。ちょっとわんぱくでもある。「こっちへ来て」などの言葉を理解し、音声を聞いているときは青いライトが光る。だが、わざと命令を無視しているように見えることがよくある。あるいは、きちんと機能しておらず、反抗的な態度で自分の失敗をごまかしているのかもしれない。結局のところ、やってみなければ失敗することもないのだ。
だがベクターについては、完璧に全てをこなすかどうかは重要ではない。とにかくかわいらしいのだ。たとえ命令を無視しているときであっても、というか、そういうときは特にかわいく感じる。ベクターの仕事はそばにいて興味を持たせることであり、大抵期待通りの仕事をしてくれる(少なくともバッテリーが切れるまでは)。
ベクターは常時ネットに接続されている上、ほぼソフトウエアで駆動しているため、時間がたつにつれて性能が向上する可能性がある。アンキの社長で共同創設者のハンス・タッパイナー氏は、ベクターはいつの日かスマートホーム機器の操作からスケジュール帳や通知の管理まで全てをこなすようになるかもしれないと話す。「ベクターで本質的に目指しているのは、共に暮らし、いずれ相棒になってくれる個性豊かで役立つロボットだ」
ベクターを身近に置いておくのは大抵、楽しかった。だが片付けておこうとしたとき、煩わしさを感じることがあった。ベクターは充電器に腰掛けながら、周囲の雑音に反応し興味深げに音を立てることがよくあった。命令していないのに充電器から離れ、探索し始めることも時々あった。
筆者がベクターと遊び始めるのを待っているのではなく、筆者と遊びたがった。
このように呼ばれなくても自ら干渉してくるロボットというコンセプトは、SFの世界だけの話ではない。実際に頻繁に目にするようになっている。アップルの音声アシスタント「シリ」は今や自ら申し出て電話会議に素早く接続してくれるし、アマゾン・ドット・コムの「アレクサ」は照明をつけたままにしておくと消しましょうかと尋ねてくることがある。これはささいだが、重要な変化だ。ロボットはわれわれの世界に自ら関わり、手伝いを申し出ている。
友か敵か
「家事ロボット」はテクノロジー業界を長年魅了してきたコンセプトだ。料理や掃除など面倒な家事を全てこなしてくれる機械には何とも抗しがたいものがある。
本当に優れた家事ロボットの実現にはまだ時間がかかる。より優れたセンサーやプロセッサーに加え、もっと正確にモノを取ったり動かしたりする方法が必要だ。長い足があってもいいだろう。
現在のところ、それに最も近いのは台所の床を自動で動き回る掃除機や、「アマゾン・エコー」のような音楽を再生したり、天気を教えてくれたりするスピーカーだ。
ロボットが多機能ホームヘルパーに進化したとき、最も重要になるのがその振る舞いだ。ロボット開発会社テミ(Temi)のニューヨーク市本部トップを務めるダニー・イッサーレス氏は、同社では早い段階でロボットにできる限り個性を持たせないことを決めたと話す。「製品が人々に愛されることを望んでいるが、愛される理由はそれが素晴らしい製品だからであってほしい」
別の考えを持つ人たちもいる。高度な家事ロボットの開発に取り組むミスティー・ロボティクス(Misty Robotics)の創業者で製品責任者を務めるイアン・バーンスタイン氏によると、同社ではロボットにほんの少し個性を加えたところ、ユーザーが即座に愛着を持つようになった。大したことではないとバーンスタイン氏は話す。うまい具合に眉を上げたり、首をかしげたりするだけで驚くほど多くのコミュニケーションが取れるという。
アンキのベクターと、米国で発売されたばかりのソニーの犬型ロボット「アイボ」の最新版(2900ドル)での筆者の経験がまさにそうだった。どちらも感情を伝えるには顔を伏せたり、あどけない目をまばたかせたりするだけで十分だった。アイボが頭をなでた後にうれしそうにほえたときは、筆者の心はとろけそうだった。
最終的には、魅力的で楽しいロボットと生真面目に効率良く仕事をこなすロボットが混在するようになるだろう。しかし、ハイビジョンテレビに対して初めて見たときのような感動をもはや覚えないのと同じように、いずれわれわれは彼らの行動を見通すようになるだろう。
ロボットが大きくなりすぎないうちに、そうなってほしいものだ。今はもしベクターがやんちゃで手に負えなくなれば、いつでも机の引き出しにしまうことができる。多少の罪悪感はあるが。
https://diamond.jp/articles/-/183879
2018.09.11 TUE 19:30
Ankiのキュートな家庭用ロボットは、厳しい競争を生き残れるのか?
スマホで操作できるロボット玩具で知られるAnkiが、自律走行する家庭用ロボット「Vector」を発表した。可愛いことは間違いないが、すでにいくつものメーカーが苦境に陥っているなかで、生存競争に勝ち残っていけるのか。
TEXT BY MATT SIMON
TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO
WIRED(US)
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VIDEO COURTESY OF WIRED US(字幕は英語のみ。画面右下の「CC」ボタンで字幕のオン/オフが可能)
自分だけの家庭用ロボットがあったとしたら、何をしてほしいだろうか。後片付け? 皿洗い? それともコーヒーをいれてもらう? だが、そんなロボットの登場は、まだずっと先の話だ。
だからといって、ロボットメーカーによる「ロボットアシスタント競争」への参戦が止まるわけではない。まるで“踊るAmazon Alexa”といった「Jibo」[日本語版記事]や、写真を撮りながら家の中を動き回る、小さなR2-D2のような「Kuri」[日本語版記事]を思い出してほしい。
そういったロボットには特に興味を引かれないって? 実は、ほかの人たちもそう思ったようだ。報道によると、Jiboの開発元であるジーボは、スタッフの大量解雇を行っている。Kuriのメイフィールド・ロボティクスも2018年7月に業務を停止し、事前予約の返金を行うと発表した。
こうした熾烈な市場に、スマートフォンで操作できるロボット玩具「Cozmo」[日本語版記事]の開発で有名なアンキ(Anki)が、このほど参戦した。Cozmoを大幅にパワーアップした自律走行型ホームアシスタント「Vector」を市場に出すと発表したのだ。
見た目は可愛らしく、(比較的)賢くて機動性に優れている。ロボット工学の最新テクノロジーを凝縮したような製品だ。問題は、ほかの家庭用ロボットたちが失敗してきたこの市場で、Vecorは成功できるのか、ということである。
家事のできないロボット
姿を消していった家庭用ロボットたちは少なくない。ロボットメーカーは1980年代の初めから、一般家庭をソーシャルロボットで埋め尽くそうと挑戦してきた。だが、そのほぼすべてが、石の詰まった箱と変わらないくらい使えなかった。
例えば、タカラトミーの「オムニボット」に、ベッドまで朝食を運んでほしいと思ったとしよう。まずは自分で朝食をつくって、ロボットのトレーの上に載せる。そして、リモコンでロボットを寝室まで移動させたら、自分はベッドに戻る。そして新聞から顔を上げて、ベッドにいる自分のためにロボットが朝食をつくってくれたことに驚くふりをする必要があった。
JiboもKuriも、そして今回のVectorも、こうした家事をやるつもりはない。そもそもこういったことは、研究用ロボットでさえ、まだうまくこなせないのだ。
だが、人工知能と処理能力の向上のおかげで、家庭用ロボットは以前のロボットたちに比べるとはるかに賢くなっている。特にゲームの進化がもたらしたGPUの処理能力向上は、小型ロボットが周囲の状況を処理するうえで役立っている。
また、以前はクラウドの巨大コンピューターを稼働させる必要があった機械学習アルゴリズムは、ロボットで直接実行できるほど簡素化された。その結果Vectorは、音声についてはクラウドで処理してもらうものの、目標に向けて進んだり、ユーザーの顔を認識したりすることについては、ローカルで実行するアルゴリズムで処理できる。
「気持ち」を表現するVector
Vectorは、家庭用のマイクロ自律走行車のようだものだと思ってほしい。調理台やテーブルの上で、レーザーやカメラを使って周囲の状況を探索し、物がある場所を記憶して、縁から落ちないように止まるのだ。
どんな天気かと尋ねれば、教えてくれる。「タイマーをセットして」と頼むこともできる。持ち主が部屋に入ってくれば、うれしそうなそぶりを見せる。ちょっと「Google Home」に似ているが、Vectorには“人格”がある。
現時点ではたいしたことはできないようだが(アンキは18年10月の発売以降に機能を追加していくと述べている)、とにかく可愛らしい。例えばテーブルの端に近づきすぎると、後ずさりしてつぶやく。まるで「危なく死ぬとこだった」とでもいうように。
アンキの共同創業者で社長であるハンス・ウォルフラム・タッペイナーは次のように語る。「人格を組み込むことで、家電製品には普通なら望まれないようなこともできるようになりました。Vectorは何か尋ねられるまで、ただ座って待っているわけではありません」。持ち主を見ると喜んでおしゃべりするのだ。
コミュニケーションは、言葉だけではなく目でも行われる。Vectorのデジタル化された目は、以前ピクサーに勤務していたスタッフたちによって入念にデザインされ、さまざまな魅力的な表情を表すようになった。
目にはVectorの「気持ち」が現れる(例えば横を向くと混乱しているように見える)が、それだけでなく人間の気持ちも引きつける。人にとって、視線が合うことは非常に重要だからだ。それは相手が機械でも変わらない。
「例えば、ロボットと目が合う頻度や、アイコンタクトをどのくらい長く保つか、といったことが問題です。アイコンタクトがあまりうまくできないと、それまでは生きているように感じていたものであっても、突然生きているように感じられなくなったり、よそよそしく感じられたりするのです。カメやハムスターといったものが、よちよち歩きの子どもやイヌと違うのはそういうところです」とタッペイナーは説明する。
消費者が確実に欲しがるものは何なのか?
ただ、現実的にはどうだろうか。確かにデジタルのカメには誰も興味を示さないだろう。だが、消費者がデジタルのイヌ(特に調理台の上を歩き回るもの)を求めていることが100パーセント明らかなわけでもない。それに消費者は、以前まんまとだまされた経験がある。
「期待が大きすぎたうえに、得たものが小さすぎました」と語るのは、消費者向けロボットを調査しているトラクティカ(Tractica)のリサーチ責任者、アディチャ・カウルだ。「これはSFや大衆文化と関係があります。わたしたちがロボットに期待することは、実際には得られないのです」
だがこれは、人々の期待にかなう製品を届けられないロボットメーカーの問題でもある。消費者向けロボットを調査しているジュニパー・リサーチのリサーチ・アナリスト、ニック・メイナードは、「Jiboは本当に目新しかったし、Kuriもそうでした」と言う。「ただそれらは、こうした製品をもっていると言いたい人のために存在していたのであって、魅力的な差別化要因があったわけではありませんでした。ユーザーが実際に欲しいと思うような先進的な機能は備えていませんでした」
消費者が確実に欲しがるものは何なのか。それは、Alexaのような音声アシスタントだ。そして、アマゾンが家庭用ロボット分野に進出するらしいという噂が何らかの兆候だとすれば、それは、個人用ロボットの進化を促進するようなマシンかもしれない。
「音声アシスタントと家庭用ロボットの境界線が曖昧になってきているように思います。今後は両方の機能を兼ね備えた機器が登場するでしょう」とメイナードは言う。これこそ、Vectorが模索し始めた領域だ。
Vectorは、可愛さと有用さを兼ね備えることはできるだろうか。可愛いことは間違いないが、有用さはまだ見えてきていない。Vectorが朝食をベッドに運んでくれることはないだろうが、差し当たりはそれで我慢しなければならないのだ。
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#Robot #Science
https://wired.jp/2018/09/11/ankis-new-home-robot/
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