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米中新冷戦、貿易は米有利でも世界に「反ドル意識」強まる可能性
https://diamond.jp/articles/-/183058
2018.10.24 都康行:RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社代表取締役 ダイヤモンド・オンライン
Photo:PIXTA
2018年のグローバル経済の景色が、世界同時好況に沸いた2017年から一変したことは、2月に続いて10月にも「世界同時株安」が到来した事実に象徴的に示されている。
2回とも、引き金は米国長期金利の上昇とされているが、今回の株価急落には米中貿易戦争の長期化がもたらす世界経済の成長鈍化、企業業績のピーク感、景気後退局面の前倒しなどへの懸念が不安材料として加わっていることを十分に認識しておくべきだろう。
米中対立が貿易戦争から通貨戦争、そして覇権戦争の様相になっており、「新冷戦」が、世界経済や国際通貨の「秩序」を大きく変える潜在力を持っている。
18年は「米中覇権戦争元年」
2回の同時株安は不安を象徴
今回の株価急落の要因をくまなく探そうとすれば、原油価格の上昇機運や新興国市場不安など、さまざまな要因が挙げられようが、投資家が不安視する本命が、長期金利上昇と米中覇権争い本格化の二本立てであることは明白だ。
もっとも、米国のインフレ期待は依然として限定的であり、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ方針を変えないにしても、長期金利がこのまま3.5%に向かって急上昇することは想定しづらい。
世界経済と資本市場にとって決定的に重要なのは、やはり米中関係である、といっても過言ではない。
周知の通り、米国は3月に各国に対する鉄鋼・アルミ関税の引き上げを発表した後、中国に対する強硬な方針を段階的に打ち出してきた。
7月には340億ドル、8月には160億ドル、そして9月には2000億ドルの対中輸入品への関税引き上げを発表し、今後は9月の第3弾制裁で10%とした税率を25%へ引き上げることも検討している。
さらにトランプ大統領は、第4弾として2670億ドルの輸入品の関税引き上げまでも視野に入れている。
中国はそれぞれの関税引き上げに対して報復措置を採ってきたが、対米輸入品がそれほど多くないことから、対抗手段には限界がある。
米国はその優位性を利用して、知財保護や市場開放などへの圧力を強めているが、中国も簡単には屈しない。米国の中間選挙の動向を見据えつつ、長期戦を覚悟し、減税・補助金や金融緩和などの経済対策で景気を支える姿勢を見せている。
だが両国の対立を単に貿易戦争という経済的文脈で眺めるのは近視眼的だ。
今後の米中関係は、軍事・政治・経済・金融を巡る「21世紀の覇権争い」が始まったという長期的観点で捉えねばならないだろう。
つまり2017年が「世界同時好況」であったとすれば、2018年は「米中覇権戦争元年」と名付けてもいいかもしれない。世界は大きな変曲点を迎えている。
短期で「劣勢」の中国は
主要国との連携重視に
市場はこの米中対立の行方を「米国優勢・中国不利」と見ている。
10月上旬まではそうした投資家心理が米国株高・中国株低迷というコントラストに反映されていた。
為替市場でも、好調な米国経済と失速懸念が強まった中国経済を背景にドル高・人民元安のトレンドが継続し、中国では2015年や2016年に続く「資本流出懸念」もささやかれている。
中国政府は、輸出産業に有利になるように、市場不安が起きない程度の緩やかな元安を望んでいると見られる。金融政策に関しても、従来のように米国の利上げに対応して政策金利を引き上げることは見送られている。
中国人民銀行は「ドル売り・人民元買い」の為替介入を行っているが、それは急速な人民元下落を阻止しようとするスピード調整の域を出るものではない。
こうした動きに対して、トランプ大統領は依然として「中国が人民元安を意図的に操作している」と批判し続けているが、3月以降の人民元安はホワイトハウスが仕掛けた貿易戦争によるものだ。ドル高は米国の自業自得とも言える。
ちなみに同大統領は原油高に関しても「OPECが主犯だ」と非難しているが、市場が材料視しているのは米国によるイラン制裁強化であって、これもまた同じことが言える。
こうしたドル高・人民元安の余波は、他の新興国の通貨安や円安、ユーロ安などの流れを呼んでいる。
特に新興国通貨に関しては、年初から下落基調にあったアルゼンチンペソ、米国との緊張で急落したトルコリラに加え、大統領選を控えたブラジルレアルや、経常収支不安のインドルピー、インドネシアルピアなどの下落を誘っており、各国では通貨のみならず国債や株も下落する不安定な地合いが続いてきた。
そして米国の関税引き上げが輸入コストに跳ね返り、賃金水準や原油価格の上昇とともにインフレ率上昇を引き起こすと見て、長期金利が上昇した、という側面もある。
これが景気の先行き不透明感との相乗効果で、今年2度目となる株価急落を引き起こした。
結局は株価急落の主犯もトランプ大統領と言えるかもしれない。
もっとも、中国が貿易戦争で短期的に劣勢であることは否めない。
非関税障壁の導入や米国金融機関の対中進出制限なども想定されるが、その報復措置には限界がある。
一方で、米国のペンス副大統領は、10月上旬のハドソン研究所での講演で、歴代米政権の中国戦略を失敗と断定し、同国を「パートナー」ではなく「敵」と見なすという、事実上の「新冷戦宣言」を行っている。
この状況では、中国も安易に妥協策を持ち出せないだろう。目立っているのが、対米関係悪化のヘッジだ。
中国は軍事や貿易などでロシアとの協調関係を意識的に打ち出しているほか、米国との関係が冷却化している欧州との連携も深めている。そして、日本に対する外交姿勢も急変させて友好関係を演出し始めるなど、躍起となっている。
経済戦略でも、「一帯一路プロジェクト」を通じてアジア、中東、欧州そしてアフリカへと「札束外交」を積極化させてきたが、多くの事業が行き詰まるなど苦戦を強いられている。
米国との覇権争いには、主要国とのより強靭な基盤作りが必要との認識に変化してきたようにも思われる。
米国の高圧的な交渉姿勢が
「ドル離れ」強める可能性
中国の「変化」は苦し紛れの選択にも見えるが、一方で、関税引き上げや経済制裁など米国の強引な交渉手法に不満を抱く国が増えているのは事実である。
米国シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが25ヵ国を対象に行った意識調査によれば、トランプ大統領を信任するとの回答は27%にとどまり、70%が不信任を突き付けている。
米国に対する好意的な見方は50%で反米派の43%を上回ってはいるものの、「米国が他国の利益を考慮して行動しているか」との質問には、70%が「NO」と回答し、「YES」の28%を圧倒している。
反トランプ意識が強まる中で、米国から強い圧力を受けた国々が「非ドル化」という文脈で結束する可能性が、全くないわけではない。
つまり、米国の「中国封じ込め」は逆に「米国の孤立」を生み、中期的にドルの基軸性を脅かす契機になり得る、ということでもある。
もちろんドルは、今なお事実上の世界通貨だ。10年前のリーマン・ブラザーズ破綻が引き起こした金融危機の際には、ドルに対する不信感が強まったこともあったが、ドルの支配力は依然として健在だ。
世界貿易における決済取引では40%を占め、国際資本市場でのローンはドル建てが56%、外貨準備でのドルのシェアは63%と、それぞれで二番手のユーロを大きく引き離し、円やユーロそして国際化を進める人民元など足元にも及ばない。
だが、NAFTA再交渉や対イラン制裁あるいは対トルコ制裁といった、トランプ政権が次々に打ち出す「ドルの威を借りた」高圧的交渉や経済制裁行為は、グローバルな規模で着実に「反ドル意識」を高めている。
米中貿易戦争が覇権争いへと展開されていく中での通貨戦争が、中国や世界の「反ドル意識」に火を付けるとしても不思議ではない。
具体的には、中国はロシアとの間で貿易決済の「非ドル化」を主要テーマの一つに掲げており、北朝鮮との関係修復は、韓国を「非ドル決済圏」に引き寄せる契機になり得る。
一方でEUは、米国がイランを「SWIFT」と呼ばれる決済システムから排除しようとしているのに対抗して「非ドル決済システム」構築への検討を始めている。
同盟国でありながら経済制裁の対象とされたトルコも、ドル依存のリスクを感じたことだろう。
最近のトルコでのジャーナリスト殺害事件を契機に、サウジアラビアと米国との同盟にヒビ割れが生じる可能性もある。非現実的ではあるが、サウジのドル離れといった思惑が強まれば、金融市場に対する影響力は小さくない。
米中「新冷戦」は
システム変化を生む潜在力
オバマ政権下で財務長官を務めたジェイコブ・ルー氏は、2016年の講演で、米国による制裁の乱用がもたらすリスクに言及している。
「米国が不適切な理由で制裁を科していると他国が感じるようになれば、彼らが米国とのビジネスやドルでの取引を回避する方法を模索し始めたとしても無理はない」と。
こうしたドル離れが数年で起きるとは思わないが、10年後やあるいは20年後に、金融史家が「トランプ大統領がドル信認低下の引き金を自ら引いてしまった」と判断することも有り得るだろう。
現在のドル高が「戦後最後のドル高局面」となっても不思議ではない。
我々は現在の国際通貨体制が永遠に続くものと思いがちだが、システムの構造は気付かぬうちに変化していることもある。
米ソ間の冷戦はドル一強への基盤を作ったが、米中の「新冷戦」はその姿を大きく変形させる潜在力を持っている。
いま日本では、米国との通商交渉で為替条項を求められていることに関心が寄せられている。それは確かに目先の重要な問題だが、現在の円安水準がいつまでも続くと考えているとすれば、問題意識が甘過ぎる。
むしろ米中覇権争いに付随する通貨戦争が、長期的に日本経済や日本円そして金融政策にどんな影響力を及ぼすのか、想像力をフル回転させるべき時期が近づいているように思われる。
(RPテック〈リサーチアンドプライシングテクノロジー〉株式会社代表取締役 倉都康行)
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