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政府が「就活ルール」に関わるのは愚行といえる3つの理由
https://diamond.jp/articles/-/183141
2018.10.24 山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 ダイヤモンド・オンライン
写真はイメージです Photo:PIXTA
中西経団連会長の英断
筆者は、そもそも日本経済団体連合会(経団連)のような財界団体の存在意義に疑問を感じ、できれば廃止、少なくとも活動規模を縮小するべきではないかと考えている。財界団体は時代の役割を終えた。
しかし、経団連の新会長である、日立製作所の中西宏明氏は良い見識をお持ちの方だ。彼は、個人的な意見としながらも「経団連が就活ルールを決めるのは違和感がある」として、廃止する意向を表明した。経団連が策定・公表してきた「採用選考に関する指針」がなくなるのだ。
実効性が乏しく、かつ効果として有害であったルールを廃止するのがいいと見切ったことは、優れた判断だと思う。
しかし、安倍晋三首相は「学生の本分である勉強よりも就職活動が早くなるのはおかしい。広報活動(説明会)は3月、選考活動は6月に開始というルールをしっかりと守っていただきたい」と発言。また、全国の大学や短大などで構成する就職問題懇談会も、「2021年春入社組については現行ルールを維持すべきだ」と述べた。しかも、今後、政府内で新たな就活ルールの検討のための会議が設けられそうだ。
せっかく経団連が、有害なルールを廃止するというのに、政府がこれに代わるルールを作ろうとするとは不可解だ。「就活ルール」はない方がいい。以下、理由を3つ挙げる。
理由1 採用・就職は自由であるべき意思決定だ
「就活ルール」を設けるべきではない最も根本的な理由は、企業から見て採用、学生から見て就職が、共に将来に向けて極めて重要で、競争的であるべき、自由な取引であることだ。
企業から見て、いわゆる「青田買い」(早期の採用)を前倒ししすぎると採用の精度が落ちるし、実際に入社してもらうまでのコストが掛かるかもしれないが、優秀な人材を早く確保することができるプラス効果があり得る。このプラスとマイナスのバランスと競争上の状況をどう考えて、実際にどう行動するかは、企業同士が競争し工夫すべき経営戦略の問題だ。
また、学生側にあっても就職先を早く決めるのか、じっくり選んでから決めるのかは、就職市場における自分の競争力を考えた上で判断すべき人生戦略に関わる問題だ。
就職先を早く決めてその後に学業に注力したい学生もいるだろうし、勉強によって自分の価値を高めつつ就職先を時間を掛けて決めたい学生もいるだろう。彼らに対して画一的に「○年生の×月まで内定を出してはならない」とルール化することは余計なお節介だ。
理由2 学業と就活時期は本来無関係だ
いわゆる就活ルールの議論にあって、最もばかばかしいと思うのは、就活の時期によって学生が勉強したりしなかったりすることへの影響がうんぬんされることだ。
現実問題として、今の「ゆるゆる」で卒業できる大学の場合、就職が決まってしまうと、その後に成績を稼ぐモチベーションがなくなるし、そもそも3年時くらいに4年分に必要な単位を取ることが難しくないために、学生が勉強に不熱心になることは大いにあり得るし、現実にある。
しかし、問題の原因を就活ルールに求めることは不適切だ。
はっきり言おう。就職の内定時期によって、学生の学業への熱意が変化するとすれば、それは大学が提供する教育サービスの価値が低いことが原因だ。
大学で学ぶことが自分のプラスになると思うなら、学生は内定を得ても得なくても勉強するだろう。また、大学が学生に本当に勉強させたいのなら、4年間しっかり通わなければ卒業に必要な単位が取れないようなカリキュラムを組むといいし、卒業に必要な学力レベルを高く設定すればいい。学生は魅力やメリットを感じないから大学に行かない。それだけのことではないか。
「役に立たない講義にもそこそこ出席して、センセイたちを満足させてくれたら、学力には厳しいことを言わずに卒業させてやる」といった条件を学生に提示することが正しい大学教育だとは思えない。
その大学を卒業したこと自体に価値があるという事実こそが、大学のブランド価値であるべきではないか。まして、推薦入学やAO入試での合格者など、入学者の学力にバラツキが生じているのだから、大学はせめて卒業生の学力に対して責任を持つべきだ。
なお、就活ルールがある方が、大学の学生に対する就職指導は楽であるかもしれないが、ルールの有無は大学関係者のためにではなく、企業と学生のためにどうなのかという観点から判断されるべきだ。
理由3 「守られないルール」の悪影響
経団連の「採用選考に関する指針」があっても、外資系企業やIT系の「やる気のある」企業などは、優秀な学生の確保を目指して早い時点から候補者を選考して内定を出すことを躊躇しない。ビジネスにとって人材が決定的に重要であることを思うなら、むしろ当然のことだろう。
また、多くの企業は、ほとんど候補者選考のためとしか思えないワンデーインターンも含めて、各種のインターン受け入れを行って、間合いを測りながら相当に早い時点から学生の確保に動いている。
こうした企業の“抜け駆け”に対して有効な制裁措置はないし、そもそも自由な企業活動に制裁を設けるべきでもない。今後、政府が設ける検討会議で、就活ルールを「実効性のあるものにする方法」が検討されるのだろう。しかし、強制力のある規制を作るべきではないし、規制を作ってもこれを公平に適用することは容易ではないだろう。
一方、「指針」を真に受けて就職活動に臨む学生は、就職活動において出遅れる場合があり得るのが現実だ。加えて、企業側に余計な紳士協定があることで、採用活動の情報がオープンに流通しにくくなっている。
守られないルールは、それ自体として形骸化していて不公平であり、加えて採用活動に関する情報を見えにくくしている。学生に対する情報上の公平性を損なっていると言える。
余計な建前を撤廃して、企業には採用活動に関する情報を広く公平に発信することのみを奨励すべきだろう。
また、新卒一括採用の他に、通年採用を併用する企業も出てくるだろうし、さまざまなレベルで中途採用も行うだろう。通年採用は、多様な人材を柔軟に採用する上でメリットのある方法だが、現在のような選考活動に期限を設ける就活ルールになじまないのは当然だ。
各種の人材の採用方法は、企業の経営上の必要性と工夫によるもので、人材の採用方法は一律に規制してそろえるべきものではない。
再度強調しておこう。就職活動の時期が前後することで大学生の学業に対する態度が変化するとしたら、それは、大学の教育内容自体に魅力がないからであって、企業のせいではない。
政府が新たな就活ルールを作ろうとすることは、全く愚かなことだ。
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
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