http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/877.html
Tweet |
日産、究極のエコカーFCVをやめるって…なぜ?
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180706-OYT8T50008.html?page_no=4&from=yartcl_page
日産、究極のエコカーFCVをやめるって…なぜ?
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180706-OYT8T50008.html
モータージャーナリスト 御堀直嗣
今年6月中旬、日産自動車が、独ダイムラー、米フォード・モーターと共同開発している燃料電池車(FCV)の量産化計画を当面、見送るとの報道があった。3社は2013年に共同開発を始め、17年にもFCVを発売する計画だった。かつて、“水しか出さない究極のエコカー”ともてはやされたFCVから、なぜ、日産は手を引く決断をしたのか。モータージャーナリストの御堀直嗣氏に解説してもらった。
FCVとはどのような車か
FCVは、搭載している燃料電池(Fuel Cell)で発電し、得られた電力でモーターを駆動する電気自動車の一種である。
いわゆる電気自動車(EV)とFCVが異なるのは、外部から充電をしない点だ。FCVは燃料電池で発電するため、水素を外部から補給して車載タンクに蓄える。
また、燃料電池は、水素を燃料として、大気中の酸素と化学反応させ、電気を生み出す発電機である。したがって、FCVは大量の水素を車載タンクに蓄えなければならず、70メガパスカル(MPa=約700気圧)の高圧水素タンクを搭載する。
燃料電池は、イオン交換膜という料理用のラップのように薄い高分子膜を数百枚も積層した構造になっている。その製造には精密さが求められ、トヨタのFCV「MIRAI(ミライ)」の生産台数が年間3000台(250台/月)程度に限られるのも、量産工程における繊細さが不可欠だからである。
70MPaという高圧の水素ガスを安全に車載するため、樹脂、炭素繊維、ガラス繊維などを複合的に使った高度なボンベ製造技術も求められる。無駄なく成形するための優れた技術も必要だ。
そればかりか、万一、水素ガスがタンクから漏れた際にも、重大な事故につながらないようにする安全性の確保が求められる。可燃性の高いガソリンを利用するのと同様に、危険性が指摘されるエネルギーでも、安全に使えるようにするのが人間の知恵であり、メーカーの責任である。
では、日産がFCVの量産化から手を引いた要因はどこにあるのか。
【理由1】水素ステーションの問題
精密で繊細な燃料電池を量産するには、高度な生産技術の構築と生産管理などに手間と多額の投資が必要となる。
MIRAIをいちはやく市販したトヨタも、当初は年間700台(60台弱/月)の規模からはじめ、ようやく年間3000台の水準に至った。2014年の発売当初に数千台の注文を受けたが、納車されるまで数年待つという状況は、一般のマイカー購入者にはちょっと考えにくいだろう。
このような状況で、採算の見込みがない点は、ホンダの量産型FCVのクラリティ・フューエルセルでの取り組みにも表れている。ホンダは、FCV単独の採算性を危惧し、同じ車体でEVとプラグインハイブリッド(PHV)の三つの電動パワートレインを採用した。
こうした背景には、FCV普及へ向け、水素を充填じゅうてんするステーションの整備がなかなか進まず、東京、大阪、名古屋、北九州などの都市圏でしかFCVの実用性がない状況にある。これは、「鶏が先か、卵が先か」というジレンマでもあるが、FCVの量産が進まなければ水素充填を必要とする利用者が増えず、利用者が増えなければ水素ステーションの拡充もできない。
その結果、水素充填は不便だから、FCVを買い控えるという循環に陥ってしまう。
「解決策はまだない」
打開策として、自動車メーカーやエネルギーメーカーなどが集まり、共同で水素ステーションを拡充しようという動きが起きた。それが、今年3月、トヨタ、日産、ホンダ、JXTGエネルギー、出光興産、東京ガスなど11社が設立した「日本水素ステーションネットワーク」(Jハイム)だ。今後4年間で80か所の水素ステーションを整備するとしている。その後、水素充填のセルフステーション実現へ向け、規制を緩和する動きも出ている。
それでも、水素ステーションの拡充は容易ではない。その理由は、技術でも整備費用でも法規制でもない。水素ステーションが根本的に抱える基本要件による。
水素供給利用技術協会(東京都)の説明によると、水素ステーションを一つ設けるには500平方メートルの広い土地が必要としており、しかも、安全性を確保するために、施設に天井を設けるのは不適切だという。つまり、土地の価格が高く、高層化による有効活用が求められる都市部では、水素ステーションを設置するのは難しい。
Jハイム設立時の記者会見で、この点を問いただしたが、担当者は「解決策はまだない」と答えるのみだった。都市部で水素ステーションの数を増やす見込みが立たなければ、今後もFCVが販売台数を伸ばすことはまず不可能だ。
【理由2】高圧水素タンクの問題
かつて、“究極のエコカー”ともてはやされたFCVだが、現状では、二酸化炭素(CO2)の排出量をかえって増やすことになるとの指摘がある。それでは、地球温暖化抑制の流れに逆行し、本末転倒といわざるを得ない。
ホンダは「FCXクラリティ」という先代のFCVを2008年にリース発売した際、35MPaの水素タンクを搭載していた。
トヨタはこの時点で、すでに70MPaの水素タンクで実証実験車を走らせており、「なぜ35MPaなのか」という点をホンダの上席研究員に質問した。その際の答えは、「35MPaであればCO2を削減できるが、70MPaではかえってCO2排出量を増やしてしまうからだ」というものだった。
その後、ホンダは2016年に発売したFCV「クラリティ・フューエルセル」に70MPaの水素タンクを搭載。この時、ホンダの開発担当者に、CO2排出量を増やしてしまうという高圧水素タンクの問題点は解決したのか聞いてみた。「未解決である」とする担当者に、「では、なぜ70MPaにしたのか」と質問すると、「水素ステーションの世界基準が70MPaになってしまっているからだ」との事情を明らかにした。
世界の自動車メーカーが70MPaの水素タンクを搭載したFCVへの水素供給を標準化した背景には、トヨタをはじめ、米国のGM、ドイツのダイムラーなどが走行距離を延ばすために足並みをそろえたということがあった。
というのも、35MPaでFCVが走行できる距離は350キロ・メートル程度で、それでは、1回の充電走行距離が200キロ・メートル(当時)のEVと目立った差がない。FCVの優位性を示すには、500キロ・メートル水準の航続距離を可能にする水素タンクの高圧化が必要だったのである。
CO2排出量が増える理由
なぜ、70MPaの水素タンクだとCO2排出量がかえって増えてしまうのか。
その理由は、水素充填のため、水素ステーション側では80MPaの高圧水素が必要になるが、気体の水素を800気圧程度に圧縮する際には温度が上昇する。これを冷やしながら圧縮する「プレクール」と呼ばれる工程が必要だからである。身近な例では、家庭用の空気入れで自転車のタイヤに空気を入れるとき、ポンプを押しているうちに、空気入れ自体が熱くなるのを経験した人もいるだろう。
気体は圧縮すると温度が上がる。同時に、温度が上がれば気体は膨脹する性質がある。膨張させずに気体を圧縮するには冷やさなければならない。ホンダの研究者によれば、35MPaまでなら、冷却しなくても水素を圧縮し、FCVへ充填できる。しかし、70MPaになると冷却しなければならず、専用の冷凍機を用いることでCO2を排出してしまうという。
Jハイムは官民共同で、2020年度までに水素ステーションを160か所ほど整備し、FCVを4万台程度普及させる目標を立てている。だが、EVは現時点ですでに、走行距離が300〜400キロ・メートルに達しており、その上、急速充電器は全国に7000か所に広がっている。日産のEV「リーフ」の国内累計販売数は10万台に上る。
これでは、FCVを量産する意味はほとんどないのではないか。
【理由3】水素の問題
三つ目の課題は、水素自体の入手の難しさである。
水素は、無尽蔵な資源だと言われているが、地球上に水素としては存在していない。必ず何かほかの元素と化合物を作り、その中に水素が含まれる状態だ。たとえば、水(H2O)がそうである。地球の7割が海ということから、水は豊富にあるという印象があるかもしれない。ところが、水は液体として安定した状態を維持しており、簡単に水素と酸素に分離することができない。
水素を手に入れるには、水を電気分解するための膨大なエネルギーが必要になる。つまり、水素を利用するには電気というエネルギーが介在する。ならば、なぜ電気をそのまま使ってEVを走らせないのか――。そこにFCVの矛盾が生じる。
水素利用の推進者らは、水素を貯ためることでエネルギーの貯蔵に役立つと言う。しかし、電気がそこにあるなら電池に蓄電すればいい。EVに使われるリチウムイオン電池は充放電を繰り返すと電池容量が下がっていく。EVは電池容量が70%になった時点で「寿命」と見なして交換する。だから、EVで“寿命”とされた電池であっても、家庭や事務所用に定置型に再利用する道が残されている。
また、発電が不安定だと言われる太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる電力を、中古バッテリーに貯めておけば十分使えるのである。日産自動車は、リーフ発売前にフォーアールエナジー社を設立し、今年4月にEVの中古バッテリーの再利用を事業化した。それは電力消費の平準化にも活用でき、万一の災害等に備えたバックアップ電源にもなる。
水素にして貯めておき、そこから再び燃料電池で発電する意味がどこにあるのだろう。
FCVに疑問を抱き始めた
このように見ていくと、70MPaという高圧水素タンクを搭載したFCVを普及させる意味はほとんど感じられない。
とはいえ、燃料電池の技術が不要だというわけではない。クルマなどの移動体ではなく、定置型として、家庭用や工場、事務所などの電力供給やバックアップとして使うことは有意義だろう。都市ガスの天然ガスには水素が含まれる。これを分解して水素を取り出し、燃料電池で発電すれば、ガスと電気の両方に役立つ。
定置型であれば、70MPaという途方もない高圧タンクへ水素を充填する必要もない。高圧化と冷却の過程でCO2の排出を増やす懸念もない。「エネファーム」と呼ばれる燃料電池を使ったコージェネレーションの商品がすでにある。クルマに利用することで矛盾が生じる点を理解する必要がある。
日産は2016年に、既存のFCVと異なる燃料電池方式の、固体酸化物型燃料電池(SOFC)の構想を発表した。これは、バイオエタノールから水素を取り出し、別方式の燃料電池で発電する方式だ。これであれば、高圧水素タンクを搭載する必要がない。従来のFCVに疑問を抱いた日産が、新たな道を探り始めたと解釈することもできる。しかし、それも、まだ量産市販への見通しが立たないということであろう。実際、FCVの研究開発をやめたわけではないと、日産は言う。
政府は水素社会の実現を目指している。だが、従来型のFCVの普及が困難な状況を理解したい。行政や民間企業だけでなく、消費者もこうした点を認識し、CO2の排出を削減する環境づくりへ向かうべきではないだろうか。
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180706-OYT8T50008.html
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民128掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民128掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。