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安倍首相「消費税10%宣言」は経済的負け組への第一歩かもしれない あるエコノミストの雑感
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58042
2018.10.18 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
「可能性はゼロではない」が
10月15日に安倍首相は来年10月に消費税率を予定通り現行の8%から10%へ引き上げることを表明した。
同日夜に行われた記者会見で安倍首相は、消費税率引き上げによる消費の落ち込みを軽減させるための措置として各種の軽減税率や自動車、及び住宅取得に係る減税措置の導入などを盛り込む方針であることにも言及した。さらにこれに加え、「国土強靭化」のための公共投資拡大の方針にも言及した。
この「消費税率引き上げ実施宣言」は、従来のアベノミクス支持者からの強い批判を浴びているようだ。なかには、来年の消費税率引き上げによって再デフレが確定的との悲観的な見方も台頭しつつある。
ところで、その後の菅官房長官による記者会見における「消費税率引き上げはリーマンショック級の経済危機が起こらない限り実施する」との発言を受けて、従来、「安倍首相は消費税率引き上げを見送る可能性がある」と予想していた識者が、「今回も消費税率引き上げが凍結される可能性はまだゼロではない」とコメントしているのをみかけた。
どういう風にコメントするかは自由だが、今回の件に関して「可能性はゼロではない」という発言ほどあいまいで無責任なものはないと思う。
識者にとっては、この「可能性はゼロではない」という発言は、万が一、リーマンショック級の経済危機が到来し、安倍首相が消費税率引き上げを見送った場合には、「見通しが的中した」というアピールにもなるし、消費税率引き上げが予定通り実施された場合には、「実施される可能性が高かったことはわかっていた」ということで、これまた「予想通りになった」とアピールすることができる。すなわち、発言に対する好都合なリスクヘッジに過ぎない。
識者のコメントは、ユーザー側の消費者や事業者にとっては、意思決定をする際の参考にすることが本来の目的であろう。今回の消費税率引き上げについても、消費者や事業者が来年10月からの消費税率引き上げをどの程度見込むかで今後の行動が大きく変わってくる。
自動車や住宅などの高額消費を控えている消費者はその購入のタイミングを変えるかどうかの検討をする必要があるし、事業者は、消費税率引き上げによる需要変動の見通しから、店舗展開や価格設定などを変える必要が生じてくる。
この際、「可能性がゼロではない」という類の発言は、その消費者、事業者の意思決定に何の役にも立たないばかりではなく、その識者を「信奉」する人にとっては意思決定を攪乱させることになりかねない。
そういう筆者もかつて、話題は全く異なるが、会社で同様のコメントをしたことがある。その際、トレーダーから、「『可能性はゼロではない』とか言われても投資戦略立てようがないんだよ。そんなコメントは不必要なだけではなくかえって邪魔だ」と言われたことがあり、考えてみれば全くその通りだと納得したことを思い出したのであえてここで言及してみた。
今回の安倍首相による「宣言」も、1年前に消費税率引き上げの方針を国民に伝達することで、消費者、及び事業者に一定の準備期間を与えることを目的としたものであろう。よって、その後、仮に消費税率引き上げが実施されない事態が生じたとしても、それは一種の「テールリスク」であることを意味しており、自然災害と同様、予測して的中したかどうかを競うのはナンセンスであるということだろう。
財政出動を行う用意はあるか
ところで、筆者の消費税率引き上げに関する見方はすでに過去の当コラムで言及した通りであるが、今回の安倍首相の記者会見で残念だったのは、軽減税率や公共投資などの一連の措置が、あくまでも「消費税率引き上げによる経済の悪影響を平準化する措置である」とされていた点である。
筆者は、今回の消費税率引き上げが実施されたとして、その悪影響は、「今後も増税は止まらないと家計が考えて行動すること(消費を抑制する代わりに貯蓄性向を高めることにつながる)」にあると考えているので、できれば、安倍首相には、「この残された1年間は、政府は全力でデフレ脱却に向けて政策を総動員する」ということにコミットして欲しかった。
今回の記者会見では、来年10月からの消費税率引き上げで生じうる消費の落ち込みを来年以降の2年間の財政措置によって「埋める」ことが示されたが、これは消費にとっては逆効果かもしれない。このような時限的な財政措置は、その後の増税措置によってファイナンスされると考えるのが普通であろう(逆に、そうでなければ、財政措置の分は消費税率引き下げで対応すれば事足りる)。
もし、そうであれば、家計は将来のより厳しい増税を予想することになるので、可処分所得がそこそこ増加しつつ、貯蓄率の上昇によって消費が思うように伸びない現状を勘案すると、消費は落ち込む可能性があると考える(いわゆる「リカーディアン的な財政レジーム」)。
さらにいえば、多くの論者が来年10月の消費税率引き上げによって消費が「追加的に」落ち込むリスクばかりを気にしているが、前回(2014年4月)の消費税率引き上げによる消費の落ち込み分を埋め合わせねば、デフレ脱却は実現しないという点が重要である。
つまり、もし仮に財政措置が功を奏して来年10月の消費税率引き上げ後に現在対比で消費がそれほど落ち込まなかったとしても、デフレ脱却は実現しないということである。
デフレ脱却(これが増税するにしても財政再建が成功する必要条件であると考えるが)のためには、平準化措置以上の財政支出が必要となる。もし、今回の措置とは別に、デフレ脱却のための財政出動を行う用意があるのであれば、タイミングをみて、デフレ脱却にコミットした財政政策の実現を期待したいところである。
その意味では、せっかく6月5日の経済財政諮問会議で、プライマリーバランス黒字化の目標を5年間先送りしたのだから、「逐次投入型」の小規模財政支出を繰り返すのではなく、「リカーディアン的な財政レジーム」を転換させるような大規模財政出動をやっていただきたいものだ。
日本経済はまだ楽観視できない
もう一つ気になるのが、比較的楽観的な見通し(つまり、来年の消費税率引き上げの影響の平準化措置しか考えていない)の中で消費税率引き上げを考えているのではないかという印象が強いことだ。そして、その背景として、雇用の改善を過大評価しているのではないかということである。
確かに、雇用環境の著しい改善はアベノミクスの最大の成果であることは否定すべくもない。だが、雇用関連指標の多くは他のマクロ経済指標の動きと明らかに矛盾する。さらにいえば、2014年4月の消費税率引き上げ後も雇用環境は全く悪化することはなく、むしろ、改善が加速した。
したがって、雇用が現行のペースで改善し続けて、しかも今後は賃金の上昇も見込めるというのであれば、消費税率引き上げの悪影響は相殺される可能性が高いという話になっても特に不思議ではない。
しかも、完全失業率2.5%という状況はインフレ率上昇間近であるということであれば、消費税率引き上げのタイミングとしては1989年4月と同じような経済環境ということにもなりかねず、逆に消費税率引き上げを正当化する根拠になってしまう。
筆者の実感も含めて考えると、他の経済指標と非整合的な雇用の改善は、日本企業特有の横並び体質も影響しているように思われる。すなわち、必ずしも人手不足でない企業や業界でも他企業や他業界で雇用が加速度的に活発になると「うちも負けていられない」と雇用確保に走るという側面があると思われる。
さらにこれに拍車をかけているのが「働き方改革」である。筆者のような労働スタイルであれば、「働き方改革」は別に驚くべきことではないが、管理職前の中堅社員の多くは、ある程度の残業代込みで生活費を見込んでいる側面が強かった。
これが「働き改革」による残業時間減少によって、残業代が減少する動きが浸透しつつあるようだ。企業にとってはその分、新卒者等の初任給を増やして雇用を確保する余地が生まれたのだが、現局面と同様の「人手不足」で完全に売り手市場であった「バブル世代」がその後の景気悪化によって、多くの「余剰人員」を生み出しリストラ対象となったように、現在の雇用環境は、何らかのきっかけで急激に変化するリスクがある。
現在の雇用環境を「常態」とみなして、消費税率引き上げ後の日本経済を楽観視するのは非常に危険ではないかと筆者は考える。
* * *
既に財政拡張に路線変更した米国やカナダに加え、ここにきて、緊縮財政による財政再建を目指していたイギリスやフランスで減税や財政支出拡大の動きがある。
また、相変わらず緊縮財政路線を堅持するばかりか、景気低迷に苦しむイタリアの財政出動に反対するドイツでは、長期政権を築いてきたメルケル首相の与党が地方選挙(バイエルン州)で大敗を喫した。これまでユーロ圏の中では数少ない堅調な景気を維持してきたドイツも、最近は景気減速傾向を強めている。
量的緩和を停止させ、金融政策も緩和から中立へ舵を切りつつあるECB(欧州中央銀行)の金融政策スタンスも含め、経済の「負け組」になりつつあるユーロ圏と、日本が歩調を合わせているようで気がかりである。
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