最終的には、非効率な社会保障や、低い労働生産性が改善しなければどう分配しようが、金融財政政策をいじろうが、国民全体の実質生活水準は上がらない BIを否定する必要もないし、それなりのメリットもあるが、
BIに過剰な期待をしてもムダということだ https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZZO3462333027082018000000?channel=DF040620184168 ベーシックインカムが現実的でない2つの根拠 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生 2018/9/12
日本の政治は、東京一極集中を食い止められずにいる 国民全員に、衣食住に必要な生計費を支給する制度であるベーシックインカム(BI)は実現可能か。前回はざっと歴史を振り返り、なかなかうまくいかなかったものが、フリードマンの「負の所得税方式」なら、何となくうまくいきそうだ、というところまで解説した。 フリードマンの「負の所得税方式」は本当に有効か 今回のこの仕組みを詳細に検証することにしていこう。 原田泰氏が2015年に上梓した「ベーシック・インカム〜国家は貧困問題を解決できるのか〜」(中公新書)では、フリードマン方式を用いて日本でBIを実施するためのスキームが事細かに示されている。 その中身は以下の通りとなる。まず、支給額は月7万円(年84万円)とし、これを全成人に支給(20歳未満は月3万円)することとする。この金額水準は、老齢基礎年金(満額で月額6.6万円)を念頭に置いている。ここまでで、日本全体では、年間総額96兆円の規模となる。 さて、この財源をどう見繕うか。 まずは、所得税だが、こちらは「一律30%の税率」に一本化する。そのうえで、給与所得控除や配偶者控除、扶養者控除など様々な「控除」を廃止する。これで徴税作業は大幅に簡素化される。 そして、企業の人的経費に対して一律30%徴収する仕組みとする。現在、雇用者所得と自営業の混合所得の総計は257.7兆円ほどあるので、その3割だと、77兆円超の税収となる。この大胆な構造変革により、徴税の網羅性は高まり、しかも実際の税務作業はスリムダウンされる。 ちなみに、77兆円という税額は、現状の所得税(書中データ)13.9兆円よりも63兆円超もの税収増となる。これで、96兆円のBI総額の3分の2近くが捻出できてしまった。あとは33兆円ほどだ。原田氏はそれを以下のように工面できるという。 財源は確保できるように見えるが まず、BIで直接的に代替できる行政サービス。 ・基礎年金の国庫負担 ・子ども手当 ・雇用保険(失業給付) ・生活保護(医療費を除く) この額が合計21.8兆円もあるので廃止によりBIに向ける。これで残りは11兆円強となる。 続いて、失業対策のために行っている公共事業なども削減できる。公共事業費は国と地方を合わせると(国民経済計算上の公的資本形成で)21兆円。この4分の1が失業対策的なものと想定して、BI導入時に廃止する。その額5兆円。 同様に、地方自治体の民生費は生活保護を除いても18.4兆円もある。この3分の1もBIで代替できるとして6兆円が浮く。 これで原田型BIの財源は賄えるのだが、さらに、固定資産税の減額・控除を廃止して、米国並み税率にする。これにより5兆円の予備財源が確保可能となる。 とここまでで、ゆうに財源的にはカバーが可能という。 経済官僚出身の同氏は、他の雰囲気論のBIとは異なり、かなり精緻に数字ととらえている。 たとえば、多くのBI論者は、「生活保護が肥大している」「こうした行政サービスが削減できる」と粗い論議をする。がこれは間違いだ。生活保護はあらゆる給付を含めても4兆円しかなく、しかもそのうち半分以上が医療費であり、生計費関連は1.6兆円程度と桁違いに小さい。96兆円規模のBI導入で代替できるのはたったこれだけなのだ。 対して原田氏は書中でBIで代替できる生活保護の規模を1.9兆円(これには、葬儀関連などの生計費以外が含まれているため若干数字は大きいが)と見積もり、ことさら大きくその意義を強調などしていない。 こんな感じで数字の裏付けをきっちりとっているところが、他のBI論者とは明らかに一線を画す。 労働忌避も避けられる? 一方で、「お金を配ることによって、働かない人が現れるのではないか」というBIへの根本的な批判に対しても、氏が主張する「所得税率30%」方式で対応が可能、と反論する。いわく、現行の生活保護方式であれば、所得の増加に対して生保の支給停止が起きる。いわば、労働所得に対して100%の徴税と同じ状況なのだが、原田方式なら3割しか徴税されなず、7割が所得として手元に残る。だから、この方式の方が現行よりもアクティベーション(労働誘導)に優れている、という。 そして、働かなくてもお金をもらえることによる「労働離れ」の危惧に対しては、税率と労働時間の弾性値から計算して、社会に大きなインパクトを与えるほどの労働時間減少は起きない、という試算も示している。 ここまで論理と数字で攻められると、原田=フリードマン型BIは完璧で隙が無いものに見えてしまうだろう。さて、それが本当に問題がないのか否かを考える前に、そもそも原田氏やフリードマンはなぜ、こんな形のBI制度を主張するのか、その背景に触れておきたい。 筆者の近著『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス) 背景には、市場の機能を高めるべきとの考え方
原田氏もフリードマンも、経済学の世界では「シカゴ学派」と目される人たちだ。彼らシカゴ学派の考え方を単純化して示すならば、「経済活動は市場に任せるべき」というものになる。余計なことを政府がするから経済の活性化が削がれるのであり、政府は規制緩和を進め、市場の機能を高めることに専念すべし、という。 だから、新市場主義もしくは市場万能主義とも呼ばれる(なみに、シカゴ学派の考え方をライフスタイルにまで組み込んだ人たちを俗にリバタリアンという)。 当然、シカゴ学派は、細々としたミクロ経済政策を嫌う。そうした施策を張り巡らせることで、たとえば利権や無駄が発生し、それが市場機能を弱め、富の偏在を生む原因になる。だから政策とは、ミクロではなくマクロで行うべきだ、と考える。 書中で原田氏は大規模なバラマキこそマクロ政策の本意とし、「広く薄く配るのがバラマキ」を推奨している。対して、個別的に大金を投入する裁量行政を最悪視し、その例として農業振興を上げている。いわく、様々な農業振興策として2.3兆円を積み上げ、それでも国際価格と比して1.8兆円も高い農産物を国民は購入させられ、それでいて農業総生産は4.9兆円にしかなっていない。 つまり、国民負担4.1兆円に対して生産規模4.9兆円というとんでもない非効率な市場を作り上げている、というのだ。それならば、その国民負担をすべて農家に補助金として、生産額に応じて「バラマキ」すれば、今以上の効率的な農業ができ、同時の行政サービスも軽減できる。絶対その方が効率的だ、という。 東京一極集中を食い止められない現実 こうした政府の裁量的施策を嫌うリバタリアンの論調が分からないわけではない。たとえば、原田氏が排すべきとした「所得控除」は税の逆進性(富裕層の有利さ)や徴税手続きの複雑さ、など今でも問題を指摘する識者は多い。 また、失業対策や民生などのためにやっている中小企業対策や地域振興策には、首をかしげる類のものも多い。たとえば、UIターンや地域創生などは、第二次全国総合開発計画より40年以上も歴史があるが、それでいて世界的に類を見ない東京一極集中を招いている。 例を挙げておこう。年間10億ドル以上の収益がある大企業の本社数では、東京が613と他を圧倒し、2位のニューヨーク(217)の三倍近い数字。東京と比べて旗色の悪い大阪でさえ174でなんと世界第4位に入る。こうした大企業の収益合計額で見ても東京5231億ドルで2位のパリ(2785億円)の2倍にもなり、大阪もやはり8位にランクインする。いかに、地域創生やUIターンなど政府施策でうまくいかなかったか、が見て取れる。 地元サービスが機能しているか疑問も 一方で、地方の民生費からは、高齢者に「マッサージ補助券」を支給している例や、結婚相談、街バル(飲み歩き)補助などなど、本当に必要なのかと思われる事業がいくらでもあげられる。そしてその多くが、議員や首長の手柄話として人気取りに使われてもいる。さらに言えば、そんな「地元サービス」を百出させたがために、住民の公共への要望は高まり、日本の公務員はその数に比して大量なる業務をこなさねばならないという、世界一忙しいパブリック・サーバントと化している。 つまり細々とした政策は、利権と無駄に直結するから百害あって一利なし、という原田氏の主張もある面、納得できるところではある。 こんな感じでお偉い識者のありがたきご託宣により、BIは天下の正道とも思われがちな今日この頃ではあるのだが、現実的にはここまで合理的に見えた原田型のBIでさえ全く成り立ちはしない。 その理由について、「行政サービス」と「税負担」の二つの側面から、見ていくことにしたい。 海老原 嗣生(えびはら・つぐお) 1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。 https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZZO3462333027082018000000?channel=DF040620184168&page=3
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZZO3462346027082018000000?channel=DF040620184168 ベーシックインカムによって「超増税」社会が来る?! 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生 2018/9/26
ベーシックインカムによって、誰が得をして、誰が損をするのか すべての人に、衣食住に必要な生計費を国が支給するベーシックインカム(BI)は実現可能だと、原田泰氏は「ベーシック・インカム〜国家は貧困問題を解決できるのか〜」(中公新書)にて説いた。 支給額を月13万円に増やすと、行政サービスは縮小できない 結果、人々は貧困や苦役から解放され、また、不要な行政サービスは廃止でき、国家運営もスムーズになるという。 が、氏の示す月額7万円のBIでは、とてもとても生活保護・年金・失業給付などは代替できず、追加支給のために二重行政となることを示した。そうした行政サービスを代替するためには、月額13万円にBIは増額する必要があり、その場合の予算規模は約200兆円、所得税率は80%(等価調整後でも50%)にもなる。つまり、「行政サービス縮小」とうい謳い文句はまるで成り立たないという第一の破綻点を前回書いた。 誰が得をして、誰が損をするのか 今回は負担と利益のバランスについての問題を考えていこう。 いったい、原田型BIでは誰が得をし、誰が損をするのか、ということだ。 まず、月額7万円という中途半端なBI額について、原田氏は、著書の中でこう書いている。 「日本の生活保護は、審査が厳しすぎる。だから支給対象者が少ない。一方で、支給されている人の額は高い。もっと、審査は緩く、広く浅く支給すべきだ」。だから月7万円を国民全員に、という話になる。 そして貧困者の代表として非正規雇用者を上げ、彼らの生活底上げをすべしと以下のように言う。 「すでに日本では労働者の4割が非正規となっている。これが格差の原因である。彼らにしっかりサポートするためには、BI的な施策が必要だ」 この両方とも、現実からとは大きく異なる。 まず、生活保護の実態について世界を見渡してみよう。原田氏のいう通り、日本の公的扶助は支給者ベースでみると給付水準が高い。ただし支給者の数が少ない。ここまでは正しい。 ただ、もう一つ特徴がある。「日本は総額予算が少ない」のだ。対GDP比でみるとOECDの最下位群に位置している。この3つ目の特徴を「捨象」した結論が原田式BIだ。どういうことか説明しておこう。 他国でも日本同様に「労働困難な人」には高額な扶助が行われている。ただし、裾野が広く、「ある程度は労働が可能な人」にまで他国では扶助がなされる。結果、他国は扶助総額の予算が増え、また、扶助されている人一人当たりの支給額が下がる。 もし、他国に合わせるのであれば、日本も扶助予算を増やし、「より広く」支給することが必要なのだ。いうならば、現状で高額を支給されている「労働困難な人」の給付を維持しながら、BIを月7万支給するという方向を考えねばならない。つまり、BIで現行制度を代替するのではなく、BIは追加的な施策とすべきだ。 非正規の多くは主婦・高齢者・学生 続いて非正規の待遇底上げについてだ。こちらは、雇用データを子細に見る必要がある。 現状、雇用者の4割にまで迫る非正規だが、その内訳がどうなっているか? まず、圧倒的に多いのが、主婦のパート、バイトとなる。これは2009年の労働力調査に既婚・未婚・性別の分類表があるので、その当時の数字を出しておく。 2009年当時、すでに1756万人も非正規はいたが、その半数以上となる900万人が主婦だった。続いて高齢者が多いが、その中には主婦が重複するので、年齢別既婚率から女性既婚者を差し引くと、おおよそ250万人が60歳以上の高齢者(主婦を除く)となる。次に多いのが学生でその数が120万人。ここまでで、1270万人で残りは500万人を切る。 要は、非正規といってもその多くは、主婦・高齢者・学生なのだ。彼らの多くは、配偶者や親権者の収入や年金など主たる世帯収入があり、また、その他支援策も受けている。 たとえば、多くの主婦は、世帯ベースで配偶者控除・配偶者特別控除を受けており、さらに本人には社会保険免除(3号保険)の特典もある。学生も扶養家族控除や年金免除・猶予、健康保険は世帯主負担となっている。果たして彼らにBIで「生活底上げ」が必要か? 一方、高齢者の非正規に関しては、BIが基礎年金と相殺されてしまう。だから原田型BIでは全く底上げとならない。 主婦・高齢者・学生以外の非正規500万人弱の中には、障害や母子家庭、生活保護など別の給付を受けている人も少なからずいる。そうした人たちの「現状の給付」をなくし、BIを支給することで本当に生活の底上げが可能か? また、事務職の女子など両親と同居している非正規労働者も多いだろう。彼らにもBIが必要か? 本当に生活底上げが必要な人口は200万〜300万人 彼らを除いて、本当に生活底上げが必要なのに今は支援がされていないのは200万〜300万人程度は存在するだろう。何らかの事情で正社員になれず、生計維持が厳しい人たちだ。 彼らに的を絞るならば、支援策ももっと手厚くできる。こうした無駄がBIの根本的問題であり、そしてシカゴ学派やリバタリアンの欠陥的行動様式だと指摘しておきたい。 精査して本当に必要な人に絞れば、手厚い支援が行える。それを生半可な概観把握により適当にばらまけば、不要な人に超過サービスとなるだけなのだ。 筆者の近著『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス) 中間所得者には増税
結局、原田型BIでは誰が得をするのだろうか? 現在、年収0の人は84万円ももらえるようになる。ただし、年収0のうち、何かしら問題を抱えて就労困難な人は現在でも生活保護や年金などが支給されている。その額とBIとではマイナスになる可能性が高い。 現在、社会的支援が薄い人たちは純粋にBI額がプラスとなる。たとえば主婦、引きこもり者などは得をするだろう。 一方、フルタイムで働く低所得者はどうだろうか? 原田型BIでは、各種控除が撤廃され、年額84万円のBIが支給される代わりに、労働報酬については一律3割の新所得税が徴収される。年収200万円の人は、BIと所得税の差分は24万円、年収250万円だと9万円しかない。 年収280万円の人は、BIと新所得税が相殺されて支給額は0となり、そこから増収すれば税金を徴収されるようになる。単身者で考えると、300万円を超えたあたりから、現状よりも増税となっていく。 年収500万円の単身者では年間で50万円程度の損となり、700万円では100万円を超える。 中間所得者にとっては大幅な増税であり、専業主婦は得をする。これでは「女性は家庭に入れ!」という流れが強化され、少子化社会での労働欠損が助長されるだろう。 さらに、高額所得者にはこの税制下では大幅な減税ともなる。 現在、年収4000万円超の限界税率は45%。年収1800万円超でも限界税率は40%だ。それ以上の収入でも原田型BIでは所得税は30%ですみ、彼らにも彼らの世帯構成員にも年額84万円ものBIが支給される。こんなおかしな制度を日銀副総裁たる人が主張しているのは全く理解に苦しむばかりだ。 原田型BIは、労働報酬に網羅的に30%の所得税をかける、という言葉でまやかしをしているが、その正体は以下の通りだ。 ■所得税の規模を13.9兆円から77兆円へと、63兆円も増税する。 ■その税負担を中間所得層に強いる。 ■一方で高所得者の負担は軽減する。 結局、日本の財政を成り立たせるには、大幅な増税をし、そのうえで、行政サービスをスリム化するしかない。ただ、増税は、高額所得者からいくら搾り取っても、その人数自体が少ないために、税額はあまり上がらない。一番効果的なのは、ボリュームゾーンである中間層の税率を上げることだ。ただ、彼らは人数が多いだけに、選挙の票数に直結する。だから、政治家が彼らに高負担を強いることは難しい。 狙いは超増税・サービス低減? こんな中で、どの国も負担感が少ない消費税という形で時間をかけて少しずつ税率を上げてきたのだ。ただ、63兆円を増税ともなると、消費税換算で25%ものアップになる。そんなことはとてもできやしない。 ところがBIという目くらましを使うと、一挙に63兆円もの増税ができる。それも苦戦していた中間層の負担増が、あっけなく成し遂げられる。と同時に、行政サービスも再編しながら、民生や公共事業を大幅に減らし、その上、固定資産税の増税までも成し遂げられる。 それが原田方式の本意ではないか。超増税・サービス低減を知らないうちに実現するだけの話ではないか。 そして、その63兆円は必要もない人たちにばらまかれる。今実現可能といわれるBIとはその程度のものでしかない。 海老原 嗣生(えびはら・つぐお) 1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。
[18初期非表示理由]:担当:要点がまとまってない長文orスレ違いの長文多数により全部処理
|