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(回答先: 米中、通商対立の中で各国の支持取り付け目指す−IMF・世銀総会 中国を操作国に認定なら世界の市場さらに混乱へ、為替報告 投稿者 うまき 日時 2018 年 10 月 11 日 23:30:44)
政府が打ち出す「生涯現役社会」の破壊度
働き方の未来
「日本型雇用制度」は終焉へ
2018年10月12日(金)
磯山 友幸
「生涯現役社会」に向けて、シニア層に対する期待は高まる一方(写真:PIXTA)
労働人口の確保が経済成長の焦点
安倍晋三首相の自民党総裁としての3期目がスタートし、内閣改造を経て第4次安倍改造内閣が発足した。2012年末に政権を奪還して第2次安倍内閣が発足して6年。アベノミクスは一定の効果を収め、就業者数も雇用者数も過去最高を更新している。果たして安倍首相はアベノミクスの次のステップとして何を行おうとしているのか。
首相就任後の2013年に打ち出したアベノミクスの第1弾は「3本の矢」だった。(1)大胆な金融緩和、(2)機動的な財政出動、(3)民間需要を喚起する成長戦略――を掲げ、日銀による「異次元緩和」などが行われた。円高だった為替水準が是正された結果、輸出産業を中心に企業業績が大幅に改善、過去最高の利益を上げるに至っている。また、震災復興や国土強靭化を旗印に公共投資も積極化し、建設需要を底上げした。3本目の矢である「成長戦略」については、「遅々として進まない」「期待外れ」といった厳しい評価が聞こえるものの、農業や医療など「岩盤規制」と呼ばれた分野で、曲がりなりにも改革が動き出している。
2016年に自民党総裁2期目に入ると、アベノミクスの第2弾を打ち出した。「一億総活躍社会」を旗印に、女性活躍促進や高齢者雇用の拡大などを目指した。「働き方改革」が内閣の最大のチャレンジと位置付けられた。
65歳以上で働いている高齢者が800万人を突破、女性15歳から65歳未満の「就業率」も遂に70%に乗せた。働き方改革の議論では、電通の新入社員の自殺が労災認定された時期と重なったこともあり、「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」に議論の中心が置かれた。
労働基準法などの改正で、繁忙期の特例でも残業時間を最長で「月100時間未満」とすることが罰則付きで決まるなど、労働者側にとっても画期的な法改正が実現した。これまでは残業時間の上限は労使交渉で合意(サブロク協定)すれば実質的に青天井だった。
働き方改革の本来の目的は「生産性」の向上にあったが、結果的には女性や高齢者など労働力を増やすことで経済成長につながる構図になった。今後、人手不足が深刻化していく中で、どうやって労働人口を確保していくのかが焦点になっている。
そんな中で、安倍総裁の3期目がスタートした。さっそく首相が議長を務める「未来投資会議」が10月5日に開かれ、2019年から3年間の「成長戦略」について議論された。
今後の論点は「全世代型社会保障」
会議に資料として提出された内閣官房日本経済再生総合事務局の「成長戦略の方向性(案)」では、こうした問題意識がつづられている。資料にはこうある。
「潜在成長率は、労働力人口の高まり等により改善し、また、労働生産性は過去最高を記録しているものの、労働生産性の引上げが持続的な経済成長の実現に向けた最重要」であるとし、(1)AI(人工知能)やロボットの活用による一人ひとりが生み出す付加価値の引き上げ、(2)新陳代謝を含め資源の柔軟な移動を促し、労働生産性を引き上げる、(3)地域に生活基盤産業を残すための地方支援――に力を入れるとした。そのうえで、「アベノミクスの原点に立ち返り、第3の柱である成長戦略の重点分野における具体化を図る」としている。
こうした方向性を確認したうえで、今後の論点として、「全世代型社会保障への改革」というキャッチフレーズを打ち出した。安倍首相も会見で、「安倍内閣の最大のチャレンジである全世代型社会保障への改革」という言い方をしており、「3本の矢」「1億総活躍社会」「働き方改革」に続く、表看板になりそうだ。
もっとも、全世代型社会保障という言葉は分かりにくい。いったい何をやろうとしているのか。
同会議に世耕弘成経済産業相が出した「生涯現役社会の実現に向けた雇用・社会保障の一体改革」という資料が分かりやすい。現在、安倍官邸の経済政策は経産省からの出向者などが中心となってまとめており、世耕氏のペーパーももちろん連動している。
「生涯現役時代に対応した社会保障制度改革」と「生涯現役時代に対応した雇用制度改革」を並列に並べて、同時に実現していくとしている。
社会保障改革の柱は「年金改革」と「予防・健康づくり支援」、一方の雇用制度改革は「高齢者雇用の促進」と「中途採用の拡大」だ。つまり、高齢者にいつまでも働いてもらえる雇用制度を整備することで、社会保障制度が抱える年金や健康保険の財政問題を解消していこうというわけだ。
高齢者雇用の促進では何を考えているのか。経産相の資料には、4つが列記されている。
65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けた検討
高齢者未採用企業への雇用拡大策
AI・ロボット等も用いた職場環境整備
介護助手制度の利用拡大
最も大きいのが継続雇用年齢の引き上げであることは言うまでもない。現在、高年齢者雇用安定法で、定年を迎えても希望すれば65歳まで働ける制度の導入が企業に義務付けられている。定年を65歳まで引き上げたり、定年自体を廃止する選択肢もあるが、多くの企業が定年になった段階で雇用条件を見直して嘱託などとして再雇用する「継続雇用制度」を利用している。希望者全員を継続雇用する義務があるが、条件が合わずに本人が希望しなければ雇用しなくてもよい。
安倍内閣は来年以降の「成長戦略」の一環として、この65歳という年齢を引き上げようと考えているのだ。政府内には65歳定年引き上げを義務付けたうえで、70歳までの継続雇用とすべきだという意見がある一方で、単純に継続雇用の年齢を65歳までから70歳までにすべきという意見もある。
世耕氏の資料ではこれと対をなす「年金改革」として、次の2つを掲げている。
年金受給開始年齢の柔軟化
繰下げの選択による年金充実メリットの見える化
つまり、年金受給開始を選択制にして、65歳になったらすぐにもらうのではなく、働けなくなってからもらうようにする。一方で受給する年齢を先延ばしすれば、その分メリットがあることを分かりやすく見せる、というわけだ。
「新卒で企業に入れば一生安泰」は幻想
現在、年金の支給開始年齢は徐々に65歳に引き上げられている。継続雇用制度が65歳まで義務付けられたのは、定年退職しても年金が受け取れず「無収入」になる人を無くそうとしたからだ。将来、政府は年金支給開始を70歳にしたいと考えれば、当然、継続雇用制度の年齢を引き上げなければ「無収入」者が生まれる。
もうひとつは、生涯現役で働くことによって、健康を維持し、社会保障のもう一つの頭痛の種である医療費の増加に歯止めをかけることを狙っている。世耕ペーパーにはこうある。
がん検診等の通知に個々人の健康リスクを見える化し、健診受診率を向上
健康スコアリングレポートにより従業員の健康状態を見える化し、経営者の予防・健康づくりを促進
投資家による健康経営へのシグナル(健康経営銘柄への投資を促進)
保険者による生活習慣病や認知症予防のインセンティブ強化
保険者によるヘルスケアポイント導入を促進し、ウェアラブル端末等を活用した個人の予防・健康づくりを支援
厚生労働省の施策のようだが、経産相の資料である。年間42兆円を突破した医療費を抑制しなければ、財政はますますひっ迫する。
一方で、高齢者を雇用し続けることを企業に義務付けると、企業自身の生産性が落ちることになりかねない。高齢者が企業に居座ることで、若年者の活躍の場が奪われることになりかねないからだ。
それを防ぐには、日本型の終身雇用年功序列を抜本的に見直さざるをえなくなる。「中途採用の拡大」の中にも、「職務の明確化とそれに基づく公正な評価・報酬制度の導入拡大」あるいは、「40歳でのセカンドキャリア構築支援」といった施策が並ぶ。
会議で安倍首相もこう述べている。
「あわせて新卒一括採用の見直しや中途採用の拡大、労働移動の円滑化といった雇用制度の改革について検討を開始します」
中西宏明・経団連会長が「就職活動指針」の廃止を打ち出したが、新卒で企業に入れば一生安泰、という制度を維持することはもはや難しくなっている。厳しいようだが、生産性の上がらない社員を抱え続ける余力が企業になくなり、優秀な社員には国際水準並みの高給を払わないと逃げられてしまう時代に突入しつつある。
安倍首相は早くから規制を阻害している「岩盤」として、農業、医療、雇用制度を挙げて批判してきたが、いよいよ3期目で最大の岩盤ともいえる「日本型雇用制度」に手を付けることになるのだろう。人々の生活に結びついており、既得権を持つ層も少なくないだけに、議論が本格化してくれば、批判の声が上がるに違いない。2019年6月にも閣議決定する成長戦略「未来投資戦略」の中にどれだけ具体的な指針として盛り込み、3年間の行動計画として描けるかが焦点になる。
このコラムについて
働き方の未来
人口減少社会の中で、新しい働き方の模索が続いている。政官民の識者やジャーナリストが、2035年を見据えた「働き方改革」を提言する。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/101100078
老農林族は女子高生をどう激励したか
思いは今も「世界に通用する農業」
ニッポン農業生き残りのヒント
2018年10月12日(金)
吉田 忠則
数年前、ある研究機関のチームから「農業問題で相談したいことがある」という連絡があった。「コメの関税を撤廃すべきだというリポートを書きたい」。そのために知恵を貸して欲しいというのが相談の趣旨だった。
今のように高関税でコメを守ることの是非については、議論の余地が十分あるだろう。手厚い保護は、えてして産業をかえって弱体化する。農業はその象徴かもしれない。だが、いきなり「ゼロ」にすることにどんなリアリティーがあるのか。多くの国は、何らかの形で農産物を守っている。
「自ら進んで自国の弱い産業を国際競争にさらす国があるだろうか」。そんな疑問を口にすると、「この問題は経済学的にはとっくに決着がついている」と強い口調で否定された。おそらくは英国の経済学者、リカードの「比較優位論」が念頭にあったのだろう。各国がそれぞれ優位にある産品を作り、自由貿易を推進することで経済的な厚生が高まる――。
そして、トランプ米大統領が登場した。アメリカが仕掛けた貿易戦争に正面から対抗し、中国は米国産の大豆に報復的な高関税をかけた。あおりを受け、値段が下がった米国の大豆が欧州に流れ込み、中国が輸入先としてシフトしたブラジル産が値上がりした。世界の穀物事情は比較優位論とは別の論理で、予想もしなかった変動に直面している。経済学的には決着したのかもしれないが、現実の経済の世界では出口の見えない混迷に突入している。
ではその傍らで、日本の農業に何が起きているか。「農業は衰退の危機にある」という警鐘は、いかにも「オオカミ少年の寓話」的に響くフレーズだ。日本はコンビニやスーパー、レストランに農産物があふれ、しかもまだ食べられるものを捨てている「飽食の国」。食料に不安を感じることはまずない。だがその背後で、国内の農地の荒廃が年々確実に進んでいる。
オオカミが本当にやって来る日はないと、誰が保証できるだろう。経済学的には「それでも自由貿易が理想」と主張すればすむのかもしれない。だが、食料の潜在的な供給力が日々減り続けるこの国の現実を考えると、いたずらに危機をあおることは戒めつつも、何らかの対処策を考えるべきだと思わざるを得ない。
日本の農業はこれからどんな針路を選べばいいのか。それを考えるためのヒントは、過去の農政の中にある。高齢農家のリタイアに応じ、担い手への農地の集約がうまく進めばいいが、実際に起きているのは、産地の弱体化に伴う「生き残り組」の競争力の向上だ。その狭間で、耕作放棄が増え続ける。農政のどこがうまくいき、何に失敗してこうなったのか。
今回は、自民党で長く農政に関わってきた谷津義男元農相のインタビューを紹介したい。谷津氏は1986年の衆院選で初当選し、当時の竹下登幹事長の指示で「農林族」の道を歩み続けた。竹下氏から「役人に負けちゃダメだ」と諭され、欧米各国の農村を回り、知見を広めた。すでに議員の立場は退いているが、今も国内外の農業現場を回りながら発言し続けている。
過去の農政をふり返る文脈の中で、自民党の農林族は迷走の責を最も負うべき存在と思われるかもしれない。実際、谷津氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)がまだ米国主導で動いていたころ、自民党の会合で「一番いけないのは、私を含め農林族だ。二の舞いをやってはいけない」と発言した。無駄な補助金の大盤振る舞いが起きるのを防ぐためだ。このとき谷津氏が問題視したのは、ガット・ウルグアイ・ラウンドの市場開放に伴う巨額の対策費だ。
今回のインタビューでは、農林水産省が2005年に発表した「食料・農業・農村基本計画」を焦点にした。この計画は「担い手の明確化と支援の集中化・重点化」をうたい、宣言通り2年後に大規模農家に支援を集中する施策を実行した。計画の策定を主導したのは農水省と食料・農業・農村政策審議会、そして農林関係議員たちだ。
「バラマキ」との批判が多かった農政史上で、支援する農家を明確に選別する政策の導入は画期的だった。規模で切ることの是非はともかく、専業と兼業と主業と副業が混在する日本の農業の実情を整理し、不連続な未来をリスクを負って実現しようとした。だがこの施策は、すべてのコメ農家を対象にする補助金を掲げた民主党に参院選で敗北し、瓦解した。
元農相の立場で自民党農政の中心にいた谷津氏は当時、何を考え、どんなことを主張したのだろうか。群馬県館林市の自宅を訪ねた。
往時の農政論議の激しさを強調する谷津義男元農相(群馬県館林市)
自民党内でも大議論に
2005年に基本計画を作ったとき、支援する農家を規模で選別することに対して自民党内に異論はなかったのですか。
谷津:大議論になったよ。問題の根底には、世界貿易機関(WTO)の協議を背景にした自由化論議があった。WTOの協議は決裂したが、農業問題が決着する可能性があったので、そういう議論が始まった。自民党内にも、国際派と言われる議員の中には推進派がいた。
自分たちは「面積で切るのは問題だ」と言った。支援の線引きとされたのは4ヘクタールだが、当時は群馬県内にもそんな農家は何人もいなかったからだ。農家が農地を細かく相続していて、農地を貸し借りして大きくまとめようとしても、なかなかうまくいっていなかった。
2007年の参院選で民主党に負け、面積で切るやり方を変えたわけですが、事前に政治的に心配する声はあったのでしょうか。
谷津:あったよ。(農地の売買や貸借を仕切る)農業委員会からも「こんなことできるのか」という声が出ていた。いまなら5ヘクタールや10ヘクタールを借りてやっている人もいるが、当時はまだそこまで行っていなかった。いるにはいたが、まだ点。線にはなっていなかった。
農政は、地域の農家が集まって作る「集落営農組織」も、規模拡大を担うべき対象として後押ししてきました。
谷津:集団化はうまくいっていない。高齢化が進んでいるから、これからは悲劇的だよ。組織を作ったときの中心メンバーが60〜65歳だから、いまは85〜90歳。農村を守ろうということで始めたが、農家の多くは勤めに出て、健康維持のために土日に農業をやっている「父ちゃん、母ちゃん農業」。そんな人たちが農地を貸すはずがない。だから、「(規模で選別することに対して)むちゃなこと言うんじゃない」と大議論になった。
当時何が必要だったのでしょう。
谷津:あの時分、「細かい政策をからっぽにして、基本から作り直そう」と言った。農家が補助金を受けるやり方がちょこちょこたくさんあって、農家自身もよくわからなくなっていた。「だったら一回きれいに白紙にしたらどうか」ということを言ったが、農水省から「それは無理です」と言われた。
農家が(植えるだけで補助金が出る作物があるので)収穫さえしないという問題が以前からあった。その点に関しても、「駄農を作るだけで、生産性はまったく向上しない」という議論があった。ただし、オーストラリアやアメリカには生産性ではかなわないから、「品質のいいものを作れ」と言った。
農家は自分の頭で考え、例えばおいしいコメを一生懸命作る。手間がかかるから、そこにお金を出してもいいと思った。「父ちゃん、母ちゃん農業」を政策で応援することはやぶさかではないが、自分で考えて農業をやる人でないとダメだ。ただ口を開けてお金(補助金)が来るのを待っているような人はダメ。それが不得意なら、自分で考える人たちを支援する側に回ってほしい。
規模で選別することへの批判の関連で、大規模化が難しい中山間地は有機農法で野菜を作ることなどを提案していますね。
谷津:条件不利地は面積を広げることができないんだから、野菜などでおいしいものを作ったほうがいい。でも当時の議論で農協がそれに反対した。なぜかと言えば、農家はふつうにコメを作るのが一番楽だからなんだよ。野菜は手間がかかるから、なかなか作る気にならない。
「品質のいいものを作って輸出したらいい。そっちにお金を出すべきだ」という話もした。今でも思っているが、面積は狭くてもいい。1ヘクタールしかなくてもいい。農協はすぐ「野菜は2割増産されると、半値になってしまう」といったことを言う。だったら輸出すればいいんだ。できるよ。輸出できるように、農協も(食品衛生管理の国際基準)の「HACCP(ハサップ)」の認証などを取ったらいいんだよ。
新しいものにも挑戦しないとダメ
2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、農業も国際的な基準の認証を取ったほうがいいという機運が高まってきました。
谷津:一昨年、群馬県立の勢多農林高校(前橋市)に呼ばれ、講演した。「何でもかんでも覚えなくていい。これだけは人に負けないというものを持って欲しい」という話をして、その流れの中でハサップに触れた。
そうしたら今年、勢多農林は安全基準の「アジアGAP(農業生産工程管理)」の認証を取得した。一昨年はまだGAPが今ほど注目を集めていなかったからハサップと言ったが、今はGAPだね。関係者から「おかげさまで取れました」っていう連絡が入った。うれしいことだねえ。
勢多農林に行ってみて驚いたのは、女子生徒が大勢いるんだよ。衛生管理の話をしたのは、そういう面もあった。農業や畜産も大事だが、新しいものにも挑戦しないとダメだ。もし輸出を考えるなら、ハサップやGAPを取るしかない。そういう勉強をした生徒たちは、就職もしやすいだろう。
農業高校を出て農業関係の仕事に就く人はほとんどいやしない。それではダメなんだ。「作るノウハウ」はみんな持ってる。これからの農業を担う人には専門的な知識をたたき込み、どう世界の舞台で活かしていくかを考えなければならない。そうでないと、これ以上農業所得を増やすのは限界だ。
これからの農政に何を望みますか。
谷津:ガラガラポンでもう一回やり直したほうがいい。農家や土地所有のあり方などを見渡して、その中から農政を立ち上げて欲しい。付け足し、付け足しではもうダメだ。今の農業の姿を中心に考えれば、これまでのくり返しになってしまう。ガラガラポンで考えを基本から変えたほうがいい。
2005年の議論でとくに誰を思い出しますか。
谷津:審議会のメンバーだった生源寺真一先生(現福島大学教授)とは大議論になった。規模で選別することに対してはとくに中山間地を例に挙げ、「無理だ。先生それは理想論だよ」って散々やった。当時先生が勤務していた東大にも乗り込んで行って議論したし、ホテルでみんなの前でも議論した。生源寺さんは人の話を聞く耳を持っていたし、農政には一番貢献した。生源寺先生に会いてえなあ。
谷津義男元農相と議論を戦わせた生源寺真一氏
応援すべきは品質のいい農産物の作る農家
谷津氏は2005年の基本計画をふり返りながら、農家を規模で選別することには反対した。ただし、すべての農家に補助金をばらまくべきだったと主張しているわけではない。「口を開けて補助金を待っている農家」を否定し、品質のいい農産物を作る農家を応援すべきだと強調した。
10数年のときを経て、経営環境は劇的に変化した。当時、「選別」の基準にした4ヘクタールどころか、数10ヘクタールから100ヘクタール超の経営が続々と誕生している。だが、そうした経営で農地を覆い尽くし、食料の生産基盤を守るのは難しい。いま必要なのは、そこから先の議論だ。
谷津氏は取材で「大議論があった」とくり返した。農業の現状に照らして、当時の議論の成果に疑問を持つ読者がいるかもしれない。だが、最近の農政は、立場を異にする当事者同士がガチンコで議論することがあまりにも少なすぎるように思う。生源寺氏もこの連載のインタビューで同じことを強調した(8月10日「本当につかみ合って喧嘩していた、経済界と農協」)。
失われてしまった議論の焦点ははっきりしている。主要国はほぼ例外なく、自国の農業を政策で支援している。ならば、誰をどうやって応援し、日本の食料生産を担ってもらうのか。それでも守り切れない農地を、どう次代につなぐのか。「大議論」が必要なときではないだろうか。
自宅の応接間に飾ってある農相の「証し」(群馬県館林市)
【新刊紹介】
『農業崩壊 誰が日本の食を救うのか』
砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」
これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。
【小泉進次郎】「負けて勝つ」農政改革の真相
【植物工場3.0】「赤字六割の悪夢」越え、大躍進へ
【異企業参入】「お試し」の苦い教訓と成功の要件
2018年9月25日 日経BP社刊
吉田忠則(著) 定価:本体1800円+税
このコラムについて
ニッポン農業生き残りのヒント
TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加が決まり、日本の農業の将来をめぐる論議がにわかに騒がしくなってきた。高齢化と放棄地の増大でバケツの底が抜けるような崩壊の危機に直面する一方、次代を担う新しい経営者が登場し、企業も参入の機会をうかがっている。農業はこのまま衰退してしまうのか。それとも再生できるのか。リスクとチャンスをともに抱える現場を取材し、生き残りのヒントをさぐる。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/252376/100900170/?
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