バロンズ】フィデリティの価値、競合2社と比較 フィデリティが上場した場合の企業価値は外部者には見当がつかない フィデリティが上場した場合の企業価値は外部者には見当がつかない PHOTO: GLENN HARVEY By Daren Fonda and Alex Eule 2018 年 10 月 9 日 07:52 JST 更新• 極めて限定的な開示情報 フィデリティのストックピッカーはバリューを発掘すべく、各社の財務諸表を読み込みながら日々を過ごす。一方、フィデリティ自体の価値を算定することには、それよりずっと多くの臆測が絡んでくる。 同社が開示する財務情報は選択的で、上場した場合の企業価値は外部者には見当がつかない。しかし、本誌はその難問に挑戦してみた。この試みは、非上場企業であるフィデリティの市場における影響力を理解するために役立つと考えられる。 まず、フィデリティの2017年の株主年次報告書を見てみる(議決権株式の49%を創業家のジョンソン一族が掌握し、残りは従業員が保有している)。報告書には事業の進展に加え、収益、営業利益、運用資産などの指標が示されているものの、グラフや写真も含めて全29ページと、上場企業の詳細な年次報告書よりもかなり薄い。貸借対照表、キャッシュフロー計算書、損益計算書、報酬関連の数字は含まれていない。事業の成果は想像に任されている。「リスク」という言葉が出てくるのは1回、投資適格債券ファンドによる「リスク調整後の高いパフォーマンス」という文に使用されているきりだ。 • 競合のブラックロック、チャールズ・シュワブと比較 昨年のフィデリティの収益は182億ドル(前年比14%増)、営業利益は53億ドル(54%増)、運用資産は2兆4500億ドル(15%増)に達した。一方、世界最大の上場資産運用会社であるブラックロック(BLK)の2017年収益は125億ドル(12%増)、営業利益は53億ドル(13%増)、運用資産は6兆3000億ドル(22%増)だった。また、チャールズ・シュワブ(SCHW)の収益は86億ドル(15%増)、営業利益は37億ドル(22%増)、顧客資産は3兆3600億ドル(21%増)だった。 フィデリティと競合他社との比較 フィデリティと競合他社との比較 フィデリティの収益成長率は競合と同水準だったが、営業利益率は29%と、ブラックロックとシュワブの42%を大幅に下回った。また、フィデリティの資産成長率19%も競合2社を下回っている。それらは全て、より低いバリュエーションの根拠となるだろう。 しかし、フィデリティは多種多様な事業を運営しているため、単純比較は適切ではない。フィデリティの資産は、証券取引口座、確定拠出年金(401k)、および類似する口座に存在する管理資産を含めると、6兆8000億ドルに膨れ上がる。 ではそれら全ての価値は?本誌が話したバイサイドアナリストの一人は、運用資産に対する時価総額の比率による概算を提案した。シュワブの時価総額は660億ドルで、これは顧客資産総額(管理資産を含む)の2%に相当する。ブラックロックの時価総額は750億ドルと、資産の1.2%相当だ。フィデリティについては間を取って運用資産2兆4500億ドルの1.6%とすると、同社には392億ドルの価値があることとなる。しかし、これは総資産の36%にすぎず、成長している売買プラットフォームをはじめとする各種の収益源の価値を完全に反映しているとは言えないだろう。総資産をベースに計算すると、フィデリティの価値は1090億ドルと算定される。 しかしこれは過大評価に思える。トムソン・ロイターによると、フィデリティの米国籍のファンドと上場投資信託(ETF)の資産2兆4500億ドルのうち、4000億ドル近くは超低価格のパッシブ・インデックス商品で運用されている。インデックスファンドの手数料は、アクティブ運用商品の手数料よりはるかに低い。一方、その他の管理資産の4兆3500億ドル分も、サービス料金の競争圧力に直面している。 これ以上の財務情報が得られない限り、バリュエーションは臆測の域を出ないが、単純にフィデリティの営業利益に競合の倍率を適用してみよう。シュワブは18.2倍、ブラックロックは14.2倍なので、間を取って16.2倍とすると、フィデリティの市場価値は859億ドルと算出できる。ジョンソン家の持ち分49%には421億ドルの価値があることとなり、アビゲイル・ジョンソン会長兼最高経営責任者(CEO)とその一族がフィデリティを非公開のまま詮索から守りたがる理由は十分あると言えるだろう。 バロンズ】フィデリティ会長に聞く「次の波」 データによればフィデリティの事業は成功している データによればフィデリティの事業は成功している PHOTO: STEVEN WILSON By Daren Fonda 2018 年 10 月 9 日 07:52 JST 更新 • 非常に多角化された事業 フィデリティの親会社であるFMRのアビゲイル・ジョンソン会長兼最高経営責任者(CEO)は、フィデリティがゴールドマン・サックス(GS)と合併するといううわさを「絶対にあり得ない」と否定する。他の資産運用会社は合併するかもしれないが、フィデリティは単独で問題ないとジョンソン氏は述べる。 実際、データによれば事業は成功している。FMRの2017年の収益は過去最高の182億ドル(前年比約14%増)を記録した。運用資産総額は15%増の2兆5000億ドルとなった。管理資産総額(フィデリティの証券口座で同社のファンド以外に投資されている金額を含む)は19%増の6兆8000億ドルで、米国の資産運用会社としては最大である。 しかし、フィデリティは同業他社よりも利益率が低い。2017年の営業利益率は29%で、ブラックロック(BLK)、チャールズ・シュワブ(SCHW)、T.ロウ・プライス・グループ(TROW)の40%超を大きく下回る。また、仮想通貨業界に参入しているが、パイオニアとは言えない。フィデリティの成長は、9年以上続く米国株式市場の強気相場によるものだが、同業他社も同様に恩恵を受けている。 フィデリティにとって次の波は何か。メディアにほとんど登場しないことで知られるジョンソン氏に話を聞いた。インタビューの最初の話題は、失敗への恐怖を克服することだった。「長年成功している組織の一員は、以前よりも完璧でなければならないと考えがちだ。商品を市場に出す方が良いにもかかわらず、完璧にするための努力に時間をかけ過ぎる」とジョンソン氏は述べる。 フィデリティの事業は非常に多角化しており、金融業界のアマゾン・ドット・コム(AMZN)と言えるかもしれない。個人向けブローカー事業、資産運用事業、資産管理や決済などの機関投資家向け事業のほか、確定拠出年金(401k)や従業員給付制度を提供する法人向け事業も手掛ける。 フィデリティは、401kなどの雇用主が提供する退職金制度において最大のレコードキーパー(記録関連運営管理機関)で、2900万件以上の口座を管理している。中小企業に給与サービスを販売し、医療貯蓄口座(HSA)や企業向け医療給付にも参入している。同社が管理するHSAは前年比31%増の88万9000件で、資産額では44%増の34億ドルである。また、「あらゆる従業員の医療・金融上のニーズに対応するワンストップ・ソリューション」として新サービスのフィデリティ・ヘルス・マーケットプレイスを開始した。 • 信託報酬の下押し圧力 フィデリティが繁栄するには、事業の中核を脅かすトレンドに対処しなければならない。アクティブ運用は、上場投資信託(ETF)やその他の低コストのインデックス型商品に取って替わられつつある。若い投資家がETFベースのロボアドバイザーを好むため、投資顧問料は下押し圧力を受けており、売買手数料も全体的に低下している。ミレニアル世代は過去最高水準の学生ローンを負っているため、若年層の投資家人口を増やすのは非常に困難だ。 【バロンズ】フィデリティ会長に聞く「次の波」 信託報酬の引き下げが広まる中、フィデリティも追随を余儀なくされている。同社は昨年、株式の売買手数料を7.95ドルから4.95ドルに引き下げ、最近は信託報酬がゼロのインデックス型ミューチュアルファンドを4本設定した。その他にも、コスト意識の高い投資家を引き付けるため、ミューチュアルファンドの信託報酬や、最低投資額を引き下げるなどの措置を取っている。 ジョンソン氏は「当社は過去数年にわたって手数料の引き下げを経験しており、そうした傾向が今後変わるとは考えづらい。問題は引き下げ幅の大きさだ」と述べる。業界再編によって、より少数の企業が多くの資産を運用するようになり、技術や規模の経済を活用してコスト削減に取り組むため、信託報酬の下押し圧力は継続するだろうとも説明した。 手数料引き下げが奏功し、昨年の1日当たり個人向け売買件数は前年比21%増の29万5000件となった。しかし、いつまで売買手数料を4.95ドルに維持できるだろうか。オンラインプラットフォームのロビンフッドで無料売買が可能になった現在、4.95ドルでさえ高過ぎるように見える。バンガードは、ほとんどのETFの売買手数料を無料としている。JPモルガン・チェース(JPM)は先日、「ユー・インベスト」というアプリをリリースし、登録ユーザーの初年度の売買手数料を100件に限り無料とした。 • アクティブ型ファンドの資金流出 さらに大きな課題といえるのが、フィデリティのアクティブ型ミューチュアルファンドからの資金流出だ。アニュアルリポートによれば、同社のアクティブ型株式ファンドからは、2016年に580億ドル、2017年に470億ドルの資金が流出した。トムソン・ロイターによると、過去10年間にアクティブ型株式ファンドから流出した資金は2810億ドル以上に上った。 アクティブ運用からパッシブ運用への移行が減速するにつれて、資金流出の勢いも弱まっているように見える。しかし、フィデリティもその恩恵を受けているとは言えない。2017年、アメリカン・ファンズのアクティブ型ファンドには約400億ドルの純資金流入があった。だが、フィデリティのアクティブ型ミューチュアルファンドは、一部のファンドが好調なパフォーマンスを上げたにもかかわらず純資金流出となった。 ニュースレターのミューチュアルファンド・オブザーバーの共同創設者であるデービッド・スノーボール氏は、一部のファンドが好成績を上げても、フィデリティのファンド全体のさえないパフォーマンスを補うことはできないと述べる。同氏によれば、モーニングスターのデータに基づくと、フィデリティの122本の総合型米国株ファンドのうち、過去12カ月間にパフォーマンスが平均を上回ったのは53本(43%)だけだった。過去1年および3年で同カテゴリーのファンドを上回ったのは7%にすぎない。海外株式、課税対象債券、地方債のファンドも、過去1年のパフォーマンスがあまり好調ではない。 フィデリティは、スノーボール氏よりも自社に有利な分析結果を公表している。同社によれば、同社のミューチュアルファンドは、過去1年、3年、5年の各期間で同カテゴリーのファンドの78%、77%、76%を上回った。2017年には、ハイイールド債などを含む全ての主要な部門でベンチマークをアウトパフォームしたという。特にアクティブ型株式ファンドが際立っており、平均でインデックスを4%ポイント以上上回り、2009年以降で最高のパフォーマンスだったという。 フィデリティのデータがスノーボール氏の分析よりも好調に見える理由は二つある。フィデリティは、全体的なパフォーマンスを算出する際に、マネーマーケットファンドやマルチアセットファンドなど全てを合算している。また、アニュアルリポートによれば、運用成績は「大規模ファンドの運用資産額の割合を反映して」資産加重されている。その結果、一部の好調な大規模ファンドによってデータが偏る。また、スノーボール氏によれば、ファンドが上半期にアウトパフォームした場合、下半期に資金が大幅に流入することが多く、パフォーマンス算出の上で資産加重方式に対して有利に働く。同氏はフィデリティのパフォーマンスについて、「同社が非常に強力な支配を維持できる直接的な理由とは言えない」と述べる。 • 複数の収益源と401k事業 フィデリティの収益モデルが優れているのは、ファンドのアンダーパフォームや純資金流出にかかわらず、本体がダメージを受けない点である。昨年の個別管理口座(SMA)への資金流入は370億ドルと、ファンドの資金流出を補って余りある水準に上り、資産運用部門全体の純資金流入は241億ドルだった。独立系ニュースレターのフィデリティ・モニター・アンド・インサイトを発行するジャック・バウアーズ氏は、「フィデリティはアクティブ型ファンド事業から明日撤退しても問題ない」と述べる。 フィデリティ・ドットコムは複数の収益源のハブとなっている。本誌の計算によれば、1日当たり平均売買件数29万5000件(オプションを除く)に基づくと、個人向け売買手数料収入は年間3億6500万ドルに上る可能性がある。フィデリティは同社プラットフォームで商品を販売するファンドに手数料を課している。 フィデリティは退職年金制度や給付制度にも力を入れている。こうした事業は、運用手数料や自己勘定取引などの他の収益源に比べて弱気相場に強い。2008〜2009年の金融危機時、フィデリティは比較的堅調な業績を保った。独立系ニュースレターのフィデリティ・インベスターの編集者であるジム・ローウェル氏は、「(フィデリティを代々経営する)ジョンソン家は常に5〜10年先を見据えている」と述べる。 401kのレコードキーパー最大手として、フィデリティは2兆ドルの資産を自社プラットフォームで管理し、2900万件以上の口座をカバーする。セルリ・アソシエイツによれば、フィデリティのマネージドアカウント事業は業界最速で成長しており、過去3年で運用資産総額は2倍の約360億ドルに達した。フィデリティは、40万人以上の労働者が同社の退職口座を利用しており、その数は5年前の5倍に上ると述べている。 レコードキーパー事業の手数料は低くなりがちだが、401kの資産は流出しづらい。さらに、雇用主と従業員の両方と関係を構築することで、他の商品を販売しやすくなる。法人向け部門の責任者を務めるケビン・バリー氏は「われわれは顧客にとっての正面玄関だと考えている。ほとんどの顧客がフィデリティと最初に接するのは勤務先だ」と述べる。 • ビットコイン、業界再編と後継者 フィデリティは年間25億ドルを技術に投資しており、世界で1万人の技術者を雇用している。目立つ成果はないように見えるが、営業費用が減少するなどの結果は出ている。ローウェル氏は、フィデリティのプラットフォームが優れているため、多くの投資顧問会社がフィデリティの資産管理サービスを選択していると述べる。同社はディスラプター(破壊者)ではないが、「大手金融機関の中で非常に技術志向が強く、先進的な企業の一つだ」という。 フィデリティは、自社のツールやアプリなどの大部分をフィデリティ・ラボで開発している。直近で筆者が訪問した時は、ビットコインに関するサービスの開発に取り組んでいた。ジョンソン氏はこのサービスを「年内に商用化したい」と述べる。同社は2015年に設立した小規模なベンチャー企業を通じてビットコイン採掘に参入した。ジョンソン氏は「小切手を書いて大量のコンピューター機器を購入した。赤字になると思われていたが、ピーク時には途方もない収益を生んだ」と語る。同氏は連邦政府当局が売買、税務、マネーロンダリング対策に関する規則を制定するのを待ちつつ、ビットコインのさらなる用途を探っているという。 業界再編が進み、同業他社が大規模化する中、フィデリティは単独で事業を続けられるのだろうか。アクティブ型ミューチュアルファンドからの資金流出を踏まえ、指数プロバイダーのMSCI(MSCI)や、ETFスポンサーのウィズダムツリー・インベストメンツ(WETF)が統合相手にふさわしいと考える向きもあるだろう。しかし、ジョンソン氏はこうしたアイデアを一蹴する。「当社が単独で自信を持っている分野の企業を買収するのは、あまり魅力的ではない」と述べ、自社のETFやファンドについて「インデックスの自社開発」を進める考えを示した。 複数の小規模案件を除き、買収がフィデリティの成長戦略の一部だったことはない。債券や株式を発行して、大規模な買収のための資金調達をするのはどうだろうか。ジョンソン氏は「われわれは社内で物事を進める方が得意だ。非公開企業と、買収のために株式を発行できる上場企業では、買収の見積もりが大きく異なる。自己資金で買収をする場合、価格について慎重になるはずだ」と述べた。 ジョンソン氏の後継者も大きな問題だ。同氏の娘であるジュリア・マッコーン氏が、ジョンソン家の4代目としてフィデリティを経営するのだろうか。ジョンソン氏は「まったく分からない」と答えた。「後継者に関する計画は存在するか」という質問に対しては、「存在するが公表はしない」という回答だった。 バロンズ】データセンター急増、恩恵ある銘柄は 恩恵を受けるのはIT関連銘柄だけではない 恩恵を受けるのはIT関連銘柄だけではない PHOTO: OSCAR BOLTON GREEN By Jack Hough 2018 年 10 月 9 日 07:51 JST 更新
• データセンターの建設ラッシュの恩恵を受ける銘柄 クラウドには写真やビデオなどを含め、個人も企業も膨大なデータをため込んでいる。このデータの増加に対応して、データセンターには驚くべきペースで投資が行われている。アマゾン・ドット・コム(AMZN)、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット(GOOGL)、フェイスブック(FB)の4強は、今年だけでもデータセンターに合計で400億ドルを投じるとみられる。これら4社の今年の設備投資総額の60%以上に相当しており、大手小売りのターゲット(TGT)の時価総額にほぼ匹敵する額である。設備投資額は昨年から36%の増加であるが、ペースは加速している。 データセンター向けの機器メーカーはこの恩恵を受けており、例えばネットワーク・スイッチのメーカーであるアリスタ・ネットワークス(ANET)の株価は、本誌が推奨した2016年7月以降275%上昇している。しかし、このデータセンターの建設ラッシュの恩恵を受けるのはIT関連銘柄だけではない。 • サイラスワン(CONE) サイラスワンはデータセンターの建設、運営を行っている企業で、いわばデータセンターの家主である。一般的なデータセンターの建設には、サーバーなどを除いて4億5000万ドルかかる。サイラスワンの開発利回り(賃貸収入から経費を控除した額の、建設投資に対する比率)は約15%であり。建設には十分なインセンティブがある。 商用不動産は供給過剰に陥る可能性があるが、新たなデータ・ストレージには今後長期にわたって強い需要があると考えられる。その理由の一つが5Gネットワークである。今後2年間で5Gサービスはモバイルを含め全米に拡大すると予想される。サイラスワンの最高経営責任者(CEO)のゲイリー・ウォイタシェク氏は「5Gのことを聞いた時、お金の鳴る音が聞こえた。現在の20〜30倍の帯域幅は、はるかに大量のデータを意味する。一部のデータはつまらないものだろうが、誰もそれを捨てようとはしない」と述べている。 サイラスワンは不動産投信(REIT)としてストラクチャリングされており、利益のほとんどを分配金として投資家に分配している。分配金利回りは2.9%と高くはないが、分配金の大幅な伸びを受けて株価が上昇しているためである。サイラスワンの過去5年間の累積リターンは300%と、大手競合のエクイニクス(EQIX)の195%を大幅に上回っている。分配金は今後数年間にわたって2桁成長が予想される。低い利回りで大幅な分配金の成長は、高い利回りで低い成長よりもはるかに魅力的である。 • イートン(ETN)、テレックス(TEX) この両社は、JPモルガンのアナリストであるアン・ドゥイグナン氏が最近のリポートで取り上げた銘柄である。イートンは膨大な電力を消費する建物の電気設備を製造している。データセンターには精緻に調整された安定電力が必要であり、従って発電機、無停電電源装置、バッテリー・アレイなどを含む電機システムが建設予算の最大で40%を占める場合もある。建物の躯体やフリーアクセス床の2倍のコストである。 イートンの株価は過去3年間で70%上昇しているが、依然として割安であるように見える。UBSのアナリストであるスティーブン・ウィノカー氏は先月、イートン株の投資判断を「中立」から「買い」に引き上げ、目標株価を100ドルとした(先週末86.67ドル、配当利回りは3%)。イートンはデータセンター以外にも国防支出の増加、北米のトラック需要、そして原油高による掘削会社、パイプライン、製油所向けの製品の好調からも恩恵を受けている。1株当たり利益(EPS)は今年が15%増加、来年は10%の増加が予想される。 テレックスは建設機械メーカーであり、製品にはデータセンターのような低層の広い建物の建設に使用されるブームリフトなどの高所作業車が含まれる。データセンターの建設には約600台もの高所作業車が必要とされる。販売の大半はレンタル会社向けであり、これらの会社は残存価格が高く、部品供給の安定している確立されたメーカーを選好するため、テレックスは海外からの潜在的な参入メーカーに対して優位にある。高所作業車の台数は世界的に拡大しており、テレックスの売り上げに占める比率は5年前の30%から今年は50%に達するとみられている。 今年のテレックスの堅調な成長にもかかわらず、サイクルのピークが近いのではないかという懸念から株価は48ドルから39ドルに低下している。しかし、ドゥイグナン氏は「データセンターの拡大は、高所作業車の需要サイクルの延長に対する重要な支持要因になる」としており、目標株価を59ドルとしている。 【バロンズ】データセンター急増、恩恵ある銘柄は • インガーソル・ランド(IR)
インガーソル・ランドの製品には「トレイン」ブランドの空調システムが含まれる。これはサーバーなどの冷却に必要なシステムである。本誌では昨年、同社株が1年未満で36%上昇した後で推奨から外したが、株価はそれから34%上昇している。投資にはもう手遅れであろうか。JPモルガンのアナリストであるスティーブン・ツサ氏はそうは考えていない。ツサ氏は先月、商用空調設備の好調を含めインガーソル・ランドの事業構成が以前よりも健全化しているとして、同社株の投資判断を「中立」から「オーバーウエート」に引き上げた。同社は、停電があっても数秒で再起動が可能な、データセンターの冷却のための専用システムを製造しており、電力消費の最小化を目的にとしたサービスを提供している。ツサ氏の目標株価は、現在の株価を15%上回る118ドルであり、配当利回りは2%である。 サイラスワンを除けば、これらは純粋なクラウド銘柄ではない。イートンの売上高の60%は電気製品/システム/サービスであるが、データセンターは20%にすぎない。テレックスも建設用クレーンや、採石場で使用される砕岩機、その他の重機を製造している。テクノロジー銘柄よりも割安で(アリスタの予想株価収益率=PER=30倍以上に対してイートンは15倍、テレックスは11倍である)、クラウドの追い風の恩恵を受ける銘柄と考えることができる。
バロンズ】ETF業界の4大トレンドを分析する 10年に及んだ急成長の後、ETF業界は転換点にある 10年に及んだ急成長の後、ETF業界は転換点にある PHOTO: VERÓNICA GRECH By Crystal Kim 2018 年 10 月 9 日 07:50 JST 更新
• 転換点にあるETF業界 1990年代初めに上場投資信託(ETF)が登場したとき、それは主にプロのトレーダーや投資家向けのツールだった。ETFがミューチュアルファンドを犠牲にして資産獲得競争で大きく躍進する、ウォール街の利益を脅かす、金融顧問事業を変える、マルクス主義の侵略に例えられることになるなど誰が予想しただろうか。しかし、ほぼ間違いなく2008年以降はそうしたことが起きてきた。 10年に及んだ急成長の後、ETF業界は転換点にある。米国におけるETFへの純資金流入は過去7年間で平均すると年率15%で増加してきたが、今年8月までは9%の純資金流出となっている。以下はETF業界の4大トレンドの解説と分析である。 ETF/ETPの資産残高(単位:兆ドル) ETF/ETPの資産残高(単位:兆ドル) • スマートベータ ストラテジックベータとしても知られるこの包括的な用語には時価総額加重型以外のあらゆるインデックス運用が含まれる。S&P500指数のようななじみのあるインデックスの株式を均等加重するといった単純なものもあれば、ボラティリティ、モメンタム、配当成長の可能性といったファクターに基づいて株式を選択、加重した複雑なものもある。 • スマートベータ・ファンドはハイブリッド型 株式の選択、加重に使われるのはアクティブな戦略だが、株式の売買は一定の基準に従って幾分パッシブな形で行われている。例えば、保有銘柄の変更はポートフォリオのリバランスが予定されている特定の日にしか行わない場合もある。 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は7月のリポートでスマートベータはアクティブ運用に対する「隠れた脅威」と指摘している。リポートの共同執筆者、ブレント・ビアズリー氏は「そのテーマは実質的に数分の1の価格で定量的に再現され得るスタイル・バイアス(運用スタイルの傾向・偏り)だ。それがより安価かつ体系的にできるのであれば、アクティブ運用マネジャーに高い報酬を払う理由などあるだろうか」と述べている。スマートベータ・ファンドは人気となっており、その運用資産総額は2012年から年率30%で増加してきた。 • 債券ファンド スマートベータとファクター投資が最も有効なのが債券ファンドだ。時価総額加重型の債券指数だと最も大きな割合を占めるのは債券を最も多く発行している発行体ということになるが、投資家がそうした指数を望んでいるとは限らない。 加えて、債券ETFのベンチマークとして広く知られ、中期債のパフォーマンス指標となっているブルームバーグ・バークレイズ米国総合インデックスにはハイイールド債や外国債の多くが組み入れられていない。 一部の債券投資家はそうしたインデックスをあまり優れたものとは考えておらず、アクティブ運用マネジャーはそれを比較的簡単に上回ってきた。モーニングスターの直近の「アクティブ/パッシブ・バロメーター」によると、アクティブ運用型中期債ファンドの約70%は6月までの1年間にパッシブ運用型中期債ファンドをアウトパフォームしてきたという。 iシェアーズで米国債券戦略の責任者を務めるスティーブ・ライプライ氏によれば、アウトパフォームをもたらすことができるアプローチに従っているというのがアクティブな債券投資家の主張だという。しかし、最終的にそうした好調なパフォーマンスをもたらした「ファクターはコストがもっと低いファンドで特定され、適用される可能性がある」というのが同氏の見方である。 従って、債券市場にはスマートベータETFにとって多くの好機がある。株式ETFほど市場が飽和していないというのもその一つだ。株式ETFは1400本以上あるのに対し、債券ETFは400本未満である。その上、保険会社のような機関投資家からの潜在的に蓄積されている需要がある。資産運用世界最大手のブラックロックは、機関投資家の向こう5年間の債券ETFへの投資額を3000億ドルと見込んでいる。 とはいえ、さらなるカスタマイズがなされなければ、ファクター投資はETF業界が望んでいるような特効薬にはならないかもしれない。ETF業界のイベントを開催するインサイドETFsの最高経営責任者(CEO)、ジョン・スウォルフス氏は「機関投資家が求めているのはより微妙な差異があり、カスタマイズされたETFだ。ハイイールド債や多くの社債を含む商品のより完全なラインアップが求められている」と指摘する。 • テーマ型ETF サイバーセキュリティー、大麻合法化、人工知能(AI)といったかなり細かい市場区分に焦点を当てたファンドは見掛け倒しの場合が多い。手数料が高いもの、パフォーマンスが芳しくないもの、短命に終わるものもある。6月がラストオーダーとなったウイスキーETFの寿命は約1年半だった。そのファンドを設立したETFマネジャーズ・グループは昨年、大麻合法化のトレンドに乗じるべく、ラテンアメリカ不動産ETFを改良し、その保有資産を不動産投資信託(REIT)から大麻関連株に切り替えた。ETFMGオルタナティブ・ハーベスト(MJ)の運用資産はすぐに10億ドル近くに達し、世界最大の大麻ETFになった。ところが同ETFは世界最大級の大麻関連銘柄、カナダの大麻栽培会社ティルレイ(TLRY)を9月末まで保有していなかった。ポートフォリオに加わった頃、ティルレイの株価は7月の20ドル台半ばから300ドルに急騰していた。まさにハイになっている状態で購入してしまったわけだ。 テーマ型ETFは続々と設立されている。米金融大手ゴールドマン・サックス・グループは最近、米証券取引委員会(SEC)に「人類の進化」、「ニューエージ消費者」をテーマとするものを含む5本のETFの上場申請を行った。個人投資家のポートフォリオにこうしたETFは必要だろうか。恐らく必要ないだろう。
バロンズ】ファンド業界の将来、大手3社CEOが語る バンガードのティム・バックリー氏 バンガードのティム・バックリー氏 PHOTO: PHOTO COURTESY OF VANGUARD By Reshma Kapadia 2018 年 10 月 9 日 07:44 JST 更新
ファンド業界の将来に関して、はっきりしていることが一つある。大手ファンドはさらに規模を拡大する可能性が高いということだ。本誌では、大手資産運用会社の経営幹部に、業界の動向、運用における注目点、次の景気後退で懸念される点について聞いた。以下は、バンガード・グループ、キャピタル・グループ、T.ロウ・プライス・グループ(TROW)の各最高経営責任者(CEO)がインタビューで語った内容のハイライトである。 • バンガード:ティム・バックリー氏 主にコストを中心に巻き起こった業界の大変動において、主導的役割を果たしてきたのがバンガードであることは、ほぼ間違いない。また、大きな恩恵を受けているのも同社である。運用資産は5兆ドルに達し、そのうちの1兆ドル超がアクティブ運用ポートフォリオに配分されている。CEO就任からもうすぐ1年を迎えるティム・バックリー氏は、特にアクティブ運用や投資アドバイスにおいて、低コスト化の動きが拡大する余地が十分にあるとみている。 本誌:資産運用ビジネスの5年後、10年後の状況をどう予想するか? バックリー氏:過去10年間における金融商品革命は、上場投資信託(ETF)とターゲットデートファンド(TDF)だったが、今後5〜10年は、投資アドバイスになるだろう。アドバイスの質がさらに高まり、今よりもはるかに使い勝手が良くなり、コストが低下する。アクティブ運用業界の生き残りには、コストの引き下げが必要だ。過去10〜15年、当社のアクティブファンドは、各ベンチマークを80〜120ベーシスポイント(1ベーシスポイントは、1%ポイントの100分の1)上回ったが、これに業界平均の費用を乗せると、超過リターンが全て消えてしまう。手数料の水準が妥当であれば、アクティブファンドは極めて健全なビジネスになり得る。また、金利が1980年代や1990年代の水準まで上昇するとは考えていないが、キャッシュの重要性も再び高まるだろう。 Q:他の資産運用会社のコスト引き下げの動きは、バンガードにどのような影響を与えるか? A:少数の商品でコストを下げても、低コストのプロバイダーにはなれない。激安の特売品に対する反応が心配だ。無料のプレゼントを持った見知らぬ人には注意する必要がある。営業利益率が40%の企業がそれを維持したいと思ったら、どこか別の場所で利益を上げているのだ。二流のプレーヤーがいなくなると、市場はより効率的になり、超過リターンを見いだすのが難しくなる。当社は才能と戦略に投資し続け、最高の運用成績を上げるファンドを持つ必要がある。さらに、本来の競争相手ではなく世界的IT企業などと比較されるようになっているため、顧客のデジタル体験向上への投資や費用の抑制に継続して取り組む必要がある。 Q:次の景気後退に関する懸念は? A:当社の顧客が、景気後退に先んじて十分な知識を身に付けていることを期待している。前回の景気後退時に大幅な入れ替えを行った顧客は約4%にとどまったが、相場が大きく動いた今年2月には、当社の顧客は買い越していた。前回の金融危機と比べて違いがあるとしたら、現在の株式投資家の多くが、TDFのようなバランス型ファンドに投資していることだ。景気後退に陥っても、投資家はそれらを維持するか、自動的にリバランスさせるだろう。当社では、バランスファンドで運用される資産の割合が、金融危機前には運用資金10ドル当たり約1ドルであったが、2018年には5ドル当たり約1ドルに増加している。 • キャピタル・グループ:ティモシー・アーマー氏 キャピタル・グループのティモシー・アーマー氏 キャピタル・グループのティモシー・アーマー氏 アクティブ運用専門としては米国最大のキャピタル・グループは、「アメリカン・ファンズ(同社の投信ブランド)」のコストの低さと、ファイナンシャルアドバイザーや確定拠出年金における人気に助けられ、業界の課題の多くに対抗してきた。業界が進化する中、非公開会社である同社のティモシー・アーマーCEOは、アクティブファンドに関するメッセージの変更と海外への事業拡大に力を入れている。 Q:資産運用ビジネスの5年後、10年後の状況をどう予想するか? アーマー氏:大手のプレーヤーへの資産の集中が進むだろう。3〜4社の中規模ファンド会社が規模を求めて合併する状況は予想しにくい。なぜなら、そのようなファンド会社は手数料が高い場合が多いが、競争力とリターンを高めるために、会社を統合して手数料を削るとは思えないからだ。一方、高い手数料で優れたリターンを上げる小規模マネジャーも多く、プライベートエクイティやベンチャー・ビジネスと同様に、彼らの居場所は常に存在する。投資家たちが目覚め、妥当なリターンを望み、運用管理やアドバイスにいくら支払っているのか知りたがるのは良いことだ。今後は透明性が増すだろう。パッシブ運用マネジャーの見事な仕事によって、人々は手数料を最重要事項と考えるようになった。今後は、何に対する手数料をいくら支払っているのか、より明確に分かるようになるだろう。 Q:自社のビジネスのどの部分を伸ばしたいか? A:過去数年間、当社の優先分野は債券であり、アセットアロケーション分野においても成長が見られた。TDFの提供においては幾分後れを取ったが、大きなシェアを占めた。米国外の市場は巨大であり、既に外国人投資家のために大規模な事業投資を行ってきた。大規模な年金基金の運用に対して、個人投資家を重視することは、過去10〜15年間の変化である。そこに将来性を見いだし、より多くの時間を費やしている。 • T.ロウ・プライス:ウィリアム・ストロンバーグ氏 T.ロウ・プライス・グループのウィリアム・ストロンバーグ氏 T.ロウ・プライス・グループのウィリアム・ストロンバーグ氏 T.ロウ・プライスの規模は過去10年間でほぼ4倍になり、現在の運用資産残高はおよそ1兆ドルに上る。業界大手と比較して規模は小さいものの、同社のファンドの豊富な種類と優れた運用実績、さらに販売会社との強い関係により、同社が業界において確固とした地位を確立していると、アナリストは評価する。ウィリアム・ストロンバーグCEOは、投資家のニーズに応じてカスタマイズされたマルチアセット戦略と海外進出を中心として、成長を拡大させたいと考えている。 Q:資産運用ビジネスの5年後、10年後の状況をどう予想するか? ストロンバーグ氏:今は、私の30年のキャリアのどの時期よりも多くの変化が起こっている。市場で起こることに応じて方向転換することが、これまで以上に重要だ。当社が身を置くアクティブ運用ファンドの業界の中で、グローバルな運用力を求める一部の企業の統合が予想される。当社は、投資家のニーズに応じてカスタマイズされたソリューションの提供を今後も強化し、そのようなポートフォリオは、収益や利益に大きく貢献するだろう。TDFを含むマルチアセットソリューションの運用資産残高は約3000億ドルとなっている。 Q:自社のビジネスのどの部分を伸ばしたいか? A:米国外の顧客の資産の割合を増やすことと、海外証券への投資を考えている。債券ビジネスの割合を増やす余地はあるが、そのために株式ビジネスを縮小するつもりはなく、どちらも成長させたい。運用資産の70%近くは、退職年金用の商品に投資されているが、当社の目標は、今後数年間で、米国外も含め、退職年金運用ビジネスを成長させることである。 Q:次の景気後退に関する懸念は? A:アクティブ運用のファンドマネジャーが、優れた方法で景気後退を乗り越え、財務力と顧客の信頼を維持することが重要だ。当社に負債はなく、バランスシートには、現金および流動性有価証券35億ドルを有している。下げ相場では、アクティブ・マネジャーはパッシブ・マネジャーよりも優れた仕事をする(するべきだ)、という期待がある。次の景気後退時は、それを判断する新たなデータポイントになるだろう。
2018年10月9日 週刊ダイヤモンド編集部 日経平均やNYダウは高値更新でも米景気腰折れの公算が大きい理由 パウエルFRB議長 Photo:Federal Reserve FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げが来年以降、米国景気を腰折れさせる可能性が出てきた。9月26日に、FRBは政策金利のFF(フェデラルファンド)レートを0.25%引き上げ、2.00〜2.25%(中央値2.125%)とした。 FRBの金融政策を決定するFOMC(米連邦公開市場委員会)は、今後のFFレートの水準(中央値)、長期的な均衡水準(景気を刺激も抑制もしない中立的な水準)、実質経済成長率、物価上昇率のメンバーの予測を3カ月に1回の頻度で示す。 来年には景気に対する中立金利を超える見通し FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーのFFレート予想値 拡大画像表示 今回は、2021年の見通しが初めて示された。FFレートについてメンバーの予測の中央値をつないだのが上のグラフだ。今回の結果は、今年の年末までにあと1回、0.25%の利上げ、19年中に0.25%の利上げが3回(計0.75%)、20年中に1回、0.25%の利上げ、21年は利上げも利下げもないということを示唆する。
19年中には減税効果剥落 20年で利上げは停止との見通しが示されたこともあり、約27年ぶりの高値を更新した日経平均株価、最高値を更新するニューヨークダウに見るように、株式市場は上昇基調を続けている。米国景気は拡大を続けるとみている。 しかし、こうした市場の見方は楽観に過ぎるだろう。 FOMCメンバーの予想通りに推移するとすれば、景気に対して中立と予想する水準である3%を来年中には超える。つまり、景気を抑制する水準にまで引き上げられる。 物価のコア上昇率(エネルギーと食品を除いた上昇率)は18年が2.0%、19年から21年が2.1%となっている。次回の利上げで予想物価上昇率を超える。 法人税率引き下げ、所得税減税を柱とするトランプ減税は足元の景気を上振れさせている。成長率見通しは18年が3.1%と6月の前回の見通し発表時の2.5%から上方修正された。ただ、その後は19年2.5%、20年2.0%、21年1.8%と減速を見込む。 18年に入って実施されたトランプ減税の効果は19年以降一巡する。となれば、来年以降の利上げ継続で景気が予想より大きく減速する可能性は否定できない。対中国の関税のさらなる率の引き上げ、対象拡大も景気を冷やす要素となる。 この状況下で、インフレ抑制と景気過熱抑制の点から見ても3%を超える利上げは、引き締め過ぎとなる公算が高い。住宅価格や株価など資産価格の上昇を抑制する狙いもあるのだろうが、実態経済が落ち込んでは元も子もない。 トルコ、アルゼンチンに見るように米国の利上げは経済が脆弱な新興国からの資金流出を加速させる。さらなる利上げは、その不安も拡大させる。国内要因、国外要因双方から見てFRBは、来年中に利上げを停止することが望ましいだろう。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋) 2018年10月9日 田中泰輔 :田中泰輔リサーチ代表 ドル相場は上り坂の終盤に 19年は米景気の変節が転機か ドル相場の上り坂は終盤とみる。トランプ財政で来年まで伸長されつつあるが、道は次第に細り、切り立ち、足を踏み外しそうなリスクもチラホラ。短期投資ならまだ押し目買いに妙味を見いだせるが、中長期投資なら既保有分の売り場も考え始めたい。ドル相場の滑落かスリップかは米景気の堅調さを尺度に見分けるとよい。 為替市場の現況を整理しよう。 (1)ドルは、2012年以来の米景気拡大に沿った上昇サイクルがトランプ財政で永らえている。 (2)円は対ドルで軟調ながら、ドル高終盤の警戒から110円台前半にとどまっている。 (3)ユーロは、昨年には欧州経済の思わぬ改善を受けた巨額の買い戻しで急反発したが、今年は欧州景気の鈍さや伊政局が嫌気され、もたついている。 (4)新興国・資源国通貨は、12〜15年の危機的急落後の改善の下地が出始めた一方、長引くドル高からの圧迫も免れずにいる。対外債務が大きい国の通貨は依然脆弱だ。 ドル相場サイクルの変化 拡大画像表示 ドルの強さの鍵は米景気の強さにある。FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げは今年もう1回、来年3回行われる公算だ。景気中立水準までの慎重な利上げなら、株式市場も当面許容し得る。景気、株価、金利のドル支持がまだ続こう。 さまざまな相場材料を米景気の堅調さを尺度に捉える基本姿勢を維持したい。米景気が鈍りかけた16年には中国発リスクオフ、今年初は米インフレ不安からの債券・株式相場急落で、米景気もドルもここまでかと危惧された。 その後、トランプ減税で米景気がかさ上げされて今に至る。米中貿易戦争や新興国経済が不安視されても、米経済が堅調ならドルも強いという構図は揺らいでいない。 一昔前の高インフレ時代(1990年代以前)は、景気の変節を確認してからドル相場に臨める容易さがあった。景気よりインフレが遅行し、政策金利(FF金利)がさらに遅れて動く。株価は景気に先行し、ドルは金利に遅行する。 近年は低インフレで、低金利が続き、景気拡大と株高が間延びし、一方向の相場ポジションが蓄積され、景気変節の兆候に過剰反応しやすい。「株価→景気→政策金利→ドル」の各サイクルが時間差を狭め、変節が連鎖し、序列を読み取りにくい。 来年にかけて、景気と市場の変節が連鎖し得るリスクとして、第一に米インフレ加速、第二に米中間選挙での民主党勝利、第三に中国・欧州の情勢悪化が、米株式に嫌気される事態を警戒している。米景気のピークアウトが確認されれば、ドル円は100円割れが視野に入ろう。もっともそれは当座のリスクではない。ドルは悩ましくもまだ上り坂にいる。
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