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外為フォーラムコラム2018年9月21日 / 10:17 / 8時間前更新
リーマン破綻10年、霧晴れぬ「危機発生メカニズム」
Edward Hadas
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[ロンドン 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 10年前のリーマン・ブラザーズ経営破綻で、経済政策に関する基本的な提言の1つが正当化された。すなわち巨大な金融機関が倒れたなら、必ず経済にお金を流し続けろということだ。
そもそもは当時、リーマンほどの巨大銀行がつぶれるのを避けるための手を打った方がより賢明だったかもしれない。その前後に他の多くの金融機関に対して行ったように、リーマンも完全国有化ないし部分的な国有化は可能だった。
ただ少なくとも、リーマン破綻後の政策対応は適切だった。エコノミストのほぼ満場一致の助言に従い、政府は弱い銀行に資本を注入するとともに、金融システムにコストゼロの資金を供給。この思い切った行動により、「グレート・リセッション(大不況)」が1929年の大恐慌の再現へ転じる事態が避けられたのは間違いない。
だから危機対応は、エコノミストが解明していることの一つと言える。しかしなお未解明の分野も多くある。2008年以降、マクロ経済に関して生まれた大きな論点は、実はどれも答えが出ていない。
まずは大不況の原因から。リーマンが、米不動産バブルの破裂で沈んでしまったのは疑問の余地がない。よく分からないのは、このバブルがどうして発生したのか、そしてその破裂が世界的に深刻な影響をもたらした理由だ。
BREAKINGVIEWSに寄稿するエドワード・チャンセラー氏は、中央銀行の低金利政策元凶説を熱心に提唱するものの、他の専門家から非常に多くの異論が唱えられている。
問題を引き起こした可能性として最初に出てくるのは、銀行の資本不足や不十分な規制、バンカーらの向う見ずさと貪欲さのほか、デリバティブの不透明な利用とその野放し状態などだ。さらに国内の過剰なレバレッジ比率や、金融機関同士や国境を越えた無制限の資金移動も指摘される。
市場機能重視派は政府からの不経済な要求をやり玉に挙げ、かたや政府を信頼する人々は金融市場の安定に対する期待が非現実的なのだと批判している。
コンセンサスらしきものはなく、それゆえに今の世界経済がどれほど危機を招きやすいのかに関する意見もばらばらだ。1つだけ確かなことがある。何が起きたとしてもエコノミストなる人たちは「私がそう言ったではないか」と口にするだろう。
金融危機後しばらくは、最新の金融手法が問題を招いたとの見方が総じて受け入れられたように見えた。もっともそうしたコンセンサスがあったとしても、長続きしなかった。
確かに債務担保証券(CDO)の荒っぽい値動きは消え、危険なサブプライムローンを裏付けとする証券のシニアトランシェにトリプルA格付けが付与されることもなくなった。だがデリバティブ市場は全体としては活況が続いている。国際決済銀行(BIS)が3年ごとに実施している調査によると、2016年のデリバティブの出来高は07年を52%上回った。当局が市場拡大を不安視する様子はなく、新たに導入した中央清算制度がリスクの大半を取り除いたと自信を持っている。
08年初めもバブルやレバレッジを真剣に心配していたエコノミストはほとんどいなかった。原油価格が過去10年でほぼ10倍になっていたこともあり、多くはむしろ物価上昇リスクの方を懸念していたのだ。金融市場に生じ始めていたストレスに対処するため07年に始まった利下げを巡って、最も悲観的な向きは1970年代のスタグフレーションの再現につながると主張していた。
既に判明している通り、08年の米国の物価上昇率のピークは5%で、その時期はリーマンの破綻と同じ9月だった。もちろんリセッションを回避していた場合、物価上昇が加速し続けたどうか知ることはできない。今になっても10年前に比べて物価と賃金のメカニズムについてエコノミストの理解は進んでいないのだから。
実際のところ、ほとんどの西側諸国におけるインフレ圧力の欠如は、経済学の専門家にとって悩みの種になっている。有力な理論に基づけば、労働力不足と貨幣の入手のしやすさは物価と賃金を押し上げ、現実のどの先進国で観測できるよりもずっと大きなインフレ圧力が醸成されるべきなのだ。
もう1つ、08年当時に多くのエコノミストにとって大きな懸案となっていたのは米国の経常赤字の規模だった。対国内総生産(GDP)比は06年のピークの5.8%から低下しつつあったが、08年当時でもなお5%近いと予想されており、世界的な不均衡や中国の膨大な貯蓄の危険性を巡る話題には事欠かなかった。
ところが米国の赤字は、リセッションとその後の景気回復の初期に人知れず縮小し、13年の対GDP比は2.1%となった。以降は赤字が拡大しているが、大幅ではない。国際通貨基金(IMF)は今年の対GDP比を3%と予想している。
では経常赤字が実体経済や金融システムにとってどんな意味があるのか。トランプ米大統領は、自分は分かっていると自信満々だ。しかし大半のエコノミストは途方に暮れている。
対照的に金融危機後の景気回復が異例の緩やかさとなっているわけに関しては、重々承知していると思っているエコノミストが多い。
それでも残念ながら足並みは全くそろっていない。説明理由は財政出動が控えめ過ぎ、金融政策が慎重過ぎ、銀行のリストラが不十分、低調な人口の増加、消費者の先行き懸念などあまりも多岐にわたり、どれ一つとしてこれは信頼できると思わせてくれるものがない。
要するに08年の経済を覆った霧はほとんど晴れていないのだ。研究者から見れば、これはより多く学べる格好の機会を提供してくれるだろうが、それ以外の全ての世界にとっては不安要素でしかない。
2018年9月21日 / 15:17 / 3時間前更新
コラム:
リーマン危機が招いた「中国バブル」、歴史は繰り返すか
Edward Chancellor
4 分で読む
[ロンドン 17日 ロイター Breakingviews] - 隣国の日本と違って、確かに中国はまだマイナス金利に転じたことは一度もないだろう。だが2008年のグローバル金融危機から10年にわたる金融緩和によって、中国経済においても歪みが生じている。
低金利は、西側諸国と同様に中国でも、資産価格のインフレや不適切な資本配分、格差の拡大、金融安定性の低下をもたらしている。
人民元とドルの実質的なドルペッグ制によって、中国政府は米投資銀行リーマン・ブラザーズ破綻を受けた米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和の影響を回避できなかった。
2008年12月にはFRBの政策金利はすでにゼロに達しており、中国人民銀行(中央銀行)は貸出金利を引き下げた。その後の5年間で政策金利はインフレ調整後で平均わずか0.7%と、国民総生産(GDP)成長率を大幅に下回った。中国のような開発途上国としては、これは超緩和的な金融政策だ。
その結果、中国国内では、途方に暮れるほど多数のバブルが発生した。株式市場のバブルは2008年に崩壊した。その後まもなく別のバブルが膨らみ、2015年半ばに崩壊した。中国美術や、さらには中国名産の「マオタイ(茅台)酒」においてすらバブルが生じた。
だがバブルの中でも最も重要視されたのは不動産だ。中国の不動産市場は、大幅に拡大する融資と低金利の住宅ローンに支えられ、2009年に力強い回復を遂げた。全米経済研究所によれば、2014年には北京や上海での賃貸利回りが2%を下回り、サンフランシスコの不動産よりも高額になった。
2015年の株式バブル崩壊の余波を受けて金融政策がさらに緩和されると、不動産バブルは一層本格化した。2016年、北京の住宅価格は33%上昇。上海の一部では、さら地が隣接のビルよりも高額で取引されるようになり、「パンよりも小麦が高い」というフレーズまで生まれた。
サビルズによれば、中国の不動産総額は2016年末までに約43兆ドル(約4850兆円)に達した。これは同国GDPの375%に相当し、不動産投機ブームのピークを迎えた1990年当時の日本の不動産総額に匹敵する数字となる。
過去10年間、中国では極端な投資ブームが起きた。世界銀行によれば、リーマン破綻の影響を緩和するために2008年11月に中国政府が開始した景気刺激策に後押しされ、政府と民間の設備投資である中国の総固定資本形成は2008年以降の5年間で平均45%に達した。
中国は世界で最も広域の高速鉄道や、最も長い橋梁を短期間で整備した。米国地質研究所の試算によれば、中国は2011年から13年にかけて、米国の20世紀を通じた消費量を上回るセメントを使ったという。
不動産投資は、経済成長を牽引する主役になっている。住宅面積を基準とすると、中国は2013年までに、2週間ごとに現代ローマ1国分の面積を建設した計算だ。
最悪の例として内モンゴル自治区オルドス市ハイバグシュ区が知られているように、開発はしたものの住民不在の「ゴーストタウン」も数多く生まれた。こうした建設ブームは今も続いている。年初時点で、米ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングを上回る超高層ビル約25棟が建設中である。
国営銀行から国営企業に提供される低利融資によって、ガラス製造から造船に至る幅広い産業で資本過剰の状況が生まれている。
この国にはいわゆる「ゾンビ企業」が蔓延している。鉄鋼産業における生産能力過剰を背景に、「鉄鋼はキャベツよりも安い」という言葉も生まれた。マクロストラテジーのジュリアン・ギャラン氏は、近年の中国での投資の4割は回収不可能とみなす必要があると推測している。
毛沢東氏が死去した1976年頃には、世界的に最も平等な社会の1つだった中国は、今や最も格差の大きな社会の仲間入りを果たした。銀行の預金金利はインフレ率よりも低く、家計所得を圧迫している。開発用地を確保するために、数百万人の農民が自らの農地を手放すことを強いられた。中国政府は絶えず対策を打っているものの、インフラ関連支出が過熱しているために、公職者の汚職も増加している。
不動産バブルのおかげで、デベロッパーは巨額の利益を手中に収めた。例えば、中国の不動産企業「恒大集団」創業者の許家印氏の資産は400億ドル近いと推定されている。
一方で、法外な価格で不動産を購入した人々は「住宅ローンの奴隷」へと転落した。これは所得の3分の2をローン返済に充てる住宅購入者を意味する中国の表現だ。
この10年間、中国では史上最大級の借り入れブームが見られた。国際決済銀行が収集しているデータは驚嘆に値する。金融機関以外が抱える債務は,中国GDPの100%以上も増加した。これほどの債務の拡大は、1980年代の日本や2008年以前の米国を凌駕しており、金融危機に至る数年間にスペインやアイルランドで見られた借り入れブームに匹敵する。企業債務はGDPの170%に達した。対GDPで見た家計債務も2倍以上に増えた。
低金利にもかかわらず、中国における膨大な債務に対する返済コストは、今や10年前の米国水準を超えている。金融調査会社オートノマス・リサーチの銀行アナリスト、シャーリーン・チュー氏の試算によれば、銀行融資の最大4分の1は不良債権化しているという。新規融資の多くは不良債権の借り換えに使われている。これは「エバーグリーニング」と呼ばれる手法だ。
銀行預金金利が低いため、預金者は他でより高い利回りを得ようとする。結果として中国では、資産運用商品、信託ファンド、委託貸付、オンラインのピア・ツー・ピア(P2P)融資、商業手形担保貸付などを含む独自のシャドーバンキング(影の銀行)システムが発達した。
国際決済銀行(BIS)によれば、2016年末時点で、こうした不透明で流動性不足になりかねないノンバンク系の債務はGDP比で71%に達している。
ヘッジファンドの大物ジョージ・ソロス氏によれば、中国のシャドーバンキング制度は、リーマン危機に至る時期に見られたウォール街での状況に「気味が悪いほど似ている」という。
経済学者の故ハイマン・ミンスキー氏は、金融システムが資産価格の上昇と新規融資に依存するようになると、崩壊のリスクが高まる、と指摘している。 今年3月に中国人民銀行総裁を退任した周小川氏は昨年、中国に「ミンスキー・モーメント」が迫っていると警告した。
リーマン破綻後、西側スタイルの資本主義に対する信頼は大きく揺らいだ。当時、中国の新たな成長モデルを称賛するコメンテーターも多く、中国は通常の経済法則の適用を免れている、との声さえあった。
だが、中国のいわゆる「経済の奇跡」も、過去10年間に及ぶ低金利と巨額融資、大規模な不動産バブルの組み合わせから生まれたものであり、これまで悲惨な結末に終った数々のアジア各国のサクセスストーリーに酷似している。
大半の基準から見て、中国のバブル経済は、1990年代に日本が経験したバブル経済よりも、はるかに規模が大きい。今回こそは違うと主張する人もいる。とはいえ、そういう人はいつでもいるものだ。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
https://jp.reuters.com/article/crisis-economy-hadas-idJPKCN1M00ST
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- 安倍政権と物価2%、社会変化への「おびえ」が高い壁に 金融緩和批判に潜む「懸念の水増し」の矛盾 うまき 2018/9/21 18:04:06
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