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リーマン・ショックから10年。何故、世界的な金融危機が訪れたのか --- 久保田 博幸
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180920-00010006-agora-bus_all
9/20(木) 18:01配信 アゴラ
10年前に発生したリーマン・ショックとは、ひとつの金融機関が破綻したことで、世界的な金融危機を生んだわけではない。潜在的なリスクが顕在化し、それが金融機関の経営を脅かし、多くの大手金融機関が危機的状況に追い込まれた。その原因といえるのが、金余りといった現象だけでなく、金融機関の利益優先主義、さらにはリスクは自在に操れるという妄想があったと思う。今回はリーマン・ショックに至る経緯をみてみたい。
米国の住宅バブル
米国経済は2000年のITバブルの崩壊などがあったものの、その後も個人消費に支えられ、高い成長率を維持した。この消費を支えたのが住宅バブルとなった。
1990年代に移民の増加による人口の増加に加え、低所得層に対する住宅金融制度が整備され、返済方法についての規制緩和が行われたことなどから、低所得者層にも住宅ブームが波及した。また低金利に加え、持ち家比率の高まりなどが住宅価格の高騰を招いた。米国では住宅価格の値上がり分を担保による貸し出し(ホーム・エクイティ・ローン)が伸び、住宅価格の値上分がり分の消費が可能となり、消費を底上げした。
低所得者向けの住宅ローン(サブプライム・ローン) は、そのリスクを減らすために証券化され、リスクをより分けるために金融理論で構築された価格と格付会社による高格付けを得て債務担保証券(CDO)という新たな金融商品に組成された。
欧州や産油国だけでなく、中国や台湾といったアジア勢、そして日本からなどから大量の資金が米国に流入するなどの金余りブームも加わり、このような金融化商品へのニーズは高まり、サブプライム・ローンが組み込まれた証券化商品は世界各国の金融機関やファンドに売却された。
サブプライム・ローン問題
2006年半ばに、それまで高騰を続けていた米国の住宅価格が下落に転じ、一部の住宅ローンが担保割れとなった。担保割れにより融資の回収不能リスクが高まることで、それを担保とした証券化商品の損失リスクが高まり、証券化商品そのものの価格が下がる結果となった。
米国住宅バブルの崩壊により、信用力の低い個人向けの住宅資金貸し付けであるサブプライム・ローンで焦げ付きが増加した。格付会社がそれを組み入れた住宅ローン担保証券(RMBS)や債務担保証券(CDO)を格下げしたことで、時価評価の必要に迫られ、CDOなどを保有していた欧米の金融機関での巨額な損失が表面化した。
サブプライム・ローン問題による最初の危機は欧州で発生した。2007年8月9日にドイツ連邦銀行は、IKB産業銀行がサププライムでの投資に伴う損失発生に対しての救済策を協議するため、緊急会合を開催。さらに同日、仏銀最大手BNPパリバは傘下ファンドの償還停止を発表し、次はどこかとの連想も加わり、欧州銀行向け資金の出し手が急速に限られてしまい、これはパリバ・ショックとも呼ばれた。
米国のダウ平均は、2007年10月に過去最高値の14164ドルの高値をつけたが、危機の発生により、その後は下落基調となった。
危機は資金繰りの困難化の問題から始まったことから、各国中央銀行は大量に資金供給を実施。2007年12月にFRBが欧州中央銀行(ECB)、スイス国民銀行(SNB)とスワップ取極を結んで欧州でのドル資金供給を始めた。
証券化商品は欧米の大手金融機関が大量に保有していており、証券化商品格下げに伴い、評価損失が雪ダルマ式に膨れ上がった。これによって米国の大手金融機関のトップが相次いで辞任するといった事態となった。
リーマン・ショック
2008年1月18日に、証券化商品を保証していたモノラインと呼ばれた金融保証会社が資本調達難から格下げされ、証券化商品全体の価格下落に拍車をかけた。世界的な株安連鎖による市場の混乱に対し、1月22日にFRBは0.75%の緊急利下げを実施し、さらに0.5%の追加利下げを実施しFF金利の誘導目標は年3%となった。
3月14日に証券化商品を大量保有していた投資銀行のベア・スターンズが資本調達の失敗から資金繰りに行き詰まり、FRBの資金支援のもとJPモルガン・チェースに買収された。
6月に入り米株式市場は金融機関の損失拡大への懸念や大手自動車メーカーなどの業績悪化見通しなどにより売り圧力を強めたことで、金融株に対して空売り規制が強化され、これをきっかけにヘッジファンドが組んでいた米金融株売り、原油先物買いといったポジションの撒き戻す動きが一気に強まった。このためニューヨーク原油先物価格は7月11日につけた147.27ドルをピークに急落。7月13日には政府系住宅金融公庫が経営危機に陥り、政府の資本注入などで経営再建を図ることになった。
そして2008年9月15日に、証券化商品により大きな損失を抱えていた投資銀行のリーマン・ブラザーズが、資本調達や身売りに失敗し経営不安に陥り破綻した。リーマン・ブラザーズのような大規模金融機関が破綻したことにより、世界の金融市場は極度の不安に陥り、これがリーマン・ショックと呼ばれた。金融市場では取引相手のリスク、いわゆるカウンター・パーティーリスクが強まり、各国の中央銀行は大量の資金供給を行った。
リーマン・ショックにより、巨大金融機関の破綻がもたらす影響を懸念した米国政府は金融機関を破綻させない方針に転じ、FRBは9月16日に米国の大手保険会社AIGに対して緊急融資を行うことを表明した。
金融機関の不良債権と資本不足の問題に対し、米国財務省は最大7千億ドルを投入して、幅広く金融機関の不良債権を買い取る「緊急経済安定化法案」を議会に提出したが、9月29日に下院で否決された。これは金融市場に再び大きなショックを与え、29日のダウ平均株価は終値で777ドル安と史上最大の下げ幅を記録した。
欧州各国も預金の全額保護や金融機関の国有化・資本注入、短期債務保証など、様々な施策を迅速に打ち出した。金融グローバル化のもとで、問題解決に向けた国際協調も行われ各国中銀が一斉に利下げを行った。10月8日に欧米の中央銀行に加え一部新興国も含め、10の中央銀行が同時に0.5%の緊急利下げを実施した。
実体経済への影響も深刻化し、特にアイスランド、ハンガリー、南アフリカなど、経済が米欧金融機関からの借入に過度に依存していた国では経済危機に陥り、IMFなどからの緊急融資を頼ることになった。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちら(http://bullbear.exblog.jp/)をご覧ください。
久保田 博幸
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