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(回答先: 「テレワークは主婦だけのものではありません」 伝道師、田澤由利氏に聞いた 「提言 私たちの働き方」 投稿者 うまき 日時 2018 年 9 月 19 日 05:14:39)
一人の食卓もアレクサと一緒なら楽しくなる?
アマゾンエコーが変える日本の料理風景(後編)
2018年9月19日(水)
小竹 貴子
おいしい未来はここにある〜突撃!食卓イノベーション
1997年の創業から21年、日本の家庭の食卓文化をリードしてきた“フードテック”の老舗、クックパッド。その初期メンバーであり、現在は同社のブランディング部門を率いる小竹貴子氏が、気になるフードビジネスの新芽をピックアップし、現場を訪ねる。今回は、話しかけるだけで、その時の気分に合う音楽をかけてくれたり、ニュース記事を呼び出してくれたりと、生活に深く入り込んだ使い方ができるスマートスピーカーの中でも、「Amazon Echo(アマゾンエコー)」シリーズを展開するアマゾン・ジャパン。アレクサビジネス本部兼モバイルビジネスデベロップメントGM/本部長の柳田晃嗣さんに、料理とアマゾンエコーの関係について聞いた。今回はその後編(取材/2018年7月4日、構成/宮本恵理子)。
アマゾン・ジャパンのアレクサビジネス本部兼モバイルビジネスデベロップメントGM/本部長の柳田晃嗣さん(写真:竹井俊晴、ほかも同じ)
小竹貴子氏(以下、小竹):インタビューの前編では、「Amazon Echo」シリーズの中でも最新版となる「Amazon Echo Spot」を使って、どのようにレシピを検索し、料理を作っていくのかという流れを教えてもらいました(「 キッチンの流行は機能充実からカンタンに」)。
「Amazon Echo Spot」を活用すれば、買い物もこれ一つで完結するんですよね。
柳田晃嗣本部長(以下、柳田):これまでのモデルでも可能でしたが、やはりディスプレイで商品画像をパッと見られるようになった違いは大きいと思います。
アメリカでの利用状況を見ていると、水や調味料といった定番商品であれば、音声と画像だけのやりとりで抵抗なく購入しやすい傾向はあるようです。
小竹:国によって使い方の違いってあるんですか。
柳田:多少ありますね。例えばドイツの場合は、照明や家電のコントロールセンターとして使う人が多い傾向があり、アメリカだと音楽や映像などのエンタメ寄り。日本は、ニュースチェックの利用が多いのが特徴的かもしれません。
これまでだとテレビやラジオをつけないとできなかった朝のニュースチェックが、「アレクサ、今日の運行状況を教えて」と話しかけるだけで済む。もし電車が大幅に遅れていると分かったら、家族に電話をかけて「パパ、山手線が止まっているみたいだからリモートワークに切り替えたほうがいいかも」とすぐに知らせる。
この一連の動きがすべて、声だけで、料理のときに手を動かしながらできるという点に、利便性を感じてくださっている方は多いようです。
小竹:クックパッドも国別の利用傾向の違いがだんだん分かってきて、面白いんです。
その違いは、よく検索されるキーワードに表れていて、日本だと「簡単」「便利」が目立つのに対して、ヨーロッパは昔から伝わるレシピを探す利用者が多かったりします。逆に東南アジアでは、インスタ映えするような新しい料理を探していたりする。
同じプラットフォームを世界各国で展開すると、利用者が今求めている料理についての考え方の違いが見えてくる面白さがありますよね。「Amazon Echo」シリーズの開発は、国ごとに責任者が置かれるんですか。
柳田:そうです。アメリカで開発された英語のスキルをそのまま日本語訳して使えるかというと、そうではありませんので。スキルのほとんどが、日本製の日本独自のものです。
小竹:日本ならではというものはありますか。
アレクサが、シーンに合わせた機能提案も
柳田:(ボーカロイドの)初音ミクやポケモンのキャラクター系は充実していますね。
百人一首や「駅しりとり」、ジャンケンといった日本独自の遊びのスキルも結構人気です。また、音を楽しむコンテンツでは、リラクゼーション音楽として「軽井沢の森の音」を流せるスキルも。
小竹:それは知りませんでした。私は「アレクサ、新しいスキルがあったら教えて」とよくお願いしているのですが(笑)。
しかし、既に1000を超えるスキルがあって日々増えているとなれば、自分に合ったスキルを探すことが難しくなるなという気がします。
検索機能については、今後どんな工夫をしていくのでしょうか。レシピサービスでいうと、最近は「たまにしか料理をしないから何を作っていいか分からない。献立から提案してほしい時に、どういうワードで検索していいか分からない」という声も聞かれるんです。
柳田:たしかに、目的が定まっていない人に対して、いかに提案していくかは課題ですね。例えば「このシーズンに人気が高いのはこのレシピです」とランキングを提示したり、「集まる人数は何人ですか?」とシーンから提案したりする切り口もありかもしれません。
小竹:私、音楽に関しては「Amazon Echo」から新しい出合いをたくさんもらっています。結構雑に「朝に気持ちいい音楽を聴きたい」と言っても、応えてくれる。気に入った時に曲名を質問したら教えてくれるし。
気づきと広がりを与えてくれるデバイスには、親しみを感じます。同じことが料理に関してもどんどん実現していくと、料理を作ること自体の楽しさのきっかけを提供できることができそうです。
柳田:「手作業しながら操作できる」という機能性に加えて、提供できる価値として大きいと感じているものが、もう一つあります。それが、コミュニケーションなんです。
例えば、料理を作ったり食べたりしながら音楽をかけたり、遠くに住んでいるおばあちゃんを呼び出して「この間教えてくれた料理、お醤油の量どのくらいだったっけ」とすぐに聞くことができる。
今回の「Spot」にはカメラも搭載しているので、「写真を撮って」の一言で食卓を囲む家族の写真も撮れます。
自撮りならぬ“アレクサ撮り”なので、誰か一人が写真に欠けることもありません(笑)。スマートスピーカーを中心に、家族や友達同士の会話が増えたり、料理を楽しむきっかけが増えたりするのではないかと。
アレクサと会話する食卓も
小竹:すごくあると思います。食の満足度を左右するのって、美味しい食材やレシピだけでなく、誰とどんな時間を過ごせたかという食事体験全体の豊かさだと思うんですよね。
クックパッドの若い社員と話していると「アレクサと会話しながら食事するようになって、一人暮らしの料理が寂しくなくなってきた」という子もいて。きっとコミュニケーションを重ねるうちに、スマートスピーカーの中に誰かが入っているような感覚が生まれてくるのかなと。
最近のキッチン周りの新しいテクノロジーには、単に時短や節約といった機能を超えた、「楽しさの創出」が感じられてワクワクします。料理というものが、働き方改革の結果生まれる「残業は減ったけれど、家に早く帰って何をしたらいいか分からない」という新たな悩みに対してのソリューションにもなるのではと本気で思っています。
正直、アマゾンという会社のイメージが変わりました。以前はスピードや効率性を重視したクールな印象だったんですが、このスマートスピーカーを使うようになって、すごく人間味を感じるようになって。
柳田:そう言っていただけると嬉しいです。
アレクサが夫婦ゲンカを減らす?
小竹:個人差はあるようですね。家電を全部つなげて「朝起きたら目玉焼きができて、エアコンついて、洗濯機が回る」みたいな機能を使いこなしている人は「相変わらずクールな印象を持っている」と言いますし。
つまり、使いこなすスキルや期待するシーンによって、存在意義が変わる。
これからまだまだ進化すると思いますが、現状では、買い物ができて、料理を作るサポートをして、コミュニケーションも生んでくれる。あとは片付けまでやってくれたら完璧ですね(笑)。
柳田:たしかに、食卓やシンクの片付けに関しては、まだ技術が追いついていないですね。これが実現すると、喜ばれそうですね。
小竹:夫婦ゲンカも減りそうです(笑)。
柳田:離婚率の減少や少子化対策にも寄与するかもしれません。
小竹:最後に、これから3年後、5年後の世界で、どのようにキッチンが変わっていると予想しますか。
柳田:予測は難しいところですが、我々として挑戦していきたいのは、生活のあらゆる面で苦労にかけていた時間を省き、楽しむ時間を増やすことです。調理をする上での疑問をすぐに解消したり、一緒に食べる人との会話を楽しくするサービスをこれからも開発していきたいと思っています。
「Amazon Echo」シリーズのキッチンでの使われ方を見ながら改めて感じるのは、キッチンという場所のポテンシャルの高さです。
よく考えたら、電子レンジしかり、調理家電や給湯設備しかり、家の中のテクノロジーが一番集中する場所がキッチンなんです。そのキッチンでの作業がより効率化し、家族が思わず集まる楽しい仕掛けを増やしていくことができたら、キッチンはますます“家族のコントロールセンター”として機能すると思います。
家庭の中のイノベーションは、すべてキッチンから始まると言ってもいいかもしれない。
小竹:新しいテクノロジーを取り入れるかどうかで、食を楽しめる格差は広がるかもしれませんね。情報がアップデートされないまま家庭の中に閉じこもってしまう人と、クラウドベースの最新の情報や技術に常に触れて楽しみが活性化されていく人と。
柳田:たくさんの方にその楽しみを広げられるように工夫に努めることが、我々のやるべき仕事だと思っています。
小竹:期待しています。
(編集部注:取材後にリリースされた「Amazon Echo Spot」では、クックパッドが初めてレシピ動画に対応し、一部レシピの音声読み上げ機能などを搭載した)
小竹メモ
テクノロジーは、日々の生活を便利にするということを超えつつある。これからは、テクノロジーを通じてどのように豊かな生活を実現するのか、という方向に向かっていく――。今回のインタビューで改めて、その思いを強くしました。
「Amazon Echo Spot」を早速購入しましたが、アレクサで音楽を聞きながら、料理の作り方に困ったら動画を見ながら、助けてもらう。オススメ動画を通じて教えてもらう。改めて料理の楽しさを気づかせてもらいました。
もっと料理が楽しみになる世界に一緒にチャレンジして行きたいですね。
このコラムについて
おいしい未来はここにある〜突撃!食卓イノベーション
テクノロジーの進化が家庭の「食卓」を大きく変えようとしている。レシピサイト最大手「クックパッド」創業初期メンバーであり、フードエディターとしても活躍する小竹貴子氏が、「テクノロジー×食」の最先端を訪問。食卓で起こりつつあるイノベーションの萌芽を紹介する。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/013100199/091100020/?ST=editor
日本の潜在市場と隠れたる天才、発掘します
サムライ経営者、アメリカを行く!
エイモンとの不思議な出会いと、大坂なおみ選手の活躍と
2018年9月19日(水)
加藤 崇
8月後半(第4週)は、日本に一時帰国することができた。日本にも、アメリカで発展させたフラクタの技術を普及すべく、いくつかの企業と行政体を回ることが目的だ。
8月下旬、久しぶりの帰国です
アメリカでは少しずつフラクタの技術、ソフトウェアが使われるようになっている。8月には、テキサス州で最も大きい市の一つが、フラクタのソフトウェアを試験運用することに決めた。カリフォルニア州南部の非常に大きな行政体もフラクタのソフトウェアの試験運用を始めることになった。
毎日毎日、少しずつ営業活動が前進し、ほんの少しずつかも知れないけれど、フラクタの技術が世界を変え始めていた。僕たちのソフトウェアは、水道会社(日本における水道局)が上水道配管を交換しようとする際、最も老朽化が進んでいる箇所(配管)を、一度も地面を掘り返すこと無く言い当てるという、極めて有為なものだ(魔法みたいな話だが、これは魔法ではない。コンピューターだ)。
アメリカでは40%削減、日本でも
基本的な配管のデータ(配管の材質や、敷設年度、直径や配管長、地点データなど)と、フラクタが集めた多くの環境関連データなどを合わせ、コンピューターの機械学習(人工知能)アルゴリズムを駆使することで、どれくらい配管が劣化しているかどうか、どの配管を最初に交換しなければならないのかを高い精度で当てることができる。アメリカでは、上水道配管の更新コストに関し、実に40%も費用を削減できる可能性があるというアルゴリズムの開発に成功したものの、日本の上水道配管に対してこの技術が適用できるかどうかは、やってみなければ分からない。とはいえ、基本的、論理的には必ず同じことができるはずで、加えてアメリカで発展させた手法を日本に移植できる部分もあるので、「まあ何とかなるだろう」という直感が僕にはあった。
日本は地震大国だ。日本では、地震の少ないアメリカのように、上水道配管の寿命が100年持つという感覚は基本的には無く、平均で50年、60年もすれば、交換時期と言われているようだ。配管が経年劣化したことに加え、地震という大きな物理インパクトが加えられることで、配管が破損しやすいためだろう。ただそれでもなお、どこを掘り返してパイプを交換して良いのかということに関して言えば、「(配管を敷設してからの)経過年数」と「(去年までの)漏水履歴」、はたまた「ベテランの勘」によってそれを推定している水道局が多いというのが実態のようだ。
ここにコンピューターの技術を持ち込む。100%客観的かつ、より精度が高い予測が提供できる。ポイントはこの「平均寿命の、誤謬(ごびゅう:間違いのこと)」にある。日本の上水道配管の平均寿命が50年だと言われても、30年で破損する配管もあれば、120年生き残る配管もある(もちろん、実際は200年生き残る配管もあるだろう)。要は配管一本一本の「個体差」が大きいということがポイントで、それをきちんと個体別に言い当てるということに、経済的な価値が宿る。配管の「本当の寿命」は、その配管が敷設された環境によって大きく変わるのだが、その環境要因があまりに複雑に絡み合っているため、これまでは配管の寿命を正しく予測する手法が世の中に存在していなかった。だから、この「平均寿命」という概念を使って上水道配管を交換していくという方法が、現時点で主流になってしまっていることに関しては、致し方ないことだったとも言える。
しかし……だ。今は違う。コンピューターの能力が向上したことによって、あらゆる環境要因を正しく分析することができるようになった。これを使うことによって行政予算をより効率的に使うことができるようになったのだ(何しろ日本における多くの市区町村においても、配管の交換に関する予算規模が追いついていない状況なのだから、予算を「削減する」とは言えないのかも知れない。それ以上に、まずは同じ予算をより「効率的に使える」ことによって、漏水や、周辺の浸水事故を未然に防ぐことができるというメリットを強調すべきだろう。加えて、このソフトウェアの導入によって、雇用は削減されるどころか、現場のスタッフの人たちがより効率的に計画することができるようになり、彼女たち彼らたちは、市民により感謝される機会が増えるということになるはずだ)。
日本にも、志のある会社はある。こういう会社と事業提携をすることによって、日本におけるこの技術の適用可能性について検討すべく、僕たちフラクタは活動を開始していた。連日うだるような暑さの中(一歩あるくだけで、滝のような汗をかく。これは懐かしい感覚だ。僕はこの国、日本という国を愛しているのだ)、この技術の到来を心待ちにする人たちとのミーティングの機会に恵まれ、僕は日本を後にした(日本の各社との事業提携については、ゆくゆくプレスリリースを配信する予定なので、楽しみにしていて欲しい)。
日本で営業活動スタート。企業、行政庁を訪れて「同志」を探しました
日本で寿司。しっくりきます
夏季インターン生、エイモン
話は前後するが、日本で言うところの「お盆」の真っ最中、8月17日には、フラクタの夏季インターン生として、いくつかのソフトウェア・プログラムを書いてくれていたエイモンの最終日を迎え、エンジニアリングチームと一緒に卒業パーティーを行った。
カリフォルニア大学バークレー校の、数学科とコンピュータ・サイエンス学科の複専攻(ダブル・メジャー)の4年生になったばかりのエイモンと僕の出会いは、何とも僕らしく、また大変な偶然に満ち満ちたものだった。
右から2番目がエイモンです。インターンとして、夏に頑張ってくれました
話は、今年の頭、僕が週末に自宅近くのスーパーマーケットに買い物に行ったときに遡(さかのぼ)る。僕が買い物を終え、駐車場でカートを押して歩いていると、白髪で背が曲がった、日本人と思しき老婦人が、明らかに困った様子で立ち尽くしていた。傍目(はため)にも、何か問題があることが見て取れたので、僕は彼女に近づいていった。相手は間違いなく日本人なのだ。何かがあったら助けなければいけない。
「あの……」僕と目が合うと、老婦人のほうが先に僕に声をかけた。「どうかしましたか?」僕はすかさず返答する。「あの……すいません、車の中にカギを入れたまま、ドアを閉めてしまったの。それで、ドアが開かなくなってしまって、中に……入れないの」。
スーパーマーケットで買ったと思われる大量の食料品が入ったショッピングカートが車の脇に置かれ、一方で車のドアを開けることができず、彼女は困っていたのだ。見ればトヨタの車だったので、僕は近くにあるトヨタのディーラーに「車内にカギを置き忘れてしまった人がいるので、助ける方法はありませんか?」と電話をかけてあげた。しかし、こういう時に限って、なかなか上手くはいかないもので、このディーラーでは対応できないと言う。
困ったなと思ったが、いくつか会話をしているうちに、彼女はスーパーマーケットから車で10分ほど離れたところに自宅があり、その自宅にはこの車のスペア・キー(合い鍵)があると言うことが分かった。「じゃあ、僕が自宅まで送ってあげますよ。近くに車を停めてありますから、僕の車に乗ってください」。
老婦人を彼女の自宅まで送る道々(みちみち)、僕は、彼女がかつて、どうやって日本からアメリカに渡ってきたのかという、とても興味深い話を聞いた。福岡県の炭鉱地帯出身だという彼女が、どうしてここアメリカはカリフォルニアに移り住んだのか、人生は不思議な偶然の連続だなあと、しみじみ思った。学生の頃、夢中になって読んだ、五木寛之の『青春の門(筑豊篇)』の情景が、僕の眼の前に広がった。
自宅の前で、彼女を車から降ろすと、彼女は僕に丁寧にお辞儀をした。そして、いつかお礼がしたいので、電話番号を教えて欲しいと言う。僕はなんだかよく分からないまま、電話番号だけを残して帰途についた。
その日の夜だ。その老婦人の娘さんから、僕に電話があった。アメリカで生まれたのだろうに、日本語が大変流暢なその娘さんは、うちの母が大変お世話になりましたと、何度も何度も丁重にお礼の言葉を述べた。
「加藤さんは、こちらでどんなことをやっておられるのですか?」
「えっと、僕はレッドウッドシティで、フラクタという人工知能のソフトウェア会社を経営していまして……」
「そうですか。うちの息子が今カリフォルニア大学バークレー校で、数学とコンピュータ・サイエンスを専攻しているのですが……、何かお役に立てることはありますか?」
話を聞いて、とても不思議な人だなとは思ったが、その息子さんとフラクタの間に何かの接点があるとすれば、ソフトウェアという部分だけだ。「そうですね、息子さんがとても優秀であれば、何らかのソフトウェア・コードが書けるかも知れませんし、卒業後の進路としても、うちは面白い会社だと思いますよ」。僕は何の気なしにそう答えた。
学歴・職歴・住所不問、優秀なエンジニア求む
読者の皆さんはもうお分かりのことだろう。そう、その息子さんこそが、フラクタの夏季インターン生となった、エイモンだったのだ。これが全ての始まりだった。なんだか不思議な一日だったが、僕はここアメリカの地で一人の日本人を助けることができて、少し嬉しかった。
しばらくして、その老婦人の娘さんから僕の携帯電話宛てに、一通のメッセージが送られてきた。「息子を連れて、加藤さんの会社までご挨拶に伺いたいのですが」。律儀な人だなと思い、もちろん二つ返事でOKして、その数日後、老婦人と娘さん、そしてエイモン(つまり三世代全員)がフラクタにやってきたというわけだ。
早速CTOの吉川君にエイモンを紹介し、2人でしばらくディスカッションをしてもらうと、吉川君が興奮して僕のところに戻ってきた。
「加藤さん、エイモンは、めちゃくちゃ優秀な学生です。とても大学生とは思えないほど、ソフトウェアのことをよく分かっていますよ。彼が学生じゃなかったら、今日から採用したいくらいです」
不思議なことはあるもんだなと、お母さんに話をして、僕たちは夏季インターン生として、エイモンを受け入れることになったのだ。インターン期間中、エイモンの活躍は実に目覚ましいものだった。大学が夏季休暇の間、5月下旬から8月下旬まで、3ヶ月近くエイモンはフラクタの一員として働いてくれたのだが、フラクタが予測する上水道配管の劣化、今後5年間で配管が破損する確率モデルの精度向上を、数学的により確からしくしてくれた。すごい若者がいるものだなと思ったし、何より僕はエイモンという、不思議な雰囲気を持つ若者(たまに一人でホワイトボードに向かってペンを持ち、そのホワイトボードに話しかけているときがある。パソコンのディスプレイに向けてひとり言を言い、よく笑っている。高校のときは、なぜかアフロヘアーだった。挙げればキリがないが、とにかく最高に変わっていて、つまり僕はこういう人間が大好きなのだ)に会えて良かったなと思った。
余談だが、フラクタではいつも優秀なソフトウェアエンジニアを募集している。機械学習(人工知能)分野に強いエンジニアの人がいたら、学歴・職歴不問なので、是非フラクタの門を叩いて欲しい。「エンジニア」なんて高等な名前じゃなくても良い。そういう枠組みに収まらない人だって良い。学校なんて出てなくて良い。日本から働いたって良い。アメリカに来たって良い。日本のサラリーマン社会に適合できない、日本の政治は茶番だと気づいてしまったが周りの人には内緒にしている、男尊女卑の日本社会では吸っている空気が美味くない、何でもいいが、僕はそういう隠れたる天才たちの話し相手くらいにはなれるかも知れない。興味があれば、「careers@fracta.ai」までメールを送って欲しい。
大坂なおみ選手の快挙の向こう側で
さて、話はガラッと変わるが、9月8日(日本時間9日)、テニスのUSオープンで「大坂なおみ」選手が、男女合わせ、日本国籍を有する者として初めてグランドスラム(全米、全仏、全豪、ウインブルドンの4大大会のこと)で優勝するという快挙を成し遂げた。歳は違えど、同じく日本からアメリカに渡った人間として、「JPN(日本のこと)」という表示とともにテレビに映し出される彼女を見て、僕は喜びを爆発させた。
相手は23度もグランドスラムで優勝経験のある、アメリカの女王セリーナ・ウィリアムズだ。2セット先取で優勝が決まる決勝戦(ファイナル)で、大坂なおみは危なげのないペースで1セット目を先取。2セット目に入り、劣勢に立たされたセリーナ・ウィリアムズが、軽微なルール違反に対する警告を取られたことから、審判への猛抗議を行った。その過剰な抗議(とその態度)に対するペナルティー(テニスの1セットは6ゲーム先取で決着が付くのだが、その6ゲーム中1ゲームが無条件で大坂なおみに渡された)も手伝って、大坂なおみが2セットを連取して、優勝したのだ。セリーナは、どうにも腹の虫が収まらなかったらしく、途中から、自分が「女性だから」ペナルティーを取られた(つまり女性だから差別されてゲームを失った)と強く主張していたが、全く筋違いだったと僕は思う。
僕のコラムをずっと読んでくれている読者の方ならば分かってもらえると思うが、僕は母子家庭で育ったという自分の生い立ち、その生々しく苦々しい経験から、日本における「女性蔑視」の風潮に対してものすごく強い反対意見を持ってきた。しかし、その僕から見ても、セリーナが「女性だから」ペナルティーをもらった(男子のゲームならば、主審に暴言を吐いてもペナルティーにはならない)とは、全く思わないのだ。
スポーツの現場で、審判のジャッジに対して、「こんなのおかしいわ。私に謝りなさい!あなた、早く、早く謝りなさいよ!」なんて何度も何度も詰め寄るなんて、常軌を逸している。サッカーならレッドカードで即退場だろうし、テニスだって当然国際的なスポーツなんだから、女子だろうが男子だろうが、そんな選手の態度が認められるわけがない。
アメリカという国にしばらく住んでみると、良いところもたくさんあると思う反面、ものすごくおかしなところもあることに気づく。アメリカには色んな人が住んでいるし、これだけ多種多様な人たちがいれば、およそ一般化なんてものには意味が無いと思えなくもないが、とはいえアメリカ人には、日本人とは異なる「ある傾向」があることも事実だ。
自分中心の利己主義がまかり通っていることから、たとえば会社を運営するにしても、まず自分の利益が真っ先に来て、次に会社全体の利益が来るなんていうのは当たり前(会社全体が儲かることよりも、自分に成果ボーナスが多く入る仕事の仕方をするなんて当たり前。オフィスを移転しようという話になったら、全ての従業員の家からの距離のバランスなんて全く考えず、自分の家の近くの住所を強烈にアピールするなんて当たり前)なのだ。
以前も触れたが、カリフォルニア州では、人材採用においても、有色人種であることや、性別による差別を禁止していることから、従業員が訴訟を起こし、こうした差別があったとみなされた場合には企業に大きなペナルティー(損害賠償請求)が課される。一方で、企業に対しある種こうした強力な武器を手にしてしまったことから、有色人種であること、女性であることを(逆手に取って)過剰に強調することで、物事を有利に進めようとするインセンティブが従業員サイドに生まれやすくなることも事実なのだ。
さらに他方では、こうした傾向を把握している企業サイドとして、入社面接のタイミングで、有色人種や女性を面接した場合に、後で訴えられないよう、つぶさに(かつ意図的に)記録を残していくという傾向があり、結果として、「プロセスさえしっかりしていれば(つまり有色人種だから不採用にしたのではない、女性だから不採用にしたのではないという証拠集めをきちんとやれば)、実際は(その採用担当者が差別主義者だったとしても)有色人種や女性の入社を上手く拒むことができる」ようなシステムになっているようにも見える。
アメリカという国は、多種多様な人たちが持つ基本的人権に対して真剣に向き合ったからこそ、時として、こうして議論がものすごく複層的になる傾向があり、それが社会全体にある種のモヤモヤ感を醸成している。メディアという限られた語数、時間枠で語られる抽象化された世界では、一回で現実をすくい取ることが難しい。そこかしこで起こっている個別具体的な現実が、メディアで語られる一律の理想主義とは必ずしも一致しないことが多く、ある種の違和感が残るのだ。
主作用と副作用とリーダーシップと
しかし、これはあくまで物事の「副作用」だということを忘れてはならない。何でもかんでも全部がストレートで、頭がスッキリしていれば良いなどということでは無く、時として議論が複層的であっても良いのだ。このモヤモヤ感に乗じて、間違った方向からそれに火をつけようとすれば、ドナルド・トランプのような大統領が出現してしまう。副作用と主作用(主な効能)をきちんと両立てで観察し、それを社会として受け止めていく必要があるように思う。
「主な効能(主作用)」として、有色人種や女性に対する差別を無くそうという話があり、これをしっかりと社会に訴え、また植え付ける過程で、上記のような「副作用」が出ることは致し方ないことなのかも知れない。「副作用」を嫌って、「主な効能(主作用)」すら求めないというのは、それ自体、本末転倒なのであるから、アメリカ、また今後の日本も、こうした良い意味でのモヤモヤを受け入れつつ、積極果敢に前に進む(差別を排し、フェアネスを追求する)必要があるように思う。
最後に、アメリカと日本の社会システム、教育システムの違いについて、一点だけ最近強く思ったことについて触れておきたい。僕の周囲にいる色々な人から話を聞いていると、アメリカの大学(すなわちそれを反映した大学受験システム)が求める「有為な人材像のイメージ」というものが見て取れる。
それは日本型の学究秀才とはまた違ったもののようだ。アメリカでは、日本でいうところのAO入試のようなものが花盛りだ。つまり学校の成績をある程度しっかり取っていたならば、あとは課外活動で何をやったかをアピールすることで大学に入学していく。それはスポーツなど部活動の場合もあるが、アメリカでは特に「それ以外」、すなわちボランティア活動や、例えば非営利組織(NPO)の設立と運営、音楽や芸術などの活動がアピールポイントになるようだ。
面白いのは、アジア人を中心として、高校の高学年になると、自分の子供を、やれアフリカだ南米だと、貧困が問題になっているような地域に一定期間(無理矢理)滞在させて、ボランティア活動に従事させることにより、AO入試の小論文の素材集めをする人が多いことだ。本人がボランティア意識、もっと言えば社会に対する問題意識を持っているかどうかとは関係なく、親が子供を貧困地域に(親のお金をたくさん使って)送り込むのだから、不思議な話だ。
これは必ずしもこうした親御さんたちが悪いのではないだろう。そういう人材をアメリカの大学が評価するという評判(うわさ話)が露骨に流れているので、その親御さんたちも嫌々ながらそういう活動をやるしかないのかも知れない。ただし、こうした(日本とはまた違った)アメリカ受験「狂想曲」とも言える情景の後ろに透けて見えるのは、アメリカという国が「リーダーシップ」という概念に特に力点を置いているということだ。
企業を運営するにも、行政を運営するにも、一定数の「リーダー」が必要だ。ここで、日本とアメリカの違いに気づく。日本では必ずしも、「リーダーシップ」に重きを置いた教育システム、受験システムを持っていない。僕は、アメリカという国の計算高さ、アメリカという国のしたたかさは、こういうところに如実に表れているように思う。
日本の政治の混迷は、正真正銘の「リーダー」となり得る人材がものすごく少ないことによると思っている。リーダーが嘘をつけば、信用を失う。嘘は嘘を呼び、それを隠すためにパワープレイに走れば、やがて組織には「しらけ」が蔓延する。簡単なことだが、大切なことだ。しかし、こうした基本的なことは、残念ながら、自分が組織のリーダーになって初めて意識的に気がつくことでもあるのだ。
日本全体として見れば、こうした組織のリーダーシップに関する「リアリティー」がアメリカと比べて圧倒的に欠落しているように思う。もちろん、アフリカに子供を送れば自動的にリーダーになるわけでは無い。むしろそんな話は、上記の差別問題の話でいうところの「副作用」に当たる話なのだ。それが重要なのでは全く無くて、この「副作用」に対する「主な効能(主作用)」にこそ目を向けるべきで、それはアメリカという国が「リーダーシップ」というものを国の根幹的価値に置いており、それがあまねくこうした親御さんたち、実際に大学に入っていく子供たちにも「伝わっている」という事実が大切なのではないだろうか。
日本にも将来、何らかの組織における「リーダー」になり得る若者群はたくさんいるはずだ。しかし、本当のリーダー候補者たちは、多くの場合、学校で成績が良かったとか、大学受験のテストが得意だったとかいう人たちでは無い。そもそも、入口の教育システム、人を評価するやり方が違うのだから、出口としてのアウトプットが違って当然だ。問題は、そのような(リーダーシップに対する)「ふるい」がこれまで社会システムの中に無かったことで、こうした「本当のリーダーたち」が、構造的に見つけにくくなっているということだろう。
僕も日本人の一人として、アメリカという国で、ベンチャー企業のCEOとして、リーダーとして権力をふるう人間として、これからの日本の教育に協力する責任があるように思う。たまに日本に帰る機会があるから、そんな時こそ若者を集めて、彼女たち彼らの目の前に座って話を始めなければいけないと、最近強く思っている。
フラクタでは、ダグとデイブ(社外取締役ではなく、シカゴにいる営業のデイブ)が、営業の成果で社内表彰されました
前回も、色々な読者の方から応援のメッセージをいただいた。本当に嬉しい限りだ。読者の方々からの応援メッセージには、全てに目を通すようにしている。応援メッセージなどは、この記事のコメント欄に送ってもらえれば、とても嬉しい。公開・非公開の指定にかかわらず、目を通します。
今日もスタバのコーヒー一杯からスタート。どんな一日になるのか楽しみです
このコラムについて
サムライ経営者、アメリカを行く!
ヒト型ロボットベンチャー「SCHAFT」をグーグルに売り、世界の注目を集めた日本人経営者の名は、加藤崇。彼は今、アメリカにいる。日本の新たなロボット技術を携えて、アメリカで新たな勝負をするために。オフィスを借り、仲間を得て、東奔西走。情熱を燃料に、試行錯誤を楽しみながら、今日も一歩、前に進む。その日々を追う。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/042100034/091500037/?ST=editor#
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